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Kiyoka's story

第3話 Kiyoka-3

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長く入院生活を送っていた祖父が危険な状態だと連絡が入った。

朝、ランドセルを背負い清香キヨカは1年生を迎えに行こうとしていた。6年生になって、1年生と手を繋いで登校することをずっと楽しみにしていた。4月からやっとこの役目を担うことができ、朝が弱くギリギリに叩き起こされていたのが嘘のように早起きになった。

「清香!ごめん。今日学校休んで。」
別室で電話をしていた母が、慌てて荷物をつめている。
「なんで!」
強く言い返して振り返えると、母の目が充血しているのが分かった。
これ以上、なにかを言ってはいけないことが子どもながらに分かった。
「おじいちゃんのとこ行くよ。」
「なんで?なんで黒い服準備してるの?」
「必要になるかもしれないから。」

その黒い服が、人が亡くなったときに必要なものであることは分かっていた。今なら何となく、少しだけその備えの必要性が分かる。しかし、その時はなぜ祖父は生きているのに泣きながら喪服の準備をしているのか全く分からなかった。
分からないどころか、「酷い」と思っていたくらいだ。

2年生の弟は、ずっとお母さんと居れるのが嬉しいのだろう。ましてやおじいちゃん、おばあちゃん家に遊びに行けると思っているようだった。

祖父母の家までは車で5時間。かなり長時間だ。
いつも途中のサービスエリアを楽しみながら、大好きな音楽を歌いながらの旅とは違い母の様子を気に掛けながらの長旅だったことを覚えている。
父は県外に単身赴任中で、すぐには戻ってこれないどころか連絡が取れないことも多かった。

どれくらい時間が経っただろうか。
車を降りたのは、弟が「トイレ!」と言った1度だけだった。それ以外は呑気に寝息をたてながら夢の世界に行っていた弟を羨ましく思った。
体感は1日。だが、時計を見ると4時間も経っていなかった。

途中、サービスエリアに寄らなければこのくらいの時間なんだなと清香は初めて知った。

到着したのは、いつもの自然溢れる景色が広がる祖父母の家ではなく、なんだかひっそりとした大きなコンクリートの建物だった。
その入り口には、大きく
[森林モリバヤシ総合病院]
と書かれていた。

清香はどうしても病院という場所が苦手だった。
だった...ではなく、大人になった今でも苦手だが...

看護師さんに部屋を聞き、受付を済ませる。
部屋に行くと、ベッドから身体を起こした祖父がこちらに視線を向けた。

「お父さん」
と母が駆け寄る。近くには祖母も居た。
「よくきたね。」
上手く言葉が話せない祖父に代わって、祖母がいつもの優しい声で迎えてくれた。

弟と私は、病院の独特な匂いと空間に緊張し無言になる。
母が何を話していたか覚えてないないが、祖父が瞼をゆっくり閉じたり開けたりして相づちを打っていたのを覚えている。

数時間たった頃、弟が病室で過ごすことに飽きてきた。
「ねぇ、おじいちゃんの家行かないの?」
「今日はここに泊まるのよ。」

私はギョッとした。

ただでさえ苦手な病院で寝泊まりするなど、どう考えてもその時の私にとっては耐えることなどできなかった。

「おじいちゃん家で寝る。」

この一言を言い放った自分を、私は未だに許すことができないでいる。

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