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最終章

暗黒の騎士 ベルヴェルク

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 アナスタス領土、ルナマリア城の西側の山向こうにある平原では、激しい戦いが続いていた。
 8大災厄ヴォーセミ・ディザスターベルヴェルクを、このティトル平原に誘い込んだユウキ、アンナ、フィオナの3人は、以前とは比べ物にならない程、力を上げたベルヴェルクに苦戦していた。

「ユウキ、前に出すぎ! 貴方は力を温存しててって話したでしょう?」
 アンナがユウキに向かって叫んだ。

 友愛の加護ゆうあいのかごだけでベルヴェルクの対応をしていたユウキは、剣圧で押し返される。

「ちぃっ……! 
……なあ、やっぱり寵愛の秘跡ちょうあいのひせきで、パパっと終わらせちゃ駄目なのか!?」
 ユウキがアンナに向かって尋ねた。

「駄目って言ったでしょう!
ベルヴェルクの新しい力は、[暗黒騎士の波動あんこくきしのはどう]。
他の8大災厄ヴォーセミ・ディザスターが死なない限り、ベルヴェルクも倒せないし、他の8大災厄ヴォーセミ・ディザスターが倒された場合、傷や、闘気、魔力、スキルポイントを完全復活させて、その力を吸収する事が出来るの! 今、寵愛の秘跡ちょうあいのひせきで倒しても、他の8大災厄ヴォーセミ・ディザスターが倒される度に、パワーアップして完全復活してしまう! だからユウキは、まだ力を出来るだけ使っちゃ駄目! 温存しておくのよ!!」
 アンナは、ベルヴェルクが放った無数の闘飛剣を躱しながら叫んだ。

「温存っていつまでなの!? 流石に私とルナマリアだけじゃ、ベルヴェルクを長時間、抑えてられないわ!」
 フィオナも闘飛剣を躱しながら尋ねる。

「あと少しで、ディアナ達がショロトルとフェンリルを倒す筈よ。その時、ベルヴェルクがパワーアップしたら、ユウキは寵愛の加護ちょうあいのかごを発動して! フィオナは今まで通り、補助魔法でサポートをお願い! 
その後、オリヴィア、ニーズヘッグの順でベルヴェルクの力が上がり、完全な暗黒騎士が完成する。
ニーズヘッグ討伐予定時間は、アリシア達に伝えた戦闘開始から30分だから……、残り大体14分!! あとの指示は、ベルヴェルクの力が上がる度に説明するわ!!」
 アンナが炎属性禁呪魔法スーパーノヴァを放って、ベルヴェルクの攻撃を迎撃する。

「分かった!」
「分かったわ!」
 ユウキと、フィオナが同時に応えて、3人は別方向にバラける。

 アンナは出し惜しみする事なく、連続で攻撃型の禁呪魔法を放っていく。
土属性禁呪魔法ガイアソード!!
……風属性禁呪魔法ゴッドブレス!!」

 アンナの猛攻にベルヴェルクも攻めあぐねる。
 ベルヴェルクは寵愛の加護ちょうあいのかごの大半を防御に回さなければ、アンナの魔法によって大ダメージを負ってしまう事が分かっていた為、友愛の加護ゆうあいのかごの状態で戦っていたユウキを倒せずにいた。
 暫くの間、同じような展開が続いた後、ベルヴェルクが急に、距離をとるように宙に浮いて構えを解いた。

「フィオナ! ショロトルとフェンリルの力が来るわ!!
全員に物理防御魔法プロテクトシールドを! 私と、フィオナには魔力強化魔法マジックブーストをお願い!!
ユウキは、寵愛の加護ちょうあいのかごを発動して!!」
 アンナがベルヴェルクを見つめながら叫んだ。

 ユウキとフィオナは同時に頷き、ユウキが叫ぶ。
「フィオナ・ジェマ・クリスティーナ!!」
 ドンっ!!
 ユウキはオレンジ色の光に包まれ、その光は柱となった。その後、その光の柱はユウキの体型に収束し、周りに留まった。

 フィオナが急いで魔力強化魔法マジックブーストを唱え終えた時、東の空から巨大な黒いモヤがこちらに向かって来るのが見えた。
 巨大な黒いモヤは、すぐにベルヴェルクを包み込み、3人はベルヴェルクの力が急激に上がり始めた事を肌で感じる。
 ベルヴェルクの様子を見ていたフィオナは、冷や汗を流しながら固まってしまう。

「フィオナ!? 何をやっているの!!? 早く物理防御魔法プロテクトシールドを唱えて!!」
 アンナが慌てて叫んだ。

 アンナの叫び声でハッとしたフィオナが、アンナの方を見て物理防御魔法プロテクトシールドを唱えようとした瞬間、衝撃が走る。

 ギィイイーーーーン!!

 フィオナの目の前に一瞬で現れ、首に向けて振ったベルヴェルクの剣を、ユウキが寸前で止めた。
 ユウキが間髪入れずに、剣を滑らせて反撃すると、ベルヴェルクがその場から消え、距離を取る。

「フィオナ! 大丈夫か!?」
 ユウキが背を向けたまま叫んだ。

「う、うん……」
 フィオナは目を見開いたまま、身体を震えさせて応えた。

(ユウキがベルヴェルクの挙動に気づいて、攻撃を止めていなければ、フィオナの首が飛んでた……!! 先読みで分かってたけど、なんて速さなの!!)
 アンナが大量の冷や汗を流しながら、ベルヴェルクを見つめた。

「予想してたより、うんと強くなったな……。寵愛の加護ちょうあいのかごの状態の俺より、若干強いくらいか……。スピードは桁違いだから、こりゃ苦戦しそうだな……」
 ユウキも冷や汗を流して話した。

「フィオナ! 私と貴方は後方に下がってユウキの援護を!! 
ユウキ! 分かってると思うけど、ベルヴェルクはあと2回、大きく力を上げる! だから無理に攻めようとせずに時間を稼いで!!」
 アンナが話した瞬間、ベルヴェルクが視界から消えて、ユウキの後方に移動する。
 すぐに剣を水平に振ると、ユウキが屈みながら水平に斬り返す。
 ベルヴェルクが飛んでこれを回避しながら放った闘飛剣がユウキに直撃する。
 しかし、闘飛剣が直撃する直前に、フィオナの物理防御魔法プロテクトシールドが発動した事で、ユウキは殆どダメージを負わずに済む。

「ナイスタイミングだ、フィオナ!」
 ユウキが微笑みながら話した。

 宙に逃れたベルヴェルクに向かって、アンナが両手を向ける。
水属性禁呪魔法ウンディーネランス!!」
 三大魔王の中で最も攻撃型魔法を得意とするアンナの水属性禁呪魔法ウンディーネランスがベルヴェルクに直撃するが、ショロトルとフェンリルの加護を受けたベルヴェルクには、殆どダメージを与えらなれない。
「やっぱり、戦神フェンリルの加護は、伊達じゃないわね! 神器並みに特別な力を秘めたユウキの剣でダメージを与えるか、禁呪魔法を超える攻撃じゃないと駄目ね!」
 アンナが苦笑いを浮かべて話した。

 すぐに、ベルヴェルクがアンナに向かって急降下しながら剣を抜く。
 それを見たフィオナがアンナに向かって両手を向けて叫んだ。
近接攻撃力強化魔法パワーブースト!!」

 アンナの闘気がフィオナの近接攻撃力強化魔法パワーブーストによって赤く染まる。
 ベルヴェルクが剣を振った瞬間、アンナがニヤリと笑って素手で構えた。
 アンナはベルヴェルクの上段からの振り下ろしに対して、身体を半身にしながら、躱し、魔力を込めた右ストレートを放った。
 アンナの右ストレートが、ベルヴェルクの左頬を完璧に捉えた瞬間、ベルヴェルクの兜が粉々に砕けて、百メートル以上後方の岩場まで吹き飛び、ベルヴェルクが直撃した岩場も砕け散った。

「へっ! あいつは元々、元の世界セインツでも、俺より身体能力高かったからな……。魔法だけの女と思って甘く見てたら、痛い目みるぜ!!」
 ユウキもニヤリと笑って話した。

「凄い! ルナマリア、あそこまで凄かったの!!」
 フィオナが目を輝かせて話した。

 ボォオーーーーン!!

 ベルヴェルクが岩場を吹き飛ばし、ゆっくり砂埃の中から姿を現す。
 兜が砕けた事で素顔が露わになった時、アンナが顔を曇らせる。
「……やっぱり、分かってても、この瞬間は吐きそうな気分ね」

 ルークの生前と全く同じ顔をしたベルヴェルクは、無表情のまま、歩いてユウキ達にゆっくり近づいてくる。

「あれが、ルナマリアのお父様……、ルーク様の素顔……!」
 フィオナが驚きながら話した。

「ユウキ! 私の近接攻撃ではフェンリルの加護の影響で殆どダメージを与えられない! 私が注意を引きつけるから、神器並みに特別な力を持つユウキの剣で攻撃して!!」
 アンナがユウキに向かって叫ぶが、ユウキは応える事なく、ベルヴェルクを睨んだまま動かない。
「ユウキ……!?」
 アンナが驚いて呟いた瞬間、ユウキが寵愛の加護ちょうあいのかごの力を高めて、ベルヴェルクに向かって突っ込む。

「ユウキっ!!!?」
「ユウキお兄ちゃん!!!?」

 あと先考えずに寵愛の加護ちょうあいのかごを全開にしながら、ユウキは怒りの表情を浮かべて連続で斬りかかる。
 ベルヴェルクは、厳しい表情をしながら、なんとかユウキの攻撃を防いでいく。

「ユウキ!! 駄目よ!! 力は温存してって言ったでしょ!!?」
 アンナが剣を打ち合う2人に向かって走り出し、慌ててユウキに向かって叫ぶが、ユウキの耳には届かない。

 ドガーーーーン!!

 ユウキが上段から全力で振り下ろした剣を受け止めたベルヴェルクは、再び後方の岩場まで吹き飛ばされる。
 ユウキは、思いっきり息を吸い込んで叫んだ。
「その顔で、アンナを傷つけようとしてんじゃねー!!」

「ユウキ……!」
 アンナが足を止めて、その場に立ち尽くした。
 アンナは頭の中では、この後の戦いの為にユウキを止めなければならない事を分かっていたが、自分の為に全力でベルヴェルクに剣を振るユウキを見て、何も言えなくなった。

速度強化魔法スピードブースト!!
回避能力強化魔法フリードブースト!!」
 フィオナがユウキに向かって叫んだ。

「フィオナ!?」
 アンナが驚いて、後方を振り返る。

「私もずっとムカムカしてたの! もう我慢出来ない!!」
 フィオナも怒った表情で叫んだ。

 アンナは嬉しさの余り、涙を浮かべ、両手で顔を覆った。
(嬉しい……。2人がここまで私の為に怒ってくれる事が……。
でも……、だからこそ、私が冷静になって止めなくちゃ!!)

 ユウキがベルヴェルクを吹き飛ばし、2人の間に距離が生まれる。
(今だ!!)
 アンナはタイミングを見て、ユウキに背後から近づき、叫んだ。
「ユウキっ!!」

 ユウキが振り返った瞬間、アンナがユウキの唇を奪う。

「「!!!?」」
 ユウキとフィオナが同時に驚き、ユウキがすぐにアンナを引き離して口を開く。
「お前、こんな時に、何してんだ!!」

 フィオナは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ルナマリア、こんな時に何イチャイチャしてるの!!」

「2人とも落ち着いて!! 私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、これからの戦いの為に、力は温存して戦わなくちゃ!!」

 ユウキとフィオナがハッとした表情を浮かべて、冷静になる。

「私は大丈夫……! 確かにお父様の顔をした敵がいる事実は、吐き気がするくらい嫌悪感があるし、以前は凄く腹立たしかったけど、……もう精神的に乗り越えたから大丈夫!!
3人でちゃんと力を合わせて、ベルヴェルクを倒しましょう!!」
 アンナが微笑んで話すと、ユウキとフィオナは顔を見合わせて、少し反省した表情を浮かべて同時に応えた。
「分かったよ、アンナ!」
「分かったわ、ルナマリア!!」

 その時、ベルヴェルクが何かを感じ取り、再び天高く舞い上がって構えを解く。

「「!!!?」」
 ユウキ、アンナ、フィオナが同時に東の空を見ると、巨大な黒いモヤが高速でこちらに向かっているのが見えた。

「アンナ!! 次はどうしたらいい!!」
 ユウキが叫んで尋ねる。

「今度の加護は、オリヴィアの加護!!
あれがベルヴェルクに吸収されれば、私並みに攻撃型の魔法が使え、更に魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーを使えるようになるわ!!」
 アンナが冷や汗を流して叫んだ。

「ユウキお兄ちゃん並みの近接戦闘能力に加え、ルナマリア並みの魔法を使い、更に魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーを使えるようになるって……。そんな敵、どう対処すれば……!」
 フィオナが驚きながら呟いた。

「少し早かったけど、ユウキは、そのまま寵愛の加護ちょうあいのかごを全開にして戦っていいわ!!
フィオナ、今度の魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーは、詠唱なしで、相手を見ただけで効果が発動してしまう!!
だから、私と貴方はベルヴェルクを挟んで対角に分かれて戦うのよ!」
 アンナが叫んだ時、黒いモヤがベルヴェルクを包み込み、力を大幅に上げ始める。

 3人はベルヴェルクのオーラの高まりを感じながら、黒いモヤに包まれたベルヴェルクを見上げていた。

「ユウキは、私とフィオナの護衛役!
ベルヴェルクは、私かフィオナを見て魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーを発動し、禁呪魔法で攻撃してくる!
ユウキは、見られている方の護衛をしながら禁呪魔法を防ぐ役!
見られていない方が私の場合は、禁呪魔法で攻撃してダメージを与える!
見られていない方がフィオナの場合、全体の回復か、補助魔法で援護をお願い!!」
 アンナが叫び終えると、フィオナは力強く頷いたが、ユウキが苦笑いを浮かべて話した。
「ベルヴェルクの視界を常に気にしながら、2人の護衛って……、お前、ベルヴェルクがどれだけ近接戦闘能力もあるか分かって言ってるのか!?」

「出来ないの!?」
 アンナが少しムッとした表情を浮かべて尋ねる。

「分かった、やりますよ!
ったく、ウチの嫁さんは2人とも旦那の扱いが厳しいんだよなぁ……」

「ユウキお兄ちゃん、何か言った?」
 いつの間にかユウキの側まで来ていたフィオナが尋ねる。

「い、いや、なんでもねーよ」
 ユウキが慌てて笑顔を作って応える。

 ベルヴェルクを包み込んでいた黒いモヤが、全てベルヴェルクの中に消える。
 すぐにアンナとフィオナが、ベルヴェルクを中心に対角に分かれて構え、ユウキは、どちらにも対応出来る様にベルヴェルクの真下で剣を構えた。

 ベルヴェルクは剣を背中に仕舞うと、両手をアンナとフィオナに向けて土属性禁呪魔法ガイアソードを放った。

「なっ!? 同時に詠唱なしで2発の禁呪魔法かよ!!」
 ユウキが驚いて叫ぶ。

 アンナは雷属性禁呪魔法キュクロープス・エンドの詠唱を、フィオナは土属性防御魔法サンドシールドの詠唱を開始する。
 ベルヴェルクは、アンナの方を見つめて魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーを発動する。
 その隙にフィオナは、土属性防御魔法サンドシールドを発動。
 ベルヴェルクの土属性禁呪魔法ガイアソードを迎撃出来なくなったアンナの方にユウキが向かおうとした瞬間、ベルヴェルクは背中の剣を抜いて闘気を最大に高め、フィオナに向かって飛びかかった。

「「なっ!!!?」」
 ユウキ、アンナ、フィオナが同時に驚く。
 ユウキは、アンナに向かって放たれた土属性禁呪魔法ガイアソードを剣の一振りで迎撃し、フィオナは土属性防御魔法サンドシールドでこれを防ぐが、直後にベルヴェルクが剣を構え、フィオナに向かって振り下ろした。
 ユウキは焦ってフィオナを助けに向かうが間に合わない。
「フィオナっ!!」
 ユウキが慌てて叫んだ瞬間、フィオナはベルヴェルクの連続斬りを全て躱して見せた。

自動確立式補助魔法オートドライブ!!」
 アンナがホッとした様子で叫んだ。

「ふぅ……! 危なかった!」
 フィオナがベルヴェルクから距離を取って話した。

「はぁ……。ホッとしたぜ……。
そういやフィオナには自動確立式補助魔法オートドライブがあったな!」
 ユウキもホッとした表情を浮かべて話した。

「でも、予定より早くなっちゃった……! 
フィオナの自動確立式補助魔法オートドライブは、1度発動して解除すると、その日は2度と使えない絶技……。本当はもう少し後まで取っておきたかったけど、ベルヴェルクが予想外の動きをしてきたから仕方ないわね!」
 アンナがベルヴェルクを見つめながら話した。

《2人とも! 今みたいに2人同時に狙われたら、アンナを助ける! フィオナは自動確立式補助魔法オートドライブで対応してくれ!》
 ユウキが思念でアンナとフィオナに伝える。

《分かったよ、ユウキお兄ちゃん!
逆に自動確立式補助魔法オートドライブを発動してしまった今がチャンスかも……! 私がベルヴェルクを引きつけている間に、2人が攻撃して動けなくしちゃえば、次のパワーアップまでは時間を稼げるじゃない?》
 フィオナが思念で応える。

《駄目だ! 危険過ぎる!!》
 ユウキが慌てて止める。

《……いや、フィオナの言う通りかも! 次のパワーアップまで10分近く! ベルヴェルクの隙を突いて、攻撃を与え、動けなくなる程の大ダメージを与えられれば、リスクを抱えたまま逃げ回る心配が無くなる!
基本的に、逃げながら温存する作戦で良いけど、もしフィオナが上手くベルヴェルクの注意を引き付けられた場合は、ユウキと私で攻撃しましょう!!》
 アンナが思念で話した。

《でも……、やっぱり危険じゃ……》
《ユウキお兄ちゃん! 私は大丈夫!!
お願い! 私を信じて任せて!!》
 ユウキが止めようとした時、フィオナが思念の伝達で叫んだ。

《……分かったよ。でもアンナが言った通り、チャンスが来た時だけだ! それ以外は基本的に無理する事なく、逃げ回ってくれ!》
《うん! ありがとう、ユウキお兄ちゃん!》

 ベルヴェルクがフィオナの方を見つめて魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーを発動し、闇属性禁呪魔法ベカティアル・バーストを放つ。
 これをアンナが光属性禁呪魔法セラフィックゲートで迎撃したが、ベルヴェルクは間髪入れずに無数の闘飛剣をフィオナに放った。
 フィオナはこれを自動確立式補助魔法オートドライブで躱す。
 闘飛剣を放った隙に、ユウキがベルヴェルクの背後に回り込み、上段から剣を振り下ろすが、ベルヴェルクは横回転しながらこれを躱し、ユウキにカウンターの突きを放つ。
 ユウキは、ベルヴェルクの突きを剣の腹で滑らせるように攻撃のポイントをズラしてからそのままカウンターの振り上げを行った。
 ユウキの剣がベルヴェルクに完璧にヒットし、ダメージを与える。
 ベルヴェルクは、歯を噛み締めながら、後方に下がって距離を置いた。

(アンナや、フィオナの言った通り、フィオナが狙われた直後がチャンスになる! 
しかし、今のでベルヴェルクも、単純にフィオナを狙えば、痛い目に遭う事が分かった筈だ! ベルヴェルクの警戒を解いて、もう一度フィオナに注意を引きつけたいが、どうすればいい……?)
 ユウキは警戒を強めたベルヴェルクを見た後、フィオナを見つめた。
 フィオナはユウキが自分を見つめた理由を悟り、行動に出る。
《ルナマリア、合わせて! アレを使う!!》
《そうか!! アレなら、上手くいくかも!!》
 アンナは、フィオナの考えを悟り微笑みながら応えた。

《アレってなんだよ!?》
《ユウキは、いいから今度フィオナが注意を引きつけたタイミングに合わせて奥義を放って!》
 アンナは、ユウキの問いに思念で応えた後、炎属性禁呪魔法スーパーノヴァを放つ。
 ベルヴェルクはこれを水属性禁呪魔法ウンディーネランスで迎撃し、アンナを視界に入れて魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーを発動する。
 ベルヴェルクは間髪入れずに氷属性禁呪魔法アブソリュート・ゼロをアンナに向けて放った。
 その隙に、フィオナが後方から超上級炎属性魔法ファイヤストームを放ち、ベルヴェルクに直撃するが、禁呪魔法以上でないとダメージが入らないベルヴェルクは、何事もなかったようにフィオナを睨む。
 アンナに向けて放たれた氷属性禁呪魔法アブソリュート・ゼロは、ユウキが剣を振って迎撃し、そのままユウキはベルヴェルクに飛びかかる。
 2人が連続で斬り合っている隙に、アンナとフィオナは詠唱を行い、同時に叫んだ。
炎属性禁呪魔法スーパーノヴァ!!」
超上級炎属性魔法ファイヤストーム!!」
 ユウキはその場から逃れると、ベルヴェルクは、アンナとフィオナの攻撃魔法に対して、闘気を高めて防御の構えをとった。

 ドガガァアアーーーーン!!

 ベルヴェルクを中心に大爆発が起きるが、アンナの炎属性禁呪魔法スーパーノヴァが少し効いただけで、ベルヴェルクを平気な顔をして、アンナに向かって飛びかかった。

《フィオナ! ベルヴェルクは禁呪魔法しか効かねぇ! フィオナは補助魔法を頼む!!》
《ユウキ、アレで良いのよ! さっきも伝えたでしょう? 黙って見てて!!》
 ユウキの呼び掛けに対して、アンナが即座に応えた。

「ど、どういう事だよ!?」
 ユウキがアンナとフィオナの行動を理解出来ずに困惑する。

 アンナはベルヴェルクの連続斬りを、持ち前の近接戦闘センスでなんとか躱していく。
 しかし、圧倒的なスピードを持つベルヴェルクの攻撃に対して、長くは躱せないと感じたアンナは、後方に飛び退く。
 逃すまいとアンナを追いかけたベルヴェルクに対して、ユウキが2人の間に闘飛剣を放ち、これを阻止する。
 ベルヴェルクは、ユウキの闘飛剣を寸前で躱し、ユウキに対して、水属性禁呪魔法ウンディーネランスを放った。

水属性防御……ウォータシー……!!」
 フィオナが大声で水属性防御魔法ウォータシールドを唱えようとした瞬間、ベルヴェルクがフィオナを睨んでこれを阻止する。
 その隙にアンナが雷属性禁呪魔法キュクロープス・エンドで、ベルヴェルクの水属性禁呪魔法ウンディーネランスを迎撃した。
 すぐにユウキとベルヴェルクが再び激突し、2人を中心に激しい衝撃波が起きる。
 このタイミングでアンナとフィオナがニヤリと笑い、同時に叫ぶ。
「「上級炎風合成属性魔法イグニッションストーム」」

「げっ!!?」
 上級炎風合成属性魔法イグニッションストームは、ベルヴェルクだけでなく、ユウキも巻き込んで、爆発を起こす。

 ボゴォオオーーーーン!!

 爆炎の中からユウキが慌てて飛び出す。
「ケホっ、ケホっ……! 2人とも! 俺も巻き込んでんだけど!!」

「ユウキがベルヴェルクを抑えている今さっきのタイミングが、上級炎風合成属性魔法イグニッションストームを当てる絶好のチャンスだったのよ!
別に良いじゃない! その程度の魔法、ユウキなら多少のダメージで済むでしょう?」
 アンナが微笑んで応えた。

「魔力も温存って言ってた割には、ベルヴェルクにも通じない魔法を使うなんて、どういうつもりだよ!」
 ユウキが愚痴を呟いた瞬間、爆炎の中からベルヴェルクが飛び出し、フィオナに襲いかかる。

「ユウキ、来たわ!」
 アンナが叫んだ瞬間、ユウキはハッとした後、すぐに剣を構えて闘気を高め始める。

 ベルヴェルクはフィオナに向けて無数の闘飛剣を放った後、アンナの方を向いて、闇属性禁呪魔法ベカティアル・バーストを放つ。
 フィオナは闘飛剣を、自動確立式補助魔法オートドライブで躱して、ベルヴェルクに向け上級光属性魔法レイを放つが、ベルヴェルクは物ともせず、剣を構えてフィオナに襲いかかる。
 魔法完全妨害禁呪魔法マジックキャンセラーにより対応が遅れたアンナに代わり、闇属性禁呪魔法ベカティアル・バーストを迎撃したユウキは、フィオナの援護に向かう。
 ベルヴェルクは、フィオナとの距離を詰めながら、視界はアンナの方を向いて、禁呪魔法を連発する。
 ユウキは、慌ててアンナの援護に戻り、アンナに向けて放たれた禁呪魔法の対応に追われる。

「くそっ! これじゃあ、攻撃に転じられない!!」
 ユウキが歯を噛み締めて話した時、ベルヴェルクはフィオナとの距離を詰め切り、連続斬りでフィオナに襲いかかるが、フィオナは自動確立式補助魔法オートドライブでなんとかこれを躱した。
 しかし次の瞬間、ベルヴェルクは剣を背中に仕舞い、フィオナに向けて両手を向けて呟いた。
闇炎土合成属性禁呪魔法プルート!!」

「「なっ!!!?」」
 ユウキ、アンナ、フィオナが、ベルヴェルクの上空に出現した隕石を見て、驚愕する。

「くそっ!!」
 ユウキが慌ててフィオナの援護に向かう。

 フィオナが慌てて両手を上空に向け叫んだ。
全属性防御魔法プリズムシールド!!」
 闇炎土合成属性禁呪魔法プルートがフィオナの全属性防御魔法プリズムシールドに直撃し、周囲に凄まじい衝撃波が発生する。
 衝撃波によってユウキと、アンナは、フィオナとベルヴェルクの側に近寄る事が出来ない。
 暫く辛そうな表情を浮かべていたフィオナだったが、魔力を全開まで上げて、闇炎土合成属性禁呪魔法プルートをなんとか凌ぎ切る。

 次の瞬間、ベルヴェルクの剣が、フィオナの胸を貫く。

「フィオナーー!!」
 ユウキが悲痛な表情を浮かべた時、アンナがユウキに向かって叫んだ。
「ユウキ、私達を信じて! 今こそチャンスよ!!」
 その声にハッとしたユウキは、困惑した表情を浮かべながらも、フィオナの胸から剣を引き抜いたベルヴェルクの背中に向けて奥義を放つ。

「奥義……! 残光剣ざんこうけん!!」
 ベルヴェルクを中心に4方向からユウキの分身が発生し、一瞬でベルヴェルクを斬りながら交差した。

「ぐぁはっ……!!」
 ベルヴェルクは、血反吐を吐きながら驚くべき光景を目にする。
 目の前には、先ほど心臓を貫いた筈のフィオナが、胸に傷痕一つ付けず、何事もなかったように、ユウキを抱えて宙に逃れた光景が見えた。

「ルナマリア! 今よ!!」
 フィオナが叫ぶと同時に、ベルヴェルクの後方からアンナの叫び声が聞こえた。
「絶技……!! 光炎雷合成属性禁呪魔法ほのいかづちのおおかみ!!!!」

 ベルヴェルクが慌てて振り返ると、アンナの上空に禍々しい雷を纏った巨大な赤い龍が出現し、ベルヴェルクに直撃する。

 ズガガガァアアーーーーン!!!!

 アンナからベルヴェルクに向かって直線上の地面や山は、大幅に地形を変えて吹き飛び、辺り一面が砂埃に覆われた。

 アンナの側にユウキを抱えたフィオナが降り立ち、口を開く。
「やったかな……?」

「間違いなく、ベルヴェルクに直撃したわ……! 次のパワーアップまで約3分! 特にユウキだけど……、3人共、闘気と体力の消耗が激しいから休憩を挟みたいところね……」
 砂埃が晴れ始め、アンナが爆心地を見つめる。

 砂埃の中から倒れたまま動かないベルヴェルクを見て、アンナが微笑んで口を開いた。
「……これで一息つけるわね!」
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