あやかし喫茶の縁結び

佐倉海斗

文字の大きさ
上 下
52 / 59
第二話 【あやかし喫茶】は縁を結ぶ

01-12.

しおりを挟む
「そうかい」

 美香子は優しく笑った。

 ……腹が立ちますね。

 その笑顔は若葉の言葉を信じていないからではない。

 若葉の言葉を信じているからこそ、笑ったのだ。伊織の家族が美香子だけではないのだと知ることができたのが、なによりも嬉しかったのだろう。

 ……泣きそうなくせに。

 心の中で悪態を吐く。

 若葉は泣きそうな笑顔を見るのが嫌いだ。時々、伊織が墓参りをした後に見せる笑い方と似ているからこそ、気に入らない。

「あの子の家族になってくれたんだねぇ」

 美香子は安心したようだった。

 その言葉を聞き、若葉は露骨なまでに舌打ちをした。

「泣きたければ泣いたらいいじゃないですか」

 若葉の言葉を聞き、美香子は驚いたような顔をした。

「自覚していないのですか? 婆さん。伊織さんと同じ顔をしてますよ」

「伊織とかい?」

「そうですよ。揃いも揃って泣きそうな顔で笑うくらいなら、他の方法を考えればいいじゃないですか。どうして、そうまでして人でいることに執着するのか、若葉には理解ができませんね」

 若葉は河童だ。人の心を知らない。

 あやかしと比べようもないほどに人は短命な生き物だ。限られた時間を有効に使い、それなりの人生を歩むことを大切にしている。

 それが若葉には理解ができなかった。

「婆さんも鬼になればいいんです」

 若葉は美香子が嫌いだ。

 大正時代の古い考え方にこだわっているわけでもないのにもかかわらず、新しい考えをしようともしない。人は人であるべきであり、あやかしになろうという発想は美香子にはないのだろう。

「そうすれば、伊織さんを心配しなくて、いいじゃないですか」

「そうだねぇ。でも、それはできないよ」

「どうしてですか。伊織さんの姉なんでしょう? それなら、鬼になれるかもしれないでしょ」

 若葉は美香子の言葉が理解ができない。

 新しい考えを受け入れられないわけではなさそうだった。それなのに、美香子は鬼になるという選択肢を拒絶した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【勃起ヒーロー物語】登場!勃起マン!

勃起先生
キャラ文芸
「俺は勃起マン!」 「勃起の硬さは心の強さ!勃起で女性を泣かせる者は許さない!」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 令和のはじめ。  めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。  同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。  酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。  休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。  職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。  おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。  庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

処理中です...