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第5話 青い髪 : 青い髪をした姉弟は、やはり、根本的なところでとても似ていて……。
2.りんご飴(1/3)
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「卵に、牛乳に、ベーコン、サラダ菜、パンにチーズにバターでしょ……」
スカイが両腕に抱えた紙袋。
それを、私が横から覗き込んで指差し確認している。
「おい、ラズ」
スカイの声に「うん?」と顔を上げる。
「魔法使いの嬢ちゃん、品物だよ」
前を見れば露店のおじさんが、色鮮やかなオレンジを二つ差し出していた。
「すみませんっ」
お金と引き換えにするつもりが、うっかり受け取り忘れていたらしい。
慌ててオレンジを受け取ると、おじさんがニカッと歯を見せて笑った。
「ラズ見て、さくらんぼがあるよ」
マントの裾をくいくいと引っ張られて、フォルテの方を向く。
「わぁ、ホントだ。早いね」
「けど高いねー……」
食べたいようではあるものの、その値段に負けそうなフォルテに
「もう少ししたら安くなるよ」
と声を掛ける。
もうオレンジも買ったことだし、今日のところはこれでいいだろう。
デュナが明日届け物を届けに行くと言っていたので、その収入次第では、明日はほんの少しだけ、さくらんぼに手を出してみてもいいかな?
と、量り売り用に詰まれたさくらんぼの山を、同じような色の瞳で見つめるフォルテを眺めて思う。
「ほらフォルテ、そろそろ日も暮れるし帰ろう?」
私の声にフォルテが
「うん……」
と、名残惜しそうにこちらへやってくる。
「あ、そうだ、フォルテ。スカイにもう聞いた?」
話題とともに雰囲気を変えるべく、明るく問いかける。
私を見上げて、ほんの一瞬だけ疑問符を浮かべたフォルテが「あ」と
小さく呟いて、抱いていた疑問を思い出す。
私達の会話に自分の名前が出た事が気になったのか、スカイが私の後ろから「俺がどうした?」とフォルテを覗き込む。
「あ……うん、えっとね。スカイに、聞きたいことが、あるんだけど……」
ぽつぽつと、途切れがちではあるけれど、フォルテが私の肩越しにスカイを見上げて話す。
「うん、何? 言ってごらん」
スカイが優しい声でふんわりと囁く。私の頭上から。
……もしかして、このままずっと私を挟んで会話するつもりかな? この2人は……。
そーっと横にずれてみようかと思った矢先に、デュナがヒールの音も高らかに登場した。
「いやー、さすがに国の玄関だけあるわねー。面白いものが色々買えたわ!!」
デュナの高いテンションと大きな声に、フォルテが口元まで出かかった言葉を飲み込む。
「……その荷物、全部家まで持って帰るのか?」
スカイが、家までの十日程の行程を思い浮かべながら、嫌そうにデュナの抱えた山盛りの荷物を見る。
「そうよ、あんたがね」
デュナが、やはり思ったとおりの答えを返す。
肺の中の全ての空気を吐き出さんばかりの勢いで、スカイが深いため息とともにうなだれた。
「暗くなってきたわ、早いとこ宿に戻りましょ」
と、一番遅くまで買い物をしていたデュナが悪びれもせず踵を返す。
真っ白い白衣の裾が、薄暗くなったマーケットに軌跡を残して翻る。
慌ててその後ろ姿を追いかける私達の耳に、小さな悲鳴が届いた。
私と同時にスカイも立ち止まる。
女の人の悲鳴……だったのかな。スカイにも聞こえたみたいだけど……。
フォルテは、私のマントの裾をぎゅっと握り締めて、不安そうに辺りを見回している。
「やめてくださいっ」
かすかだけれど、今度ははっきり聞こえた。
女性の抵抗する声が。
「こっちか!」
スカイが大通りから脇の道へと駆け出す。
デュナの方を見ると、私達の異変に気付いてこちらに向かっている。
走りながら魔法の発注をしていたのか、デュナの肩にどこからともなく風の精霊がすいっと身を寄せた。
それを確認して、私もスカイの後を追う。
「フォルテ、走るよ!」
「うん!」
マントからロッドを取り出しつつスカイの入った路地へ駆け込むと、その向こうにガラの悪そうな数人の男と、それに囲まれるエプロン姿の長い髪の女性と、その間に無理矢理入り込んだ黒いバンダナの姿があった。
「スカイ!」
思わず叫ぶと、スカイがこちらに気付いてひらひらと手を振る。
「おう、大丈夫だ。離れてろよ」
そう言われて、慌てて足を止める。
男達から目を離さないようにしつつ、フォルテのケープの襟を掴んでずるずると後退する。
いかにもチンピラといった風な、男の数は全部で四人。
背の高いひょろっとした男と、ぽっちゃりした印象の男と、派手な柄物のシャツを着たサングラスの男と、痩せ気味の男。
その中ではサングラスの男がリーダー格なのだろう。
男達の中央に立ち、間に割って入ったスカイにいちゃもんを付け始める。
「何だぁ? お前は……。痛い目に遭いてぇのか?」
ここからではグラサン男の表情までは見えないが、おそらくスカイを思い切り睨みつけたのだろう。
大袈裟なほどに下から上へと顔を動かして、スカイを見下ろす体勢を取る。
スカイは生憎あまり背が高くない。
こうやって四人に囲まれると、その細い体も手伝ってか、どうしても不利に見えてしまう。
「ああ、ごめん、ちょっと待って」
スカイは至って普通にグラサン男に話しかけると、後ろの女性を振り返り、
「少しの間これを持っててくれる?」
と抱えていた紙袋を渡した。
スカイが両腕に抱えた紙袋。
それを、私が横から覗き込んで指差し確認している。
「おい、ラズ」
スカイの声に「うん?」と顔を上げる。
「魔法使いの嬢ちゃん、品物だよ」
前を見れば露店のおじさんが、色鮮やかなオレンジを二つ差し出していた。
「すみませんっ」
お金と引き換えにするつもりが、うっかり受け取り忘れていたらしい。
慌ててオレンジを受け取ると、おじさんがニカッと歯を見せて笑った。
「ラズ見て、さくらんぼがあるよ」
マントの裾をくいくいと引っ張られて、フォルテの方を向く。
「わぁ、ホントだ。早いね」
「けど高いねー……」
食べたいようではあるものの、その値段に負けそうなフォルテに
「もう少ししたら安くなるよ」
と声を掛ける。
もうオレンジも買ったことだし、今日のところはこれでいいだろう。
デュナが明日届け物を届けに行くと言っていたので、その収入次第では、明日はほんの少しだけ、さくらんぼに手を出してみてもいいかな?
と、量り売り用に詰まれたさくらんぼの山を、同じような色の瞳で見つめるフォルテを眺めて思う。
「ほらフォルテ、そろそろ日も暮れるし帰ろう?」
私の声にフォルテが
「うん……」
と、名残惜しそうにこちらへやってくる。
「あ、そうだ、フォルテ。スカイにもう聞いた?」
話題とともに雰囲気を変えるべく、明るく問いかける。
私を見上げて、ほんの一瞬だけ疑問符を浮かべたフォルテが「あ」と
小さく呟いて、抱いていた疑問を思い出す。
私達の会話に自分の名前が出た事が気になったのか、スカイが私の後ろから「俺がどうした?」とフォルテを覗き込む。
「あ……うん、えっとね。スカイに、聞きたいことが、あるんだけど……」
ぽつぽつと、途切れがちではあるけれど、フォルテが私の肩越しにスカイを見上げて話す。
「うん、何? 言ってごらん」
スカイが優しい声でふんわりと囁く。私の頭上から。
……もしかして、このままずっと私を挟んで会話するつもりかな? この2人は……。
そーっと横にずれてみようかと思った矢先に、デュナがヒールの音も高らかに登場した。
「いやー、さすがに国の玄関だけあるわねー。面白いものが色々買えたわ!!」
デュナの高いテンションと大きな声に、フォルテが口元まで出かかった言葉を飲み込む。
「……その荷物、全部家まで持って帰るのか?」
スカイが、家までの十日程の行程を思い浮かべながら、嫌そうにデュナの抱えた山盛りの荷物を見る。
「そうよ、あんたがね」
デュナが、やはり思ったとおりの答えを返す。
肺の中の全ての空気を吐き出さんばかりの勢いで、スカイが深いため息とともにうなだれた。
「暗くなってきたわ、早いとこ宿に戻りましょ」
と、一番遅くまで買い物をしていたデュナが悪びれもせず踵を返す。
真っ白い白衣の裾が、薄暗くなったマーケットに軌跡を残して翻る。
慌ててその後ろ姿を追いかける私達の耳に、小さな悲鳴が届いた。
私と同時にスカイも立ち止まる。
女の人の悲鳴……だったのかな。スカイにも聞こえたみたいだけど……。
フォルテは、私のマントの裾をぎゅっと握り締めて、不安そうに辺りを見回している。
「やめてくださいっ」
かすかだけれど、今度ははっきり聞こえた。
女性の抵抗する声が。
「こっちか!」
スカイが大通りから脇の道へと駆け出す。
デュナの方を見ると、私達の異変に気付いてこちらに向かっている。
走りながら魔法の発注をしていたのか、デュナの肩にどこからともなく風の精霊がすいっと身を寄せた。
それを確認して、私もスカイの後を追う。
「フォルテ、走るよ!」
「うん!」
マントからロッドを取り出しつつスカイの入った路地へ駆け込むと、その向こうにガラの悪そうな数人の男と、それに囲まれるエプロン姿の長い髪の女性と、その間に無理矢理入り込んだ黒いバンダナの姿があった。
「スカイ!」
思わず叫ぶと、スカイがこちらに気付いてひらひらと手を振る。
「おう、大丈夫だ。離れてろよ」
そう言われて、慌てて足を止める。
男達から目を離さないようにしつつ、フォルテのケープの襟を掴んでずるずると後退する。
いかにもチンピラといった風な、男の数は全部で四人。
背の高いひょろっとした男と、ぽっちゃりした印象の男と、派手な柄物のシャツを着たサングラスの男と、痩せ気味の男。
その中ではサングラスの男がリーダー格なのだろう。
男達の中央に立ち、間に割って入ったスカイにいちゃもんを付け始める。
「何だぁ? お前は……。痛い目に遭いてぇのか?」
ここからではグラサン男の表情までは見えないが、おそらくスカイを思い切り睨みつけたのだろう。
大袈裟なほどに下から上へと顔を動かして、スカイを見下ろす体勢を取る。
スカイは生憎あまり背が高くない。
こうやって四人に囲まれると、その細い体も手伝ってか、どうしても不利に見えてしまう。
「ああ、ごめん、ちょっと待って」
スカイは至って普通にグラサン男に話しかけると、後ろの女性を振り返り、
「少しの間これを持っててくれる?」
と抱えていた紙袋を渡した。
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