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最終章
最強の黒神竜 ニーズヘッグ
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王都サンペクルトの上空から、アレンと共に西の方角を見つめていたアリシアは、徐々に迫りくる巨大な影を見ながら呟いた。
「大きい……!!」
「ルナマリア様から山のようなデカさと聞いていたが、予想の倍はデカいな……!」
下級風属性魔法でアリシアの横を浮いていたアレンが話した。
「ルナマリアの言っていた通り、我々が用意していた対空用魔導兵器は全て通用しなかったと連絡が入ったわ。
……分かっていた事とはいえ、あの魔導兵器が全て通用しなかったとは驚きね……」
「魔導兵器の中には超上級魔法の威力に匹敵するものもあった……。つまり、奴にダメージを与えるには禁呪魔法以上の魔法か、それに見合う技を繰り出すしかないという事になる。
ルナマリア様が言っていた第1条件="王都から山向こうのシュキ平原でダメージを与え、足止めし、絶対に王都圏内に入れない事"
第1条件だけでも中々ハードな問題だな」
「あれだけの巨大が王都に降り立つだけでも、壊滅的な被害が出るのは確実ね。
難しい問題でもやらねばならない……」
アリシアが、目に闘気を集めて迫りくる巨大な影を見つめた。
「なっ!!!?
…………アレン、ルナマリアが思念の伝達で送ってきた全ての条件は覚えている?」
アリシアがアレンを見つめて尋ねた。
「ああ……、勿論。
第1条件=王都から山向こうのシュキ平原でダメージを与え、足止めし、絶対に王都圏内に入れない事。
第2条件=開戦から30分後に撃破。時間の前後のズレは、1分以内とする事。
第3条件=完全に殺す事はせず、生け捕りとする事。
第4条件=アリシアと私、2人の絶技使用は認めるが、寵愛の秘跡は出来るだけ使用せず、創造の力は絶対に使用しない事。
追加情報として、奴の背中に無数に生えている突起物の内、一つが弱点! しかし突起物の配置は常に移動していて見抜くには、奴の最大火力である口からの炎を出す瞬間に、弱点である突起物が光る為、それを見逃さない事が重要となる。
……急に再確認して、どうしたんだ? アリシアが覚えられなかった訳じゃないだろ?」
アレンが不思議そうに尋ねた。
「……アレン、確か貴方の体力値は8500だったわよね?」
「あ、ああ……、そうだ。
私が仲間の中で1番体力値が高い。それがどうした……?」
アレンが更に不思議そうに尋ねた。
「それじゃあ、今まで戦ってきた敵の中で最も体力値が高かった相手を覚えてる?」
「8大災厄のベルヴェルク! 奴の体力値は桁外れの50000だった!」
「……記録を大幅に更新ね……」
「ど、どう言う事だ!?」
「これから私たちがシュキ平原で足止めし、開戦から30分後での撃破、生け捕りし、寵愛の秘跡は極力使わず、創造の力は使用せずに対応しなければならない相手……、黒神竜ニーズヘッグの体力値は、120000000よ!!」
「いっ、一億2千万……!!?」
アレンが驚きながら叫んだ。
「……全く、無理難題を押しつけてきたわね、ルナマリア……」
アリシアが歯を噛み締めて呟いた。
「……それだけ私達が信用されていると思うしかないな……。
ここで愚痴っていても何も変わらない。そろそろ奴の所へ向かおう、アリシア!」
「ええ……、そうね、アレン」
2人は下級風属性魔法を操り、ニーズヘッグの方へ凄まじい速度で飛び去った。
王都から遠く離れた2つ目の山向こうの中腹では、魔導兵器を撃ち終えた先遣隊の兵士達が、目の前をゆっくり通り過ぎる巨大な影を見上げていた。
「ど……、どうやって、こんなのと戦えって言うんだ!?」
驚愕の表情を浮かべた兵士の1人が呟いた。
隣に立っていた部隊長が口を開く。
「我が国最強の魔導兵器で擦り傷一つ付かないとは……!」
(アリシア様……、アレン様……。お役に立てず、申し訳ありません……。
私達は、この化け物の進行を止める事が出来ませんでした……)
「全部隊に伝えろ! 撤退だ!!
奴をこれ以上、無闇に刺激して反撃を受ければ死人が出る!! アリシア様から、それだけは絶対に避けろとの御命令だ! 全員、生きてこの場を離れるんだ!!」
部隊長が叫んだ瞬間、ニーズヘッグに異変が起きる。
「ギャオオーーーー!!」
ニーズヘッグは、地面が揺れる程の雄叫びを周囲に響かせ、兵士達が耳を塞ぐ。
「なっ、なんだ!?」
部隊長が驚いた表情でニーズヘッグを見上げて話した。
次の瞬間、ニーズヘッグが凄まじい速度で先遣隊に向けて羽を羽ばたかせると、ニーズヘッグと先遣隊の間に巨大な竜巻が発生し、徐々に先遣隊に向けて動き出した。
ゴォオオ……!!
兵士達は絶望の表情を浮かべてその場から動けなくなった。
「終わった……」
兵士の1人が呟いた呟いた瞬間、ニーズヘッグが発生させた巨大な竜巻に向けて、巨大な雷が落ちる。
「雷属性禁呪魔法!!」
山向こうから高速で移動してきたアリシアが、雷属性禁呪魔法の爆風で、竜巻をかき消す。
「「アリシア様!!」」
兵士達が歓喜の表情を浮かべて叫んだ。
アリシアが魔法で撤退命令用の信号弾を打ち上げると、兵士達は敬礼した後、即座にその場を離れ始めた。
アリシアの存在に気づいたニーズヘッグは、腕を振り上げてアリシアに向けて振り下ろした。
「天雷剣!!」
雷を剣に纏い、友愛の加護を発動させたアレンが、太陽の中から現れ、ニーズヘッグの頭に剣を突き刺した。
「ォオオーーン……!!」
鈍い声を上げたニーズヘッグは、振り降りしたアリシアへの攻撃が逸れてしまう。
「ギャオオーーン!!」
ニーズヘッグは、再び地響きのような唸り声をあげると、背中の無数の突起物をアレンの周囲に飛ばした。
「なっ!!?」
アレンが驚いた瞬間、アレンを囲んでいた突起物が大爆発を起こす。
ドガガガガーーーーン!!
「アレンっ!!」
アリシアが慌てたように叫ぶ。
爆炎の中から、剣で顔を覆い、傷ついたアレンが上空に逃れる。
すぐにニーズヘッグが、アレンに向けて尻尾を振る。
「アレン、危ない!!」
アリシアが叫んだ瞬間、アレンが寵愛の加護を発動させて、剣でニーズヘッグの尻尾を受け止めた。
アレンはすぐに尻尾を押し返し、高速で移動して、ニーズヘッグの身体中を斬りつける。
「ォオオーーン!!」
ニーズヘッグが再び鈍い声を上げ、アレンとアリシアを睨んで移動を止めた。
「……どうやら、ようやく敵として認識してくれたみたいだぞ」
アレンが真剣な表情で話した。
「ええ……、ここからが本番ね……」
アリシアが頷いて応えた。
「とりあえず、第1条件はクリアだが……、ニーズヘッグの体力は今さっきので、どれだけ削れたかな?」
アレンがアリシアに尋ねる。
アリシアが闘気を目に溜めてニーズヘッグを見つめて呟いた。
「……現在の体力値119999943……!!
アレンの今さっきの猛攻で削れたダメージは、たったの57……!!
体力値だけでなく、防御力も異常に高いわ!!」
「……やはり、弱点を狙うしかないな……」
アレンが冷や汗を流して呟いた。
「ええ! その為には、もっとニーズヘッグの体力を削って、本気にさせなければならない! 弱点を晒してまで口からの炎の攻撃を行う時は、命の危険を感じて奴が本気になった時だけ! 残り時間は……、あと25分以内……!!
「いっそ、寵愛の秘跡で弱点をつければ問題無いのだがな……」
「奴を生け捕りにする理由は分かりませんが、寵愛の秘跡は、今のアレンでも10分くらいが使用限界でしょう? ルナマリアは少しでも寵愛の秘跡をメーデイアとの決戦に温存しておきたいのでしょうね」
アリシアがアレンに向かって話し終えると、ニーズヘッグが遠く離れたアリシアに向かって左腕を振り下ろしたが、空を切る。
「……?」
アリシアが身構えたが、何も起こらない。
ヒュウウ……!!
アリシアよりニーズヘッグに近い位置にいたアレンは微かな風切り音を聞き、慌てて叫んだ。
「アリシア! 横に躱せ!!」
アレンの叫びを聞いて、慌てて下級風属性魔法を操り、横に移動するアリシア。
その瞬間、アリシアの横を凄まじい風切り音が鳴り、斜め上後方の雲に巨大な爪痕がくっきり残った。
「「!!!?」」
アリシアとアレンが同時に驚く。
「アリシア、無事か!?」
アレンが慌てて叫びながらアリシアに近づく。
「え、ええ……、無事よ……」
(……アレンの掛け声がなければ、身体が2つに割れていた……。
それ程、凶悪なまでに圧縮された巨大な闘気を、一瞬で放ったというの……!?)
「……目に見えない闘気……! 厄介だな……」
アレンがアリシアの側に来て話した。
「物理防御魔法は……?」
アリシアがアレンに尋ねる。
「……恐らくフィオナ様級の補助魔法能力がなければ、深傷を負ってしまうから躱すしかない……。
真っ二つになるよりはマシだから、一応、お願い出来るか?」
アリシアが頷いて、アレンの背中に向けて両手を向けて話した。
「物理防御魔法!!」
すぐに自分の胸に左手を当てて、物理防御魔法を唱える。
「来るぞ!!」
アレンが叫んだ瞬間、ニーズヘッグが両手を交互に素早く振る。放たれた見えない爪の刃が2人を襲う。
アレンとアリシアは、ニーズヘッグの両脇に逃れるように躱していく。
ニーズヘッグは、アレンの方を向いて、見えない爪の刃を放ち続ける。
「背中がガラ空きよ!!」
アリシアがニーズヘッグの背中に向けて、土属性禁呪魔法を命中させると、ニーズヘッグは再び鈍い声を上げる。
「ォオオーーン!!」
「畳み掛ける!!
アリシアが炎属性禁呪魔法の詠唱を始めた瞬間、ニーズヘッグが長くて巨大な尻尾をアリシア目掛けて振った。
「っ!!!?」
慌てたアリシアが上空へ逃れる。
ニーズヘッグは、前方のアレンに対して、見えない爪の刃の連続攻撃を続け、後方のアリシアに対しては、恐ろしく早い速度で尻尾を振り続ける。
2人はギリギリでニーズヘッグの攻撃を躱し続けていたが、攻撃に転じる事が出来ない。
状況を打開すべく、アリシアはニーズヘッグから距離を取るように尻尾の攻撃を躱した。
尻尾の届かない位置まで逃れたアリシアは、間髪入れずに禁呪魔法を放つ。
「炎属性禁呪魔法!!」
ドガーーーーン!!
炎属性禁呪魔法はニーズヘッグに命中するが、手応えがまるで無い。
(炎属性には完全耐性があるようね……。という事は……!)
アリシアがニヤリと笑って叫んだ。
「氷属性禁呪魔法!!」
ニーズヘッグの尻尾全体を覆うかというほど巨大な氷の塊が一瞬で出現し、ニーズヘッグにダメージを与える。
「ギャオオーーーーン!!」
悲鳴に似た声をニーズヘッグが上げる。
「予想通り!! かなり効いたわ!!
ニーズヘッグの弱点属性は、氷!! 恐らく今の攻撃で、背中と尻尾に無数に付いている突起物の弱点にヒットした!!」
アリシアが微笑みながら闘気の眼でニーズヘッグを見つめる。
(残りの体力値……119971562!! 弱点属性攻撃で、背中全体を覆いながら攻撃する事が出来れば、わざわざ突起物を光らせて見抜く必要もない!! 残り時間でイケるわ!!)
アリシアが勝利を確信した瞬間、ニーズヘッグが背中の突起物をアリシアの周囲に向けて放った。
「なっ!? この距離まで飛ばせるの!?」
アリシアが慌てて順次、爆発していく突起物を躱していく。
アリシアが躱しても、躱しても、ニーズヘッグの背中の突起物は、すぐに生え変わって、アリシアに向けて放たれた。
「くっ!? これじゃ、詠唱する暇が……!!」
「ォオオーーン!!」
ニーズヘッグの鈍い声を聞いたアリシアが、突起物の爆発を避けながらニーズヘッグの前方を見ると、アレンが見えない爪の刃を掻い潜って、ニーズヘッグの身体中を斬りつけた事が分かった。
アレンの攻撃により、突起物を放出する勢いが弱まる。その隙に、アリシアが爆発を避けながら叫んだ。
「氷属性禁呪魔法!!」
今度は先程より、広範囲に背中を覆うように魔法を放ったが、ニーズヘッグは悲鳴を上げずに、何事もなかったかのようにアレンとアリシアに向けて攻撃を続ける。
「えっ!? 効いてない……!?」
驚いてアリシアが闘気の眼でニーズヘッグを見つめる。
(残り体力値……119971501!! ダメージ数61!? アレンの先程の攻撃分しか減ってない!!? さっきはあれだけ体力値を削れたのに、何故!?)
アリシアは動揺のあまり、一瞬、動きを止めてしまう。
《アリシアっ!! 後ろだ!!》
ニーズヘッグの攻撃を躱しながら、アリシアの事を気にかけていたアレンが慌てて思念を送った。
ズガガガガーーーーン!!
「きゃああ!!」
アリシアは後方から迫って来ていた突起物の爆発を躱す事が出来ずに悲鳴を上げる。
「アリシアっ!!」
アレンが叫び声を上げたと同時に、ニーズヘッグが突起物をアリシアに向けて大量に飛ばした。
ズォオオ…………!!
アリシアを中心に大爆発が起きる。
「アリシアーーーー!!」
慌ててアレンが、アリシアの元に駆けつけようとした瞬間、ニーズヘッグが見えない爪の刃以外に、羽も羽ばたかせて、巨大な竜巻を起こしてアレンの逃げ場を無くす。
「なっ!!!?」
アレンは巨大な竜巻に呑まれた後、見えない爪の刃の追撃に遭い、後方に吹き飛んだ。
「ぐはっああ……!!」
戦場から離れた山の頂上の避難地から、ニーズヘッグとアリシア達の戦いを見ていた部隊長は、ニーズヘッグの前後の地面に、深く傷つき動かなくなったアリシアとアレンを見つけて口を開いた。
「そ、そんな……、馬鹿な……!!
アリシア様と、アレン様が敗れるなんて……」
アリシアとアレンが動かなくなった事を確認したニーズヘッグは、雄叫びを上げて、王都サンペクルトに向け、ゆっくり動き始めた。
次の瞬間、ニーズヘッグの背中に巨大な雷が落ちる。
ズッガーーーーーーン!!
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグが悲鳴を上げ、地上に落ちる。
暫くして、ニーズヘッグが立ち上がり、後方を振り返ると、ボロボロの姿をしたアリシアが立っていた。
「やっぱり……、そうだったのね……」
アリシアが肩で息をしながら呟いた後、ニーズヘッグが咆哮し、腕を振り上げた。
アリシアが見えない爪の刃を警戒して構えた瞬間、ニーズヘッグの後方から叫び声が響く。
「七英雄の剣!!」
ドドンっ!!
アレンが七英雄の剣を発動させ、背中の突起物を削ぎ落としていく。
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグが悲鳴を上げ、アリシアへの攻撃が中断される。
アリシアは、すぐに、アレンの見える位置まで移動して、闘気の眼でニーズヘッグの観察を始めた。
アレンはニーズヘッグの背中に生える無数の突起物の中から斬りつけた際に、他の突起物とは違い、硬くて光る突起物を発見する。
すぐにその部位のみ七英雄の剣で、集中攻撃し始めると、斬りつける度にその突起物は、色を変化させていった。
青、赤、黄色、茶色、水色、緑、白、黒、そして、再び青、赤……と、変化させながら、ニーズヘッグは悲鳴を上げ続ける。
(やはり、攻撃の度に突起物の場所を移動させながら色を変えている! あの色が弱点属性を表しているんだわ!! つまり、攻撃する度に弱点属性を変え、反対にそれ以外の属性は、殆ど効かなくなってしまう!!
アレンのように極限まで高められた闘気技で、弱点部位を絶え間なく叩き続けるか、弱点属性を見極めて攻撃できなければ、先程のように手痛い反撃に遭うという事ね……!!
ニーズヘッグの残りの体力値……89971501! 89921400! 89870084! 89819884! 89767862! 89710741! ………………!!
凄い! アレン、イケるわ!!)
「上級治癒魔法!!
アレン! 残り時間、12分!! 頑張って!!」
アリシアがアレンに向けて叫んだ。
アリシアは、アレンの邪魔にならないように上空から補助魔法をアレンに向けて、かけ続ける。
アレンは、アリシアの声に応えるように、呼吸する暇もない程、猛攻を仕掛けた。
ニーズヘッグは、止まらぬ激痛で身動きが出来ず、更に3分程が経過し、ニーズヘッグの体力値が50000000を切った時、それは起きた。
「ガァアアアーーーー!!」
ニーズヘッグは弱点以外の突起物全てを、アレンに向けて放出した。
「ちぃ……!!」
アレンがニーズヘッグの背中から離れて、爆撃を回避する。
ドガガガガーーーーン!!
「すぐに、また弱点部位を見つけてやる!」
アレンが再びニーズヘッグに飛びかかろうとした時、ニーズヘッグの首がもう一つ生え、アレンの方を向いて口を開いた。
「なっ!!!?」
アレンが驚いて動きが止まる。
ニーズヘッグの背中にある突起物の一つが、白く光った瞬間、ニーズヘッグは、2つあるそれぞれの首をアリシアとアレンに向けて炎を放った。
ピュウウゥン……!!
ニーズヘッグの口から放たれたそれは、炎というより、巨大なレーザー砲で、地獄の炎を極限まで圧縮して放たれたレーザー砲は、一瞬にして、周囲の地形を変えてしまった。
辛うじてニーズヘッグのレーザー砲を躱したアリシアとアレンは、視界に入る地形の大部分が形を変え、ドス黒い爆煙を放ちながらメラメラ燃える状況を、驚愕の表情で眺めていた。
「あ、あれが直撃すれば……、私達でも一瞬で燃え尽くされてしまうぞ……!」
アレンが冷や汗を流しながら話した。
「目に見えない爪の刃と、羽を羽ばたかせて巻き起こす巨大竜巻、百を超える突起物爆弾と、一撃で身体中の骨を粉砕する尻尾の攻撃……、それに加えてあのレーザー砲を掻い潜って、弱点部位をつかなければならないの……!?
……残り8分! 普通に戦っていたら、間に合わない!!」
すぐにニーズヘッグの弱点部位の光は消え、高速に移動して分からなくなる。
同時に、アリシアとアレンに向けて嵐のような攻撃を再開し始めた。
アリシアには、見えない爪の刃と、羽を羽ばたかせた巨大竜巻を放ち、アレンには突起物爆弾と尻尾を振って2人を近づけさせない。
ニーズヘッグの攻撃に慣れた2人が、ある程度近づいても、ニーズヘッグは、口からレーザー砲を放って2人に弱点部位を攻撃させない。
アリシアとアレンはニーズヘッグの懐に近づく事すら出来なくなり、残り時間が5分を切ってしまった。
「くそ! レーザー砲を警戒する余り、最後のところまで近づけない!! どうすれば……!!」
アレンが歯を噛み締めた時、アリシアから思念の伝達が入る。
《アレン! 貴方だけにニーズヘッグの注意を引き付けられる!? それが出来れば、残り時間で、私が必ず奴を倒します!!》
《ふっ……。難しい注文だがやり遂げて見せよう! なんせ君の頼みだからね!》
アリシアが寵愛の加護の力を高めて応えた。
アリシアは、ニーズヘッグの視界から消える為に後方に下がり、天高く浮上した。
雲を突き抜け、ニーズヘッグの視界から消えたアリシアは、瞳を閉じて魔力を高め始める。
(今までのように、普通に弱点部位を禁呪魔法で攻めても、時間内にニーズヘッグを倒せない!
だから、禁呪魔法を圧縮して弱点部位にピンポイントに攻撃し続ければ、大ダメージを与えられる! 始めに広範囲に魔法を当てて弱点部位を見分け、その後に圧縮した禁呪魔法の連続攻撃でトドメを刺す!!
……禁呪魔法ほどの高密度の魔法をコントールして更に圧縮するのはこれが初めてだけど……、私ならやれる筈!!)
アリシアが視界から消えた事で、ニーズヘッグはアレンに向けて集中攻撃を開始し、アレンは、目に見えない爪の刃と、羽を羽ばたかせて巻き起こす巨大竜巻、百を超える突起物爆弾による嵐のような攻撃を受け始める。
アレンが必死でニーズヘッグの攻撃を躱しながら、思念の伝達を行う。
《アリシア、寵愛の秘跡を数秒だけ使いたい!》
《ルナマリアは、出来るだけ使うなと言っていたので、数秒だけなら問題ないでしょう! 使いなさい!!》
アリシアが魔力を高めながら応えた。
(……あとは、奴の1発目のレーザー砲を躱せば、私達の勝ちだ!)
アレンがニーズヘッグを睨むように見つめながら、寵愛の加護の力を高めた。
ニーズヘッグは自身の前方中央部に巨大な竜巻を発生させ、その周囲に見えない爪の刃を飛ばして、アレンを近づけさせないように攻撃を展開する。
アレンは先程、アリシアに回復してもらった体力値を計算に入れ、あえて前方の嵐の中に突っ込んだ。
闘気と寵愛の加護、七英雄の剣を防御力に全て割り振り、竜巻の中に突っ込んだアレンは、深いダメージを負いながらも、竜巻に弾き返される事なく、ニーズヘッグの目の前まで突破した。
ニーズヘッグは、驚いた表情を浮かべて、慌てて2つのうち、一つ目の口をアレンに向けて炎を溜め始める。
(ニーズヘッグも、まさか巨大竜巻を正面突破してくるとは予想出来ない! 私が目の前まで現れれば、間違いなく慌てて正面に真っ直ぐレーザー砲を放つ!)
ニーズヘッグは、アレンの予想通り、慌ててアレンに向けて真っ直ぐレーザー砲を放った。
アレンは近距離ながらも、これをギリギリで躱す。
(放たれるタイミングと、軌道が読めれば、この距離でもギリギリ躱せる! 私達の勝ちだ!!)
ニーズヘッグが2つ目の口を開け、一射目を躱して体勢を崩した状態のアレンに顔を近づけた。
「アリス・マナ・エリザベス!!」
ピュウウゥン……!!
アレンの叫び声と同時にニーズヘッグが二射目のレーザー砲を放ったが、寵愛の秘跡を発動したアレンが、2本の剣を交差させながら振り下ろし、これをかき消す。
一瞬でニーズヘッグのレーザー砲をかき消したアレンは、瞬時にニーズヘッグの後方に移動して寵愛の秘跡を解除し、叫んだ。
「終局剣!!!!」
アレンの全身と9本全ての剣が赤黒い異常な闘気に包まれる。次の瞬間、七英雄の剣が光のエネルギーに変わり、アレンの両手の剣とアレンの身体に吸収された後、究極の連続斬りが始まる。
赤黒い闘気を両手の剣に纏わせて、広範囲に背中の突起物を削ぎ落としていくアレン。
11連撃目で弱点部位を見つけたアレンは、残りの全勢力を込めて終局剣を放ち続ける。
「うぉおおおーーーー!!」
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグの悲鳴がアリシアの元まで響いた時、アリシアは魔力を高め終えて、瞳を開けた。
「残り1分……!!
アレン、待ってて! 今すぐ行くから!」
アリシアはそう呟くと、凄まじい速度で真っ直ぐ降下し始めた。
アレンは、終局剣の放ち終えると、全闘気を2本の剣に集めて逆手に持ち直して振り上げた。
「これで、どうだぁああーー!!」
アレンはニーズヘッグの弱点部位に2本の剣を突き刺した。
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグは悲鳴を上げた後、身体を揺すってアレンを背中から振り落とす。
すぐにアレンの姿を確認したニーズヘッグは、尻尾を振ってアレンを吹き飛ばした。
「ぐうっ……!!」
残された僅かな闘気で防御力を上げたアレンだったが、尻尾が直撃した左半身のほぼ全ての骨を砕かれる。
吹き飛ばされる最中、アレンは視界の端に、ニーズヘッグの弱点部位が白く光って消えながら移動した瞬間を捉えた。
ニーズヘッグが怒りの表情を浮かべたまま、アレンの方を振り返って腕を振り上げた瞬間、ニーズヘッグの頭上の雲が割れる。
高速で落下してきたアリシアが、呟いた。
「絶技……! 魔法大覚醒!!!!」
アリシアが高次元の魔力を纏った瞬間、アレンから思念の伝達が入る。
《白……!》
アリシアは、背中の突起物の一つにアレンの剣が刺さっている事に気づき、微笑んで呟いた。
「まさか、ここまでお膳立てしてくれるなんてね……! 流石だわ、アレン!!」
ニーズヘッグが振り上げた腕をアレンに向けて振り下ろそうとした瞬間、アリシアが叫んだ。
「光属性禁呪魔法!!」
本来、光のレーザー光線を広範囲に降り注ぐ禁呪魔法だが、アリシアは恐るべき魔力コントールで、これを一点に圧縮し、ニーズヘッグの弱点部位にピンポイントでぶつけた。
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグが悲鳴を上げると、弱点部位が一瞬、黒く変色して移動する。
しかし、アレンの剣が刺さったままの弱点部位をアリシアは見逃さず、高速で落下しながら次の魔法を放った。
「闇属性禁呪魔法!!」
二連続で圧縮した禁呪魔法を弱点部位に叩き込まれたニーズヘッグは、顔を歪ませて動きを止める。
「はぁあああーーーーーー!!」
アリシアが落下しながら、両手をニーズヘッグに向けて連続で圧縮した禁呪魔法を放つ。
「氷属性禁呪魔法!!」
「炎属性禁呪魔法!!」
「雷属性禁呪魔法!!
「土属性禁呪魔法!!」
「水属性禁呪魔法!!」
「風属性禁呪魔法!!」
「光属性禁呪魔法!!」
「闇属性禁呪魔法!!」
「………………!!」
「…………!!」
「……!!」
約10秒間で20発以上の禁呪魔法を放ったアリシアは、左手に残った最後の魔力を込め、ニーズヘッグの弱点部位に刺さったアレンの剣に向けて放った。
「これで最後よ! 雷属性禁呪魔法!!」
ズッガーーーーン!!
雷属性禁呪魔法がニーズヘッグの弱点部位に命中し、アリシアが地面に降り立つと同時に、ニーズヘッグは、前方にゆっくり倒れた。
ズズーーーーン!!
ニーズヘッグの身体の中から、巨大な黒いモヤが逃げるように空に向かって飛び去っていく。
同時に魔導部隊の兵士達から歓声が上がった。
ニーズヘッグより少し離れたところで、地面に倒れたまま動けなくなっていたアレンは、空を見上げて、ため息を吐いた。
「……やれやれ……、ギリギリだったな……」
すぐにアリシアが駆けつけ、アレンに声をかける。
「アレンっ!!」
近くまで来たアリシアの顔を見てアレンは尋ねる。
「……残りの体力値は……?」
アリシアは微笑みながら応える。
「残り23! ギリギリ死なないように計算して戦ったから大丈夫よ!」
アレンは少し固まった後、瞳を閉じて微笑みながら話した。
「いや……、そこは私の方を気にかけて欲しかったんだが……」
「えっ!? アレンの話でもあるんだけど……?」
アリシアがニッコリ不気味に微笑んで話した。
アレンはアリシアが言った言葉の意味を理解して、引きつった笑顔で尋ねる。
「……なんで、わざわざそんな事を……?」
「ワザとよ! 暫くの間、私の事、忘れちゃって、他の女に靡いた罰!!」
腰袋からパナケイアの秘薬を取り出し、微笑みながらウインクしたアリシアを見て、アレンは笑って応える。
「君も結構、根に持つタイプだな……」
アレンにパナケイアの秘薬を飲ませたアリシアは、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「女はみんな、そんなものよ! 特に好きな人からされた嫌な事は、一生、忘れないわ!」
アレンはため息を吐いて、応える。
「肝に銘じておくよ」
「大きい……!!」
「ルナマリア様から山のようなデカさと聞いていたが、予想の倍はデカいな……!」
下級風属性魔法でアリシアの横を浮いていたアレンが話した。
「ルナマリアの言っていた通り、我々が用意していた対空用魔導兵器は全て通用しなかったと連絡が入ったわ。
……分かっていた事とはいえ、あの魔導兵器が全て通用しなかったとは驚きね……」
「魔導兵器の中には超上級魔法の威力に匹敵するものもあった……。つまり、奴にダメージを与えるには禁呪魔法以上の魔法か、それに見合う技を繰り出すしかないという事になる。
ルナマリア様が言っていた第1条件="王都から山向こうのシュキ平原でダメージを与え、足止めし、絶対に王都圏内に入れない事"
第1条件だけでも中々ハードな問題だな」
「あれだけの巨大が王都に降り立つだけでも、壊滅的な被害が出るのは確実ね。
難しい問題でもやらねばならない……」
アリシアが、目に闘気を集めて迫りくる巨大な影を見つめた。
「なっ!!!?
…………アレン、ルナマリアが思念の伝達で送ってきた全ての条件は覚えている?」
アリシアがアレンを見つめて尋ねた。
「ああ……、勿論。
第1条件=王都から山向こうのシュキ平原でダメージを与え、足止めし、絶対に王都圏内に入れない事。
第2条件=開戦から30分後に撃破。時間の前後のズレは、1分以内とする事。
第3条件=完全に殺す事はせず、生け捕りとする事。
第4条件=アリシアと私、2人の絶技使用は認めるが、寵愛の秘跡は出来るだけ使用せず、創造の力は絶対に使用しない事。
追加情報として、奴の背中に無数に生えている突起物の内、一つが弱点! しかし突起物の配置は常に移動していて見抜くには、奴の最大火力である口からの炎を出す瞬間に、弱点である突起物が光る為、それを見逃さない事が重要となる。
……急に再確認して、どうしたんだ? アリシアが覚えられなかった訳じゃないだろ?」
アレンが不思議そうに尋ねた。
「……アレン、確か貴方の体力値は8500だったわよね?」
「あ、ああ……、そうだ。
私が仲間の中で1番体力値が高い。それがどうした……?」
アレンが更に不思議そうに尋ねた。
「それじゃあ、今まで戦ってきた敵の中で最も体力値が高かった相手を覚えてる?」
「8大災厄のベルヴェルク! 奴の体力値は桁外れの50000だった!」
「……記録を大幅に更新ね……」
「ど、どう言う事だ!?」
「これから私たちがシュキ平原で足止めし、開戦から30分後での撃破、生け捕りし、寵愛の秘跡は極力使わず、創造の力は使用せずに対応しなければならない相手……、黒神竜ニーズヘッグの体力値は、120000000よ!!」
「いっ、一億2千万……!!?」
アレンが驚きながら叫んだ。
「……全く、無理難題を押しつけてきたわね、ルナマリア……」
アリシアが歯を噛み締めて呟いた。
「……それだけ私達が信用されていると思うしかないな……。
ここで愚痴っていても何も変わらない。そろそろ奴の所へ向かおう、アリシア!」
「ええ……、そうね、アレン」
2人は下級風属性魔法を操り、ニーズヘッグの方へ凄まじい速度で飛び去った。
王都から遠く離れた2つ目の山向こうの中腹では、魔導兵器を撃ち終えた先遣隊の兵士達が、目の前をゆっくり通り過ぎる巨大な影を見上げていた。
「ど……、どうやって、こんなのと戦えって言うんだ!?」
驚愕の表情を浮かべた兵士の1人が呟いた。
隣に立っていた部隊長が口を開く。
「我が国最強の魔導兵器で擦り傷一つ付かないとは……!」
(アリシア様……、アレン様……。お役に立てず、申し訳ありません……。
私達は、この化け物の進行を止める事が出来ませんでした……)
「全部隊に伝えろ! 撤退だ!!
奴をこれ以上、無闇に刺激して反撃を受ければ死人が出る!! アリシア様から、それだけは絶対に避けろとの御命令だ! 全員、生きてこの場を離れるんだ!!」
部隊長が叫んだ瞬間、ニーズヘッグに異変が起きる。
「ギャオオーーーー!!」
ニーズヘッグは、地面が揺れる程の雄叫びを周囲に響かせ、兵士達が耳を塞ぐ。
「なっ、なんだ!?」
部隊長が驚いた表情でニーズヘッグを見上げて話した。
次の瞬間、ニーズヘッグが凄まじい速度で先遣隊に向けて羽を羽ばたかせると、ニーズヘッグと先遣隊の間に巨大な竜巻が発生し、徐々に先遣隊に向けて動き出した。
ゴォオオ……!!
兵士達は絶望の表情を浮かべてその場から動けなくなった。
「終わった……」
兵士の1人が呟いた呟いた瞬間、ニーズヘッグが発生させた巨大な竜巻に向けて、巨大な雷が落ちる。
「雷属性禁呪魔法!!」
山向こうから高速で移動してきたアリシアが、雷属性禁呪魔法の爆風で、竜巻をかき消す。
「「アリシア様!!」」
兵士達が歓喜の表情を浮かべて叫んだ。
アリシアが魔法で撤退命令用の信号弾を打ち上げると、兵士達は敬礼した後、即座にその場を離れ始めた。
アリシアの存在に気づいたニーズヘッグは、腕を振り上げてアリシアに向けて振り下ろした。
「天雷剣!!」
雷を剣に纏い、友愛の加護を発動させたアレンが、太陽の中から現れ、ニーズヘッグの頭に剣を突き刺した。
「ォオオーーン……!!」
鈍い声を上げたニーズヘッグは、振り降りしたアリシアへの攻撃が逸れてしまう。
「ギャオオーーン!!」
ニーズヘッグは、再び地響きのような唸り声をあげると、背中の無数の突起物をアレンの周囲に飛ばした。
「なっ!!?」
アレンが驚いた瞬間、アレンを囲んでいた突起物が大爆発を起こす。
ドガガガガーーーーン!!
「アレンっ!!」
アリシアが慌てたように叫ぶ。
爆炎の中から、剣で顔を覆い、傷ついたアレンが上空に逃れる。
すぐにニーズヘッグが、アレンに向けて尻尾を振る。
「アレン、危ない!!」
アリシアが叫んだ瞬間、アレンが寵愛の加護を発動させて、剣でニーズヘッグの尻尾を受け止めた。
アレンはすぐに尻尾を押し返し、高速で移動して、ニーズヘッグの身体中を斬りつける。
「ォオオーーン!!」
ニーズヘッグが再び鈍い声を上げ、アレンとアリシアを睨んで移動を止めた。
「……どうやら、ようやく敵として認識してくれたみたいだぞ」
アレンが真剣な表情で話した。
「ええ……、ここからが本番ね……」
アリシアが頷いて応えた。
「とりあえず、第1条件はクリアだが……、ニーズヘッグの体力は今さっきので、どれだけ削れたかな?」
アレンがアリシアに尋ねる。
アリシアが闘気を目に溜めてニーズヘッグを見つめて呟いた。
「……現在の体力値119999943……!!
アレンの今さっきの猛攻で削れたダメージは、たったの57……!!
体力値だけでなく、防御力も異常に高いわ!!」
「……やはり、弱点を狙うしかないな……」
アレンが冷や汗を流して呟いた。
「ええ! その為には、もっとニーズヘッグの体力を削って、本気にさせなければならない! 弱点を晒してまで口からの炎の攻撃を行う時は、命の危険を感じて奴が本気になった時だけ! 残り時間は……、あと25分以内……!!
「いっそ、寵愛の秘跡で弱点をつければ問題無いのだがな……」
「奴を生け捕りにする理由は分かりませんが、寵愛の秘跡は、今のアレンでも10分くらいが使用限界でしょう? ルナマリアは少しでも寵愛の秘跡をメーデイアとの決戦に温存しておきたいのでしょうね」
アリシアがアレンに向かって話し終えると、ニーズヘッグが遠く離れたアリシアに向かって左腕を振り下ろしたが、空を切る。
「……?」
アリシアが身構えたが、何も起こらない。
ヒュウウ……!!
アリシアよりニーズヘッグに近い位置にいたアレンは微かな風切り音を聞き、慌てて叫んだ。
「アリシア! 横に躱せ!!」
アレンの叫びを聞いて、慌てて下級風属性魔法を操り、横に移動するアリシア。
その瞬間、アリシアの横を凄まじい風切り音が鳴り、斜め上後方の雲に巨大な爪痕がくっきり残った。
「「!!!?」」
アリシアとアレンが同時に驚く。
「アリシア、無事か!?」
アレンが慌てて叫びながらアリシアに近づく。
「え、ええ……、無事よ……」
(……アレンの掛け声がなければ、身体が2つに割れていた……。
それ程、凶悪なまでに圧縮された巨大な闘気を、一瞬で放ったというの……!?)
「……目に見えない闘気……! 厄介だな……」
アレンがアリシアの側に来て話した。
「物理防御魔法は……?」
アリシアがアレンに尋ねる。
「……恐らくフィオナ様級の補助魔法能力がなければ、深傷を負ってしまうから躱すしかない……。
真っ二つになるよりはマシだから、一応、お願い出来るか?」
アリシアが頷いて、アレンの背中に向けて両手を向けて話した。
「物理防御魔法!!」
すぐに自分の胸に左手を当てて、物理防御魔法を唱える。
「来るぞ!!」
アレンが叫んだ瞬間、ニーズヘッグが両手を交互に素早く振る。放たれた見えない爪の刃が2人を襲う。
アレンとアリシアは、ニーズヘッグの両脇に逃れるように躱していく。
ニーズヘッグは、アレンの方を向いて、見えない爪の刃を放ち続ける。
「背中がガラ空きよ!!」
アリシアがニーズヘッグの背中に向けて、土属性禁呪魔法を命中させると、ニーズヘッグは再び鈍い声を上げる。
「ォオオーーン!!」
「畳み掛ける!!
アリシアが炎属性禁呪魔法の詠唱を始めた瞬間、ニーズヘッグが長くて巨大な尻尾をアリシア目掛けて振った。
「っ!!!?」
慌てたアリシアが上空へ逃れる。
ニーズヘッグは、前方のアレンに対して、見えない爪の刃の連続攻撃を続け、後方のアリシアに対しては、恐ろしく早い速度で尻尾を振り続ける。
2人はギリギリでニーズヘッグの攻撃を躱し続けていたが、攻撃に転じる事が出来ない。
状況を打開すべく、アリシアはニーズヘッグから距離を取るように尻尾の攻撃を躱した。
尻尾の届かない位置まで逃れたアリシアは、間髪入れずに禁呪魔法を放つ。
「炎属性禁呪魔法!!」
ドガーーーーン!!
炎属性禁呪魔法はニーズヘッグに命中するが、手応えがまるで無い。
(炎属性には完全耐性があるようね……。という事は……!)
アリシアがニヤリと笑って叫んだ。
「氷属性禁呪魔法!!」
ニーズヘッグの尻尾全体を覆うかというほど巨大な氷の塊が一瞬で出現し、ニーズヘッグにダメージを与える。
「ギャオオーーーーン!!」
悲鳴に似た声をニーズヘッグが上げる。
「予想通り!! かなり効いたわ!!
ニーズヘッグの弱点属性は、氷!! 恐らく今の攻撃で、背中と尻尾に無数に付いている突起物の弱点にヒットした!!」
アリシアが微笑みながら闘気の眼でニーズヘッグを見つめる。
(残りの体力値……119971562!! 弱点属性攻撃で、背中全体を覆いながら攻撃する事が出来れば、わざわざ突起物を光らせて見抜く必要もない!! 残り時間でイケるわ!!)
アリシアが勝利を確信した瞬間、ニーズヘッグが背中の突起物をアリシアの周囲に向けて放った。
「なっ!? この距離まで飛ばせるの!?」
アリシアが慌てて順次、爆発していく突起物を躱していく。
アリシアが躱しても、躱しても、ニーズヘッグの背中の突起物は、すぐに生え変わって、アリシアに向けて放たれた。
「くっ!? これじゃ、詠唱する暇が……!!」
「ォオオーーン!!」
ニーズヘッグの鈍い声を聞いたアリシアが、突起物の爆発を避けながらニーズヘッグの前方を見ると、アレンが見えない爪の刃を掻い潜って、ニーズヘッグの身体中を斬りつけた事が分かった。
アレンの攻撃により、突起物を放出する勢いが弱まる。その隙に、アリシアが爆発を避けながら叫んだ。
「氷属性禁呪魔法!!」
今度は先程より、広範囲に背中を覆うように魔法を放ったが、ニーズヘッグは悲鳴を上げずに、何事もなかったかのようにアレンとアリシアに向けて攻撃を続ける。
「えっ!? 効いてない……!?」
驚いてアリシアが闘気の眼でニーズヘッグを見つめる。
(残り体力値……119971501!! ダメージ数61!? アレンの先程の攻撃分しか減ってない!!? さっきはあれだけ体力値を削れたのに、何故!?)
アリシアは動揺のあまり、一瞬、動きを止めてしまう。
《アリシアっ!! 後ろだ!!》
ニーズヘッグの攻撃を躱しながら、アリシアの事を気にかけていたアレンが慌てて思念を送った。
ズガガガガーーーーン!!
「きゃああ!!」
アリシアは後方から迫って来ていた突起物の爆発を躱す事が出来ずに悲鳴を上げる。
「アリシアっ!!」
アレンが叫び声を上げたと同時に、ニーズヘッグが突起物をアリシアに向けて大量に飛ばした。
ズォオオ…………!!
アリシアを中心に大爆発が起きる。
「アリシアーーーー!!」
慌ててアレンが、アリシアの元に駆けつけようとした瞬間、ニーズヘッグが見えない爪の刃以外に、羽も羽ばたかせて、巨大な竜巻を起こしてアレンの逃げ場を無くす。
「なっ!!!?」
アレンは巨大な竜巻に呑まれた後、見えない爪の刃の追撃に遭い、後方に吹き飛んだ。
「ぐはっああ……!!」
戦場から離れた山の頂上の避難地から、ニーズヘッグとアリシア達の戦いを見ていた部隊長は、ニーズヘッグの前後の地面に、深く傷つき動かなくなったアリシアとアレンを見つけて口を開いた。
「そ、そんな……、馬鹿な……!!
アリシア様と、アレン様が敗れるなんて……」
アリシアとアレンが動かなくなった事を確認したニーズヘッグは、雄叫びを上げて、王都サンペクルトに向け、ゆっくり動き始めた。
次の瞬間、ニーズヘッグの背中に巨大な雷が落ちる。
ズッガーーーーーーン!!
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグが悲鳴を上げ、地上に落ちる。
暫くして、ニーズヘッグが立ち上がり、後方を振り返ると、ボロボロの姿をしたアリシアが立っていた。
「やっぱり……、そうだったのね……」
アリシアが肩で息をしながら呟いた後、ニーズヘッグが咆哮し、腕を振り上げた。
アリシアが見えない爪の刃を警戒して構えた瞬間、ニーズヘッグの後方から叫び声が響く。
「七英雄の剣!!」
ドドンっ!!
アレンが七英雄の剣を発動させ、背中の突起物を削ぎ落としていく。
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグが悲鳴を上げ、アリシアへの攻撃が中断される。
アリシアは、すぐに、アレンの見える位置まで移動して、闘気の眼でニーズヘッグの観察を始めた。
アレンはニーズヘッグの背中に生える無数の突起物の中から斬りつけた際に、他の突起物とは違い、硬くて光る突起物を発見する。
すぐにその部位のみ七英雄の剣で、集中攻撃し始めると、斬りつける度にその突起物は、色を変化させていった。
青、赤、黄色、茶色、水色、緑、白、黒、そして、再び青、赤……と、変化させながら、ニーズヘッグは悲鳴を上げ続ける。
(やはり、攻撃の度に突起物の場所を移動させながら色を変えている! あの色が弱点属性を表しているんだわ!! つまり、攻撃する度に弱点属性を変え、反対にそれ以外の属性は、殆ど効かなくなってしまう!!
アレンのように極限まで高められた闘気技で、弱点部位を絶え間なく叩き続けるか、弱点属性を見極めて攻撃できなければ、先程のように手痛い反撃に遭うという事ね……!!
ニーズヘッグの残りの体力値……89971501! 89921400! 89870084! 89819884! 89767862! 89710741! ………………!!
凄い! アレン、イケるわ!!)
「上級治癒魔法!!
アレン! 残り時間、12分!! 頑張って!!」
アリシアがアレンに向けて叫んだ。
アリシアは、アレンの邪魔にならないように上空から補助魔法をアレンに向けて、かけ続ける。
アレンは、アリシアの声に応えるように、呼吸する暇もない程、猛攻を仕掛けた。
ニーズヘッグは、止まらぬ激痛で身動きが出来ず、更に3分程が経過し、ニーズヘッグの体力値が50000000を切った時、それは起きた。
「ガァアアアーーーー!!」
ニーズヘッグは弱点以外の突起物全てを、アレンに向けて放出した。
「ちぃ……!!」
アレンがニーズヘッグの背中から離れて、爆撃を回避する。
ドガガガガーーーーン!!
「すぐに、また弱点部位を見つけてやる!」
アレンが再びニーズヘッグに飛びかかろうとした時、ニーズヘッグの首がもう一つ生え、アレンの方を向いて口を開いた。
「なっ!!!?」
アレンが驚いて動きが止まる。
ニーズヘッグの背中にある突起物の一つが、白く光った瞬間、ニーズヘッグは、2つあるそれぞれの首をアリシアとアレンに向けて炎を放った。
ピュウウゥン……!!
ニーズヘッグの口から放たれたそれは、炎というより、巨大なレーザー砲で、地獄の炎を極限まで圧縮して放たれたレーザー砲は、一瞬にして、周囲の地形を変えてしまった。
辛うじてニーズヘッグのレーザー砲を躱したアリシアとアレンは、視界に入る地形の大部分が形を変え、ドス黒い爆煙を放ちながらメラメラ燃える状況を、驚愕の表情で眺めていた。
「あ、あれが直撃すれば……、私達でも一瞬で燃え尽くされてしまうぞ……!」
アレンが冷や汗を流しながら話した。
「目に見えない爪の刃と、羽を羽ばたかせて巻き起こす巨大竜巻、百を超える突起物爆弾と、一撃で身体中の骨を粉砕する尻尾の攻撃……、それに加えてあのレーザー砲を掻い潜って、弱点部位をつかなければならないの……!?
……残り8分! 普通に戦っていたら、間に合わない!!」
すぐにニーズヘッグの弱点部位の光は消え、高速に移動して分からなくなる。
同時に、アリシアとアレンに向けて嵐のような攻撃を再開し始めた。
アリシアには、見えない爪の刃と、羽を羽ばたかせた巨大竜巻を放ち、アレンには突起物爆弾と尻尾を振って2人を近づけさせない。
ニーズヘッグの攻撃に慣れた2人が、ある程度近づいても、ニーズヘッグは、口からレーザー砲を放って2人に弱点部位を攻撃させない。
アリシアとアレンはニーズヘッグの懐に近づく事すら出来なくなり、残り時間が5分を切ってしまった。
「くそ! レーザー砲を警戒する余り、最後のところまで近づけない!! どうすれば……!!」
アレンが歯を噛み締めた時、アリシアから思念の伝達が入る。
《アレン! 貴方だけにニーズヘッグの注意を引き付けられる!? それが出来れば、残り時間で、私が必ず奴を倒します!!》
《ふっ……。難しい注文だがやり遂げて見せよう! なんせ君の頼みだからね!》
アリシアが寵愛の加護の力を高めて応えた。
アリシアは、ニーズヘッグの視界から消える為に後方に下がり、天高く浮上した。
雲を突き抜け、ニーズヘッグの視界から消えたアリシアは、瞳を閉じて魔力を高め始める。
(今までのように、普通に弱点部位を禁呪魔法で攻めても、時間内にニーズヘッグを倒せない!
だから、禁呪魔法を圧縮して弱点部位にピンポイントに攻撃し続ければ、大ダメージを与えられる! 始めに広範囲に魔法を当てて弱点部位を見分け、その後に圧縮した禁呪魔法の連続攻撃でトドメを刺す!!
……禁呪魔法ほどの高密度の魔法をコントールして更に圧縮するのはこれが初めてだけど……、私ならやれる筈!!)
アリシアが視界から消えた事で、ニーズヘッグはアレンに向けて集中攻撃を開始し、アレンは、目に見えない爪の刃と、羽を羽ばたかせて巻き起こす巨大竜巻、百を超える突起物爆弾による嵐のような攻撃を受け始める。
アレンが必死でニーズヘッグの攻撃を躱しながら、思念の伝達を行う。
《アリシア、寵愛の秘跡を数秒だけ使いたい!》
《ルナマリアは、出来るだけ使うなと言っていたので、数秒だけなら問題ないでしょう! 使いなさい!!》
アリシアが魔力を高めながら応えた。
(……あとは、奴の1発目のレーザー砲を躱せば、私達の勝ちだ!)
アレンがニーズヘッグを睨むように見つめながら、寵愛の加護の力を高めた。
ニーズヘッグは自身の前方中央部に巨大な竜巻を発生させ、その周囲に見えない爪の刃を飛ばして、アレンを近づけさせないように攻撃を展開する。
アレンは先程、アリシアに回復してもらった体力値を計算に入れ、あえて前方の嵐の中に突っ込んだ。
闘気と寵愛の加護、七英雄の剣を防御力に全て割り振り、竜巻の中に突っ込んだアレンは、深いダメージを負いながらも、竜巻に弾き返される事なく、ニーズヘッグの目の前まで突破した。
ニーズヘッグは、驚いた表情を浮かべて、慌てて2つのうち、一つ目の口をアレンに向けて炎を溜め始める。
(ニーズヘッグも、まさか巨大竜巻を正面突破してくるとは予想出来ない! 私が目の前まで現れれば、間違いなく慌てて正面に真っ直ぐレーザー砲を放つ!)
ニーズヘッグは、アレンの予想通り、慌ててアレンに向けて真っ直ぐレーザー砲を放った。
アレンは近距離ながらも、これをギリギリで躱す。
(放たれるタイミングと、軌道が読めれば、この距離でもギリギリ躱せる! 私達の勝ちだ!!)
ニーズヘッグが2つ目の口を開け、一射目を躱して体勢を崩した状態のアレンに顔を近づけた。
「アリス・マナ・エリザベス!!」
ピュウウゥン……!!
アレンの叫び声と同時にニーズヘッグが二射目のレーザー砲を放ったが、寵愛の秘跡を発動したアレンが、2本の剣を交差させながら振り下ろし、これをかき消す。
一瞬でニーズヘッグのレーザー砲をかき消したアレンは、瞬時にニーズヘッグの後方に移動して寵愛の秘跡を解除し、叫んだ。
「終局剣!!!!」
アレンの全身と9本全ての剣が赤黒い異常な闘気に包まれる。次の瞬間、七英雄の剣が光のエネルギーに変わり、アレンの両手の剣とアレンの身体に吸収された後、究極の連続斬りが始まる。
赤黒い闘気を両手の剣に纏わせて、広範囲に背中の突起物を削ぎ落としていくアレン。
11連撃目で弱点部位を見つけたアレンは、残りの全勢力を込めて終局剣を放ち続ける。
「うぉおおおーーーー!!」
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグの悲鳴がアリシアの元まで響いた時、アリシアは魔力を高め終えて、瞳を開けた。
「残り1分……!!
アレン、待ってて! 今すぐ行くから!」
アリシアはそう呟くと、凄まじい速度で真っ直ぐ降下し始めた。
アレンは、終局剣の放ち終えると、全闘気を2本の剣に集めて逆手に持ち直して振り上げた。
「これで、どうだぁああーー!!」
アレンはニーズヘッグの弱点部位に2本の剣を突き刺した。
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグは悲鳴を上げた後、身体を揺すってアレンを背中から振り落とす。
すぐにアレンの姿を確認したニーズヘッグは、尻尾を振ってアレンを吹き飛ばした。
「ぐうっ……!!」
残された僅かな闘気で防御力を上げたアレンだったが、尻尾が直撃した左半身のほぼ全ての骨を砕かれる。
吹き飛ばされる最中、アレンは視界の端に、ニーズヘッグの弱点部位が白く光って消えながら移動した瞬間を捉えた。
ニーズヘッグが怒りの表情を浮かべたまま、アレンの方を振り返って腕を振り上げた瞬間、ニーズヘッグの頭上の雲が割れる。
高速で落下してきたアリシアが、呟いた。
「絶技……! 魔法大覚醒!!!!」
アリシアが高次元の魔力を纏った瞬間、アレンから思念の伝達が入る。
《白……!》
アリシアは、背中の突起物の一つにアレンの剣が刺さっている事に気づき、微笑んで呟いた。
「まさか、ここまでお膳立てしてくれるなんてね……! 流石だわ、アレン!!」
ニーズヘッグが振り上げた腕をアレンに向けて振り下ろそうとした瞬間、アリシアが叫んだ。
「光属性禁呪魔法!!」
本来、光のレーザー光線を広範囲に降り注ぐ禁呪魔法だが、アリシアは恐るべき魔力コントールで、これを一点に圧縮し、ニーズヘッグの弱点部位にピンポイントでぶつけた。
「ギャオオーーーーン!!」
ニーズヘッグが悲鳴を上げると、弱点部位が一瞬、黒く変色して移動する。
しかし、アレンの剣が刺さったままの弱点部位をアリシアは見逃さず、高速で落下しながら次の魔法を放った。
「闇属性禁呪魔法!!」
二連続で圧縮した禁呪魔法を弱点部位に叩き込まれたニーズヘッグは、顔を歪ませて動きを止める。
「はぁあああーーーーーー!!」
アリシアが落下しながら、両手をニーズヘッグに向けて連続で圧縮した禁呪魔法を放つ。
「氷属性禁呪魔法!!」
「炎属性禁呪魔法!!」
「雷属性禁呪魔法!!
「土属性禁呪魔法!!」
「水属性禁呪魔法!!」
「風属性禁呪魔法!!」
「光属性禁呪魔法!!」
「闇属性禁呪魔法!!」
「………………!!」
「…………!!」
「……!!」
約10秒間で20発以上の禁呪魔法を放ったアリシアは、左手に残った最後の魔力を込め、ニーズヘッグの弱点部位に刺さったアレンの剣に向けて放った。
「これで最後よ! 雷属性禁呪魔法!!」
ズッガーーーーン!!
雷属性禁呪魔法がニーズヘッグの弱点部位に命中し、アリシアが地面に降り立つと同時に、ニーズヘッグは、前方にゆっくり倒れた。
ズズーーーーン!!
ニーズヘッグの身体の中から、巨大な黒いモヤが逃げるように空に向かって飛び去っていく。
同時に魔導部隊の兵士達から歓声が上がった。
ニーズヘッグより少し離れたところで、地面に倒れたまま動けなくなっていたアレンは、空を見上げて、ため息を吐いた。
「……やれやれ……、ギリギリだったな……」
すぐにアリシアが駆けつけ、アレンに声をかける。
「アレンっ!!」
近くまで来たアリシアの顔を見てアレンは尋ねる。
「……残りの体力値は……?」
アリシアは微笑みながら応える。
「残り23! ギリギリ死なないように計算して戦ったから大丈夫よ!」
アレンは少し固まった後、瞳を閉じて微笑みながら話した。
「いや……、そこは私の方を気にかけて欲しかったんだが……」
「えっ!? アレンの話でもあるんだけど……?」
アリシアがニッコリ不気味に微笑んで話した。
アレンはアリシアが言った言葉の意味を理解して、引きつった笑顔で尋ねる。
「……なんで、わざわざそんな事を……?」
「ワザとよ! 暫くの間、私の事、忘れちゃって、他の女に靡いた罰!!」
腰袋からパナケイアの秘薬を取り出し、微笑みながらウインクしたアリシアを見て、アレンは笑って応える。
「君も結構、根に持つタイプだな……」
アレンにパナケイアの秘薬を飲ませたアリシアは、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「女はみんな、そんなものよ! 特に好きな人からされた嫌な事は、一生、忘れないわ!」
アレンはため息を吐いて、応える。
「肝に銘じておくよ」
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