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第三話 賢妃の才能は底知れない

01-5.

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「後宮の麗しき月、賢妃様にお仕えできること、心より感謝いたします」

 香月の前で両膝をつき、挨拶の言葉を述べるのは梓睿だった。その隣には床を無言で見つめ、けっして、香月の顔を見ないように努める雲嵐がいた。

「……名を申せ」

 香月は感情を隠して声をかける。

 ……梓睿と呼べないことを許せ。

 義弟の名を呼べない。その名は香月が使わなければならない。

嘉瑞ジャルイと申します。こちらは王雲嵐と申します」

 梓睿あらため嘉瑞は頭を深く下げた。

 ……嘉瑞か。

 名を奪われたと怒りを見せることもなく、それが天命であると受け入れたのだろう。

 ……雲嵐は話もしないのか。

 声を聞くことさえも許されない。

 香月もそれを理解していた。

「父上から話は聞いている。嘉瑞、私の身の回りの世話と護衛を任せる」

「はっ、承知いたしました」

「王雲嵐は明明付きの宦官とする。常に明明と行動を共にせよ」

 香月は命令を下す。

 それに対し、返事をしたのは嘉瑞だけだった。

 ……不服か?

 雲嵐は俯いているだけでなにも話さない。

「そちらの者は口が聞けないのか?」

「お許しください。賢妃様。王雲嵐は賢妃様と口を利いてはならないとご当主様から命令を受けております」

「父上が? ……そうか、ならばよい」

 香月は詳しくは聞かない。

 ……根回しをされたか。

 嘉瑞は淡々と答えていく。ゆっくりと上げられた顔は絶望の色はなく、期待に満ちた顔をしていた。

 ……私を選んだつもりか。愚弟。

 玄家の当主は香月だと、嘉瑞は言い続けていた。香月に仕える機会を手に入れるためなら、宦官になることにためらいなどなかった。

「嘉瑞。雲嵐。各自、仕事をまっとうせよ」

「かしこまりました、賢妃様」

 嘉瑞は立ち上がり、視線を雲婷に向けた。
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