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1話 秋空と坂道 (2/6)

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靴を靴箱に突っ込んで上履きを引っ掛けながら走り出せば、背中に声がかかる。
「こら、暁! 廊下は走るな!」
この声は隣のクラスの田中先生だ。
「はーいっ!」
「少しくらい減速しろ!」
先生の声を振り切って階段を駆け上る。のんびりなんてしてられない。一秒でも早く伝えたい。
自分の教室を通り過ぎて、隣の教室の戸を勢いよく引いた。
「ミモザ!」
途端、一番後ろの窓際に座っていた少女が立ち上がる。
「きゃーーっ、アキちゃんっ、学校でその名前はダメぇぇ」
両手をパタパタさせながら、小声で文句を言いつつ駆け寄ってくる女の子。この子が私と一緒にチャンネル運営している親友の明石 愛花(あかし あいか)。ネットではミモザという名前で活動してる。
腰までのロングヘアは左右でふんわり緩めに結んであって、すっごく可愛い。
身長は私よりちょっと高い160センチ。伏し目がちな瞳におしとやかな雰囲気の可憐な女の子だ。
「これ見て、これ!」
ミモザにチャンネル登録者数が表示されているスマホを見せる。
「わぁ、アキちゃんすごいね!」
ミモザは嬉しそうに微笑んで両手をポンと合わせた。仕草も可愛い。
「私が凄いんじゃないよ、私達が凄いんだよ!」
私の言葉にミモザはちょっとだけ驚いた顔をして、頬をほんのり赤くした。
「ふふ。そうだね」
恥ずかしそうに笑う顔もまた可愛い。
私達のチャンネル、A4U(エースフォーユー)を応援してくれてる登録者さんはミモザのファンが絶対多いと思うんだけどな。
もっと自信持ってくれたらいいのに。と思う反面、そういう謙虚なところもミモザの素敵なところだと思う。

私達は小学五年生の時に初めて同じクラスになった。暁 明希と明石 愛花は名前順で前後の席だったんだよね、それからずっと席が離れてもクラスが離れても一番の親友だ。
小学生の頃から一緒に動画サイトを見ていた私達は、十三歳になった今年ついに配信者デビューを果たした。互いにイニシャルがA・Aなので、チャンネル名はA4U。Aを4つ並べた四つ葉のクローバー風のマークが私達のロゴで、アイコンだった。
動画投稿を始めた頃はゲームしたり朗読したり歌ってみたり描いてみたりとあれこれやってたんだけど、夏の終わりからコンビニの新作お菓子を実食レビューする動画をメインに投稿している。
リスナーさん達の反応が良いってのもあるけど、新しいお菓子を開けて食べて感想を言い合うのって私達もすっごく楽しいんだよね。準備する物はお菓子だけでいいし、コンビニには新作のお菓子がどんどん出るからネタも尽きない。
「このお菓子アキちゃんが好きそうだなって思って……」
ミモザがキッチリ折り畳まれた雑誌の切り抜きを出して広げる。
そこには新作グミの発売情報が載っていた。
弾けそうな艶々のぶどうとオレンジの周りに水滴が舞っている。
なになに? 口の中でプチっと弾けてジューシー?
三層構造で外はシャリッと中はぷにっと。中から溢れ出す果汁濃縮ソース。
「えー、なにこれ! 美味しそう!!」
「でしょ? 今日発売だって。パミマ限定らしいんだけど」
「じゃあ駅向かいのコンビニだね。今日ミモ……じゃなくて、愛花の家で撮れる?」
「うんっ」
大きく頷くミモザは嬉しそうだ。
ぶどう味好きの私が気に入るだろうと思って持ってきてくれたんだろうな。
ミモザの気持ちに、こっちまで嬉しくなる。
「えへへ、楽しみだねっ」

そこへ、大きな音を立てて戸が引かれて、さっきの田中先生の声がした。
「ほーら皆席につけー。校内でスマホ出してる奴、没収するぞー」
うちの中学ではスマホは校内で使用しない限り持ち込み自由だ。これは去年生徒会が改変した校則らしい。
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