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プラネタリウムは密室(仮)ですか?

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開けた扉の外、尼寺が入場客から緑色のストラップ付き観覧券を回収する。プラネタリウム観覧者は科学館のチケットとは別に観覧券を購入する。その観覧券というのが紙のチケットではなく首にかけるネックストラップ付き観覧券なのだ。首にかけていれば紛失しにくく回収もしやすい。また、一回目は青、二回目は緑、三回目は赤という風に投映回ごとにストラップの色を変えることにより、時間の間違いを防ぐメリットもある。ストラップには白色で館のロゴが入っておりオシャレでもある。

観覧券は一人一枚、手渡しで回収するため人数の誤魔化しはきかない。通常回収した観覧券は籠に集め、二重扉になっている入口の扉内に置いておく。恐らく尼寺は午前の回のプラネタリウムも観覧券を回収しながら入場者を数えたのだろう。

あれ?

少し違和感を覚える。何に?

思考はそれ以上許されなかった。操作卓に戻り挨拶しながら入場客観察しながら人数を数える。

午前の回よりかは多い。30人後半くらいか。小学生以下は合計3人。いずれも高学年くらい。少し難しめの話でも大丈夫だろう。

客層によって解説の内容を頭の中で修正する。季節、天気、客層、そして後半の番組その他いろいろ考えると同じ解説は二度とできない。即興のアレンジはプラネタリアンの腕の見せ所って訳だ。

そうこう考えているうちに投影開始時間となった。壇上へと向かう尼寺に合わせ、照明を弱くしBGMも落としていく。プラネタリウムの前方、壇上に立った尼寺にスポットライトを当てる。ざわついたドーム内が静まるのを確認して尼寺は口を開いた。

「皆様お待たせいたしました。ただ今よりプラネタリムの投映を行います。今回の番組は『星空探偵の大冒険』でございます。番組の始めには当館プラネタリアンによる今夜の星空解説がございます。今回の解説はあちら、後藤が担当いたします」

名前を呼ばれ操作卓の裏から恭しく一礼する。

「投映を始める前に皆様に注意事項をお伝えいたします――」

プラネタリアンの紹介が終わると私は忙しなく動き始める。入場用BGMから解説用BGMへの変更。デジタル投影機、操作卓、各スイッチ類の確認。

「――それでは最後までごゆっくりお楽しみくださいませ」

スポットライトが消え、壇上から尼寺が下りてくる。投映前アナウンスを終えたアテンダントは出口側のパイプ椅子に座る。今回は横に家名も座っているようだ。それを横目に見ながら、非常灯を消しドーム内の照明を徐々に落としていく。

バイバイ日常。ようこそ非日常。

それでは星空案内の始まりはじまり……。
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