8 / 13
番外編 エピソード1 頑固者の花が開いた日。
しおりを挟む
【中川一雄(ナカガワカズオ) 72歳】
庭に植えられたチューリップが満開になった。土から芽が顔をだし、日の光と対面したばかりの頃は柵が自分の存在を主張し、なにかが伸びてきていることなど気付かないほどだった。
等間隔に植えられた球根が満開となった今、自分の庭であるはずがどこか違う公園にでも来たような光景が広がっている。
長年連れ添った妻が亡くなった。
今思うと、連れ添ったではなく、連れ添ってくれていたのだった。
自分の命の花が満開を過ぎ、自然にかえる時期がやって来たことを知ってもなお、その後の私のことを考えてこの花を植えていたのだろうことに先日気付くことができた。
「おじいちゃん!」
玄関から孫たちの声が聞こえてきた。定期的に息子夫婦が元気な孫たちをつれて遊びに来るようになった。
「いらっしゃい。」
こんな言葉を、こんな穏やかに自分が発する日が来ることなど想像もしていなかった。
「この間教えたヒーローの名前覚えてる?」
おしゃれなのか、今の時代のありとあらゆる名前が覚えられなくて困る。自分も、息子も通ったヒーローものに熱中する時期を今は孫たちが通っている。
「ちょっと待っときなさい。」
戸棚から袋を取り出した。
「これだろ。」
書店の袋の中には、カラー写真が綺麗に印刷された本が2冊入っていた。
ワッ!と孫たちが笑顔になる。
先日近くの書店に行き、ヒーロー達が写っている児童書を購入したのだ。中々名前が思い出せず、見つけられなかったが若い男性の店員にぎこちなく尋ねてたどり着いたのだ。以前の自分であれば、店員を頼ることなどなかっただろう。
孫たちが一生懸命名前を覚えてもらおうと、指差しながら説明をしてくれる。まだまだ頭を休ませるわけにはいかないようだ。
「おじいちゃん!笑ってないで覚えてよ!」
「まぁまぁ。分かった分かった。1人ずつ教えてくれよ。」
庭に植えられたチューリップが満開になった。土から芽が顔をだし、日の光と対面したばかりの頃は柵が自分の存在を主張し、なにかが伸びてきていることなど気付かないほどだった。
等間隔に植えられた球根が満開となった今、自分の庭であるはずがどこか違う公園にでも来たような光景が広がっている。
長年連れ添った妻が亡くなった。
今思うと、連れ添ったではなく、連れ添ってくれていたのだった。
自分の命の花が満開を過ぎ、自然にかえる時期がやって来たことを知ってもなお、その後の私のことを考えてこの花を植えていたのだろうことに先日気付くことができた。
「おじいちゃん!」
玄関から孫たちの声が聞こえてきた。定期的に息子夫婦が元気な孫たちをつれて遊びに来るようになった。
「いらっしゃい。」
こんな言葉を、こんな穏やかに自分が発する日が来ることなど想像もしていなかった。
「この間教えたヒーローの名前覚えてる?」
おしゃれなのか、今の時代のありとあらゆる名前が覚えられなくて困る。自分も、息子も通ったヒーローものに熱中する時期を今は孫たちが通っている。
「ちょっと待っときなさい。」
戸棚から袋を取り出した。
「これだろ。」
書店の袋の中には、カラー写真が綺麗に印刷された本が2冊入っていた。
ワッ!と孫たちが笑顔になる。
先日近くの書店に行き、ヒーロー達が写っている児童書を購入したのだ。中々名前が思い出せず、見つけられなかったが若い男性の店員にぎこちなく尋ねてたどり着いたのだ。以前の自分であれば、店員を頼ることなどなかっただろう。
孫たちが一生懸命名前を覚えてもらおうと、指差しながら説明をしてくれる。まだまだ頭を休ませるわけにはいかないようだ。
「おじいちゃん!笑ってないで覚えてよ!」
「まぁまぁ。分かった分かった。1人ずつ教えてくれよ。」
11
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~
卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。
店主の天さんは、実は天狗だ。
もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。
「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。
神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。
仲間にも、実は大妖怪がいたりして。
コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん!
(あ、いえ、ただの便利屋です。)
-----------------------------
ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。
カクヨムとノベプラにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる