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第2話 橙色の夕日 : 強い光の射すところには、強い影もまた現れて……。
1.ザラッカ(1/4)
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「で、俺達はどこに向かってるんだ?」
私達は朝早くからトランドを出て、一昨日の道程を元来た方向へ辿っていた。
「ザラッカよ」
スカイの疑問に、先頭を歩いているデュナが振り返らず答える。
「トランドの掲示板、見てこなくてよかったの?」
「新着だけは通りすがりにチェックしてきたわよ。
それ以外の記事は前の日に見たし、心配要らないわ」
フォルテの疑問には、きちんと肩越しに振り返って答えている。
きっと、私が質問しても、振り返って答えてくれるのだろう。
そんな、弟に対してのみぞんざいなデュナは、今日もパリっとしたシワの無い真っ白な白衣を翻して、ゴールドのチェーンで装飾された黒いエナメル靴で颯爽と歩いている。
それなりの高さがあるヒールの靴から、細く締まった足が編みタイツに包まれ伸びていた。
若干紫寄りの青い髪に、ラベンダー色の瞳、そこにかかる細いシルバーフレームのメガネが、朝日を浴びているというのに、なぜか妖しくきらめいた。
「二日前、ザラッカに美味しいクエがあったのよね」
含み笑いを洩らすように呟いた彼女の声が、少し険しくなる。
「ただ、まだ残ってるかどうか……」
それを他の人に取られまいと、私達は朝からザラッカに向かっていたわけか……。
ザラッカまで四時間はかかってしまうはずだ。
トランドが大きな城下町の為か、その隣町まではそこそこの距離があった。
着くまでに、一度お昼休憩は必要だろう。
ちらと、スカイが下げている、コックさんにもらったお弁当入りの紙袋を見る。
ふんわりと、鶏の香ばしい匂いが微かに漂っているその紙袋のおかげで、私のお腹は、きっと普段より早く空腹を訴えることになるだろう。
「わざわざザラッカの中央を通ってたのは、本探しじゃなくて掲示板チェックだったんだな」
スカイの言葉に、やはりデュナが前を向いたまま答える。
「一応本も見てたけど、これっていうのは無かったわねー」
ザラッカは大学や学術機関の集まった町で、広さこそトランドの半分以下だったが、学生や教師、研究者達でごった返す中央通りは、書物が積まれた屋台や移動販売のリヤカー等で、雑多な……というより、正直ものすごく歩きにくい通りとなっていた。
一本裏の道を通れば、そこまで混雑はしていないのだが、なんだかんだとデュナは毎回中央通りを歩くのだった。
きっと、そこら中に積まれている本や色んな研究資材を見たいのだろう。
私達にはちんぷんかんぷんな物が多かったが、それでも、色とりどりの属性石や、キラキラと輝く液体が注ぎ込まれた試験管などを眺めながら通るのは楽しかった。
「あと、ちょっと図書館に寄りたいのよ。だから、もし目的のクエが無くても、無駄足にはならないわ」
デュナのその台詞は、デュナ自身を励ますためのようにも取れたが、彼女に限ってそれはないような気もする。
ということは、私達に心配をかけまいとしてくれたのだろう。
「うん」
私は、明るく返事を返す。
『キュルル……』
隣からは、返事のかわりに小さなお腹の音が聞こえてきた。
お腹を鳴らしてしまった本人は、私と手を繋いだまま俯いている。
見れば、ふわふわのプラチナブロンドからうっすらと透ける頬も、耳も、赤くなっていた。
「フォルテ、お腹すいたよね。私も、もうペコペコ。だって、いい匂いがずっとするんだもんね」
苦笑しながら声をかけると、私のお腹も小さな音で同意してくれた。
小さな音ではあったが、耳の良いフォルテには聞こえたのか、パッと私の顔を見上げる。
「ね、一緒でしょ?」
私の言葉に、フォルテはそのラズベリー色のおいしそうな瞳を細めて甘く微笑んだ。
トランドを出る頃には斜め上から射していたゆるやかな朝の日差しも、
いつの間にか足元に小さな影を落とす、力強い光になっている。
「ちょっと早いけど、ここらでお昼にしましょうか」
デュナの提案に皆揃って賛成すると、
スカイが荷物から敷き物を手早く取り出し、道の脇に青々と続いている草むらへ広げた。
私達は朝早くからトランドを出て、一昨日の道程を元来た方向へ辿っていた。
「ザラッカよ」
スカイの疑問に、先頭を歩いているデュナが振り返らず答える。
「トランドの掲示板、見てこなくてよかったの?」
「新着だけは通りすがりにチェックしてきたわよ。
それ以外の記事は前の日に見たし、心配要らないわ」
フォルテの疑問には、きちんと肩越しに振り返って答えている。
きっと、私が質問しても、振り返って答えてくれるのだろう。
そんな、弟に対してのみぞんざいなデュナは、今日もパリっとしたシワの無い真っ白な白衣を翻して、ゴールドのチェーンで装飾された黒いエナメル靴で颯爽と歩いている。
それなりの高さがあるヒールの靴から、細く締まった足が編みタイツに包まれ伸びていた。
若干紫寄りの青い髪に、ラベンダー色の瞳、そこにかかる細いシルバーフレームのメガネが、朝日を浴びているというのに、なぜか妖しくきらめいた。
「二日前、ザラッカに美味しいクエがあったのよね」
含み笑いを洩らすように呟いた彼女の声が、少し険しくなる。
「ただ、まだ残ってるかどうか……」
それを他の人に取られまいと、私達は朝からザラッカに向かっていたわけか……。
ザラッカまで四時間はかかってしまうはずだ。
トランドが大きな城下町の為か、その隣町まではそこそこの距離があった。
着くまでに、一度お昼休憩は必要だろう。
ちらと、スカイが下げている、コックさんにもらったお弁当入りの紙袋を見る。
ふんわりと、鶏の香ばしい匂いが微かに漂っているその紙袋のおかげで、私のお腹は、きっと普段より早く空腹を訴えることになるだろう。
「わざわざザラッカの中央を通ってたのは、本探しじゃなくて掲示板チェックだったんだな」
スカイの言葉に、やはりデュナが前を向いたまま答える。
「一応本も見てたけど、これっていうのは無かったわねー」
ザラッカは大学や学術機関の集まった町で、広さこそトランドの半分以下だったが、学生や教師、研究者達でごった返す中央通りは、書物が積まれた屋台や移動販売のリヤカー等で、雑多な……というより、正直ものすごく歩きにくい通りとなっていた。
一本裏の道を通れば、そこまで混雑はしていないのだが、なんだかんだとデュナは毎回中央通りを歩くのだった。
きっと、そこら中に積まれている本や色んな研究資材を見たいのだろう。
私達にはちんぷんかんぷんな物が多かったが、それでも、色とりどりの属性石や、キラキラと輝く液体が注ぎ込まれた試験管などを眺めながら通るのは楽しかった。
「あと、ちょっと図書館に寄りたいのよ。だから、もし目的のクエが無くても、無駄足にはならないわ」
デュナのその台詞は、デュナ自身を励ますためのようにも取れたが、彼女に限ってそれはないような気もする。
ということは、私達に心配をかけまいとしてくれたのだろう。
「うん」
私は、明るく返事を返す。
『キュルル……』
隣からは、返事のかわりに小さなお腹の音が聞こえてきた。
お腹を鳴らしてしまった本人は、私と手を繋いだまま俯いている。
見れば、ふわふわのプラチナブロンドからうっすらと透ける頬も、耳も、赤くなっていた。
「フォルテ、お腹すいたよね。私も、もうペコペコ。だって、いい匂いがずっとするんだもんね」
苦笑しながら声をかけると、私のお腹も小さな音で同意してくれた。
小さな音ではあったが、耳の良いフォルテには聞こえたのか、パッと私の顔を見上げる。
「ね、一緒でしょ?」
私の言葉に、フォルテはそのラズベリー色のおいしそうな瞳を細めて甘く微笑んだ。
トランドを出る頃には斜め上から射していたゆるやかな朝の日差しも、
いつの間にか足元に小さな影を落とす、力強い光になっている。
「ちょっと早いけど、ここらでお昼にしましょうか」
デュナの提案に皆揃って賛成すると、
スカイが荷物から敷き物を手早く取り出し、道の脇に青々と続いている草むらへ広げた。
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