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第1話 赤い宝石 : 困っている人は放っておけない。そんな彼に手渡された赤い宝石。
3.トランド(3/4)
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皆の目の前に並べられている大きなお皿に、スープ皿が置かれる。
全員に渡ったのを確認して、私達は声を揃えた。
「「「「いただきまーすっ」」」」
スープを口に運ぶ。
あ、ちょっと……辛いかな……?
何のスープって言われたんだっけ。あれ、説明なかったよね?
ああ、けどレストランってわけじゃないもんね……。
などと考えていると、案の定フォルテが隣から
「ラズぅ……これ、ぴりってする……」
と、涙目で訴えた。
スープを良く見ると、胡椒に、鷹の爪に、表面にはうっすらと赤い油のようなものも浮いていて、ポタージュ系のスープとしては珍しい辛さに仕上がっていた。
「うーん、ちょっと辛いね。フォルテには厳しいかな……?」
フォルテの頭を撫でようと思うも、席と席が離れていてほんの少し届かない。
「じゃあ、フォルテのスープ、俺もらっていい?」
フォルテの向かいに座るスカイが、嬉しそうに手を伸ばした。
「はいどうぞ。スカイにあげる……」
平たく重いスープ皿をよろよろと持ち上げようとするフォルテに、スカイがさっと身を乗り出して、自分の皿を持たせた。
それはもう、すっかり空になっている。
二杯目をご機嫌で掻き込むスカイ。
相当な速さで、音を立てずに動くスプーンが何だか異様だ。
スカイは、辛いものが好きだった。
むしろ、甘い物は苦手なのだが、甘いもの大好きのフォルテはまだそれに気付いていないようだ。
私も、気付くまで数年かかった。
なぜかというと、食べるからだ。スカイが。無理をして。
たとえ後から吐く事になろうとも、人がくれるお菓子は断らないというその頑張りは、間違っていると思う。
なので、フォルテにその事を教えるつもりも今のところ無かった。
いい加減自分で気付いてほしい。フォルテではなく、スカイに。
頑張る方向が間違っている事を。
「ラズも飲まないのか? スープ」
その声にスカイを見る。
スカイの顔には、はっきりと『飲まないなら欲しいなぁ』という文字が浮かんでいた。
「う、うん。ちょっと辛いから遠慮しようかと思って……」
飲めないことはない辛さだったが、ついそう答えてしまった。
スカイの後ろに、ぱあっと花が咲くのが見える。
あまりの分かりやすさに、思わず噴出しそうになるのをこらえつつ、スープ皿を渡した。
フォルテのときと同じく、手元には、空になった皿が瞬時に乗せられる。
さすが盗賊と言うべきか、そのすり替えの早さには驚かされるが、それよりも席の離れたこの対角線上の位置へ、どうやって手を伸ばしたのかが謎だった。
私の正面にいるデュナも、そろそろスープを飲み終わりそうだ。
ウェイターさん……じゃなくて、ええと、男の使用人さんが様子を見に来ている。
次のお料理も、すぐ出てきそうだ。
お腹いっぱい夕飯を食べて、案内された客室は三人部屋だった。
ベッドが三つ並ぶ、客人専用に設えられた室内。
旅館でもない個人の家に、こんな部屋があるとは……さすがお屋敷といったところか。
マーキュオリーさんには、しっかりお礼を言わないといけないな、と、そこまで考えてから、彼女が二週間程帰ってこないという話を思い出す。
デュナはそれまで待つつもりなんだろうか?
「デュナ、結局石は――……」
私の背後、出入り口に一番近いベッドに、デュナは突っ伏している。
どうやら、寝てしまっているようだった。
靴も脱がずに、ベッドに倒れこんだままの状態で。
ベッドで一休みしていて、そのまま寝てしまったんだろうか?
お酒は飲んでなかったよね……? と、思い返す私の横を、すっと大気の精霊が通り過ぎて消えた。
……あれ?
本来、精霊というのはどこにでもいるものだ。むしろ、この世は精霊で満ち溢れていると言ってもいい。
それでも、普段はこの世界と平行になっている向こう側の世界で生活しているので、私達にその姿を見せることは無いと言われている。
精霊がこちらの世界に姿を現すのは、魔法が使われる時だけだと。
魔法使いや魔術師達は、魔法を実行する際に必要な要素……例えば、火だとか水だとかを精霊達にお願いして用意してもらうのである。
もっと細かい構成をする人になると、素粒子単位でオーダーを出したりするらしいのだが、私にはちょっと分からない感覚だ。
そうして、頼まれたものを提供した精霊たちは、報酬として精神力……俗にマジックポイントとかスキルポイントとか呼ばれるそれを貰いうける。
私には、貰いうけるというより、その場でもしゃもしゃと食べているように見えるが、魔術の教科書には「精神力を受け取り元の世界に帰る」と書かれていた。
そういうわけで、魔法が使われるとき以外、精霊はこちらの世界に来ることが無いと、一般的には言われている。
しかし、精霊自身はいつでも好きな時に、こちらの世界へ顔を出すことが出来るので、実際は、綺麗な場所だとか、お祭りの最中だとか、そういうところでは、誰に呼ばれたわけでもない精霊達の姿を目にするものだった。
とはいえ、私のように精霊の姿を目にすることが出来る人間はごくわずかしかいない。
いわゆる霊感があるとか言われる類の人だけが、その姿を見ることが出来るため、こういった事は知らない人の方が多いわけだが……。
見えたからといって何の役に立つものでもなかった。
せいぜい、その人が魔法を発動する準備が出来ているかそうじゃないかが見分けられるというくらいか。
それすら、私のように対人戦を行わない者にとっては、意味がなかった。
そんなわけで、パチパチと髪に静電気のようなものを光らせながら消えていった大気の精霊を見て、一瞬、デュナが魔法でも使ったのかと思ったわけだが、ぐっすり眠っている姿からはそれも考えにくい。
窓際にあるベッドでは、フォルテがブーツを脱ぎ捨てて、ベッドの中央あたりで丸くなっている。
小さな両手を柔らかい頬に寄せて、ラズベリー色の瞳は、今にも閉じそうにうとうとと小さな瞬きを繰り返していた。
カーテンの隙間から、月の光がそのプラチナブロンドの髪を細く照らしている。
ここに来るまで三日は歩き通しだった。
昨夜は野宿だったし、皆、疲れが溜まっているのだろう。
部屋の空調はぽかぽかと暖かく、お腹はいっぱいで、足も体もとても重い。
私も、もう、このまま寝てしまいたい気分だった……。
全員に渡ったのを確認して、私達は声を揃えた。
「「「「いただきまーすっ」」」」
スープを口に運ぶ。
あ、ちょっと……辛いかな……?
何のスープって言われたんだっけ。あれ、説明なかったよね?
ああ、けどレストランってわけじゃないもんね……。
などと考えていると、案の定フォルテが隣から
「ラズぅ……これ、ぴりってする……」
と、涙目で訴えた。
スープを良く見ると、胡椒に、鷹の爪に、表面にはうっすらと赤い油のようなものも浮いていて、ポタージュ系のスープとしては珍しい辛さに仕上がっていた。
「うーん、ちょっと辛いね。フォルテには厳しいかな……?」
フォルテの頭を撫でようと思うも、席と席が離れていてほんの少し届かない。
「じゃあ、フォルテのスープ、俺もらっていい?」
フォルテの向かいに座るスカイが、嬉しそうに手を伸ばした。
「はいどうぞ。スカイにあげる……」
平たく重いスープ皿をよろよろと持ち上げようとするフォルテに、スカイがさっと身を乗り出して、自分の皿を持たせた。
それはもう、すっかり空になっている。
二杯目をご機嫌で掻き込むスカイ。
相当な速さで、音を立てずに動くスプーンが何だか異様だ。
スカイは、辛いものが好きだった。
むしろ、甘い物は苦手なのだが、甘いもの大好きのフォルテはまだそれに気付いていないようだ。
私も、気付くまで数年かかった。
なぜかというと、食べるからだ。スカイが。無理をして。
たとえ後から吐く事になろうとも、人がくれるお菓子は断らないというその頑張りは、間違っていると思う。
なので、フォルテにその事を教えるつもりも今のところ無かった。
いい加減自分で気付いてほしい。フォルテではなく、スカイに。
頑張る方向が間違っている事を。
「ラズも飲まないのか? スープ」
その声にスカイを見る。
スカイの顔には、はっきりと『飲まないなら欲しいなぁ』という文字が浮かんでいた。
「う、うん。ちょっと辛いから遠慮しようかと思って……」
飲めないことはない辛さだったが、ついそう答えてしまった。
スカイの後ろに、ぱあっと花が咲くのが見える。
あまりの分かりやすさに、思わず噴出しそうになるのをこらえつつ、スープ皿を渡した。
フォルテのときと同じく、手元には、空になった皿が瞬時に乗せられる。
さすが盗賊と言うべきか、そのすり替えの早さには驚かされるが、それよりも席の離れたこの対角線上の位置へ、どうやって手を伸ばしたのかが謎だった。
私の正面にいるデュナも、そろそろスープを飲み終わりそうだ。
ウェイターさん……じゃなくて、ええと、男の使用人さんが様子を見に来ている。
次のお料理も、すぐ出てきそうだ。
お腹いっぱい夕飯を食べて、案内された客室は三人部屋だった。
ベッドが三つ並ぶ、客人専用に設えられた室内。
旅館でもない個人の家に、こんな部屋があるとは……さすがお屋敷といったところか。
マーキュオリーさんには、しっかりお礼を言わないといけないな、と、そこまで考えてから、彼女が二週間程帰ってこないという話を思い出す。
デュナはそれまで待つつもりなんだろうか?
「デュナ、結局石は――……」
私の背後、出入り口に一番近いベッドに、デュナは突っ伏している。
どうやら、寝てしまっているようだった。
靴も脱がずに、ベッドに倒れこんだままの状態で。
ベッドで一休みしていて、そのまま寝てしまったんだろうか?
お酒は飲んでなかったよね……? と、思い返す私の横を、すっと大気の精霊が通り過ぎて消えた。
……あれ?
本来、精霊というのはどこにでもいるものだ。むしろ、この世は精霊で満ち溢れていると言ってもいい。
それでも、普段はこの世界と平行になっている向こう側の世界で生活しているので、私達にその姿を見せることは無いと言われている。
精霊がこちらの世界に姿を現すのは、魔法が使われる時だけだと。
魔法使いや魔術師達は、魔法を実行する際に必要な要素……例えば、火だとか水だとかを精霊達にお願いして用意してもらうのである。
もっと細かい構成をする人になると、素粒子単位でオーダーを出したりするらしいのだが、私にはちょっと分からない感覚だ。
そうして、頼まれたものを提供した精霊たちは、報酬として精神力……俗にマジックポイントとかスキルポイントとか呼ばれるそれを貰いうける。
私には、貰いうけるというより、その場でもしゃもしゃと食べているように見えるが、魔術の教科書には「精神力を受け取り元の世界に帰る」と書かれていた。
そういうわけで、魔法が使われるとき以外、精霊はこちらの世界に来ることが無いと、一般的には言われている。
しかし、精霊自身はいつでも好きな時に、こちらの世界へ顔を出すことが出来るので、実際は、綺麗な場所だとか、お祭りの最中だとか、そういうところでは、誰に呼ばれたわけでもない精霊達の姿を目にするものだった。
とはいえ、私のように精霊の姿を目にすることが出来る人間はごくわずかしかいない。
いわゆる霊感があるとか言われる類の人だけが、その姿を見ることが出来るため、こういった事は知らない人の方が多いわけだが……。
見えたからといって何の役に立つものでもなかった。
せいぜい、その人が魔法を発動する準備が出来ているかそうじゃないかが見分けられるというくらいか。
それすら、私のように対人戦を行わない者にとっては、意味がなかった。
そんなわけで、パチパチと髪に静電気のようなものを光らせながら消えていった大気の精霊を見て、一瞬、デュナが魔法でも使ったのかと思ったわけだが、ぐっすり眠っている姿からはそれも考えにくい。
窓際にあるベッドでは、フォルテがブーツを脱ぎ捨てて、ベッドの中央あたりで丸くなっている。
小さな両手を柔らかい頬に寄せて、ラズベリー色の瞳は、今にも閉じそうにうとうとと小さな瞬きを繰り返していた。
カーテンの隙間から、月の光がそのプラチナブロンドの髪を細く照らしている。
ここに来るまで三日は歩き通しだった。
昨夜は野宿だったし、皆、疲れが溜まっているのだろう。
部屋の空調はぽかぽかと暖かく、お腹はいっぱいで、足も体もとても重い。
私も、もう、このまま寝てしまいたい気分だった……。
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