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2話 歌声と言葉(1/16)

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「あー、今日もいい空ーっ、歌いだしたくなっちゃうなぁっ」
昨夜は寝るまでずっと、私のパートの入った音源を聞いていた。
もう歌詞も音程もほとんど覚えたから、早く思い切り歌ってみたい。

今までの「歌ってみた」とは違って、私達だけの歌なんだよね?
私達にもミックス音源がもらえるのかな?
それって私達のチャンネルにアップしてもいいのかな?
考え始めると聞きたいことがいっぱいで、昨日のミモザの「言葉が足りない」という発言に今になって頷く。

よし。学校に着いたら、先生が来るまでにミモザに相談して質問のDMを送っちゃおうっと。そう決めると学校までの坂道を走り出す。
いつも遅刻ギリギリの私と違って、ミモザは朝一番に近い早さで登校してるからもうとっくに教室にいるはずだ。
四月の始めは坂の下で朝からミモザと待ち合わせしてたんだけど、私があんまり毎日待たせちゃうから申し訳なくて、今は別々に登校してるんだよね。

でもそんな遅刻常習犯な私が、今月は驚きの遅刻ゼロだったりする。
全てはあの……。
坂道の半ばまでくると、風に乗って甘く優しい低音ボイスが耳に入り込んできた。
「ゔっ……やっぱり今朝も会長はイケボだわ……」
いけないいけない。うっかり口に出てた。
まあ、これはうちの全校生徒が思ってることかも知れないけど。
『おはようございます』という十文字足らずでこんなに人を魅了してしまうとは、イケボ恐るべし。もしこの声で『おやすみなさい』とか『おかえり』とか言ってもらえたら……。うっ、想像しただけでヤバイ。

このイケボを一日たりとも聞き逃したくなくて、門が閉まる時間までに絶対学校につかなきゃって必死になってしまうんだよね。
いやだって、これはログインボーナスみたいなものでしょ。
全員に配られる美味しいものを、一人だけ取り逃がしたくないこの気持ち。

正門に近づくにつれて、どんどん鮮明に聞こえてくる低音イケボ。
あ。今の人が入っちゃったら私が行くまで他に誰もいないなぁ。
せっかくのイケボボーナスタイムが……。
門の近くに人影がなくても、会長は真っ直ぐ正面向いてピッと立ってて偉いなぁ。そんな会長に書記の人が声をかける。
「お、例の子来たぞ。あの子だろ? お前が凄く気に入ったっつー声によく似た声の子」
「うん」
「本人なんじゃねーの?」
「まさか。それはないと思うけど」
何の話してるのかな? 会長のイケボだけはハッキリ聞こえるんだけど、顔を寄せて話してる書記さんの言葉までは聞き取れないなぁ。
っと、そんな場合じゃなかった。
今は早くミモザの教室に向かわなきゃっ。
「おっはよーございまーす!!」
元気に挨拶をして駆け抜ければ「おはようございます」がいくつも届く。
うん、やっぱり近くで聞くイケボは半端ないなあ……。
今日も一日頑張れそうな気がする。
いや今日はもう十分気力もりもりなんだけどね。
生徒会の役員さんはいつも交代で三~五人くらい立ってるんだけど、会長さんが毎日立ってるのって自分から進んでやってる事なのかなぁ?
去年の会長さんは休み休み立ってた気がするけど。

「今日も元気だなぁ」
「うん、こっちも元気になっちゃうよね」
背中に届いた書記さんと会長さんの思いがけない会話に、耳が真っ赤になってしまった。
思わず足を止めて振り返ってみるけど、私の後に入ってきた子はいない。
えっ、本当に?
……会長さんが、私の声で元気になった?

――っ、やばい、嬉しいっ!

私は、真っ赤になりそうな頬を冷ますように、さらに速度を上げてミモザの教室に駆け込んだ。
「ミモ……じゃなくて愛花っ!」
「ど、どーしたの、アキちゃん走ってきたの……?」
慌ててミモザが私に駆け寄る。
窓際の一番後ろ、ミモザの席に座らせてくれたミモザが、クラスメイトから私を隠すようにその横に立った。
「アキちゃん何かあったの? 顔真っ赤だよ?」
耳元で尋ねるミモザの心遣いがありがたい。
「やっぱり私、顔赤い?」
「うん……あ、熱がある? 具合悪い?」
ミモザは私を心配して額の汗をハンカチで拭ってくれる。
あー。ミモザはいいお嫁さんになりそうだよねぇ。
私だったらこんなお嫁さんが欲しい。
しっかりしてて、気遣いができて、優しくて、控えめなの。
「ううん元気。めちゃくちゃ元気。あり余ってるくらい」
「それならいいんだけど……」
私がグッと力こぶを作ってみせると、ミモザが苦笑した。
「何か嫌なこと言われたりした?」
「ううん。ないない」
パタパタと手を横に振ると、ようやくミモザがホッとした顔になる。
「困った時には、相談してね?」
「うんっ。真っ先にミモザに相談……あっ、私相談しに来たんだった!」
「うん?」
私はミモザと相談して、空さんに聞きたいことを絞る。声のデータについては『一週間練習して来週の月曜に録って送ります』と書いて、昨日の返事を送る。

そこからの一週間はあっという間だった。
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