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授業編

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 「ん?黄龍様の鱗も持ってんのか!?」

 耳をつんざくような大声で、そう叫ぶ。その声はしんみりとしたいい雰囲気を存分にぶち壊していた。リッカは大きく分かりやすく肩を落としながらため息をつくと、左右に垂らしている髪を持ち上げその耳にぶら下がる黄龍の鱗でできた耳飾りをちらりと見せる。
 黄金に輝くのは何処からどう見ても黄龍のもの。ヤマト出身であるカガチにはそれが否が応でもわかるだろう。
今の今まで気づかなかったのは、リッカの長い髪に耳元が隠れていたことや、いつも肩に神獣たちが乗っていたからだとも言える。現に、リッカが自主的に耳飾りを見せなければカガチは黄龍の鱗がどこにあるかなんて気づかなかった。

 「僕がこっちに来る前にね、一緒にいてあげられないからってもらったんだ。それをうちの執事に加工してもらったの。」
 「はー……すげぇ技術だなこりゃ……」
 「でしょ?宝物なんだぁ。で、カイくんの鱗も加工してもらおうかなって思ってるんだけど……腕のいい技術師しらない?」
 「俺は知らねぇな……あー、ノアなら何か知ってるんじゃないか?」
 「ノア?」

 想像もしていなかった名前にリッカは首を傾げた。ノアと技術師というのがあまりつながらない。

 「アイツ、結構方々に知り合いが多いからな。龍の鱗のことを黙っていてくれる腕のいい技術師くらい、知り合いの中にいそうだろ?」
 「だろ?と言われても……」
 「まあとにかく、それはノアに聞いてみろ。さ、お前も見つけたし生徒らがいるところまで戻るぞ。」
 「はぁい。」

 腑に落ちないというような顔をしながらもリッカはカガチの後ろからついていくように歩き始めた。前を歩くカガチをよく見ると首元に疲れた顔をしている二号がいる。生徒たちを避難させ、且つ危険が及ばないように尽力を尽くしてくれたのだろう。ちらりと目が合った時にいたわるように手を伸ばすと、するりと首を後ろに伸ばしてきた。

 「わっと……、リッカ、あぶねぇから手を伸ばすなよ……二号はなんでかお前にも懐いてるんだから。」
 「ごめんごめん。まさかこっちに首を伸ばしてくれるなんて思ってなかったんだよ。……お疲れ様、二号。これだけ疲れてるってことは二号にも手伝ってもらったんだ?」
 「ああ。俺だけの力じゃあれだけの広範囲に結果は張れないからな。そういえばタイチとは別行動だったのか?あの場にいたみたいだが……」
 「別行動だよ。タイチにはあっちでやって欲しいことがあったからね。多分みんな、カイくんがいたことに気づいてないんじゃない?視線逸らしといてーって頼んだから。」
 「そ、そんなことまでやってたのか……」
 「後から根掘り葉掘り聞かれても困るもん。」

 あっけらかんと言ったリッカにカガチはそれもそうだと頷いた。あとでアカデミー長やらには報告せねばいけないだろうが、敢えて生徒達に不安を与える必要性もない。完全にリッカの首元で落ち着いてしまった二号を横目にカガチは一つ息を着いた。
 何はともあれ、生徒にも被害が出なくてよかったと安堵したのだった。






 「リッカ!よかった無事で……」


 避難していた生徒達の元へ向かうと結界の中で不安そうにしている大半の生徒とその外でウルを大きくさせて待機しているタイチとその横で何かの魔法を使っているベルが視界に入った。お疲れ様、と労りの声をかけながら近づくと、その声に気づいたベルが慌てたようにリッカの元へ駆け寄ってくる。
 遅れて気づいたタイチもウルを伴ってベルの後を追うようにリッカの元へと駆け付けた。

 「や、心配かけてごめんね?ベル。タイチも、しっかりやってくれてた・ ・ ・ ・ ・ ・ ・みたいで助かったよ。」
 「いや……。それよりも何がどうなったんだ?」
 「ああ、うん。後でちゃんと教えるから、ちょっと待っててね。ベルも、リリーのところに行ってあげて……なんだかすごく見られてる気がするよ。」
 「あ、ああ……いや、多分あれはタイチとリッカの従魔に興味をひかれてるからだと思う……。」
 「……なるほどね。」

 素直にうなずけるような解ではなかったが苦笑いでベルにそう返すと、ベルはじゃあまた後で、と手を挙げてリリーの方へ駆け出して行った。
 それを見送り、タイチの方へ向き直る。一瞬で真剣な表情をしたリッカにタイチはごくり、と喉を鳴らした。

 「……リッカ?」

 考え込んだような表情のまま動きのなくなったリッカへ恐る恐る声をかけるとリッカは一気にくしゃりと表情を緩め大きく息をついた。雰囲気が台無しである。

 「あーやめやめ。やっぱ僕に深刻な表情は無理!はぁ……ほんとにどっと疲れた……」
 『台無しですわ、お母様……』
 『せっかくタイチもビシッとしてたのにー……』
 「言わないで、すーちゃんシロくん。深刻でもないのに思い詰めた表情するのほんと、無理。」
 「……おい。」

 憤りを覚えているような声色にリッカはぺろりと舌を少しだけ出して、えへ、と笑った。そんな表情に気も抜ける。タイチの気が緩んだのをしっかり確認した上でリッカはぽんぽんとタイチの肩を叩いた。

 「ごめんって!だってタイチがあんまりにも真剣な顔してるからさぁ……」
 「俺のせいかよ……」
 「まあまあ、……例の突進牛ラッシュキャトルの群れなんだけど、カイく……飛竜スカイドラゴンが後ろから追っかけててさ、手がつけられない状態だったんだよね。本当はすーちゃんの本当の姿見られたくなくて逸らしといてって言ったんだけど、ある意味助かったよー。」
 「……は?」

 何事も無かったかのように言うリッカにまるで思考が追いつかないとタイチは頭を抱えることとなった。



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