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第5話 青い髪 : 青い髪をした姉弟は、やはり、根本的なところでとても似ていて……。
2.りんご飴(3/3)
しおりを挟む「りんご飴、おいしーねー♪」
フォルテが口の周りを真っ赤に染めて、満面の笑顔で言う。
周囲の飴をせっせと舐めているものの、いまだりんごに噛り付いていないフォルテ。
それはりんご飴の感想というよりも、単純に飴部分の感想ではないかと思うのだが、ひとまず笑顔で頷いて返す。
大きなりんご飴を四つと、小さなひめりんごの飴を二つ。
お姉さんは、遠慮せずいくらでもどうぞ、と言ってくれたのだが、これだけあれば十分過ぎる程だ。
宿に戻るまで待ちきれなかったらしいフォルテが、歩きながら、大きなりんご飴と必死で格闘している。
そんなフォルテのふわふわのプラチナブロンドが飴にペタペタと吸い寄せられるのを、見ていられなくなったらしいデュナが、小言を呟きながら荷物から取り出した輪ゴムで両サイドの髪を後ろにくくってあげている。
私はというと、デュナが抱えていた荷物のうち、二袋を抱えていた。
まあ、荷物のほとんどはスカイが受け持っているけれど……。
ようやくりんごに到達したフォルテが、シャクシャクと思ったよりもみずみずしい音を立てるのを聞きながら
「あんまり食べ過ぎるとお夕飯入らなくなるよ?」
と注意しておく。
りんご飴屋さんから三十分ほど歩いただろうか。日が暮れきった頃、ようやく宿に戻ってくる。
扉を入ってすぐの、小さな小さなフロントには誰も居なかったが、鍵はこの町を発つ日まで私達が管理する事になっているので、デュナが持ち歩いていた。
ガチャリ。と鍵を開けて中に入る。
荷物をひとまず部屋の隅、窓際の辺りに置いて一息つく。
結構重かったなぁ……。
食料品の袋だけをいくつか選ぶ。
りんご飴もあるし、お夕飯は簡単で良さそうだよね。
荷物を抱えて顔を上げると、窓の鍵が開いていることに気付いた。
あれ?
出かけるとき、窓の鍵閉めるの忘れてた……?
確かに、スカイ達が開けて外を眺めてはいたものの、出かける前には閉めていたと思っていたが……。
次出かけるときには確認して出ようっと。
簡単な夕食の後、狭い廊下のキッチンでフォルテと片付けを済ませて部屋に戻ると、一番奥のベッドにスカイが仰向けで転がっていた。
と言っても、足はまだ床についている状態だが。
デュナは、今日買ってきたよく分からない品物を、あれこれテーブルに並べて分けている。
テーブルは部屋にひとつだけだったので、先ほどまでここには料理が並んでいた。
フォルテは、帰り道で食べていたりんご飴……今はもう半分ほどになっていたが、それを取り出して食べ始めている。
なんとなく手持ち無沙汰なのだが、まだ食べたばかりだし、お風呂に入るのも早いだろう。
私は、一番手前のベッドに腰を掛けてみる。
奥をスカイが使っているなら、真ん中がデュナで、この位置が私とフォルテのベッドになるだろう。
スカイは相変わらず仰向けで、右手首を目の上に乗せている。
……寝ているのかな。
眺めていると、スカイの左手が緩慢な動作でお腹を掻いた。
あー……。寝てそう。
昔、よくスカイがぺろんとお腹を出して昼寝していたのを思い出す。
盗賊の服装は、なるべく体にフィットして、動いたときに音が出ないような物になっている。
そのため、上着の裾もズボンの中に仕舞われて、きっちりベルトで固定されているのだが、もしそれが無かったら、きっと今頃スカイはお腹を出して寝ていたに違いない。
スカイは明日早速、朝から盗賊ギルドで技の特訓らしい。
その間に、私達は村長さんから預かったお届け物を届けに行く予定なのだが……。
「明日って何時頃出るの?」
疑問をデュナに投げかけてみる。
「そうね、何時がいいかしら。相手の都合も考えると、十時過ぎってとこかしらね」
てきぱきと、アイテムを磨いたり並べたりしていた手を止めて、こちらに振り返るとデュナが静かに話した。
眠っているスカイに配慮しての事だろう。
「じゃあ、いっぱい寝てていいね♪」
フォルテも気付いたのか、声は控えめに、それでも嬉しそうに話す。
「うーん、けどスカイが朝早いし……」
私が困った顔で返事をすると、デュナが
「それが八時から特訓だから、朝は六時半に起きて、皆でご飯にしましょうか」
と、まとめた。
「はーい」
ちょっぴり残念そうなフォルテ。
まだ若いというのに、フォルテは二度寝が大好きだった。
「フォルテ、もう少ししたらお風呂に入ろうね」
フォルテに声をかけると、
「うん。ねえラズもりんご飴食べようよ、美味しいよ!」
と誘われる。
うーん。お風呂から出て食べようかと思っていたけれど……。
こういうのは時間を置かない方が美味しいだろうし、なによりその満面の笑顔には逆らえなかった。
「そうだね。じゃあ私も食べようかな」
私の答えを聞いて、嬉しそうに瞳を輝かせると、フォルテはトトトと小走りで荷物に駆け寄り、うきうきとりんご飴を引っ張り出す。
また小走りで戻ってくるフォルテの揺れるスカートの裾を、小さな風の精霊が掠める。
そのまま、精霊はカーテンのかかった窓から外へと出て行く。
フラフラ余所見をしていないところを見ると、誰かに頼まれた仕事の最中なんだろうか?
でも、それならどうしてこんなところを通ったんだろう……。
そんな一瞬の疑問も、目の前に差し出された大きなりんご飴にかき消されて、私達はランタナでの最初の夜を穏やかに過ごした。
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