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2話 歌声と言葉(8/16)

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そんなわけで今日は久々の、新作動画の撮影なんだよね。
チャンネルの登録者数は投稿で300人超えをお祝いしたばかりだったのに、もう500人を超えていた。
私としてはお祝いしたくなっちゃうんだけど、登録者数の勢いが落ち着くまでは『いつもどおり』の動画を撮ろうとミモザが言うので、今日はいつもの新作お菓子レビューだ。
あー……。でもなんか、今までよりずっとたくさんの人に見てもらえると思ったら緊張しちゃうな。
隣を見れば、いつものテーブルをいつものように拭いてお皿を並べるミモザも、どこか緊張した表情をしていた。
んー……? これはまずいかも?
と思ってから、まあ生配信ってことでもないんだし、失敗した時は美味しくお菓子を食べて帰ればいいか。と思い直す。

「じゃあ録画するよー。いい?」
私は、ミモザが頷くのを確認してスマホの録画ボタンを押した。
「録画スタートっ」

「皆さんこんにちはー」
「こんにちは、A4Uです」
「前の投稿からちょっと間が空いちゃいましたが、今までの動画の整理をしてました。いやー、たくさん撮ってたねー」
「うん。52本あったからね」
「それを整理して、今30本くらいになりました」
「これが33本目だね」

やっぱりちょっとミモザの笑顔が固い。
顔は映ってないけど、声も一緒に固くなっちゃってる。

「今回はこちらっ『素材の美味しさいただきます』シリーズの新作、サクサク栗のチョコモンブラン味を買ってみましたー」
「…………あ、栗とチョコって相性がいいよね」
「うんうんっ、栗とクリームとチョコ。これは間違いないよねっ」
「えっと、素材の味を生かした栗に、チョコクリームパウダーがかきゃっ……かっかかってるんだって」
あちゃ。ミモザ噛んじゃった。立て直せるかな?
あああ、真っ赤になって、泣きそうな顔になってる……。
ここは私がパッケージを読んでフォローだ。
「えーと、パッケージはこんな感じですー。サクサクの栗にたっぷりのふわふわチョコクリームパウダー。いいですねー。美味しそうでたまりません! メーカーはホルミーさんですねー。コンビニ限定の商品でーす。発売日は……えーと、いつだっけ?」
「先週だね」
良かった、ミモザも持ち直したみたいだ。
「じゃあ開けてみまーすっ」
ミモザの出してくれたお皿にザラザラと出す。
「栗そのものを加工してあるので、かたちは様々ですね」
ミモザの声も落ち着いてきてる。よかった。

栗は甘くてサクサクで、チョコと最高に合ってて、録音中に全部食べてしまう美味しさだった。

それから私達は動画をざっくり編集して投稿する。
玄関まで送ってくれたミモザに、いつものように「また明日学校でね」と手を振って別れる。

秋の夜空は澄み切っていて、キラキラの星空にちょっといい気分になった途端、スマホが鳴った。最初のコメントはアンチコメだった。
ミモザの家を出てからでよかった。もう通知音は鳴らないようにしておこう。
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