上 下
91 / 113
第5話 青い髪 : 青い髪をした姉弟は、やはり、根本的なところでとても似ていて……。

2.りんご飴(1/3)

しおりを挟む
「卵に、牛乳に、ベーコン、サラダ菜、パンにチーズにバターでしょ……」

スカイが両腕に抱えた紙袋。
それを、私が横から覗き込んで指差し確認している。
「おい、ラズ」
スカイの声に「うん?」と顔を上げる。
「魔法使いの嬢ちゃん、品物だよ」
前を見れば露店のおじさんが、色鮮やかなオレンジを二つ差し出していた。
「すみませんっ」
お金と引き換えにするつもりが、うっかり受け取り忘れていたらしい。
慌ててオレンジを受け取ると、おじさんがニカッと歯を見せて笑った。
「ラズ見て、さくらんぼがあるよ」
マントの裾をくいくいと引っ張られて、フォルテの方を向く。
「わぁ、ホントだ。早いね」
「けど高いねー……」
食べたいようではあるものの、その値段に負けそうなフォルテに
「もう少ししたら安くなるよ」
と声を掛ける。
もうオレンジも買ったことだし、今日のところはこれでいいだろう。
デュナが明日届け物を届けに行くと言っていたので、その収入次第では、明日はほんの少しだけ、さくらんぼに手を出してみてもいいかな?
と、量り売り用に詰まれたさくらんぼの山を、同じような色の瞳で見つめるフォルテを眺めて思う。
「ほらフォルテ、そろそろ日も暮れるし帰ろう?」
私の声にフォルテが
「うん……」
と、名残惜しそうにこちらへやってくる。
「あ、そうだ、フォルテ。スカイにもう聞いた?」
話題とともに雰囲気を変えるべく、明るく問いかける。
私を見上げて、ほんの一瞬だけ疑問符を浮かべたフォルテが「あ」と
小さく呟いて、抱いていた疑問を思い出す。
私達の会話に自分の名前が出た事が気になったのか、スカイが私の後ろから「俺がどうした?」とフォルテを覗き込む。
「あ……うん、えっとね。スカイに、聞きたいことが、あるんだけど……」
ぽつぽつと、途切れがちではあるけれど、フォルテが私の肩越しにスカイを見上げて話す。
「うん、何? 言ってごらん」
スカイが優しい声でふんわりと囁く。私の頭上から。
……もしかして、このままずっと私を挟んで会話するつもりかな? この2人は……。
そーっと横にずれてみようかと思った矢先に、デュナがヒールの音も高らかに登場した。
「いやー、さすがに国の玄関だけあるわねー。面白いものが色々買えたわ!!」
デュナの高いテンションと大きな声に、フォルテが口元まで出かかった言葉を飲み込む。
「……その荷物、全部家まで持って帰るのか?」
スカイが、家までの十日程の行程を思い浮かべながら、嫌そうにデュナの抱えた山盛りの荷物を見る。
「そうよ、あんたがね」
デュナが、やはり思ったとおりの答えを返す。
肺の中の全ての空気を吐き出さんばかりの勢いで、スカイが深いため息とともにうなだれた。
「暗くなってきたわ、早いとこ宿に戻りましょ」
と、一番遅くまで買い物をしていたデュナが悪びれもせず踵を返す。
真っ白い白衣の裾が、薄暗くなったマーケットに軌跡を残して翻る。
慌ててその後ろ姿を追いかける私達の耳に、小さな悲鳴が届いた。

私と同時にスカイも立ち止まる。
女の人の悲鳴……だったのかな。スカイにも聞こえたみたいだけど……。
フォルテは、私のマントの裾をぎゅっと握り締めて、不安そうに辺りを見回している。
「やめてくださいっ」
かすかだけれど、今度ははっきり聞こえた。
女性の抵抗する声が。
「こっちか!」
スカイが大通りから脇の道へと駆け出す。
デュナの方を見ると、私達の異変に気付いてこちらに向かっている。
走りながら魔法の発注をしていたのか、デュナの肩にどこからともなく風の精霊がすいっと身を寄せた。
それを確認して、私もスカイの後を追う。
「フォルテ、走るよ!」
「うん!」
マントからロッドを取り出しつつスカイの入った路地へ駆け込むと、その向こうにガラの悪そうな数人の男と、それに囲まれるエプロン姿の長い髪の女性と、その間に無理矢理入り込んだ黒いバンダナの姿があった。
「スカイ!」
思わず叫ぶと、スカイがこちらに気付いてひらひらと手を振る。
「おう、大丈夫だ。離れてろよ」
そう言われて、慌てて足を止める。

男達から目を離さないようにしつつ、フォルテのケープの襟を掴んでずるずると後退する。
いかにもチンピラといった風な、男の数は全部で四人。
背の高いひょろっとした男と、ぽっちゃりした印象の男と、派手な柄物のシャツを着たサングラスの男と、痩せ気味の男。
その中ではサングラスの男がリーダー格なのだろう。
男達の中央に立ち、間に割って入ったスカイにいちゃもんを付け始める。
「何だぁ? お前は……。痛い目に遭いてぇのか?」
ここからではグラサン男の表情までは見えないが、おそらくスカイを思い切り睨みつけたのだろう。
大袈裟なほどに下から上へと顔を動かして、スカイを見下ろす体勢を取る。
スカイは生憎あまり背が高くない。
こうやって四人に囲まれると、その細い体も手伝ってか、どうしても不利に見えてしまう。
「ああ、ごめん、ちょっと待って」
スカイは至って普通にグラサン男に話しかけると、後ろの女性を振り返り、
「少しの間これを持っててくれる?」
と抱えていた紙袋を渡した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...