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第9章
思い出の地へ
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アンナ救出から約1年が過ぎたルイン世紀1998年6月10日、アナスタス領土のハーメンスにあるマイルズの屋敷でアンナ、フィオナ、アンジェラ、ワクール、ミア、リリス、クシャナは、現状の確認と、これからについて話し合いをしていた。
「アンジェラ様、既に上役達がシュタット領土で起こした300万の軍は、アナスタス領土に侵入しました。残り7日程度でこのハーメンスに到達する予定です」
ワクールがアンジェラを見つめて話した。
「わかりました。予想通りですね!
私達の潜伏先がメーデイアや上役達にバレてから、彼らが軍を送るのに半年もかかったということは、やはり各地で民が立ち上がり反乱が起きたという事です。
メーデイア達は戦神以外、約束の日まで簡単に動けない。更に、ユウキが死んだという情報をどこかから得たのでしょう。だから上役達に軍を起こして我々を追い詰めるように命令した筈です。
それにも関わらず、先日まで軍を起こせなかった理由は上役達にとって軍を起こせない程のイレギュラーな事態が起きたとしか考えられません」
アンジェラが話した。
「やはり、アレンとアリシアがカレント領土で民を率いて反乱を起こしたと考えていいのでしょうか?」
リリスがアンジェラに尋ねた。
「ええ、ほぼ間違い無いかと……。
リリス、クシャナ、ミアちゃんがアレンとアリシアが生きている事を信じて捜索してくれた事が大きかった!
半年前のヴェルナ村での報告がなければ、メーデイア達にここがバレた時点で、焦って作戦を早めてしまうところでした」
アンジェラが微笑んで応える。
「まさか、あんな辺境の村で生きてたなんてね! それに、私達を殺す為に差し向けた戦神ヨルムンガンドを倒しちゃってたんだから、流石、アリシア様とアレン様だよ!」
ミアが笑顔で応えた。
「アリシア様とアレン様は戦神ヨルムンガンドを倒してすぐにカレント領土に向かわれましたが、我々が捜索しにくる事も予想しておられました。村人に我々が尋ねに来た際にカレント領土を統一しに行く事を言伝してありました」
クシャナがアンジェラを見て話した。
「……アリシアとアレンはこうなる事を分かっていたのでしょうね。だから、我々と合流する前に急いでカレント領土に向かった。
上役達の目を自分達に向けて、軍を起こすのを半年近く遅らせてくれた。
やはり、あの2人の存在は大きいですね」
アンジェラが微笑みながら話した。
「お陰で私とフィオナのマインドダイブのレベルは99のMAXで作戦を遂行出来ます!」
アンナも微笑んで話した。
「あとは、ユウキお兄ちゃんをルナマリア城のエレノアの花が咲く庭まで運んでマインドダイブすれば、心の深淵に呑まれたユウキお兄ちゃんを見つけられるって訳ね!」
フィオナが嬉しそうに話した。
「フィオナちゃん、時守りの力が回復するまであと何日くらいかかりそうかしら?」
アンジェラが尋ねる。
「以前、力を使えなくなった時は2年半毎日使い続けて、1ヶ月程度、神技どころか闘気や魔力すら使えなくなりました。
しかし、今回アンジェラ様に言われた通り一年間使い続けましたが、比較的身体の影響は小さいので5日もあれば、元に戻ると思います」
フィオナがアンジェラを見つめて応えた。
「思った通りで良かった! やはり、フィオナちゃんは以前、神技を使いすぎた反動で一時的に力を使えなくなりましたが、逆にそのお陰で神技自体のレベルも大幅に上がっていたのです! だから、今回は回復も早い!
しかも時守りの力でルナマリアとフィオナちゃんは1年間で2年分のマインドダイブの修行が出来ました。作戦成功の確率が格段に上がった筈です。
……決まりですね!
作戦決行は軍がハーメンスに到達する前日の6月16日の夜! 私とルナマリア、フィオナちゃんはここを出て、ルナマリア城に移動します。
残りのメンバーとハーメンスの民で敵軍を迎え撃って下さい!
ワクール、いいですか? 私達がユウキを復活させるまでは篭城戦で守備を重点に、無理に攻める必要はありません。
私達がユウキを復活させれば、すぐに敵軍の背中にテレポートします。その瞬間に上空に信号弾を放つのでそれを合図に攻めに転じて下さい! その後は挟み撃ちにして短期決戦で終わらせます!」
アンジェラがワクールを見つめて話した。
「分かりました。ユウキが復活すれば我々の勝利という事ですね!」
ワクールが微笑んで応えた。
「ええ! 皆もよく聞いて下さい!
今回の作戦が成功すれば、世界を再び取り戻すキッカケになります。それだけ大事な一戦です。皆、全力を尽くして下さい!
必ず、作戦を成功させましょう!」
アンジェラが皆を見渡して話した。
「「はい、アンジェラ様!」」
皆が力強い瞳で応えた。
◇ ◇ ◇
その頃、天界ではメーデイアが不機嫌そうにオリヴィアの報告を受けていた。
「……や、やはり王の剣とアリシアは生きていたようで、奴らがカレント領土で反乱軍を起こしたようです。そ、それで、シュタット領土の首都ダンダレイトに集まっている上役達はカレント領土の反乱軍の対応に追われて10日前まで軍を起こすのが遅れたようです」
オリヴィアが冷や汗が流しながら話した。
「10日前に軍を起こしたという事はカレント領土の反乱軍の制圧には成功したのか?」
メーデイアがオリヴィアを睨んで尋ねる。
「お、王の剣とアリシアだけでも数百万の軍勢に匹敵します……。反乱軍の首謀者が奴らだと気づいた時点で、余計な戦力は削らずにカレント領土はくれてやれと私が命令しました……」
オリヴィアが膝をついて下を向いたまま応えた。
「……まあ、お前の判断は正しい。
だが、王の剣とアリシアが生きていたというのはどういう事だ? 確かお前は約1年前にその2人は死んだと報告した筈だが……?」
メーデイアの闘気が高まり、オリヴィアの肌がピリつく。
「……申し訳ありません……。成瀬ユウキに深傷を負わされた王の剣は死の穴に落ち、それを追うようにアリシアも死の穴に身を投げたので死んだとばかり……」
オリヴィアが身体を震えさせて話した。
「つまり、お前は死体も確認せずに私に奴らの死亡報告をし、奴らの暗躍を許した。
そのせいで、アンジェラ達を抹殺する為に下界に行かせたヨルムンガンドもいつの間にか処理され、カレント領土を奴らの手に渡す事になってしまった。そういう事だな?」
メーデイアが玉座から立ち上がって尋ねる。
「そ、その通りで御座います……」
オリヴィアが目を瞑って応えた。
ドガーーーーン!!
メーデイアが掌からオリヴィアに向けて巨大な雷を放った。
「きゃああ!!」
オリヴィアが身体を退け反らせて苦しい表情を浮かべる。
「うぅ……」
メーデイアから放たれた雷が止み、オリヴィアがその場に倒れる。
「オリヴィア。お前にはがっかりしたぞ。
知能と魔力については私に近いものがあると感じたからお前を私の右腕として育てあげた。それにも関わらず、こんな大事な時に失敗するとはな……」
メーデイアがオリヴィアを睨みながら話した。
「…………も……、申し訳ありません……。メーデイア様……」
オリヴィアがゆっくり起き上がり、膝をついて首を垂れて話した。
「……まあ良い……。元々、下界の上役達は大して期待していなかった。
今回、300万の軍勢をハーメンスに差し向けたがアンジェラ達が勝つだろう。
少しでも奴らの戦力を削り、約束の日までの奴らの時間を削れたと思えば、少しは役に立ったと思えるか……。
成瀬ユウキがいなくなった事だけが大きな嬉しい誤算といったところだな」
メーデイアが玉座に座り直して話した。
「……メーデイア様。今回の作戦で私も下界に降りる事をお許し下さい! 私がこの身に変えてもアンジェラ達の何人かを葬ってみせます。それを今回の失態の罰として命じて下さい……」
オリヴィアが深く頭を下げて話した。
「それは駄目だ。お前の罰は今先ほど執行された。
奴らはこの1年で更にこれまで以上の実力を身につけた。未だ力を取り戻せていないお前が300万の軍に加わっても大した成果はあげられない。上手くいっても王の盾の誰かを倒せる程度だ。お前には力が完全に解放される約束の日に世界を滅ぼす大切な役目を負ってもらう。今、死なせる訳にはいかん。下界の馬鹿どもは暫く放っておくのだ!」
メーデイアが冷たい瞳でオリヴィアを見つめた。
「し、しかしそれでは私の気が収まりません! どうかメーデイア様! 私に慈悲を……!」
オリヴィアが顔を上げて話した。
それを見たメーデイアは一度瞳を閉じて、少ししてから瞳を開けて応えた。
「オリヴィア……。先ほどは、きつく叱ったがもう気にする必要はない。
私も我慢するから今はお前も我慢するのだ。
……案ずるな。約束の日がくれば、私達の力は全て解放される。その時、我々のこれまでの苦悩や悲しみが全て報われる事になるのだ。
分かったな? オリヴィア……」
メーデイアが普段見せない優しい表情で話したのを見て、オリヴィアは涙を浮かべて頭を下げて応えた。
「はい……、ありがとうございます。メーデイア様……」
◇ ◇ ◇
1998年6月16日 アンナ達の作戦決行の日の夜、皆はユウキが眠る部屋に集まり、最後の確認をしていた。
「いいですか、最後の確認です。
私とルナマリア、フィオナはユウキを連れてこれからテレポートでルナマリア城のエレノアの花が咲く庭まで飛びます。
ハーメンスの周辺には我々の行動を感知されないように私の結界を張っていますが、ルナマリア城の庭に飛んだ時点で我々がハーメンスから移動した事がメーデイア側にバレます。
我々のユウキを復活させるという目的まではバレる事はないと思いますが、メーデイアが刺客を差し向けてくる可能性は高い。その場合は私が対処します!」
アンジェラが皆を見渡して話した。
「アンジェラ様が!? 極光の力を失った状態で、大丈夫ですか?」
アンナが心配そうに尋ねる。
「大丈夫よ、ルナマリア。
極光の力を失ったとしても今の貴方より少し強いくらいよ! 8大災厄の誰かが来ても、貴方達がユウキを心の深淵から救い出す時間くらいは守る事が出来るわ!」
アンジェラが微笑んで応えた。
「殆どの力をメーデイアに持っていかれたのにそんなに……!!」
アンナが驚いて話した。
「アンジェラ様……、感の鋭いメーデイアの事です。ユウキを連れて移動した時点で我々の目的を勘付かれる可能性はないでしょうか……?」
ワクールが真剣な表情で尋ねる。
「ゼロ……とは言いませんが、可能性は限りなく低いでしょう。メーデイアが天界から感知出来るのは生きている者の生体反応のみ。魂がルナマリアの心の深淵に閉じ込められているユウキからは生体反応は発せられません。つまり、エレノアの花の存在も、ユウキを私達が連れて移動する事もメーデイア達には知る事が出来ないのです。
私ですらこの世界にまだエレノアの花が存在している事を知らなかったのです。まさか数千年前に我々の力の衝突で全て残らず消滅したエレノアの花がこの世界に存在しているとは考えられる筈がありません。
メーデイア達がエレノアの花とユウキの存在を知る為には、我々がルナマリア城の庭に移動した事を感知した後、刺客を寄越してその者から報告を受ける事しか不可能なのです。
更に、ユウキが心の深淵に呑まれる以前からルナマリアからエレノアの花を貰っていた事実を知る方法は我々の誰かがメーデイア達にリークしない限りバレる事はありません。その実実を知らない限り、メーデイアは1年前にユウキが心の深淵に溶けたとしか考えられないのです」
アンジェラがワクールに話した。
「なるほど……。確かにそれならばユウキ復活までメーデイア達自身が動く事はまず無いですね」
ワクールが話した。
「ええ……。それにこれは確定事項ではありませんが、アリシアやアレンがカレント領土で反乱軍を立ち上げた事がほぼ間違いないとすると、メーデイア達には戦神ヨルムンガンド消滅とカレント領土の反乱について情報が既に廻っていると考えて間違いないでしょう。
メーデイアはユウキとアレン、アリシアがこの世からいなくなり、戦神で簡単に我々を抹殺出来ると考えていたところにその情報が飛び込んできた!
王の剣やアリシアを警戒する必要があるメーデイアは簡単に大事な8大災厄を動かす事は出来ない! 私がメーデイアならば大事な場面でない限り絶対に8大災厄は動かさず、全ての力が解放される約束の日を待ちます! そちらの方がより、確実に世界を滅ぼせるのですから!」
アンジェラが真剣な表情で話した。
「アンジェラ様、私の時守りの力も完全に回復しました! これでもし、予期せぬ事態が起きても1度だけならやり直す事が出来ます!」
フィオナが微笑みながら話した。
「良かった! これで私が想定した全ての準備が整いました……。いえ……、ソフィアが想定した未来とでも言いましょうか……」
アンジェラがアンナを見つめて話した。
アンナが皆を見渡して口を開く。
「小さい頃の記憶しかないけど、お母様は意味のない事は絶対にしない人でした! そのお母様が私達の為にメモを残してユウキの事を希望と例えました。つまりこの作戦でユウキを救う事が出来れば約束の日を乗り越える最後の希望になり得るという事です!
皆様、私達の希望を勝ち取りましょう!」
アンナが力強く話し終えると、皆、力強く頷いて応えた。
アンジェラはユウキに触れた後、アンナを見つめた。
「それではルナマリア、エレノアの花が咲く庭を思い浮かべて下さい!」
アンジェラが話すと、アンナは頷いて瞳を閉じた。
アンジェラがアンナの頭に手を置き、アンナの頭の中を読み取ると、口を開いた。
「行きます!」
バシュン!
アンジェラ、アンナ、フィオナ、ユウキがその場から消える。
残されたメンバーに声をかけるようにワクールが口を開く。
「それでは予定通り、リリス様と、クシャナは、これから起きる戦闘で傷ついた兵達の治療に当たって下さい。
街の中心部に大型の病院を建設していますので、そこで2人が中心になって各医療班を指揮して下さい」
クシャナが静かに頷く。
リリスはワクールを見つめて口を開く。
「ありがとう、ワクール。私の指示した資機材や人員をこの1年で本当に揃えてくれるとは思っていませんでした。
貴方が私の期待以上の働きをしてくれた以上、私も期待以上の仕事をしなければなりませんね」
「リリス様。貴方がこの場にいてくれて本当に良かった。貴方が後方にいてくれるだけで兵達は軽い怪我なら気にする事なく思う存分戦う事が出来ます!
ハーメンスの勇敢な民達をお願いします」
ワクールが頭を下げたのを見て、リリスが微笑んで話した。
「さあ、クシャナ! 私達の持ち場に急ぎましょう! 今日は忙しくなりますよ」
「分かりました、リリス様」
クシャナが頷いて応えると、2人は急ぐように扉の外に出て行った。
ミアが微笑んで頭を上げたワクールを見つめて口を開く。
「ワクールも随分、感情的な指揮をするようになったね! 昔は冷静過ぎてつまらなかったけど……、今のワクールを見てると、なんだかやる気が湧いてくるよ!」
「……私は……、私のような小物の為に命を張ってくれたエリーナの想いに応えなければならない!
昔の私のままでは駄目なのだ! 彼女から託されたこの国……、いや、この世界の為なら私はいくらでも変わろう!」
ワクールがミアを見つめて話した。
「へぇ~、ワクールなんかアレン様みたいにカッコよくなったよ。
私もワクールの真似じゃないけど、ちょっと頑張ってみようかな!」
ミアは話し終えると窓を開けて飛び出そうとした。そこでワクールが声をかける。
「ミア! 頼んだぞ! 私以外の大きな戦力は今ここにお前しかいない! すまないが、お前が1番きつい最前線に配置した。
勿論、敵兵の戦力は出来るだけ削いで欲しいが、無茶だけはしないでくれ。お前も約束の日に必要な人材なのだから」
「分かってるよ、ワクール! ワクールも無茶しちゃ駄目だよ!」
そう言うとミアは背中に羽を生やして、窓から飛び出して行った。
屋敷に1人残されたワクールは、ミアが飛び去った窓の外を見ながら呟いた。
「今が無茶をする時だ……だったかな。ユウキとルナマリアの口癖は……。
さあ、運命の1日だ!」
◇ ◇ ◇
アンジェラのテレポート魔法でルナマリア城のエレノアの花が咲く庭に移動したアンジェラ、アンナ、フィオナは、幻想的な七色の光を放つ白い花を見つめていた。
「ほ、本当にエレノアの花ですね……! しかもこんなに!!」
アンジェラが感動した様子で話した。
「綺麗……! こんな綺麗な花が存在するなんて……! この花からは暖かな愛が感じられますね。最愛の証とはよく言ったものだわ」
フィオナは目を輝かせながら話した。
「ど、どうでしょうか、アンジェラ様? これだけ有れば、なんとかなりますか?」
アンナがアンジェラを見つめて尋ねる。
「ええ! 問題ありません!
以前、話した通りエレノアの花は、持つもの同士を結びつける力と、魔力や闘気等の身体に内在する力を増幅させる力があります! これだけ有れば、心の深淵に呑まれたユウキが持つエレノアの花との繋がりも、より強く、分かりやすいものになっているでしょう。更に、マインドダイブの力が限界を超えて更に強化されます! ユウキを救い出すのは難しくないでしょう」
アンジェラが微笑んで応えると、アンナとフィオナは顔を見合わせて笑顔に変わった。
エレノアの花の庭に眠るように横たわるユウキを見てアンナが呟く。
「ユウキ、今から助けに行くよ! もうちょっとだから待っててね!」
フィオナがエレノアの花を見つめながらアンジェラに尋ねる。
「アンジェラ様……。エレノアの花の力はそんなに凄いものなのですか?」
「ええ……、光の神レナが直々に創造した神秘の花です!
これだけのエレノアの花があれば、今の私と同じくらい強かったソフィアなら極光の巫女か光の神レナしか使えないとされる異世界時空転送魔法を使用できる程に魔力が強化される事になります!」
アンジェラがフィオナを見つめて話した。
「それじゃあ、ソフィア様がルナマリアを小さい頃に異世界時空転送魔法出来たのはエレノアの花のお陰なのですか!?」
フィオナが驚いて尋ねる。
「それしか考えられないでしょうね。
恐らく、ルナマリアが生まれた時に胸元にエレノアの花が現れなければ、ソフィアはエレノアの花の存在も、使い方も分からなかった筈! ソフィアはエレノアの花がルナマリアを助けた時、オートで先読みの力が働いて遥か未来を見たのでしょう。
それは、7歳になりナスターシャの力で危険な状態に追い込まれる自分の娘の姿と、それを救う為にエレノアの花の特性を利用して異世界時空転送魔法を使用した未来です!
つまり、ルナマリアが生まれて間もない頃、突如出現したエレノアの花がルナマリアの命を救い、7歳の頃のルナマリアをも救う形になった! そして、それは今、我々の最大の希望になっているという事です!」
アンジェラがアンナを見つめて話した。
「一体、誰が何の為に……?」
アンナが困惑した表情で尋ねる。
「……それは分かりません。
……光の神レナは我々の世界に基本的に干渉する事が出来ません。
私とメーデイアにエレノアの花を送った時のように、ルナマリアも特別に助けてくれたのかとも考えましたが、これらの花からは、レナ様とは違う他の誰かの意思を感じます」
アンジェラも考えるように下を向いて話した。
少しの沈黙の後、フィオナが口を開く。
「いくら考えても分からない事はどうしようもありません。とりあえず今はユウキお兄ちゃんを助ける事を急ぎましょう!」
アンジェラがフィオナを見つめて頷く。
「そうですね。フィオナちゃんの言う通りです。今はユウキの魂を救い出す事を優先しましょう」
アンナも頷くと、アンナとフィオナはユウキが横たわる側まで移動し、瞳を閉じて祈るように魔力を高め始めた。
エレノアの花が2人の想いと魔力に反応し、今までよりも多くの光を放ち始める。
2人の魔力が最大まで高まり、ユウキの胸の内ポケットにあるエレノアの花が光輝いた事を確認し、2人の背後で様子を見ていたアンジェラが叫ぶ。
「庭のエレノアの花とユウキの持つエレノアの花のリンクが繋がりました!
瞳を開けて、目の前のエレノアの花をどれか1本ずつ摘み取って下さい!」
2人はアンジェラに言われた通り瞳を開け、目の前のエレノアの花を1本ずつ摘み取る。
「あとはマインドダイブを唱えて、エレノアの花の光が指し示す方に行けばユウキがいる筈です! 2人とも、頼みましたよ!」
アンジェラがそう叫び、アンナとフィオナが頷いた時だった。
3人の目の前に下級時空間転移魔法が出現し、邪悪で巨大なエネルギーが発せられる。
「下級時空間転移魔法!? まさか、8大災厄の誰か!?」
アンジェラがアンナとフィオナの前に移動して叫ぶ。
アンナとフィオナも下級時空間転移魔法の方を見つめて冷や汗を流す。
次の瞬間、下級時空間転移魔法の中から出てきた予想外の人物を見て、3人は同時に叫んだ。
「「メ、メーデイア!!」」
「アンジェラ様、既に上役達がシュタット領土で起こした300万の軍は、アナスタス領土に侵入しました。残り7日程度でこのハーメンスに到達する予定です」
ワクールがアンジェラを見つめて話した。
「わかりました。予想通りですね!
私達の潜伏先がメーデイアや上役達にバレてから、彼らが軍を送るのに半年もかかったということは、やはり各地で民が立ち上がり反乱が起きたという事です。
メーデイア達は戦神以外、約束の日まで簡単に動けない。更に、ユウキが死んだという情報をどこかから得たのでしょう。だから上役達に軍を起こして我々を追い詰めるように命令した筈です。
それにも関わらず、先日まで軍を起こせなかった理由は上役達にとって軍を起こせない程のイレギュラーな事態が起きたとしか考えられません」
アンジェラが話した。
「やはり、アレンとアリシアがカレント領土で民を率いて反乱を起こしたと考えていいのでしょうか?」
リリスがアンジェラに尋ねた。
「ええ、ほぼ間違い無いかと……。
リリス、クシャナ、ミアちゃんがアレンとアリシアが生きている事を信じて捜索してくれた事が大きかった!
半年前のヴェルナ村での報告がなければ、メーデイア達にここがバレた時点で、焦って作戦を早めてしまうところでした」
アンジェラが微笑んで応える。
「まさか、あんな辺境の村で生きてたなんてね! それに、私達を殺す為に差し向けた戦神ヨルムンガンドを倒しちゃってたんだから、流石、アリシア様とアレン様だよ!」
ミアが笑顔で応えた。
「アリシア様とアレン様は戦神ヨルムンガンドを倒してすぐにカレント領土に向かわれましたが、我々が捜索しにくる事も予想しておられました。村人に我々が尋ねに来た際にカレント領土を統一しに行く事を言伝してありました」
クシャナがアンジェラを見て話した。
「……アリシアとアレンはこうなる事を分かっていたのでしょうね。だから、我々と合流する前に急いでカレント領土に向かった。
上役達の目を自分達に向けて、軍を起こすのを半年近く遅らせてくれた。
やはり、あの2人の存在は大きいですね」
アンジェラが微笑みながら話した。
「お陰で私とフィオナのマインドダイブのレベルは99のMAXで作戦を遂行出来ます!」
アンナも微笑んで話した。
「あとは、ユウキお兄ちゃんをルナマリア城のエレノアの花が咲く庭まで運んでマインドダイブすれば、心の深淵に呑まれたユウキお兄ちゃんを見つけられるって訳ね!」
フィオナが嬉しそうに話した。
「フィオナちゃん、時守りの力が回復するまであと何日くらいかかりそうかしら?」
アンジェラが尋ねる。
「以前、力を使えなくなった時は2年半毎日使い続けて、1ヶ月程度、神技どころか闘気や魔力すら使えなくなりました。
しかし、今回アンジェラ様に言われた通り一年間使い続けましたが、比較的身体の影響は小さいので5日もあれば、元に戻ると思います」
フィオナがアンジェラを見つめて応えた。
「思った通りで良かった! やはり、フィオナちゃんは以前、神技を使いすぎた反動で一時的に力を使えなくなりましたが、逆にそのお陰で神技自体のレベルも大幅に上がっていたのです! だから、今回は回復も早い!
しかも時守りの力でルナマリアとフィオナちゃんは1年間で2年分のマインドダイブの修行が出来ました。作戦成功の確率が格段に上がった筈です。
……決まりですね!
作戦決行は軍がハーメンスに到達する前日の6月16日の夜! 私とルナマリア、フィオナちゃんはここを出て、ルナマリア城に移動します。
残りのメンバーとハーメンスの民で敵軍を迎え撃って下さい!
ワクール、いいですか? 私達がユウキを復活させるまでは篭城戦で守備を重点に、無理に攻める必要はありません。
私達がユウキを復活させれば、すぐに敵軍の背中にテレポートします。その瞬間に上空に信号弾を放つのでそれを合図に攻めに転じて下さい! その後は挟み撃ちにして短期決戦で終わらせます!」
アンジェラがワクールを見つめて話した。
「分かりました。ユウキが復活すれば我々の勝利という事ですね!」
ワクールが微笑んで応えた。
「ええ! 皆もよく聞いて下さい!
今回の作戦が成功すれば、世界を再び取り戻すキッカケになります。それだけ大事な一戦です。皆、全力を尽くして下さい!
必ず、作戦を成功させましょう!」
アンジェラが皆を見渡して話した。
「「はい、アンジェラ様!」」
皆が力強い瞳で応えた。
◇ ◇ ◇
その頃、天界ではメーデイアが不機嫌そうにオリヴィアの報告を受けていた。
「……や、やはり王の剣とアリシアは生きていたようで、奴らがカレント領土で反乱軍を起こしたようです。そ、それで、シュタット領土の首都ダンダレイトに集まっている上役達はカレント領土の反乱軍の対応に追われて10日前まで軍を起こすのが遅れたようです」
オリヴィアが冷や汗が流しながら話した。
「10日前に軍を起こしたという事はカレント領土の反乱軍の制圧には成功したのか?」
メーデイアがオリヴィアを睨んで尋ねる。
「お、王の剣とアリシアだけでも数百万の軍勢に匹敵します……。反乱軍の首謀者が奴らだと気づいた時点で、余計な戦力は削らずにカレント領土はくれてやれと私が命令しました……」
オリヴィアが膝をついて下を向いたまま応えた。
「……まあ、お前の判断は正しい。
だが、王の剣とアリシアが生きていたというのはどういう事だ? 確かお前は約1年前にその2人は死んだと報告した筈だが……?」
メーデイアの闘気が高まり、オリヴィアの肌がピリつく。
「……申し訳ありません……。成瀬ユウキに深傷を負わされた王の剣は死の穴に落ち、それを追うようにアリシアも死の穴に身を投げたので死んだとばかり……」
オリヴィアが身体を震えさせて話した。
「つまり、お前は死体も確認せずに私に奴らの死亡報告をし、奴らの暗躍を許した。
そのせいで、アンジェラ達を抹殺する為に下界に行かせたヨルムンガンドもいつの間にか処理され、カレント領土を奴らの手に渡す事になってしまった。そういう事だな?」
メーデイアが玉座から立ち上がって尋ねる。
「そ、その通りで御座います……」
オリヴィアが目を瞑って応えた。
ドガーーーーン!!
メーデイアが掌からオリヴィアに向けて巨大な雷を放った。
「きゃああ!!」
オリヴィアが身体を退け反らせて苦しい表情を浮かべる。
「うぅ……」
メーデイアから放たれた雷が止み、オリヴィアがその場に倒れる。
「オリヴィア。お前にはがっかりしたぞ。
知能と魔力については私に近いものがあると感じたからお前を私の右腕として育てあげた。それにも関わらず、こんな大事な時に失敗するとはな……」
メーデイアがオリヴィアを睨みながら話した。
「…………も……、申し訳ありません……。メーデイア様……」
オリヴィアがゆっくり起き上がり、膝をついて首を垂れて話した。
「……まあ良い……。元々、下界の上役達は大して期待していなかった。
今回、300万の軍勢をハーメンスに差し向けたがアンジェラ達が勝つだろう。
少しでも奴らの戦力を削り、約束の日までの奴らの時間を削れたと思えば、少しは役に立ったと思えるか……。
成瀬ユウキがいなくなった事だけが大きな嬉しい誤算といったところだな」
メーデイアが玉座に座り直して話した。
「……メーデイア様。今回の作戦で私も下界に降りる事をお許し下さい! 私がこの身に変えてもアンジェラ達の何人かを葬ってみせます。それを今回の失態の罰として命じて下さい……」
オリヴィアが深く頭を下げて話した。
「それは駄目だ。お前の罰は今先ほど執行された。
奴らはこの1年で更にこれまで以上の実力を身につけた。未だ力を取り戻せていないお前が300万の軍に加わっても大した成果はあげられない。上手くいっても王の盾の誰かを倒せる程度だ。お前には力が完全に解放される約束の日に世界を滅ぼす大切な役目を負ってもらう。今、死なせる訳にはいかん。下界の馬鹿どもは暫く放っておくのだ!」
メーデイアが冷たい瞳でオリヴィアを見つめた。
「し、しかしそれでは私の気が収まりません! どうかメーデイア様! 私に慈悲を……!」
オリヴィアが顔を上げて話した。
それを見たメーデイアは一度瞳を閉じて、少ししてから瞳を開けて応えた。
「オリヴィア……。先ほどは、きつく叱ったがもう気にする必要はない。
私も我慢するから今はお前も我慢するのだ。
……案ずるな。約束の日がくれば、私達の力は全て解放される。その時、我々のこれまでの苦悩や悲しみが全て報われる事になるのだ。
分かったな? オリヴィア……」
メーデイアが普段見せない優しい表情で話したのを見て、オリヴィアは涙を浮かべて頭を下げて応えた。
「はい……、ありがとうございます。メーデイア様……」
◇ ◇ ◇
1998年6月16日 アンナ達の作戦決行の日の夜、皆はユウキが眠る部屋に集まり、最後の確認をしていた。
「いいですか、最後の確認です。
私とルナマリア、フィオナはユウキを連れてこれからテレポートでルナマリア城のエレノアの花が咲く庭まで飛びます。
ハーメンスの周辺には我々の行動を感知されないように私の結界を張っていますが、ルナマリア城の庭に飛んだ時点で我々がハーメンスから移動した事がメーデイア側にバレます。
我々のユウキを復活させるという目的まではバレる事はないと思いますが、メーデイアが刺客を差し向けてくる可能性は高い。その場合は私が対処します!」
アンジェラが皆を見渡して話した。
「アンジェラ様が!? 極光の力を失った状態で、大丈夫ですか?」
アンナが心配そうに尋ねる。
「大丈夫よ、ルナマリア。
極光の力を失ったとしても今の貴方より少し強いくらいよ! 8大災厄の誰かが来ても、貴方達がユウキを心の深淵から救い出す時間くらいは守る事が出来るわ!」
アンジェラが微笑んで応えた。
「殆どの力をメーデイアに持っていかれたのにそんなに……!!」
アンナが驚いて話した。
「アンジェラ様……、感の鋭いメーデイアの事です。ユウキを連れて移動した時点で我々の目的を勘付かれる可能性はないでしょうか……?」
ワクールが真剣な表情で尋ねる。
「ゼロ……とは言いませんが、可能性は限りなく低いでしょう。メーデイアが天界から感知出来るのは生きている者の生体反応のみ。魂がルナマリアの心の深淵に閉じ込められているユウキからは生体反応は発せられません。つまり、エレノアの花の存在も、ユウキを私達が連れて移動する事もメーデイア達には知る事が出来ないのです。
私ですらこの世界にまだエレノアの花が存在している事を知らなかったのです。まさか数千年前に我々の力の衝突で全て残らず消滅したエレノアの花がこの世界に存在しているとは考えられる筈がありません。
メーデイア達がエレノアの花とユウキの存在を知る為には、我々がルナマリア城の庭に移動した事を感知した後、刺客を寄越してその者から報告を受ける事しか不可能なのです。
更に、ユウキが心の深淵に呑まれる以前からルナマリアからエレノアの花を貰っていた事実を知る方法は我々の誰かがメーデイア達にリークしない限りバレる事はありません。その実実を知らない限り、メーデイアは1年前にユウキが心の深淵に溶けたとしか考えられないのです」
アンジェラがワクールに話した。
「なるほど……。確かにそれならばユウキ復活までメーデイア達自身が動く事はまず無いですね」
ワクールが話した。
「ええ……。それにこれは確定事項ではありませんが、アリシアやアレンがカレント領土で反乱軍を立ち上げた事がほぼ間違いないとすると、メーデイア達には戦神ヨルムンガンド消滅とカレント領土の反乱について情報が既に廻っていると考えて間違いないでしょう。
メーデイアはユウキとアレン、アリシアがこの世からいなくなり、戦神で簡単に我々を抹殺出来ると考えていたところにその情報が飛び込んできた!
王の剣やアリシアを警戒する必要があるメーデイアは簡単に大事な8大災厄を動かす事は出来ない! 私がメーデイアならば大事な場面でない限り絶対に8大災厄は動かさず、全ての力が解放される約束の日を待ちます! そちらの方がより、確実に世界を滅ぼせるのですから!」
アンジェラが真剣な表情で話した。
「アンジェラ様、私の時守りの力も完全に回復しました! これでもし、予期せぬ事態が起きても1度だけならやり直す事が出来ます!」
フィオナが微笑みながら話した。
「良かった! これで私が想定した全ての準備が整いました……。いえ……、ソフィアが想定した未来とでも言いましょうか……」
アンジェラがアンナを見つめて話した。
アンナが皆を見渡して口を開く。
「小さい頃の記憶しかないけど、お母様は意味のない事は絶対にしない人でした! そのお母様が私達の為にメモを残してユウキの事を希望と例えました。つまりこの作戦でユウキを救う事が出来れば約束の日を乗り越える最後の希望になり得るという事です!
皆様、私達の希望を勝ち取りましょう!」
アンナが力強く話し終えると、皆、力強く頷いて応えた。
アンジェラはユウキに触れた後、アンナを見つめた。
「それではルナマリア、エレノアの花が咲く庭を思い浮かべて下さい!」
アンジェラが話すと、アンナは頷いて瞳を閉じた。
アンジェラがアンナの頭に手を置き、アンナの頭の中を読み取ると、口を開いた。
「行きます!」
バシュン!
アンジェラ、アンナ、フィオナ、ユウキがその場から消える。
残されたメンバーに声をかけるようにワクールが口を開く。
「それでは予定通り、リリス様と、クシャナは、これから起きる戦闘で傷ついた兵達の治療に当たって下さい。
街の中心部に大型の病院を建設していますので、そこで2人が中心になって各医療班を指揮して下さい」
クシャナが静かに頷く。
リリスはワクールを見つめて口を開く。
「ありがとう、ワクール。私の指示した資機材や人員をこの1年で本当に揃えてくれるとは思っていませんでした。
貴方が私の期待以上の働きをしてくれた以上、私も期待以上の仕事をしなければなりませんね」
「リリス様。貴方がこの場にいてくれて本当に良かった。貴方が後方にいてくれるだけで兵達は軽い怪我なら気にする事なく思う存分戦う事が出来ます!
ハーメンスの勇敢な民達をお願いします」
ワクールが頭を下げたのを見て、リリスが微笑んで話した。
「さあ、クシャナ! 私達の持ち場に急ぎましょう! 今日は忙しくなりますよ」
「分かりました、リリス様」
クシャナが頷いて応えると、2人は急ぐように扉の外に出て行った。
ミアが微笑んで頭を上げたワクールを見つめて口を開く。
「ワクールも随分、感情的な指揮をするようになったね! 昔は冷静過ぎてつまらなかったけど……、今のワクールを見てると、なんだかやる気が湧いてくるよ!」
「……私は……、私のような小物の為に命を張ってくれたエリーナの想いに応えなければならない!
昔の私のままでは駄目なのだ! 彼女から託されたこの国……、いや、この世界の為なら私はいくらでも変わろう!」
ワクールがミアを見つめて話した。
「へぇ~、ワクールなんかアレン様みたいにカッコよくなったよ。
私もワクールの真似じゃないけど、ちょっと頑張ってみようかな!」
ミアは話し終えると窓を開けて飛び出そうとした。そこでワクールが声をかける。
「ミア! 頼んだぞ! 私以外の大きな戦力は今ここにお前しかいない! すまないが、お前が1番きつい最前線に配置した。
勿論、敵兵の戦力は出来るだけ削いで欲しいが、無茶だけはしないでくれ。お前も約束の日に必要な人材なのだから」
「分かってるよ、ワクール! ワクールも無茶しちゃ駄目だよ!」
そう言うとミアは背中に羽を生やして、窓から飛び出して行った。
屋敷に1人残されたワクールは、ミアが飛び去った窓の外を見ながら呟いた。
「今が無茶をする時だ……だったかな。ユウキとルナマリアの口癖は……。
さあ、運命の1日だ!」
◇ ◇ ◇
アンジェラのテレポート魔法でルナマリア城のエレノアの花が咲く庭に移動したアンジェラ、アンナ、フィオナは、幻想的な七色の光を放つ白い花を見つめていた。
「ほ、本当にエレノアの花ですね……! しかもこんなに!!」
アンジェラが感動した様子で話した。
「綺麗……! こんな綺麗な花が存在するなんて……! この花からは暖かな愛が感じられますね。最愛の証とはよく言ったものだわ」
フィオナは目を輝かせながら話した。
「ど、どうでしょうか、アンジェラ様? これだけ有れば、なんとかなりますか?」
アンナがアンジェラを見つめて尋ねる。
「ええ! 問題ありません!
以前、話した通りエレノアの花は、持つもの同士を結びつける力と、魔力や闘気等の身体に内在する力を増幅させる力があります! これだけ有れば、心の深淵に呑まれたユウキが持つエレノアの花との繋がりも、より強く、分かりやすいものになっているでしょう。更に、マインドダイブの力が限界を超えて更に強化されます! ユウキを救い出すのは難しくないでしょう」
アンジェラが微笑んで応えると、アンナとフィオナは顔を見合わせて笑顔に変わった。
エレノアの花の庭に眠るように横たわるユウキを見てアンナが呟く。
「ユウキ、今から助けに行くよ! もうちょっとだから待っててね!」
フィオナがエレノアの花を見つめながらアンジェラに尋ねる。
「アンジェラ様……。エレノアの花の力はそんなに凄いものなのですか?」
「ええ……、光の神レナが直々に創造した神秘の花です!
これだけのエレノアの花があれば、今の私と同じくらい強かったソフィアなら極光の巫女か光の神レナしか使えないとされる異世界時空転送魔法を使用できる程に魔力が強化される事になります!」
アンジェラがフィオナを見つめて話した。
「それじゃあ、ソフィア様がルナマリアを小さい頃に異世界時空転送魔法出来たのはエレノアの花のお陰なのですか!?」
フィオナが驚いて尋ねる。
「それしか考えられないでしょうね。
恐らく、ルナマリアが生まれた時に胸元にエレノアの花が現れなければ、ソフィアはエレノアの花の存在も、使い方も分からなかった筈! ソフィアはエレノアの花がルナマリアを助けた時、オートで先読みの力が働いて遥か未来を見たのでしょう。
それは、7歳になりナスターシャの力で危険な状態に追い込まれる自分の娘の姿と、それを救う為にエレノアの花の特性を利用して異世界時空転送魔法を使用した未来です!
つまり、ルナマリアが生まれて間もない頃、突如出現したエレノアの花がルナマリアの命を救い、7歳の頃のルナマリアをも救う形になった! そして、それは今、我々の最大の希望になっているという事です!」
アンジェラがアンナを見つめて話した。
「一体、誰が何の為に……?」
アンナが困惑した表情で尋ねる。
「……それは分かりません。
……光の神レナは我々の世界に基本的に干渉する事が出来ません。
私とメーデイアにエレノアの花を送った時のように、ルナマリアも特別に助けてくれたのかとも考えましたが、これらの花からは、レナ様とは違う他の誰かの意思を感じます」
アンジェラも考えるように下を向いて話した。
少しの沈黙の後、フィオナが口を開く。
「いくら考えても分からない事はどうしようもありません。とりあえず今はユウキお兄ちゃんを助ける事を急ぎましょう!」
アンジェラがフィオナを見つめて頷く。
「そうですね。フィオナちゃんの言う通りです。今はユウキの魂を救い出す事を優先しましょう」
アンナも頷くと、アンナとフィオナはユウキが横たわる側まで移動し、瞳を閉じて祈るように魔力を高め始めた。
エレノアの花が2人の想いと魔力に反応し、今までよりも多くの光を放ち始める。
2人の魔力が最大まで高まり、ユウキの胸の内ポケットにあるエレノアの花が光輝いた事を確認し、2人の背後で様子を見ていたアンジェラが叫ぶ。
「庭のエレノアの花とユウキの持つエレノアの花のリンクが繋がりました!
瞳を開けて、目の前のエレノアの花をどれか1本ずつ摘み取って下さい!」
2人はアンジェラに言われた通り瞳を開け、目の前のエレノアの花を1本ずつ摘み取る。
「あとはマインドダイブを唱えて、エレノアの花の光が指し示す方に行けばユウキがいる筈です! 2人とも、頼みましたよ!」
アンジェラがそう叫び、アンナとフィオナが頷いた時だった。
3人の目の前に下級時空間転移魔法が出現し、邪悪で巨大なエネルギーが発せられる。
「下級時空間転移魔法!? まさか、8大災厄の誰か!?」
アンジェラがアンナとフィオナの前に移動して叫ぶ。
アンナとフィオナも下級時空間転移魔法の方を見つめて冷や汗を流す。
次の瞬間、下級時空間転移魔法の中から出てきた予想外の人物を見て、3人は同時に叫んだ。
「「メ、メーデイア!!」」
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