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第9章
伝説の剣を求めて
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ナスターシャにより語られたメーデイアの過去を知り、真に倒すべき敵を認識したユウキ達は、メーデイアを説得し、暗黒神エレイオスを封印する決意を固めた。
暫くした頃、アンジェラが口を開く。
「ところで、ナスターシャ。さっき、ユウキの事をノエルと呼んでいなかった?」
「あ、はい。実は私は幼い頃、私が扱える力の中で最も強い力である、"世界の人の心とリンクする力"と、"他人の生命力を奪う力"を制御出来ていなかったんです。
その力のせいで世界の負の感情を取り込んでしまい、自分だけでなくルナマリアにも迷惑をかけていました。
死ぬよりも辛い時期を過ごしていた時に、私とルナマリアの事を分かってくれて、話し相手になってくれたのがノエルという男の人でした」
ナスターシャが応える。
「その人がユウキお兄ちゃんに似てたんだよね?」
フィオナが尋ねる。
「うん。私とルナマリアと会う時以外、いつもフードを被って顔を隠していたけど、その顔は本当にそっくりで……。私はさっきまでユウキがノエル本人じゃないのかって思ってたんですけど、よく思い出したら髪型と声が違いますね……。私の勘違いだったみたいです」
ナスターシャがユウキの顔を見つめる。
それを聞いたアンジェラは冷や汗を流しながら口を開く。
「ナスターシャ。少し、その時の記憶を覗いてもいいかしら?」
「あ、はい。記憶を読み解くスキルをアンジェラ様も持っているのですね」
ナスターシャが頷いてアンジェラに近づくと、アンジェラがナスターシャの額に手を当てた。
「俺にも見せてくれ!」
ユウキがアンジェラの背中に手を置いて、話しかけた。
アンジェラがナスターシャの記憶を辿り、ユウキとアンジェラがノエルの顔と声を確認する。
「!!!!?」
アンジェラがナスターシャから離れて驚愕の表情を浮かべて叫んだ。
「ヒューゴ!!」
「「!!!?」」
アンジェラ以外の全員が驚く。
「ど、どういう事ですか、アンジェラ様!?」
リリスが驚いた表情で尋ねる。
「ルナマリアとナスターシャを助けたノエルという人物は、若い頃のヒューゴの顔と声にそっくりなのです! いえ、あれは紛れもなくヒューゴの声でした。
確かに今のユウキは父親であるヒューゴにそっくりなので、ナスターシャが間違えても仕方がありません」
アンジェラが驚いた表情で応えた。
「でもヒューゴ様はメーデイアの襲撃で亡くなった筈では……?」
フィオナがアンジェラを見つめて尋ねる。
「その通りです。
我が夫ヒューゴは間違いなく私の腕の中で最期の時を迎えました。
それに、ヒューゴは普通の人間。ルナマリアやナスターシャが幼い頃の時代に存在する事自体が有り得ません!」
アンジェラが冷や汗を流しながら応えた。
「それじゃあ、ヒューゴ様の顔と声を知る誰かが、ノエルという名を使っていると言う事でしょうか?」
リリスがアンジェラに尋ねる。
「その可能性が高いのですね。
それに、私にはもう一つ引っかかる点があります」
アンジェラが下を向いて応えた。
「引っかかる点?」
ユウキがアンジェラに尋ねる。
「……ノエルという名は、私とヒューゴが貴方につけた本当の名前なのよ。
ユウキ、貴方の本当の名前はノエル・アストラルド……、最初に星が生まれた時から存在する始まりの神様、アストラル神より頂いた名前なの」
アンジェラがユウキを見つめて応えると、アンジェラ以外の全員が驚く。
「「!!!?」」
「貴方の本当の名前を知る者は、私とヒューゴ、メーデイアとユーリ、そして光の神レナしか知らない筈なのですが……。
そのノエルと名乗った男がなぜ、ユウキの本当の名前を知っていて、ヒューゴの顔と声を利用しているのか、本人を探し出して直接尋ねる他、確かめる術がありません」
アンジェラが瞳を瞑って話した。
「アンジェラ様、ヒューゴ様は不思議な力を増長させるような特殊スキルの持ち主でしたか?」
ナスターシャがアンジェラに尋ねる。
「いいえ、私が知る限りそんな能力は持っていなかった筈だけど……。
なぜ、そんな事を聞くの?」
アンジェラが不思議そうにナスターシャに尋ねる。
「実は私とルナマリアが私の能力で苦しんでいた際、ルナマリアが幼い頃に死にかけた時に突如異空間から出現したエレノアの花が私とルナマリアを苦しめていた私の能力を抑え込んでくれていたのです。
更に驚いた事に、ノエルはエレノアの花の能力を増長させ、私とルナマリアの苦しみを殆ど無くしてくれました」
ナスターシャがアンジェラに応えた。
「エレノアの花の能力を増長させた……!? ……そんな事が出来るのは光の神レナか、その花を最初にルナマリアに送った本人だけです」
アンジェラがナスターシャを見つめて応えた。
「……という事は私の魂がルナマリアの身体に憑依した時にエレノアの花を与えた人物がノエルである可能性が高いですね……」
ナスターシャが冷や汗を流しながら話した。
「ナスターシャがルナの身体に憑依した時……?」
ユウキが不思議そうに尋ねる。
「あ、そうか。ルナマリア以外は、みんな、まだ知らなかったですね。
実はルナマリアが幼い頃に原因不明の高熱に襲われたのは私のせいなんです。
……お母様が下界に放った私の魂は、無意識に私の魂と1番合う人間を探して憑依するようになっていました。そうしなければ私のように特別な力を秘めた魂を憑依された人間が耐えられないからです。
そしてルナマリアが私の魂の器として選ばれ、私の魂がルナマリアの身体に憑依した際、ルナマリアの身体に高熱として拒否反応が発生したとういう訳です。
……ルナマリアには既に謝ったんですけど、全然気にしてないって言われてしまいました」
ナスターシャが困った表情で応えた。
「その高熱が発生した時に出現したエレノアの花が無ければ、ルナもナスターシャも危なかった。……そしてその花の送り主がノエルである可能性が高いって事か!」
ユウキがナスターシャに尋ねるとナスターシャが頷いて応える。
「アンジェラ様の話を纏めるとそうなるわね。
……うーん、やっぱりユウキはノエルじゃなかったんだ……」
「恩人じゃなくてがっかりしたか?」
ユウキが微笑んで尋ねる。
「うーうん。ノエルと同じくらいユウキの事は好きよ。だから残念なんて事はないわ。
ただ、これからはユウキって呼びたいんだけどいいかしら?」
ナスターシャがユウキから目を背けて恥ずかしそうに尋ねる。
ユウキは微笑んでナスターシャに応える。
「ナスターシャが呼びやすいように呼んでくれたらなんでもいいよ」
「分かった! それじゃあ、これからはユウキって呼ぶから宜しくね!」
ナスターシャが微笑んで話すと、ユウキも微笑んで応える。
「ああ、宜しくな、ナスターシャ!」
それを聞いたナスターシャは満足そうな表情で口を開く。
「私は殆ど話したい事を話し終えたから、そろそろルナマリアと変わるね!」
ユウキ達が頷くと、ナスターシャは一度目を閉じてルナマリアと人格交代をしようとしたが、もう一度、瞳を開けて口を開いた。
「あ、そうそう言い忘れてた!
私とルナマリアが互いの心の壁を壊した事で、不安定だった私自身の特殊スキルもレベルアップして完璧にコントール出来るようになったの!
その一つが世界の人々と心をリンクして思念を飛ばし合う事が出来る。私がリンクを繋いだ人は際限なくその人もその思念の伝達が出来るのよ。巫女とその加護の力を受けている者通しで可能な思念の伝達の強化版みたいな感じね。
ユウキ達が使ってる思念の伝達との違いは、誰でも人数制限なく、私がリンクを繋いだ相手なら思念の伝達が可能な事!
これは私とルナマリアを幼い頃に苦しめていた能力だけど、コントール出来る様になったから、かなり使える能力だと思うわ。
もう一つが、えっと……ユウキに口付けした時のものだけど、一つ目の能力で私がリンクを繋いだ相手からなら誰でも生命エネルギーを分けて貰って、私か誰かの力に変換する事が出来る能力! 勿論、これからは生命エネルギーを貰う相手に許可を取ってから分けて貰うけどね。
これらの能力が必要な時は私を呼んでね!」
ナスターシャは皆にそう伝えると、再び瞳を閉じて動かなくなった。
ナスターシャの髪が赤く染まり、人格をアンナと交代して、アンナが赤い瞳を開けて口を開いた。
「ふぅ……。私も心の中でみんなの話し聞いてたけど、なんか凄い事になってるわね……。
これからどうしようか?」
皆が暫く下を向いて黙った後、アンジェラが口を開く。
「とりあえず、今は作戦成功を祝って目の前のご馳走を楽しみましょう!
各自、今日はゆっくりして、明日、また同じ時間にここに集合してこれからについて話し合いたいと思います。
異論がある者はいますか?」
アンジェラが皆に尋ねると全員が一斉に応えた。
「「異議なし!」」
「「異論はありません!」」
◇ ◇ ◇
次の日、ユウキ達は昨日と同じ時間に食堂に集まっていた。
「アンジェラ様、早速本題に入りたいのですが、宜しいでしょうか?」
ワクールがアンジェラを見つめて尋ねた。
「ええ、お願いします」
アンジェラが頷いて応えた。
「ありがとうございます。
それでは……、とりあえず以前話していた通り、このアナスタス領土を我々の拠点としていきたいと思います。
多くの捕虜についてですが、ここ、ハーメンスに王国騎士団と王国騎士団10傑を含めた50万人を加え、残りの250万の内、100万人を第3の都市ヨークシエラと第4の都市オルレオンに、残りの50万人は首都ルーメリアに分配したいと考えています」
ワクールが地図を広げて説明した。
「ヨークシエラとオルレオンの市長には既に話を通してありますか?」
アンジェラがワクールを見つめて尋ねる。
「半年前に戦争の計画をした時から、提携してある周辺の都市には捕虜についての話をし、既に各都市の住居の増築もほぼ完了しています」
ワクールが微笑んで応える。
「流石ですね。仕事が早くて助かります」
アンジェラが微笑んで話した。
「ルーメリアの方はメーデイアの戦いの時に殆ど民家が吹き飛ばされた筈だけど、50万人もそこに配置して大丈夫なの?」
アンナが心配そうに尋ねる。
「ルナマリア、そこも大丈夫だ。
実はかなり前にルーメリアについても私の兵士を使って調べさせていた。
確かにルナマリアの言う通り殆どの民家が吹き飛ばされていたが、2番街と、7番街は比較的被害が少なく、再利用出来る民家や施設が残っていたんだ。
そこに住める人数が役70万人程度! だから建築のプロと、捕虜50万人を足した60万人をそこに配置させる事で、首都ルーメリアを以前のように……、いや、以前よりももっと素晴らしい街に生まれ変わらせるつもりだ!! 時間はかかるだろが、建築が進む度に送り込む人数を増やしていけば、数年でこの計画も遂行できるだろう!」
ワクールが笑顔で応えるとアンナが涙を溜めて話した。
「ありがとうワクール! 私の国の為に……」
ワクールは眼鏡をクイッと上げて応える。
「何度も言っているが、私はエリーナにこの国の未来を託された! 彼女が本来したであろう仕事の1/10でも仕事をせねば、顔向け出来ないからな」
アンナは一粒の涙を流して口を開く。
「ワクールがいてくれて本当に良かった……。エリーナお姉ちゃんも喜んでいると思うわ」
「……それは良かった。これからも貴方とこの国の為、世界の為に尽力しよう!」
ワクールがアンナを見つめて応えた。
アンジェラは皆の話が一区切りついたことを確認し、口を開く。
「ワクールのお陰で捕虜の問題はなんとかなりそうですね。
それでは、これからについて話をします。
我々の今後の目標はもう一度、三カ国を統一し、約束の日に備える事です。
まず、アナスタス領土は先の戦争でほぼ制圧出来たと考えて良いでしょう。
残りはシュタット領土とカレント領土ですが、カレント領土はほぼ間違いなく約束の日までにアリシアとアレンが統一しくれるので、私達はシュタット領土の統一を目指します。
っと言っても、上役達は今回の戦争で殆どの兵を動かした筈ですので、各地で反乱軍が立ち上がれば自ずと上役達の地位は失墜し、容易く制圧可能です。
これから最大で一月程度シュタット領土の情勢を様子見し、その間に反乱軍の情報が入れば、すぐにここにいるほぼ全員でシュタット領土の制圧に乗り出します」
「フィオナ、ようやく家に帰れるな!」
ユウキが笑顔でフィオナを見つめる。
「うん……。国の民が心配だったから良かった……。私個人としてはユウキお兄ちゃんの側に居れればどこでも幸せだけど、やっぱり家に帰れるのは少し嬉しいかも……」
フィオナが微笑んで応えた。
「アンジェラ様、シュタット領土制圧後は、少し時間を貰えないでしょうか?
ユウキとフィオナと3人でやりたい事があります」
アンナがアンジェラを見つめて尋ねる。
「はい……。シュタット領土制圧後なら、ある程度落ち着く筈ですので大丈夫ですが、3人でやりたい事とはなんでしょう?」
アンジェラが不思議そうに尋ねる。
ユウキとフィオナも不思議そうにアンナを見つめた。
「ユウキの新しい剣をシュタット領土にいる世界一の鍛冶屋に作って貰おうと考えています!」
アンナがアンジェラに応えた。
フィオナがハッとして話す。
「そうか! 確かに代々伝説の剣を作った家系のベルクライト一族がシュタット領土に隠れ住んでいると噂がありましたね!
その鍛冶屋に頼んで、私とルナマリアの力を込めた剣を作ってもらうつもりね?」
「その通り!」
アンナがフィオナにウィンクして見せた。
「なるほど……、ルナマリア、よく考えましたね! 素晴らしい!!」
アンジェラが笑顔でアンナを褒めると嬉しそうに笑顔で会釈した。
「で、伝説の剣を作れる鍛冶屋!? シュタット領土にはそんなのがいんのか?
てか、フィオナとルナマリアの力を込めた剣ってなんだよ?」
ユウキが驚きながら尋ねる。
「伝説の剣などの優れた剣は、一つの例外もなく打った者や特別に力を持った者の思いや力が付与されているものです。
その思いや力が強い剣程、強大な力を秘めた剣を作り出す事が可能なのです!
ユウキ、貴方の側には貴方に対して特別な思いを持ち、特別な力を秘めた者が2人もいるでしょう? もしベルクライト一族の鍛冶屋がシュタット領土にいて、ユウキの為に剣を打ってくれれば、きっと歴史上のどの伝説の剣をも上回る剣が出来る筈だわ!」
アンジェラが興奮気味に話した。
「それは凄い話ですね! 過去最強の剣が誕生し、ユウキさんがそれを使えば、本当にメーデイアさえも退ける事が出来るかもしれません!」
リリスも興奮気味に話した。
「……でも、無理して作ってもらう必要はないぜ。アレンとの戦いで俺の持ってる剣は折れちまったけど、アレと同じくらいの剣があればなんとかなると思うし……」
ユウキが話すとアンナがため息を吐いて話した。
「ユウキ……、あの剣、エリーナに貰ったでしょう? あれは私のお父様が生前使っていた剣で、伝説級とはいかないまでも、超上級クラスの剣なのよ。普通の剣の何十倍も振りやすく、斬れやすく、折れにくい剣なの。
普通の剣ならユウキが寵愛の加護を使った時点で消滅してしまうのよ」
「えっ!? あの剣ってそんなに凄い剣だったのか! なんでエリーナはこの世界に来たばかりの頃の俺にそんな大事な剣を渡してくれたんだ……?」
ユウキが驚きながら呟いた。
「……まだ分からない? エリーナお姉ちゃんは、最初からユウキの事を信じていたのよ。
お父様に代わって、私達の国を……、いえ、世界を平和に導ける存在まで成長してくれるって」
アンナがユウキを見つめて話した。
「!!!?」
ユウキは驚いた後、暫く顔を伏せてから口を開いた。
「みんな! 俺の為に史上最高の剣を作る時間をくれ!! エリーナの想いに応える為にも!!」
それを見た皆が笑顔で頷いて応えた。
ワクールが口を開く。
「今後の方針は決まったな……。
それでは、アナスタス領土は私が1人で残ろう。王国騎士団と王国騎士団10傑もいるから心配ない。
シュタット領土で反乱軍の動きが活発になった頃、ここにいる私以外の主要メンバー全員でシュタット領土を制圧し、その後はアンジェラ様を中心に首都ダンダレイトからシュタット領土の管理をしてもらう。
ユウキとルナマリア、フィオナの3人は別行動で伝説の剣を作る為、世界最高の鍛冶屋ベルクライトを探し、史上最高の伝説の剣を作って貰うという事でいいかな?」
ワクールが皆んなを見渡して尋ねると全員が微笑んで頷いた。
これから12日後、アンジェラが予想した通りシュタット領土で反乱軍の動きが活発になり、そのタイミングでワクール以外のメンバーはシュタット領土制圧に向け移動を開始した。
それから更に10日後、シュタット領土の首都ダンダレイトは、ユウキ達が率いた反乱軍の手によって制圧され、アナスタス領土、シュタット領土の2カ国は完全に統一される事となった。
◇ ◇ ◇
シュタット領土制圧後、フィオナが王座に戻る形となった。
メーデイアがユウキ達を世界の反逆者に見せる為に世界に流した映像は、首都ダンダレイトの殆どの民が目にしていたが、メーデイアや上役達の暴走に近い行動を不審に思っていたところに、アンナ、フィオナ、アンジェラが全ての真実を語った事で、アンジェラが想定していたより早く、フィオナを玉座に戻す事が出来たのである。
それから1ヶ月が経ち、内政が落ち着いた頃、フィオナはアンジェラに王の代役に任命し、予定通りユウキとアンナと共に世界最高の鍛冶屋ベルクライトを探しにフィオナ城の城門を3人で通った所だった。
「ベルクライト捜索から2週間か! シュタット領土はめちゃくちゃ広いのに思ったより早く見つかったな!」
ユウキがフィオナを見つめて話した。
「私の国には戦闘スキルの高い者は少ないけど、敵地の偵察や、隠れている重要人物を探したりするのが得意な人が多いの! 変わった特技を持った人が多いって感じかな……」
フィオナが笑顔で応える。
「早く会いに行きましょう! とりあえずテレポート用の魔法陣に乗って街の入り口まで行けばいいのよね?」
アンナがフィオナを見て尋ねる。
「ルナマリア、テレポート用の魔法陣は使う必要が無いわ」
フィオナが含みのある表情で話した。
「えっ!? だって街の外に出るにはこっちからの方が近いでしょう?」
アンナが不思議そうに尋ねる。
「だから街の外に出る必要が無いの! シュタット領土の全土を探し回らせたベルクライトは、初めからこの首都ダンダレイトに居たのよ!」
フィオナがニヤリとして応えた。
「「え~~~~!!」」
ユウキとアンナが驚く。
「人口の多いこんな所に伝説の鍛冶屋が居たら居場所を探さなくちゃいけないなんて事にはならないだろ! 毎日、行列が出来るほどの有名店になってる筈だ!」
ユウキが驚きながら話した。
「それがこの街でも1番小さくて古い鍛冶屋らしくて、場所も街の中心街から1番離れた所にポツンと隠れたようにある所らしいの!
売ってる物も、基本的に剣や槍などの武器ではなく、包丁や鍋などの日用品の方が多いらしいわ」
「ほ、本当にそこが伝説の鍛冶屋なの? 間違いなんじゃない?」
アンナが不安そうに尋ねる。
「ううん。今回捜索に当たらせたメンバーはこの国でも最高クラスの技術を持ったメンバーを人選をしてるから間違いない筈よ。
とりあえず地図を持ってきてるから私について来て!」
フィオナが背を向けて下級風属性魔法を発動させ、3人を風魔法が包みこむ。
それを見たユウキとアンナは不安そうな表情で互いを見つめ合った。
「本当に大丈夫だと思うか?」
ユウキが耳元でアンナに小声で尋ねる。
「まあ、フィオナは私やユウキみたいに勢いだけで行動しないから大丈夫だと思うけど……」
アンナが苦笑いを浮かべて小声で応えた。
「……しゃあねぇ。とりあえず今はフィオナについて行ってみるしかねーな」
ユウキがため息を吐いたと同時に、フィオナが下級風属性魔法をコントールし、3人を宙に浮かせて街の方へ移動し始めた。
首都ダンダレイトの中心街から1番離れた3番街までフィオナの下級風属性魔法で移動した後、人1人がなんとか通れるような裏露地を5分ほど歩いた所に、フィオナの目的地はあった。
「おい、本当にここかよ……?」
ユウキが見つめる先に建っている鍛冶屋は、外装がボロボロで今にも崩れそうな状態だった。
「えっと……、多分、間違いないと思うけど……」
フィオナが引きつった笑顔で応えた。
「と、とりあえず中に入ってみましょう!
ほら、漫画とかでもこういうボロボロの隠れ家的な所の方が、家の中が案外凄かったりするじゃない?」
アンナが先頭に立ち、ボロボロの鍛冶屋の玄関の扉を開ける。
ギィギィギイィィイ…………!!
扉の固定金具が錆びているのか、扉は凄い音を立てながらゆっくりと開いた。
家の中を見たユウキ、アンナ、フィオナは更に不安に襲われる。なぜなら家の中は、床一面が鉄屑のガラクタだらけで殆ど足の踏み場がない状態で、更に壁などにかけられた商品は10にも満たない程、少ない状態だった。
「おい、フィオナ……?」
ユウキがまたフィオナを見て尋ねる。
「えっと……、間違ってるかもしれない……」
フィオナが引きつった顔で応えた。
「店番もいないわね……」
アンナがボソッと呟いて家の中に入る。
それに続いてユウキとフィオナも中に入り、周りを見渡し始めた。
「すみませーん! 誰かいませんかー?」
アンナが大きな声で叫んだ。
暫くの間、辺りは静寂に包まれる。
「誰もいないみたいだな……」
ユウキが気を抜いた瞬間、ユウキの側の瓦礫の中から手がニュッと飛び出し、ユウキの足首を掴む。
「うぎゃ~~~~!!」
ユウキが泣き叫びながら、アンナとフィオナを巻き込むように倒れ込み、3人同時に床に倒れた。その時、ユウキは左手でアンナの胸を、右手でフィオナの胸を掴むように倒れてしまった。
それに気づいたユウキが焦って飛び退こうとする。
「あ! いや、これは違う……!」
「なにが、違うだこら!」
アンナの強烈な右ストレートがユウキの顔面を捉える。
「あべしっ!!」
「ユウキお兄ちゃんの変態っ!!」
フィオナの下級炎属性魔法が炸裂し、ユウキが後方に吹き飛ばされた。
「こいつら本当に俺の事好きだよな……?」
吹き飛ばされながらユウキが呟いた。
「いやぁ……、はは、済まない、済まない。
滅多に客なんて来ないから昼間から寝ちまってたわ」
ガタイのいい髭面、茶髪で短髪の男が、笑って話した。
「いきなり人の足首を掴まないで下さい……。危うくこちらは世界を救う前に2人の巫女に殺されかけました……」
ユウキが黒焦げになったまま話した。
「巫女……? えっ!? まさか……!?
どこかで見た事あると思ったらフィオナ様本人かい!?」
髭面の男が尋ねる。
「はい、そうです。
赤髪の女性がアナスタス領土の先読みの巫女ルナマリアで、真ん中の黒焦げの変態が成瀬ユウキ、噂になってる女神の使者です」
フィオナが真剣な表情で応えた。
「変態は余計だけどな……」
ユウキがフィオナの横で呟く。
「ふわぁー! 今、世界で注目を集めるお偉方が勢揃いとは……!
それで、フィオナ様、ルナマリア様、変態様はどのような御用でしょうか?」
髭面の男が尋ねる。
「おい……」
ユウキが髭面の男を睨む。
「はい、実はこの変態が使っていた剣が折れてしまい、新しい剣を作っていただけないかと思って参りました。
貴方は伝説の剣を打っていたベルクライト一族の末裔ですよね?
お願いします!! 世界を救う為に究極の剣を打って下さい!!」
フィオナが真剣な表情で頼んだ。
「フィオナ……、もう変態扱いはやめないか?」
ユウキが横から話しかける。
「しぃ~! ユウキ、今は真剣な話をしてるんだから」
アンナがユウキの耳元で話しかける。
「しぃ~! じゃねーよ!!」
ユウキが半ギレ状態で話した。
「なんだ……。家がベルクライトの一族だとバレてんのかい……。
そうさ、俺の名前はバリス・ベルクライト!
色んな愚かな客が伝説の剣を作れって煩くて敵わんから今では、人目のつかないこんな所で包丁などの日用品を作ってる。
究極の剣を打つには条件があるけど、試してみるかい?」
バリスがニヤリと笑って尋ねる。
「条件……? 聞きましょう」
フィオナがバリスを見て話した。
それを聞いたバリスが足元から剣、槍、戦斧、ナイフ等の刃物をカウンターに置いて口を開く。
「この店の中で最も優れた品物を見極められたら依頼を引き受けよう!」
「こ、この中から……?」
フィオナが目の前に出された刃物を見つめるがどれが優れた品物か判別出来ずに困惑する。
「ルナマリア、貴方には分かる?」
「わ、私にも分からないわよ……。私には全部同じにしか……」
アンナも困惑した表情で目の前の剣を見つめて応えた。
ユウキは目の前の刃物には目もくれずに、店の中を見渡し始める。
「どうした? 降参かい?
剣というものが何なのか理解していない連中に俺は剣を打つつもりはないからな。それが例え、どんなに偉い相手であっても」
バリスが話した瞬間、ユウキが口を開く。
「これだろ?」
バリス、アンナ、フィオナがユウキの方を見つめるとユウキが店の隅のテーブルに置かれていた包丁を手に取っていた。
「「!!!?」」
バリス、アンナ、フィオナが同時に驚く。
「ほう……、なぜそれだと思った?」
バリスがユウキを見つめて尋ねる。
「なぜと言われても俺は剣に詳しくないから見た時の印象としか……。
この包丁には俺が持ってる剣と同じ安心感がある。きっと作る時に、使用者の無事を祈って作ったんだろうな」
ユウキが自分の腰に差していた剣を抜いて見せるとバリスが驚いて口を開く。
「ぼ、坊主! その剣はどこで手に入れた!?」
「えっ? どこって、ルナの姉ちゃんのエリーナって人に貰ったよ」
ユウキが応えるとアンナが付け加えるように話す。
「私の姉が父の死後、その剣を受け取っていたのです。それをユウキに渡したんです」
「それじゃあ、ルナちゃんはルークの娘かい!?」
バリスが驚いた表情で尋ねた。
「父をご存知なのですか!?」
アンナも驚いて尋ねる。
「知ってるも何も、奴とは古くからの親友なんだよ。その坊主が持ってる剣は俺がルークの為に心を込めて打った最後の剣なんだ!
いやぁ~、まさかルークの娘さんに会えるとは思ってなかったよ」
バリスが驚いた表情で応えた。
「それで……、ユウキお兄ちゃんが持ってる包丁がバリスさんの言う優れた品物なんですか?」
フィオナが尋ねる。
そう尋ねられたバリスは微笑んでユウキを見つめて口を開く。
「ああ、まさか、一目見ただけで、心込めて打った品物を見極めるとは大した坊主だ!」
「少しは変態から見直してくれたかな?」
ユウキが微笑んで話した。
「それじゃあ、剣を打ってくれるんですね?」
アンナが嬉しそうな尋ねる。
「ああ、坊主の為に剣を打つ事を承諾しよう!」
バリスが微笑んで応えると、アンナとフィオナは互いに顔を見合わせて喜んだ。
「やったぁ~!!」
「しかし、一つ大きな問題がある」
バリスが真剣な表情で口を開いた。
「大きな問題……? なんでしょうか、それは?」
フィオナが尋ねる。
「史上最高の究極の剣を作る為には、それなりの素材となる金属が必要になる。
その金属の名は[ヒヒイロカネ]!!
世界に一つしかないと言われる伝説の金属だ!! もし、それを見つけ出し、ここに持ってきてくれれば、約束しよう!! 最高の剣を打つと!!」
バリスが真剣な表情で応えた。
「ヒヒイロカネ……!? 聞いた事もないわ」
フィオナが困惑した表情でアンナを見つめるがアンナも首を横に振る。
「バリスさん……。ヒヒイロカネがどのような場所で採れるかご存知ですか?」
フィオナがバリスに尋ねる。
「いや、ヒヒイロカネは採掘場所の情報が一切ない事から伝説の金属とされている。私にも何も分からないのだ」
バリスがフィオナに応えた。
フィオナが顔を伏せたのを見て、バリスが口を開く。
「一つだけ、ヒヒイロカネについての情報がある。
私の先祖はあの有名な大賢者ミナトの為に、一本の剣を打った。その剣に使われていた素材がヒヒイロカネだったと聞いている!」
「「!!!?」」
ユウキ、アンナ、フィオナが驚く。
「それじゃあ、その剣を探し出せれば……!!」
フィオナが呟く。
「ああ、究極の剣を作る為に必要な素材は揃う事になる」
バリスが応えた。
「でも待って……! 確か大賢者ミナト様はメーデイアに戦いを挑んで、次元の狭間から元の世界に飛ばされたのよね? それじゃあもし、その時ミナト様と一緒に元の世界にその剣も飛ばされていたら完全にアウトじゃない?」
アンナが冷や汗を流して話すと、ユウキとフィオナは固まってしまった。
「大賢者ミナトがヒヒイロカネを使ってまで剣を打って貰う理由なんて、メーデイアを倒す事以外考えられないな……。間違いなくメーデイアと戦った時にその剣を持っていった筈だ……」
ユウキが顔を伏せて話した。
「ルナマリアの言う通り、ミナト様と一緒に次元の狭間に飛ばされた可能性が高いわね……。なんて事なの、世界に一つだけしかない金属なのに……」
フィオナも顔を伏せて呟いた時、アンナの腰袋が輝き出した。
「「!!!?」」
その場の全員が驚く。
「ルナマリア、腰袋が!?」
フィオナが驚いた表情で話した。
「ま、まさか……!?」
慌ててアンナが腰袋から光輝く石を取り出して口を開く。
「し……、思念石!!」
アンナが取り出した思念石から壁に向かって光が溢れ、プロジェクターのように映像を映し出す。
そこにはメーデイアとアンナに良く似た赤髪の女性が映し出される。
それを見たアンナが驚くように叫んだ。
「お母様……!!」
「「!!!?」」
ユウキとフィオナが驚いて映像の中のソフィアを見つめる。
「あれが、ルナの母ちゃんか!!」
ユウキが呟いた。
【【映像の中のメーデイアとソフィアは互いに深く傷つき、ソフィアは膝をついた状態で涙を流していた。
「ふははは……! ミナトとユナは元の世界に飛ばしてやったわ!!
そして1番邪魔してくれたお前はどこの世界かも、どの時間軸かも分からぬ所に飛ばしてやる!!」
メーデイアがそう叫んでソフィアに両手を向けた瞬間、ソフィアが側に落ちていた剣を拾ってメーデイアに突っ込む。
「無駄だ!!」
メーデイアが叫ぶと、ソフィアは後方の次元の狭間に吸い込まれてその場から消失した。
「ふふ……、ふはははは!! これで……、これで邪魔者は全て消えた! 私の勝ちだ!!」
メーデイアが冷笑を浮かべて話した】】
【【映像が切り替わり、ソフィアは見知らぬ森でルークと出逢い、介抱される。
それから短期間でアナスタス領土の民の信頼を得て、アナスタス領土の巫女になるまでの映像がどんどん切り替わる。
最後に、ソフィアはユウキ、アンナ、フィオナが見た事のない村に訪れた映像が流れる。
ソフィアは村の長老らしき女性に持っていた剣を手渡した】】
思念石からの映像が途切れて光が消える。
「ど、どう言う事だ……?」
ユウキが困惑した表情で呟く。
「お母様が私達に残したメッセージだわ!! 私達がヒヒイロカネの行方を探せなくなる事を考慮して映像を思念石に残したのよ!!」
アンナがユウキとフィオナを見つめて話した。
「……最初の映像は、1800年1月1日の啓司の日にミナト様達がメーデイアに戦いを挑んだ時ね! メーデイアの封印に失敗し、ミナト様とユナ様が元の世界に飛ばされた後からの映像よ!
……ルナマリアが言った通り、ソフィア様が私達の為に残した映像なら、その時ソフィア様が拾った剣がヒヒイロカネを素材にした剣なんだわ!!」
フィオナが叫んだ。
「そうか! ミナトは次元の狭間に吸い込まれる直前にその場に剣を落としたんだ! それをルナの母ちゃんが拾って、異世界の未来に飛ばされ、ルークと出逢った!!」
ユウキがフィオナを見つめて話した。
「うん、そして最後の映像に映った村の長老にその剣を託したんだわ!!
イケるわ!! ヒヒイロカネを素材にしたミナト様の剣はこの世界に存在する!! そして最後の映像に映った村を探し出せればヒヒイロカネ、ゲットよ!!」
アンナが微笑んで話した。
「……でも最後の映像に映った村はどこかしら? 見覚えのない場所だったけど……」
フィオナが呟くとアンナが微笑んで口を開く。
「フィオナ、大丈夫!
映像の中に小さく村の名前が書かれた看板があったわ!
村の名前はエデンガルド!
初めて終焉の巫女が誕生し、後に巫女祀りの村と呼ばれる事になった場所。
ミナト様、ユナ様、お母様の故郷よ!!」
暫くした頃、アンジェラが口を開く。
「ところで、ナスターシャ。さっき、ユウキの事をノエルと呼んでいなかった?」
「あ、はい。実は私は幼い頃、私が扱える力の中で最も強い力である、"世界の人の心とリンクする力"と、"他人の生命力を奪う力"を制御出来ていなかったんです。
その力のせいで世界の負の感情を取り込んでしまい、自分だけでなくルナマリアにも迷惑をかけていました。
死ぬよりも辛い時期を過ごしていた時に、私とルナマリアの事を分かってくれて、話し相手になってくれたのがノエルという男の人でした」
ナスターシャが応える。
「その人がユウキお兄ちゃんに似てたんだよね?」
フィオナが尋ねる。
「うん。私とルナマリアと会う時以外、いつもフードを被って顔を隠していたけど、その顔は本当にそっくりで……。私はさっきまでユウキがノエル本人じゃないのかって思ってたんですけど、よく思い出したら髪型と声が違いますね……。私の勘違いだったみたいです」
ナスターシャがユウキの顔を見つめる。
それを聞いたアンジェラは冷や汗を流しながら口を開く。
「ナスターシャ。少し、その時の記憶を覗いてもいいかしら?」
「あ、はい。記憶を読み解くスキルをアンジェラ様も持っているのですね」
ナスターシャが頷いてアンジェラに近づくと、アンジェラがナスターシャの額に手を当てた。
「俺にも見せてくれ!」
ユウキがアンジェラの背中に手を置いて、話しかけた。
アンジェラがナスターシャの記憶を辿り、ユウキとアンジェラがノエルの顔と声を確認する。
「!!!!?」
アンジェラがナスターシャから離れて驚愕の表情を浮かべて叫んだ。
「ヒューゴ!!」
「「!!!?」」
アンジェラ以外の全員が驚く。
「ど、どういう事ですか、アンジェラ様!?」
リリスが驚いた表情で尋ねる。
「ルナマリアとナスターシャを助けたノエルという人物は、若い頃のヒューゴの顔と声にそっくりなのです! いえ、あれは紛れもなくヒューゴの声でした。
確かに今のユウキは父親であるヒューゴにそっくりなので、ナスターシャが間違えても仕方がありません」
アンジェラが驚いた表情で応えた。
「でもヒューゴ様はメーデイアの襲撃で亡くなった筈では……?」
フィオナがアンジェラを見つめて尋ねる。
「その通りです。
我が夫ヒューゴは間違いなく私の腕の中で最期の時を迎えました。
それに、ヒューゴは普通の人間。ルナマリアやナスターシャが幼い頃の時代に存在する事自体が有り得ません!」
アンジェラが冷や汗を流しながら応えた。
「それじゃあ、ヒューゴ様の顔と声を知る誰かが、ノエルという名を使っていると言う事でしょうか?」
リリスがアンジェラに尋ねる。
「その可能性が高いのですね。
それに、私にはもう一つ引っかかる点があります」
アンジェラが下を向いて応えた。
「引っかかる点?」
ユウキがアンジェラに尋ねる。
「……ノエルという名は、私とヒューゴが貴方につけた本当の名前なのよ。
ユウキ、貴方の本当の名前はノエル・アストラルド……、最初に星が生まれた時から存在する始まりの神様、アストラル神より頂いた名前なの」
アンジェラがユウキを見つめて応えると、アンジェラ以外の全員が驚く。
「「!!!?」」
「貴方の本当の名前を知る者は、私とヒューゴ、メーデイアとユーリ、そして光の神レナしか知らない筈なのですが……。
そのノエルと名乗った男がなぜ、ユウキの本当の名前を知っていて、ヒューゴの顔と声を利用しているのか、本人を探し出して直接尋ねる他、確かめる術がありません」
アンジェラが瞳を瞑って話した。
「アンジェラ様、ヒューゴ様は不思議な力を増長させるような特殊スキルの持ち主でしたか?」
ナスターシャがアンジェラに尋ねる。
「いいえ、私が知る限りそんな能力は持っていなかった筈だけど……。
なぜ、そんな事を聞くの?」
アンジェラが不思議そうにナスターシャに尋ねる。
「実は私とルナマリアが私の能力で苦しんでいた際、ルナマリアが幼い頃に死にかけた時に突如異空間から出現したエレノアの花が私とルナマリアを苦しめていた私の能力を抑え込んでくれていたのです。
更に驚いた事に、ノエルはエレノアの花の能力を増長させ、私とルナマリアの苦しみを殆ど無くしてくれました」
ナスターシャがアンジェラに応えた。
「エレノアの花の能力を増長させた……!? ……そんな事が出来るのは光の神レナか、その花を最初にルナマリアに送った本人だけです」
アンジェラがナスターシャを見つめて応えた。
「……という事は私の魂がルナマリアの身体に憑依した時にエレノアの花を与えた人物がノエルである可能性が高いですね……」
ナスターシャが冷や汗を流しながら話した。
「ナスターシャがルナの身体に憑依した時……?」
ユウキが不思議そうに尋ねる。
「あ、そうか。ルナマリア以外は、みんな、まだ知らなかったですね。
実はルナマリアが幼い頃に原因不明の高熱に襲われたのは私のせいなんです。
……お母様が下界に放った私の魂は、無意識に私の魂と1番合う人間を探して憑依するようになっていました。そうしなければ私のように特別な力を秘めた魂を憑依された人間が耐えられないからです。
そしてルナマリアが私の魂の器として選ばれ、私の魂がルナマリアの身体に憑依した際、ルナマリアの身体に高熱として拒否反応が発生したとういう訳です。
……ルナマリアには既に謝ったんですけど、全然気にしてないって言われてしまいました」
ナスターシャが困った表情で応えた。
「その高熱が発生した時に出現したエレノアの花が無ければ、ルナもナスターシャも危なかった。……そしてその花の送り主がノエルである可能性が高いって事か!」
ユウキがナスターシャに尋ねるとナスターシャが頷いて応える。
「アンジェラ様の話を纏めるとそうなるわね。
……うーん、やっぱりユウキはノエルじゃなかったんだ……」
「恩人じゃなくてがっかりしたか?」
ユウキが微笑んで尋ねる。
「うーうん。ノエルと同じくらいユウキの事は好きよ。だから残念なんて事はないわ。
ただ、これからはユウキって呼びたいんだけどいいかしら?」
ナスターシャがユウキから目を背けて恥ずかしそうに尋ねる。
ユウキは微笑んでナスターシャに応える。
「ナスターシャが呼びやすいように呼んでくれたらなんでもいいよ」
「分かった! それじゃあ、これからはユウキって呼ぶから宜しくね!」
ナスターシャが微笑んで話すと、ユウキも微笑んで応える。
「ああ、宜しくな、ナスターシャ!」
それを聞いたナスターシャは満足そうな表情で口を開く。
「私は殆ど話したい事を話し終えたから、そろそろルナマリアと変わるね!」
ユウキ達が頷くと、ナスターシャは一度目を閉じてルナマリアと人格交代をしようとしたが、もう一度、瞳を開けて口を開いた。
「あ、そうそう言い忘れてた!
私とルナマリアが互いの心の壁を壊した事で、不安定だった私自身の特殊スキルもレベルアップして完璧にコントール出来るようになったの!
その一つが世界の人々と心をリンクして思念を飛ばし合う事が出来る。私がリンクを繋いだ人は際限なくその人もその思念の伝達が出来るのよ。巫女とその加護の力を受けている者通しで可能な思念の伝達の強化版みたいな感じね。
ユウキ達が使ってる思念の伝達との違いは、誰でも人数制限なく、私がリンクを繋いだ相手なら思念の伝達が可能な事!
これは私とルナマリアを幼い頃に苦しめていた能力だけど、コントール出来る様になったから、かなり使える能力だと思うわ。
もう一つが、えっと……ユウキに口付けした時のものだけど、一つ目の能力で私がリンクを繋いだ相手からなら誰でも生命エネルギーを分けて貰って、私か誰かの力に変換する事が出来る能力! 勿論、これからは生命エネルギーを貰う相手に許可を取ってから分けて貰うけどね。
これらの能力が必要な時は私を呼んでね!」
ナスターシャは皆にそう伝えると、再び瞳を閉じて動かなくなった。
ナスターシャの髪が赤く染まり、人格をアンナと交代して、アンナが赤い瞳を開けて口を開いた。
「ふぅ……。私も心の中でみんなの話し聞いてたけど、なんか凄い事になってるわね……。
これからどうしようか?」
皆が暫く下を向いて黙った後、アンジェラが口を開く。
「とりあえず、今は作戦成功を祝って目の前のご馳走を楽しみましょう!
各自、今日はゆっくりして、明日、また同じ時間にここに集合してこれからについて話し合いたいと思います。
異論がある者はいますか?」
アンジェラが皆に尋ねると全員が一斉に応えた。
「「異議なし!」」
「「異論はありません!」」
◇ ◇ ◇
次の日、ユウキ達は昨日と同じ時間に食堂に集まっていた。
「アンジェラ様、早速本題に入りたいのですが、宜しいでしょうか?」
ワクールがアンジェラを見つめて尋ねた。
「ええ、お願いします」
アンジェラが頷いて応えた。
「ありがとうございます。
それでは……、とりあえず以前話していた通り、このアナスタス領土を我々の拠点としていきたいと思います。
多くの捕虜についてですが、ここ、ハーメンスに王国騎士団と王国騎士団10傑を含めた50万人を加え、残りの250万の内、100万人を第3の都市ヨークシエラと第4の都市オルレオンに、残りの50万人は首都ルーメリアに分配したいと考えています」
ワクールが地図を広げて説明した。
「ヨークシエラとオルレオンの市長には既に話を通してありますか?」
アンジェラがワクールを見つめて尋ねる。
「半年前に戦争の計画をした時から、提携してある周辺の都市には捕虜についての話をし、既に各都市の住居の増築もほぼ完了しています」
ワクールが微笑んで応える。
「流石ですね。仕事が早くて助かります」
アンジェラが微笑んで話した。
「ルーメリアの方はメーデイアの戦いの時に殆ど民家が吹き飛ばされた筈だけど、50万人もそこに配置して大丈夫なの?」
アンナが心配そうに尋ねる。
「ルナマリア、そこも大丈夫だ。
実はかなり前にルーメリアについても私の兵士を使って調べさせていた。
確かにルナマリアの言う通り殆どの民家が吹き飛ばされていたが、2番街と、7番街は比較的被害が少なく、再利用出来る民家や施設が残っていたんだ。
そこに住める人数が役70万人程度! だから建築のプロと、捕虜50万人を足した60万人をそこに配置させる事で、首都ルーメリアを以前のように……、いや、以前よりももっと素晴らしい街に生まれ変わらせるつもりだ!! 時間はかかるだろが、建築が進む度に送り込む人数を増やしていけば、数年でこの計画も遂行できるだろう!」
ワクールが笑顔で応えるとアンナが涙を溜めて話した。
「ありがとうワクール! 私の国の為に……」
ワクールは眼鏡をクイッと上げて応える。
「何度も言っているが、私はエリーナにこの国の未来を託された! 彼女が本来したであろう仕事の1/10でも仕事をせねば、顔向け出来ないからな」
アンナは一粒の涙を流して口を開く。
「ワクールがいてくれて本当に良かった……。エリーナお姉ちゃんも喜んでいると思うわ」
「……それは良かった。これからも貴方とこの国の為、世界の為に尽力しよう!」
ワクールがアンナを見つめて応えた。
アンジェラは皆の話が一区切りついたことを確認し、口を開く。
「ワクールのお陰で捕虜の問題はなんとかなりそうですね。
それでは、これからについて話をします。
我々の今後の目標はもう一度、三カ国を統一し、約束の日に備える事です。
まず、アナスタス領土は先の戦争でほぼ制圧出来たと考えて良いでしょう。
残りはシュタット領土とカレント領土ですが、カレント領土はほぼ間違いなく約束の日までにアリシアとアレンが統一しくれるので、私達はシュタット領土の統一を目指します。
っと言っても、上役達は今回の戦争で殆どの兵を動かした筈ですので、各地で反乱軍が立ち上がれば自ずと上役達の地位は失墜し、容易く制圧可能です。
これから最大で一月程度シュタット領土の情勢を様子見し、その間に反乱軍の情報が入れば、すぐにここにいるほぼ全員でシュタット領土の制圧に乗り出します」
「フィオナ、ようやく家に帰れるな!」
ユウキが笑顔でフィオナを見つめる。
「うん……。国の民が心配だったから良かった……。私個人としてはユウキお兄ちゃんの側に居れればどこでも幸せだけど、やっぱり家に帰れるのは少し嬉しいかも……」
フィオナが微笑んで応えた。
「アンジェラ様、シュタット領土制圧後は、少し時間を貰えないでしょうか?
ユウキとフィオナと3人でやりたい事があります」
アンナがアンジェラを見つめて尋ねる。
「はい……。シュタット領土制圧後なら、ある程度落ち着く筈ですので大丈夫ですが、3人でやりたい事とはなんでしょう?」
アンジェラが不思議そうに尋ねる。
ユウキとフィオナも不思議そうにアンナを見つめた。
「ユウキの新しい剣をシュタット領土にいる世界一の鍛冶屋に作って貰おうと考えています!」
アンナがアンジェラに応えた。
フィオナがハッとして話す。
「そうか! 確かに代々伝説の剣を作った家系のベルクライト一族がシュタット領土に隠れ住んでいると噂がありましたね!
その鍛冶屋に頼んで、私とルナマリアの力を込めた剣を作ってもらうつもりね?」
「その通り!」
アンナがフィオナにウィンクして見せた。
「なるほど……、ルナマリア、よく考えましたね! 素晴らしい!!」
アンジェラが笑顔でアンナを褒めると嬉しそうに笑顔で会釈した。
「で、伝説の剣を作れる鍛冶屋!? シュタット領土にはそんなのがいんのか?
てか、フィオナとルナマリアの力を込めた剣ってなんだよ?」
ユウキが驚きながら尋ねる。
「伝説の剣などの優れた剣は、一つの例外もなく打った者や特別に力を持った者の思いや力が付与されているものです。
その思いや力が強い剣程、強大な力を秘めた剣を作り出す事が可能なのです!
ユウキ、貴方の側には貴方に対して特別な思いを持ち、特別な力を秘めた者が2人もいるでしょう? もしベルクライト一族の鍛冶屋がシュタット領土にいて、ユウキの為に剣を打ってくれれば、きっと歴史上のどの伝説の剣をも上回る剣が出来る筈だわ!」
アンジェラが興奮気味に話した。
「それは凄い話ですね! 過去最強の剣が誕生し、ユウキさんがそれを使えば、本当にメーデイアさえも退ける事が出来るかもしれません!」
リリスも興奮気味に話した。
「……でも、無理して作ってもらう必要はないぜ。アレンとの戦いで俺の持ってる剣は折れちまったけど、アレと同じくらいの剣があればなんとかなると思うし……」
ユウキが話すとアンナがため息を吐いて話した。
「ユウキ……、あの剣、エリーナに貰ったでしょう? あれは私のお父様が生前使っていた剣で、伝説級とはいかないまでも、超上級クラスの剣なのよ。普通の剣の何十倍も振りやすく、斬れやすく、折れにくい剣なの。
普通の剣ならユウキが寵愛の加護を使った時点で消滅してしまうのよ」
「えっ!? あの剣ってそんなに凄い剣だったのか! なんでエリーナはこの世界に来たばかりの頃の俺にそんな大事な剣を渡してくれたんだ……?」
ユウキが驚きながら呟いた。
「……まだ分からない? エリーナお姉ちゃんは、最初からユウキの事を信じていたのよ。
お父様に代わって、私達の国を……、いえ、世界を平和に導ける存在まで成長してくれるって」
アンナがユウキを見つめて話した。
「!!!?」
ユウキは驚いた後、暫く顔を伏せてから口を開いた。
「みんな! 俺の為に史上最高の剣を作る時間をくれ!! エリーナの想いに応える為にも!!」
それを見た皆が笑顔で頷いて応えた。
ワクールが口を開く。
「今後の方針は決まったな……。
それでは、アナスタス領土は私が1人で残ろう。王国騎士団と王国騎士団10傑もいるから心配ない。
シュタット領土で反乱軍の動きが活発になった頃、ここにいる私以外の主要メンバー全員でシュタット領土を制圧し、その後はアンジェラ様を中心に首都ダンダレイトからシュタット領土の管理をしてもらう。
ユウキとルナマリア、フィオナの3人は別行動で伝説の剣を作る為、世界最高の鍛冶屋ベルクライトを探し、史上最高の伝説の剣を作って貰うという事でいいかな?」
ワクールが皆んなを見渡して尋ねると全員が微笑んで頷いた。
これから12日後、アンジェラが予想した通りシュタット領土で反乱軍の動きが活発になり、そのタイミングでワクール以外のメンバーはシュタット領土制圧に向け移動を開始した。
それから更に10日後、シュタット領土の首都ダンダレイトは、ユウキ達が率いた反乱軍の手によって制圧され、アナスタス領土、シュタット領土の2カ国は完全に統一される事となった。
◇ ◇ ◇
シュタット領土制圧後、フィオナが王座に戻る形となった。
メーデイアがユウキ達を世界の反逆者に見せる為に世界に流した映像は、首都ダンダレイトの殆どの民が目にしていたが、メーデイアや上役達の暴走に近い行動を不審に思っていたところに、アンナ、フィオナ、アンジェラが全ての真実を語った事で、アンジェラが想定していたより早く、フィオナを玉座に戻す事が出来たのである。
それから1ヶ月が経ち、内政が落ち着いた頃、フィオナはアンジェラに王の代役に任命し、予定通りユウキとアンナと共に世界最高の鍛冶屋ベルクライトを探しにフィオナ城の城門を3人で通った所だった。
「ベルクライト捜索から2週間か! シュタット領土はめちゃくちゃ広いのに思ったより早く見つかったな!」
ユウキがフィオナを見つめて話した。
「私の国には戦闘スキルの高い者は少ないけど、敵地の偵察や、隠れている重要人物を探したりするのが得意な人が多いの! 変わった特技を持った人が多いって感じかな……」
フィオナが笑顔で応える。
「早く会いに行きましょう! とりあえずテレポート用の魔法陣に乗って街の入り口まで行けばいいのよね?」
アンナがフィオナを見て尋ねる。
「ルナマリア、テレポート用の魔法陣は使う必要が無いわ」
フィオナが含みのある表情で話した。
「えっ!? だって街の外に出るにはこっちからの方が近いでしょう?」
アンナが不思議そうに尋ねる。
「だから街の外に出る必要が無いの! シュタット領土の全土を探し回らせたベルクライトは、初めからこの首都ダンダレイトに居たのよ!」
フィオナがニヤリとして応えた。
「「え~~~~!!」」
ユウキとアンナが驚く。
「人口の多いこんな所に伝説の鍛冶屋が居たら居場所を探さなくちゃいけないなんて事にはならないだろ! 毎日、行列が出来るほどの有名店になってる筈だ!」
ユウキが驚きながら話した。
「それがこの街でも1番小さくて古い鍛冶屋らしくて、場所も街の中心街から1番離れた所にポツンと隠れたようにある所らしいの!
売ってる物も、基本的に剣や槍などの武器ではなく、包丁や鍋などの日用品の方が多いらしいわ」
「ほ、本当にそこが伝説の鍛冶屋なの? 間違いなんじゃない?」
アンナが不安そうに尋ねる。
「ううん。今回捜索に当たらせたメンバーはこの国でも最高クラスの技術を持ったメンバーを人選をしてるから間違いない筈よ。
とりあえず地図を持ってきてるから私について来て!」
フィオナが背を向けて下級風属性魔法を発動させ、3人を風魔法が包みこむ。
それを見たユウキとアンナは不安そうな表情で互いを見つめ合った。
「本当に大丈夫だと思うか?」
ユウキが耳元でアンナに小声で尋ねる。
「まあ、フィオナは私やユウキみたいに勢いだけで行動しないから大丈夫だと思うけど……」
アンナが苦笑いを浮かべて小声で応えた。
「……しゃあねぇ。とりあえず今はフィオナについて行ってみるしかねーな」
ユウキがため息を吐いたと同時に、フィオナが下級風属性魔法をコントールし、3人を宙に浮かせて街の方へ移動し始めた。
首都ダンダレイトの中心街から1番離れた3番街までフィオナの下級風属性魔法で移動した後、人1人がなんとか通れるような裏露地を5分ほど歩いた所に、フィオナの目的地はあった。
「おい、本当にここかよ……?」
ユウキが見つめる先に建っている鍛冶屋は、外装がボロボロで今にも崩れそうな状態だった。
「えっと……、多分、間違いないと思うけど……」
フィオナが引きつった笑顔で応えた。
「と、とりあえず中に入ってみましょう!
ほら、漫画とかでもこういうボロボロの隠れ家的な所の方が、家の中が案外凄かったりするじゃない?」
アンナが先頭に立ち、ボロボロの鍛冶屋の玄関の扉を開ける。
ギィギィギイィィイ…………!!
扉の固定金具が錆びているのか、扉は凄い音を立てながらゆっくりと開いた。
家の中を見たユウキ、アンナ、フィオナは更に不安に襲われる。なぜなら家の中は、床一面が鉄屑のガラクタだらけで殆ど足の踏み場がない状態で、更に壁などにかけられた商品は10にも満たない程、少ない状態だった。
「おい、フィオナ……?」
ユウキがまたフィオナを見て尋ねる。
「えっと……、間違ってるかもしれない……」
フィオナが引きつった顔で応えた。
「店番もいないわね……」
アンナがボソッと呟いて家の中に入る。
それに続いてユウキとフィオナも中に入り、周りを見渡し始めた。
「すみませーん! 誰かいませんかー?」
アンナが大きな声で叫んだ。
暫くの間、辺りは静寂に包まれる。
「誰もいないみたいだな……」
ユウキが気を抜いた瞬間、ユウキの側の瓦礫の中から手がニュッと飛び出し、ユウキの足首を掴む。
「うぎゃ~~~~!!」
ユウキが泣き叫びながら、アンナとフィオナを巻き込むように倒れ込み、3人同時に床に倒れた。その時、ユウキは左手でアンナの胸を、右手でフィオナの胸を掴むように倒れてしまった。
それに気づいたユウキが焦って飛び退こうとする。
「あ! いや、これは違う……!」
「なにが、違うだこら!」
アンナの強烈な右ストレートがユウキの顔面を捉える。
「あべしっ!!」
「ユウキお兄ちゃんの変態っ!!」
フィオナの下級炎属性魔法が炸裂し、ユウキが後方に吹き飛ばされた。
「こいつら本当に俺の事好きだよな……?」
吹き飛ばされながらユウキが呟いた。
「いやぁ……、はは、済まない、済まない。
滅多に客なんて来ないから昼間から寝ちまってたわ」
ガタイのいい髭面、茶髪で短髪の男が、笑って話した。
「いきなり人の足首を掴まないで下さい……。危うくこちらは世界を救う前に2人の巫女に殺されかけました……」
ユウキが黒焦げになったまま話した。
「巫女……? えっ!? まさか……!?
どこかで見た事あると思ったらフィオナ様本人かい!?」
髭面の男が尋ねる。
「はい、そうです。
赤髪の女性がアナスタス領土の先読みの巫女ルナマリアで、真ん中の黒焦げの変態が成瀬ユウキ、噂になってる女神の使者です」
フィオナが真剣な表情で応えた。
「変態は余計だけどな……」
ユウキがフィオナの横で呟く。
「ふわぁー! 今、世界で注目を集めるお偉方が勢揃いとは……!
それで、フィオナ様、ルナマリア様、変態様はどのような御用でしょうか?」
髭面の男が尋ねる。
「おい……」
ユウキが髭面の男を睨む。
「はい、実はこの変態が使っていた剣が折れてしまい、新しい剣を作っていただけないかと思って参りました。
貴方は伝説の剣を打っていたベルクライト一族の末裔ですよね?
お願いします!! 世界を救う為に究極の剣を打って下さい!!」
フィオナが真剣な表情で頼んだ。
「フィオナ……、もう変態扱いはやめないか?」
ユウキが横から話しかける。
「しぃ~! ユウキ、今は真剣な話をしてるんだから」
アンナがユウキの耳元で話しかける。
「しぃ~! じゃねーよ!!」
ユウキが半ギレ状態で話した。
「なんだ……。家がベルクライトの一族だとバレてんのかい……。
そうさ、俺の名前はバリス・ベルクライト!
色んな愚かな客が伝説の剣を作れって煩くて敵わんから今では、人目のつかないこんな所で包丁などの日用品を作ってる。
究極の剣を打つには条件があるけど、試してみるかい?」
バリスがニヤリと笑って尋ねる。
「条件……? 聞きましょう」
フィオナがバリスを見て話した。
それを聞いたバリスが足元から剣、槍、戦斧、ナイフ等の刃物をカウンターに置いて口を開く。
「この店の中で最も優れた品物を見極められたら依頼を引き受けよう!」
「こ、この中から……?」
フィオナが目の前に出された刃物を見つめるがどれが優れた品物か判別出来ずに困惑する。
「ルナマリア、貴方には分かる?」
「わ、私にも分からないわよ……。私には全部同じにしか……」
アンナも困惑した表情で目の前の剣を見つめて応えた。
ユウキは目の前の刃物には目もくれずに、店の中を見渡し始める。
「どうした? 降参かい?
剣というものが何なのか理解していない連中に俺は剣を打つつもりはないからな。それが例え、どんなに偉い相手であっても」
バリスが話した瞬間、ユウキが口を開く。
「これだろ?」
バリス、アンナ、フィオナがユウキの方を見つめるとユウキが店の隅のテーブルに置かれていた包丁を手に取っていた。
「「!!!?」」
バリス、アンナ、フィオナが同時に驚く。
「ほう……、なぜそれだと思った?」
バリスがユウキを見つめて尋ねる。
「なぜと言われても俺は剣に詳しくないから見た時の印象としか……。
この包丁には俺が持ってる剣と同じ安心感がある。きっと作る時に、使用者の無事を祈って作ったんだろうな」
ユウキが自分の腰に差していた剣を抜いて見せるとバリスが驚いて口を開く。
「ぼ、坊主! その剣はどこで手に入れた!?」
「えっ? どこって、ルナの姉ちゃんのエリーナって人に貰ったよ」
ユウキが応えるとアンナが付け加えるように話す。
「私の姉が父の死後、その剣を受け取っていたのです。それをユウキに渡したんです」
「それじゃあ、ルナちゃんはルークの娘かい!?」
バリスが驚いた表情で尋ねた。
「父をご存知なのですか!?」
アンナも驚いて尋ねる。
「知ってるも何も、奴とは古くからの親友なんだよ。その坊主が持ってる剣は俺がルークの為に心を込めて打った最後の剣なんだ!
いやぁ~、まさかルークの娘さんに会えるとは思ってなかったよ」
バリスが驚いた表情で応えた。
「それで……、ユウキお兄ちゃんが持ってる包丁がバリスさんの言う優れた品物なんですか?」
フィオナが尋ねる。
そう尋ねられたバリスは微笑んでユウキを見つめて口を開く。
「ああ、まさか、一目見ただけで、心込めて打った品物を見極めるとは大した坊主だ!」
「少しは変態から見直してくれたかな?」
ユウキが微笑んで話した。
「それじゃあ、剣を打ってくれるんですね?」
アンナが嬉しそうな尋ねる。
「ああ、坊主の為に剣を打つ事を承諾しよう!」
バリスが微笑んで応えると、アンナとフィオナは互いに顔を見合わせて喜んだ。
「やったぁ~!!」
「しかし、一つ大きな問題がある」
バリスが真剣な表情で口を開いた。
「大きな問題……? なんでしょうか、それは?」
フィオナが尋ねる。
「史上最高の究極の剣を作る為には、それなりの素材となる金属が必要になる。
その金属の名は[ヒヒイロカネ]!!
世界に一つしかないと言われる伝説の金属だ!! もし、それを見つけ出し、ここに持ってきてくれれば、約束しよう!! 最高の剣を打つと!!」
バリスが真剣な表情で応えた。
「ヒヒイロカネ……!? 聞いた事もないわ」
フィオナが困惑した表情でアンナを見つめるがアンナも首を横に振る。
「バリスさん……。ヒヒイロカネがどのような場所で採れるかご存知ですか?」
フィオナがバリスに尋ねる。
「いや、ヒヒイロカネは採掘場所の情報が一切ない事から伝説の金属とされている。私にも何も分からないのだ」
バリスがフィオナに応えた。
フィオナが顔を伏せたのを見て、バリスが口を開く。
「一つだけ、ヒヒイロカネについての情報がある。
私の先祖はあの有名な大賢者ミナトの為に、一本の剣を打った。その剣に使われていた素材がヒヒイロカネだったと聞いている!」
「「!!!?」」
ユウキ、アンナ、フィオナが驚く。
「それじゃあ、その剣を探し出せれば……!!」
フィオナが呟く。
「ああ、究極の剣を作る為に必要な素材は揃う事になる」
バリスが応えた。
「でも待って……! 確か大賢者ミナト様はメーデイアに戦いを挑んで、次元の狭間から元の世界に飛ばされたのよね? それじゃあもし、その時ミナト様と一緒に元の世界にその剣も飛ばされていたら完全にアウトじゃない?」
アンナが冷や汗を流して話すと、ユウキとフィオナは固まってしまった。
「大賢者ミナトがヒヒイロカネを使ってまで剣を打って貰う理由なんて、メーデイアを倒す事以外考えられないな……。間違いなくメーデイアと戦った時にその剣を持っていった筈だ……」
ユウキが顔を伏せて話した。
「ルナマリアの言う通り、ミナト様と一緒に次元の狭間に飛ばされた可能性が高いわね……。なんて事なの、世界に一つだけしかない金属なのに……」
フィオナも顔を伏せて呟いた時、アンナの腰袋が輝き出した。
「「!!!?」」
その場の全員が驚く。
「ルナマリア、腰袋が!?」
フィオナが驚いた表情で話した。
「ま、まさか……!?」
慌ててアンナが腰袋から光輝く石を取り出して口を開く。
「し……、思念石!!」
アンナが取り出した思念石から壁に向かって光が溢れ、プロジェクターのように映像を映し出す。
そこにはメーデイアとアンナに良く似た赤髪の女性が映し出される。
それを見たアンナが驚くように叫んだ。
「お母様……!!」
「「!!!?」」
ユウキとフィオナが驚いて映像の中のソフィアを見つめる。
「あれが、ルナの母ちゃんか!!」
ユウキが呟いた。
【【映像の中のメーデイアとソフィアは互いに深く傷つき、ソフィアは膝をついた状態で涙を流していた。
「ふははは……! ミナトとユナは元の世界に飛ばしてやったわ!!
そして1番邪魔してくれたお前はどこの世界かも、どの時間軸かも分からぬ所に飛ばしてやる!!」
メーデイアがそう叫んでソフィアに両手を向けた瞬間、ソフィアが側に落ちていた剣を拾ってメーデイアに突っ込む。
「無駄だ!!」
メーデイアが叫ぶと、ソフィアは後方の次元の狭間に吸い込まれてその場から消失した。
「ふふ……、ふはははは!! これで……、これで邪魔者は全て消えた! 私の勝ちだ!!」
メーデイアが冷笑を浮かべて話した】】
【【映像が切り替わり、ソフィアは見知らぬ森でルークと出逢い、介抱される。
それから短期間でアナスタス領土の民の信頼を得て、アナスタス領土の巫女になるまでの映像がどんどん切り替わる。
最後に、ソフィアはユウキ、アンナ、フィオナが見た事のない村に訪れた映像が流れる。
ソフィアは村の長老らしき女性に持っていた剣を手渡した】】
思念石からの映像が途切れて光が消える。
「ど、どう言う事だ……?」
ユウキが困惑した表情で呟く。
「お母様が私達に残したメッセージだわ!! 私達がヒヒイロカネの行方を探せなくなる事を考慮して映像を思念石に残したのよ!!」
アンナがユウキとフィオナを見つめて話した。
「……最初の映像は、1800年1月1日の啓司の日にミナト様達がメーデイアに戦いを挑んだ時ね! メーデイアの封印に失敗し、ミナト様とユナ様が元の世界に飛ばされた後からの映像よ!
……ルナマリアが言った通り、ソフィア様が私達の為に残した映像なら、その時ソフィア様が拾った剣がヒヒイロカネを素材にした剣なんだわ!!」
フィオナが叫んだ。
「そうか! ミナトは次元の狭間に吸い込まれる直前にその場に剣を落としたんだ! それをルナの母ちゃんが拾って、異世界の未来に飛ばされ、ルークと出逢った!!」
ユウキがフィオナを見つめて話した。
「うん、そして最後の映像に映った村の長老にその剣を託したんだわ!!
イケるわ!! ヒヒイロカネを素材にしたミナト様の剣はこの世界に存在する!! そして最後の映像に映った村を探し出せればヒヒイロカネ、ゲットよ!!」
アンナが微笑んで話した。
「……でも最後の映像に映った村はどこかしら? 見覚えのない場所だったけど……」
フィオナが呟くとアンナが微笑んで口を開く。
「フィオナ、大丈夫!
映像の中に小さく村の名前が書かれた看板があったわ!
村の名前はエデンガルド!
初めて終焉の巫女が誕生し、後に巫女祀りの村と呼ばれる事になった場所。
ミナト様、ユナ様、お母様の故郷よ!!」
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