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第8章

獣人族の村 フランテール

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 ディアナとフレイヤはアンナ達と別れて1ヶ月が過ぎた頃、ようやく目的地に辿り着いていた。
「やっと着いたね! 約18年ぶりの故郷に……!!」
 フレイヤが村の入り口から久しぶりの故郷を眺めて話した。
 フレイヤが隣に立つディアナを見つめると、ディアナは懐かしむように村を見つめていた。

「どうだい? 久しぶりの故郷は……?」
 フレイヤが微笑んで尋ねる。

「……正直、ここに来るまで本当に故郷に帰れるか不安だったが……、こうして目にすると、帰ってきた実感が湧いてきたよ」
 ディアナが静かに目を閉じて応える。

 ディアナとフレイヤが村の入り口にある門に近づくと門番が口を開いた。
「止まれ! お前ら見かけない奴らだな……。同じ種類の獣人族みたいだが、どこから来た?」
 
 フレイヤが門番の男を見て、興奮気味に尋ねる。
「もしかしてウィル兄ちゃん……?」

「なっ、なぜ俺の名前を知っている!?」
 茶色の毛色をした獣人族ウィルが驚いて尋ねる。

 驚いたウィルを見て、フレイヤが嬉しそうに話した。
「裏山を3人でよく遊んだでしょ? コイツがいつも途中から居なくなって私とウィル兄ちゃんが探し回る羽目になったじゃない」

「む、昔の事をわざわざ言うな!!」
 ディアナが顔を真っ赤にして話した。

「お、お前ら……!! フレイヤとリリィか……!?」
 ウィルが驚いて指差しながら話した。

「せーかい! 父さんには1ヶ月以上前に手紙で知らせていたから、村に入る許可も取ってあるよ。
ほら、これが許可証!」
 フレイヤは腰袋から丸めてあった村へ入る為の許可証を取り出して広げて見せた。

「お、お前ら……! よく帰ってきたな!
キースさんから聞いてたが、全然帰ってこないから心配してたんだぞ!」
 ウィルが両手を広げてディアナとフレイヤを抱きしめた。

 ディアナはフレイヤの話から故郷に帰れば宿す者ヴァイスは英雄視され、歓迎されるという事は頭では分かっていたが、今こうして本当に歓迎されるまで、心の底から信じる事が出来なかった。
 ディアナがフレイヤを見つめるとフレイヤが微笑んで頷いた。
 それを見たディアナはもう一度、故郷の村を見つめて呟いた。
「ただいま……!」



 ディアナ、フレイヤはウィルと別れた後、村の中に入り、真っ直ぐ自分達の家に向かった。
 ディアナとフレイヤの故郷フランテールは、カレント領土の森や山に囲まれた辺境の地にあり、ディアナとフレイヤが幼い頃は水道、電気、ガス等のライフラインは無く、水は川に汲みに行き、明かりはランプや蝋燭の火が殆どで、料理や風呂に関しても火を焚いて生活する昔ながらのスタイルだったが、キースが大長老の座に着いて以降、首都圏に優秀な人員を派遣し、近代文化を学ばせて村を大きく発展させていた。
 ディアナとフレイヤは昔の村の風景を思い出しながら、水道、電気、ガスが整備された現状を見て驚きながらも、キースの活躍により幸せそうな村人の表情を見て誇らしい気分になっていた。
 フランテールの様子が変わっているポイントはそれだけでなく、本来この村は、この村で生まれた犬や猫に似た耳や尻尾を生やした獣人族しか立ち入る事が許されていなかったが、最近は近隣の別の種類の獣人族達との交流も盛んになり、フランテールにも多くの種類の獣人族が出入りしていた。

「随分、ここも変わったね……。武族間や他の種類の獣人族との対立、そして宿す者ヴァイス制度を撤廃し、過去から今に至る宿す者ヴァイスを英雄視する流れはまさに革新的だ!」
 フレイヤが喜んだ表情で話した。

「実際は私達は今はもうナスターシャにフェンリルを引き抜かれて宿す者ヴァイスではなくなったがな……」
 ディアナが微笑んで話した。

「まあね……、でもあれだけ苦労したんだ。その事は黙っておいて、少しの間だけでも英雄視されていいだろ?」
「全く……。バレた時、村人達を落胆させても知らんぞ」
 ディアナがため息を吐いて話した。

「はは……。まあ、それはそれで面白いんだけどね」
 フレイヤはそう応えると、懐かしい建物が視界に入り、目を輝かせて話した。
「リリィ、見て! あそこだ!」
 フレイヤは嬉しそうに指差すと、指差した小さな家の方に走り出した。

「あ、待て……! ったく、あいつは落ち着きがなくて困る」
 ディアナが呆れたようにフレイヤの後に続いて走り出した。

 すぐにフレイヤが家の玄関の扉をノックする。

 コンコン……!

 しかし、中から返事がない。
(……? 留守かな? 父さんが外出してても母さんがいつも家にいるイメージだったんだけど……)
 フレイヤが不思議に思い、もう一度ノックする。

 コンコン……!

 すると今度は中からヒソヒソ話が聞こえてきた。
「どうしよう、リム。またノックしてきたよ。扉、開けても良いかな?」

「待って、レム。ダイアナおばさんの命を狙いに来たパンダ族の奴らかもしれない!
まずはどんな奴か確かめよう!」

(子供の声……?)
 フレイヤが不思議に思っていると中からまた声が聞こえて来る。
「この家に何用だ?」
「この家に何用だ?」
 全く同じ2人からの質問がフレイヤとディアナに聞こえる。
 フレイヤとディアナが顔を合わせた後、フレイヤが扉を向き直って応える。
「ここは大長老キース様の家だろう? そのキース様からここに来るように招かれたから来たのさ。調印の書もここにある」

 フレイヤが応えるとまた、少しの沈黙の後、中から声が聞こえる。
「どうしよう、リム。なんかキースおじさんの知り合いみたいだよ。やっぱり扉、開けた方がいいんじゃないかな?」
「待って、レム。こいつ嘘を吐いてるかもしれない! ちゃんと確かめなきゃ!」
「そうか! そうだね。こいつ嘘吐いてるかもしれないもんね」

(こいつ……?)
 攻撃的な口調に引っかかりながらフレイヤは少し微笑むとまた、中から声が聞こえる。
「調印の書を扉の下からこっちによこせ!」
「こっちによこせ!」

 フレイヤが微笑みながら調印の書を扉の下の僅かなスペースから通して渡す。
「はい、これが調印の書だよ。信じてくれたかい?」

 また少しの沈黙の後、中から声が聞こえる。
「どうしよう、リム。本当に渡してきたよ。これはもう扉開けちゃってもいいよね?」
「待って、レム。この調印の書は偽物かもしれない! 本物かどうか分かるまで駄目だよ」
「そうか! こいつ偽物を使った可能性があるもんね」
「うーん、リムが思うにこれは偽物っぽいな……」
「リムが言うなら偽物だよ! やっぱりこいつ悪者だよ!」
「悪者? そうか、レムが言うんならこいつ悪者だね!」
「「よく聞け、悪者! お前はここを通さない!」」
 同時に2人の子供の声が響いた。

(駄目だ、この子ら。話が全く通じない……)
 フレイヤが呆れた表情に変わった瞬間、背後から殺気を感じ振り返る。
「リリィ!?」
 ディアナが闘気を高めて槍を構えているのを見て、フレイヤが慌てて叫んだ。

「話が通じないのであれば仕方ない! 扉を壊すまでだ!」
「馬鹿! 扉は直せても中にいる子供も吹き飛ぶぞ!」
 フレイヤが慌てて止める。

「手加減するさ。それに物分かりの悪い子供には多少痛みを与えてでも教育してやらなければならない」
 ディアナが突きを繰り出そうとした瞬間、中から別の声が聞こえる。

「全く貴方達……!!」
 透き通るような女性の声が響いた。

 ゴツっ! ゴツっ!
「ひっ、酷いよ! 頭をぶつ事ないでしょ?」
「い、痛いよ~」

「いきなり客人を追い返す奴があるかい!
いいからここを開けなさい!」

「はーい、……もう! レムのせいだよ!」
「えー! リムが開けちゃ駄目だって言ったんじゃないか!」
「レムが悪者だって決めつけたんだろ!」

「貴方達、いい加減にしなさい!」

「「は、はい!!」」

 ギィイイ……!

 玄関の扉が開き、中からディアナによく似た白髪の獣人族が出てきた。

「母さん! ただいま!」
 フレイヤが笑顔で話した。
 ディアナが構えを解いて、驚いた表情でダイアナを見つめる。

「やっぱり、貴方達だったんだね! よく帰ってきてくれたね」
 家の中から出てきたダイアナがディアナとフレイヤを見て、涙を浮かべて話した後、フレイヤに抱きつく。
 ダイアナはすぐに顔を上げて驚いているディアナの顔を見て涙を流して話した。
「リリィ……。本当に大きくなったわね……。幼い頃、次元の歪みに飲み込まれてからずっと心配していたのよ」
 ダイアナがディアナに駆け寄り抱きしめる。
 ディアナは幼い頃、こうして母に抱きしめられていた頃を思い出し、涙を流して呟いた。
「ちゃんと帰ってきたよ、母さん。心配かけてごめんね……」

 それを聞いたダイアナは更に涙をポロポ零して話した。
「ううん……、いいの。貴方が無事ならそれで」

 2人は暫く家の前で抱き合った。
 少しして家の中から、ひょっこり2人の獣人族の子供が顔を出して話しかける。
「あー! ダイアナおばさんを泣かしてるー! ねー、ねー、リム! やっぱりこいつら悪者だよ!」
「ほんとだ! やっぱり私が言った通りだっただろう?」
「えー? 悪者だって先に言ったのはレムだよ!」
「えっ!? そうだっけ?」

 2人の可愛いらしい子供の獣人族を見て、フレイヤがダイアナに尋ねる。
「母さん、この子らなに? まさか、父さんと母さんの新しい子供?」

「ははは……。違うわよ。この子達は隣の家に住んでるユキさん家の子供。グレーの毛色の子がリム。青色の子がレムっていうの。
実は今、私が珍しい病気にかかっちゃってて、それに対応する薬が切れているの。それでキースがその薬草を取りに行ったんだけど、それを聞きつけたこの子らが寝込んでた私の身の回りの世話をするって聞かなくてね……。普段はイタズラ大好きな悪ガキと近隣の村でも有名なんだけど、困った人を見かけると急に世話焼きになるのよ。可愛いでしょう?」
 ダイアナが苦笑いしながら応えた。

「母さんが病気……!? 大丈夫なの?」
 フレイヤが心配そうに尋ねる。

「大丈夫よ。珍しい病気って言ってもよっぽどの事がない限り死に至るような病気じゃないから。キースが持ち帰ってくる薬を飲めばすぐに良くなるわ」
 ダイアナが微笑んで応えた。

「でもでも、ダイアナおばさん、寝てなきゃ駄目だよ! ねー、レム!」
 リムが心配そうに話した。

「うんうん、早く治さないと私達を特訓してくれる人がいなくなっちゃうよ!」
 レムも心配そうに話した。

 ディアナがリムレムに寄ってしゃがみ2人に話しかける。
「2人が母さんの事見ててくれたんだね。本当にありがとう」

 ディアナの微笑んだ顔を見てリムレムが顔を見合わせて話す。
「レム、このお姉ちゃんは良い人だ!」
「うん、うん。あっちのお兄ちゃんとは違うね!」

(お前ら、そのから玄関の扉ごと吹き飛ばされるところだったんだぞ……)
 フレイヤが呆れた表情でリムレムを見つめた。



 軽い挨拶を済ませた後、全員家の中に入った。そこでフレイヤは突然、故郷に帰る事になった経緯を簡単に話した。
「……なるほど……、その片翼の女神かたよくのめがみメーデイアを倒す為に、私とキースに協力して欲しいという事ね……。
…………喜んで協力するわって言いたいんだけどね」
 ダイアナがベッドに上半身を起こしたまま話した。

「やっぱり村の事で忙しいかな……?」
 フレイヤが表情を曇らせて尋ねる。

「ううん、村の事をしながら貴方達の修行を見る事は出来ると思うけど、まずは私の病気が治らないとどうにもならないからね……」
 ダイアナが苦笑いしながら応えた。

「勿論、母さんの病気が治ってからで良いんだよ。私もディアナも当分、家の事をしながら母さんを看病するし」
 フレイヤが応える。

「それがちょっと心配な事があってね……」
 ダイアナが下を向いて話した。

「心配な事……?」
 フレイヤが尋ねる。

「さっき話した通りキースは私の為にタラキナ山まで薬草を取りに行ったんだけど帰って来ないんだよ」
 ダイアナがフレイヤを見つめて話した。

「……タラキナ山ならここから大人の足でも半日はかかるし、季節に応じて薬草の生える位置が変わるから丸一日帰らないんじゃない?」
 フレイヤが考えながら話した。

「……それがキースが出かけて今日で4日目なんだよ」
 ダイアナが顔を上げて話した。

「よ、4日目!? 確かにそれはおかしいね……。寄り道するにしても父さんが家を4日も空けるなんて考えにくい……。
……何かトラブルに巻き込まれたのかもしれない!」

「貴方もそう思う? ……ねえ、フレイヤ。帰ってきて早々、悪いんだけど、キースの捜索に行ってもらえないかしら? あの人の事だから大丈夫とは思うのだけど、一応、貴方が行ってくれたら私も安心だわ」
 ダイアナが申し訳なさそうに頼んだ。

「だから、その話を出すのを渋ってたの母さん? 初めからその話をしてくれてたらすぐにでも父さんを探しに行ってたよ。
大丈夫! 私が必ず父さんをここに連れて帰るよ!」
 フレイヤが微笑んで応えた。

「ありがとう、フレイヤ。助かるわ」
 ダイアナも微笑んで話した。

 リムレムの遊び相手をしながら、話を聞いていたディアナが口を開く。
「それなら私も行こう!」

「いや、リリィは母さんを看てやっててくれ。父さんを連れ帰るだけなら私だけで十分だ」
 フレイヤがディアナを見て応えた。

「……しかし、もし父さんが勝てないような相手がこの地にいたとしたらお前だけでは危険だろう? やはり私も行くべきでは?」
 ディアナが心配そうに話した。

「だからだよ、リリィ。もし父さんや私にでも勝てないような化け物がタラキナ山にいるとしたら、リリィまで危険な目に遭う必要はないよ。もし私が3日以内に父さんを連れて帰って来なかった場合はすぐに近隣の村の獣人族達に応援を要請するんだ」
 フレイヤが真剣な表情で話した。
 それを聞いたディアナは納得いかない表情で下を向いて黙った。
 ディアナの顔を見てダイアナが優しく口を開いた。
「リリィ、貴方も行ってきなさい。お兄ちゃんが心配なんだよね?」

「母さん!?」
 フレイヤが止めるように話した。

「フレイヤ、私は大丈夫……。リムとレムが毎日、朝早くからここに来て家事を手伝ってくれてるし、体調が悪い時は近所の人を呼びに行ってくれるからなんとかなるわ」
 ダイアナが微笑んで応える。
 それを聞いたリムレムが互いに顔を見合わせ、嬉しそうな顔をしながら偉そうに腕を組んだ。

「でも母さん……!」
 フレイヤが更に止めようとした時、リムレムがフレイヤの側に駆け寄り口を開く。
「私達を信じないの? これまでも悪者のお兄ちゃんがここに来るまでレムと一緒にダイアナおばさんを看てたんだぞ!」

「そうそう! 悪者お兄ちゃんは分かってない! リムと一緒に看てたから大丈夫なの!」

 2人の台詞を聞いた後、困った表情のフレイヤに向かってダイアナが話しかける。
「フレイヤ……、貴方が私を心配してくれるのは嬉しいけど、本当に大丈夫だから言っているのよ。
さっきの玄関の対応みたいに間違った事をしたら私が教えてあげればこの子達は素直に聞いて、次から失敗しないように考える事が出来る賢いところもあるのよ。だから信用しても問題ないわ」

 ダイアナが微笑んで話したのを見て、フレイヤはため息を吐いた後、諦めたように口を開いた。
「分かったよ、母さん……。
リリィと出来るだけ早く父さんを連れて帰るよ。リリィもそれでいいだろ?」

 ディアナはパァっと顔を明るくして頷いた。

 リムレムがディアナに近づいて話しかける。
「良かったね、お姉ちゃん! キースおじさんを早く連れ帰ってきたらまた遊ぼうね!」
 リムが嬉しそうに話す。

「そうそう、また特訓してよ! 私達強くならなきゃいけないから!」
 レムも嬉しそうに話す。

「リムとレムはなんで強くならなきゃないないの?」
 ディアナが微笑んで尋ねる。

「えーっとね、お姉ちゃんは"ゔぉいす"って知ってる?」
 レムがディアナを見て尋ねる。

「違うよ、レム。ゔぁいすだよ!」
 リムがレムを見て話した。

「あー、そうか、ゔぁいすだった。
そのゔぁいすってのは強くてカッコいいから、特訓が必要なの!」
 レムが興奮気味に話した。

「えっ!? リムとレムは宿す者ヴァイスになりたいの?」
 ディアナが目をパチクリさせて尋ねる。

「違うよー、お姉ちゃん。私達がゔぁいすなの!」
 リムが少し怒ったように話す。

「ど、どういう事……?」
 ディアナが不思議そうに尋ねると、笑いながらダイアナがリムレムの代わりに応える。
「ふふふ……。 宿す者ヴァイス制度が撤廃される際に、この子達が私のところに宿す者ヴァイスについて尋ねに来たんだよ。それで私が詳しく教えてあげたら、この子達がカッコいいって憧れちゃって……。更には最後の宿す者ヴァイスがリムレムと同じ双子だって知ると、"自分達は選ばれし、ゔぁいすだー"って村中で自慢しだしてね。それから強くなりたいからって私のところに稽古をつけてもらうって通うようになっちゃったんだよ。ふふふ、面白い子達だろう?」

「へー、母さんに稽古をつけてもらってたんだね。
だから、母さんに早く良くなってもらいたくてここに毎日来てくれてるんだね」
 ディアナが微笑んで話した。

「結構、筋がいいのよ。小さい頃の貴方達を見ているみたいだからね」
 ダイアナがディアナとフレイヤを見て話した。
 それを聞いたリムレムは調子に乗って口を開く。
「もうね、この村の子供達じゃ相手にならないの!」
 リムがまた腕を組んで話した。

「そうそう、だから最近はパンダ狩りばかりしてるんだ!」
 レムも偉そうに腕を組む。

「ぱ、パンダ狩り……?」
 ディアナが不思議そうに尋ねる。

「あ、貴方達、また悪さしてたのね! 私との訓練で身につけた力は他種族に悪さする為に使っちゃ駄目だってあれ程、注意したでしょ!!」
 ダイアナが鬼の形相で話した。
 リムレムが震え上がり応える。
「わ、悪さなんてしてないよ……。一緒に遊んでるだけ……」
 リムが焦ったように話した。

「そうそう、パンダから遊びたいって言うから遊んであげてるだけだよ……」
 レムも焦ったように話した。

「母さん、パンダ狩りって何?」
 フレイヤがダイアナに尋ねる。

熊猫ションマオ族の事よ。 この子ら村の子供達とチャンバラしてもつまらないからって、隣村の熊猫ションマオ族の子達にちょっかい出して泣かして回ってるのよ! この前、散々怒ったのにまだ懲りてなかったみたいね!」
 ダイアナがリムレムを睨むと、リムレムは2人で抱き合うように震えて一箇所に固まっていた。

「ぷっ……!」
 フレイヤが吹き出して笑う。

「フレイヤ……? そんなに面白かったかい、今の話……?」
 ダイアナが不思議そうに尋ねる。

「いや……、昔、同じような事をして、熊猫ションマオ族の親達からこっ酷く叱られてた子供の事を思い出してね……」
 フレイヤが手を口に当てて笑いを堪えながら話した。

「そ、そんな悪ガキがフレイヤの小さい頃にもいたの? 全く、困った子だねその子も! リリィもその子の事、覚えてる?」
 ダイアナが尋ねるとディアナは顔を真っ赤にして、静かに頷いた。
「う、うん……、そんな子もいたかな……」

「ぷっ……! くくく……ふふふふ……」
 ディアナのその反応を見て、フレイヤが下を向いて吹き出しそうになる。

 2人の反応を見てダイアナが不思議そうに首を傾げた。


 ◇ ◇ ◇


 一方その頃、天界ではオリヴィアが急いで玉座の間の扉を開け、メーデイアの元まで駆けつけた後、跪いて口を開いた。
「め、メーデイア様。メーデイア様の言われた通り、先程、闇の彼方やみのかなたから奴が出てきたのですが、私やショロトルの静止を振り切り、地上に勝手に降りてしまいました……。申し訳ありません……」
 オリヴィアが焦った様子で話した。

「よい……。奴が我々の言う事を聞かない可能性がある事はある程度予想していた。
奴は戦神達の中でも特別で私が生み出したものではない。古来より異世界ルインに住む伝説の戦神なのだ。単純な力の優劣で従う者を決めるのではなく、奴自身が認めた相手でないと従う事はない。
出来れば仲間にしておきたかったが、大きな問題ではない。ヨルムンガンドも解き放たれている今、焦る必要はない。
我々はゆっくり約束の日やくそくのひを待てば良いだけだ」
 メーデイアがオリヴィアを見つめて話した。

「……奴はどこに向かったのでしょうか?」
「さあな……。そればかりは私にも分からないが、奴自身が我々の邪魔をする事はない筈だ。味方にもならないが邪魔にもならない存在など無視しておいて良いだろう。
それよりも、各国の動きはどうだ? 上役達は少しは役に立ちそうなのか?」
「それが、1ヶ月前の悪魔の子を殺す計画の際に、大規模の軍隊を使い、その大半をユウキ達に倒され作戦が失敗した事で上役達を批判する声が上がり始めたようです。
今はその火消しの対応を追われていて、フィオナやその仲間の反逆者達を追い詰める為の軍を起こす事が出来ないでいるようですね」
「ちっ! 上役の馬鹿どもは暫く役に立たないか……。まあいい、残りの反逆者達は戦神達で十分消す事が可能だろう。
とりあえず様子見といったところだが、これなら約束の日やくそくのひを待たずに全て終わりそうだな。少々つまらんがチェックメイトと言ったところだ……」
 メーデイアが冷たい微笑を浮かべて話した。


   ◇ ◇ ◇


 リムレムにダイアナの看病を任せたディアナとフレイヤは僅か3時間程度でタラキナ山に到着した。
 タラキナ山は標高2500mの緑が映える綺麗な山で、多種類の獣人族が住むこのダラ地方では神聖な山として崇められてきた。タラキナ山には昔から動物や果物、傷や病気に効く薬草が豊富に取れ、ダラ地方に住む獣人族達は村単位で1日に狩る動物の量や、果物、薬草の量を取り決めてこの山を大切に管理してきた。
 ディアナとフレイヤは入山許可証をダイアナから貰っていた為、山の入り口にある管理局の審査をすんなり通り、半刻足らずで山の中腹まで登っていた。
「ようやく半分だ。……今のところ父さんが残したであろう足跡は順調に山の頂上を目指している。
予想では頂上付近に今まで生息していなかった強力なモンスターが住み着いたせいで、父さんが薬草採りに手こずってる可能性が高いと思っていたけど変だね……」
 フレイヤが辺りを見渡して話した。

「変……? 何が変なんだ? 周りの動物や草木の様子は昔と変わらないように思えるが……」
 ディアナも辺りを見渡して尋ねた。

「だからだよ、リリィ。頂上付近に強力なモンスターが住み着いたのならば、この辺の動物やモンスター達にも影響が出る筈だ。
その強力なモンスターに恐れおののいて、この辺には動物は残っていない筈なのに、普通に生活しているだろう?」
 フレイヤが不思議そうに周りを見て話した。

「なるほど……。それならば父さんはなぜ帰りが遅いんだろう?」

 フレイヤは山の頂上を見つめて話す。
「それは、この足跡を追えばいずれ分かる事だよ」



 山の頂上に近づくにつれ、強大な気配が感じられるようになり、ディアナが重い口を開いた。
「フレイヤ……!!」

「うん……、これは普通じゃないね……。間違いなく超上級以上のモンスターが山の頂上に住み着いている!
恐らくそこに目当ての薬草があって、父さんは戦いを挑んだか、そのモンスターが去るのをどこがで待っている可能性が高い!
前者の場合、父さんがそのモンスターにやられる可能性があるから急いだ方がいい!
リリィ、もう少し急げるかい?」
 フレイヤが後ろを走るディアナを振り返って尋ねた。

「誰に聞いている? スピードだけなら貴様を凌ぐ私にする質問か?」
 ディアナはそう言うと、フレイヤより速度を上げてフレイヤの前を走り始めた。

 2人は走りながら闘気を高める。
 フレイヤはタラキナ山の異常事態に冷や汗を流していた。
(この先にいるのは間違いなく超上級以上のモンスター! それなのに山の動物達が逃げ出さないのは何故だ? 
……最悪の場合は、私が囮になって父さんとリリィを……)

 2人が頂上付近に到達すると、最後は30m程の垂直の岩壁があり、2人は同時に上空へ飛んだ。
 2人が岩壁を飛び越え、頂上に降り立つと同時に凄まじい熱気が身体中に降り注ぎ、2人は堪らず顔を掌で覆う。
 少しして熱気に慣れた頃に2人が掌を下げて前方を見るとそこに炎に包まれた巨大な鳥が待ち構えていた。
「不死鳥フェニックス……!!」
 フレイヤが話し終えると同時にディアナが叫ぶ。
「父さんっ!!」
 
 フェニックスの足元に倒れ、衣服の所々が燃えてボロボロになったキースの姿があった。
 ディアナとフレイヤが同時に槍を構えると、フェニックスは2人の存在に気づいて大きな鳴き声を上げた。

「キィェェェエエーーーー!!」
 鳴き声と同時に熱風が押し寄せる。
 フレイヤがディアナの前に立って闘気を高め、上から下に槍を振り下ろすと熱風が左右に割れてフェニックスまでの道が出来る。
 すぐにディアナが神速を使ってキースを回収し、フレイヤの後方に戻る。
 ディアナは気を失っているボロボロのキースを見てレポーゼの小瓶の回復薬を飲ませ、その場に寝かせた。
「待ってて父さん……、すぐに片付けるから」
 ディアナが立ち上がったフレイヤの方を見ると、フレイヤがフェニックスの方を指差して叫んだ。
「リリィ、あれ……!」
 ディアナがフレイヤの指差した先を見るとフェニックスの後方に黄色い花をつけた薬草が生えているのが分かった。
 フレイヤが更に叫ぶ。
「父さんはあれを回収する為に奴に戦いを挑んだんだ! 
超上級どころではない! 伝説級の戦神、不死鳥フェニックス! 奴を倒さない限り、母さんの病気を治す薬草は手に入らない!」


 ディアナが真剣な表情に変わり呟いた。
「ビーストモード!」
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ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

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