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第6章
永遠の別れ
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アリシアはアレンが持つ折れた剣を見て話した。
「アレン、その剣で戦える?」
その言葉を聞いたアレンは折れた剣に闘気を集中させ、闘気で剣先を作り出して応えた。
「これで、問題ない」
それを見て、呆れたようにアリシアは呟いた。
「流石ね。メーデイアの魔法のように武器を作り出すスキル……。いつ覚えたの?」
「つい最近さ、私もユウキに負けてられないからね」
エリーナがアリシアとフィオナの側に来て口を開いた。
「アリシア様、フィオナ様、巫女の神技はまだ使えますか?」
「私はまだ、使えるわ。エリーナ様が使うタイミングを言って頂ければいつでも発動出来ます」
アリシアが応える。
「私は夕方に使ってしまったわ……。申し訳ないけど、万が一の際に過去をやり直す事はできない」
フィオナが下を向いて話した。
「いえ、フィオナ様。誰もこの事態を予測出来なかった。フィオナ様の力が使えないのは、残念ですが仕方のない事です。先程、我々の窮地を救ってくれただけでも大変、助けられました」
「フィオナ、ユウキはどのくらいで来れそうでしたか?」
アリシアがフィオナに尋ねる。
「……私が出る前にリリスさんが10分でユウキお兄ちゃんの薬を調合し終わると言ってました。
私がここに着いて既に5分程度なので、多分、あと5分もすれば駆けつけてくれると思います」
フィオナが応えた。
「あと5分……! それまで耐えられれば私達の勝ちね!!」
アリシアがアレンの方を見て話し、アレンも頷いた。
それを見ていたエリーナが驚いた表情で尋ねる。
「アリシア様……、ユウキはこの2年半でどれほど力をつけたのですか?」
アリシアとアレンがニヤリと微笑み、アリシアが口を開いた。
「ユウキはあの三ヶ国会談以降、本当に一度も加護の力を使う事なくアレンの修行をやり遂げました。そして、今日、王国騎士団団長であるリグルさんを倒した。勿論、自身の力だけで! エリーナ様も知っておられる通り、加護の力を抑制し、修行を行った期間が長ければ長いほど、それを解放した時の力は大きくなります!
王国騎士団団長を倒す実力を身につけたユウキさんが、もし今日、加護の力を解放したら、どれほどのものになるか私ですら検討もつきません」
エリーナとフィオナが驚いた表情で互いを見合わせた。
「来ます!」
ミアが慌てるように、メーデイア達の襲撃をアリシア達に伝える。
「下級雷属性魔法!
上級雷属性魔法!!」
オリヴィアが両手からそれぞれ魔法を繰り出す。
「下級水属性魔法!
上級水属性魔法!!」
ミアがオリヴィアの雷を逸らすように通り道を水魔法で作り出す。
「土属性禁呪魔法!!!!」
メーデイアが禁呪魔法を繰り出すが、フィオナが防御魔法でこれを防ぐ。
「土属性防御魔法!!」
「!? ……ちっ! なんて奴だ。禁呪魔法を通常の防御魔法だけで、防ぎおった」
メーデイアが少し驚いたように呟いた。
(先程の全属性防御魔法や、超上級治癒魔法も詠唱破棄した上で、あれだけの効果を発揮していた。習得が特に難しい補助魔法系統を究極と呼べるレベルまで高めている。正直、私でも見た事がない程だ……。
王の剣がやはり最強だが、奴らの中で一番厄介なのはあのフィオナとかいう巫女!!)
「ベルヴェルク、オレンジ髪の女を殺せ!」
ベルヴェルクが無言でメーデイアの命に応えるようにフィオナに斬りかかる。
フィオナが真剣な表情に変わり、構えたその瞬間、フィオナの前にアレンが入り、ベルヴェルクの攻撃を剣で受け止め、阻止する。
「やはり……、太刀筋はルーク様のもの。メーデイアが悪の騎士に生まれ変わらせたというのは本当か……。なんと酷い事を!」
アレンが怒りの表情に変わり、剣を押して、ベルヴェルクを後方に飛ばす。
「超上級雷属性魔法!!」
アリシアがベルヴェルクとメーデイアを狙うが、ベルヴェルクは更に後方に躱し、メーデイアは雷属性防御魔法により防いだ。
「上級光属性魔法!!」
エリーナがショロトルを狙うが、オリヴィアが間一髪、魔法完全妨害禁呪魔法を発動し、これを阻止する。
好機と感じたショロトルが見えないナイフをフィオナに飛ばす。
アレンがフィオナの元に戻り、それを防ごうとする。しかし、ベルヴェルクがアレンに斬りかかり、アレンはそれを剣で受け止め、フィオナへの対応が遅れる。
「しまった……!!」
「殺った!!」
メーデイアがニヤリとした瞬間だった。
次の瞬間、フィオナは呪文を詠唱しながら、ショロトルの見えない攻撃を全て完璧に躱す。
「!!!!?」
その場にいた全員が驚く。
「なっ!? なんだと!! 初見で僕の攻撃を完璧に躱すなんて!」
ショロトルが驚いている間に詠唱を終えたフィオナが叫んだ。
「超上級土属性魔法!!」
地面が揺れ、動きを制限されたショロトルとベルヴェルクの上空から巨大な岩が無数に降り注ぎ、大ダメージを与える。
その場にいた全員がフィオナの予想外の完璧な回避行動を見て、動きが止まった。
それを遠い安全な場所で座って見ていたディアナと、フレイヤが微笑む。
「フィオナ! 今、どうやったの! 凄かったわ」
アリシアが興奮したように尋ねた。
すぐにアレンも話しかける。
「私も驚きました。まさか、フィオナ様があれ程の攻撃を完璧に躱すとは思ってなかったものですから……」
フィオナが自信に満ちた笑顔で応えた。
「あれは、約30分使える私の絶技で名は自動確立式補助魔法!!
私の周囲30m以内に入った全ての物理攻撃を自動感知して、アレンさんや、ルナマリア、ディアナほどの速度で回避する事が出来るスキル。自動感知スキルだから、回避行動中も、別の魔法を詠唱して使用が可能なの。回避しながらでもみんなの後方支援が可能よ。だから、私の心配はせずにみんな攻撃に専念して!!」
アレン、アリシア、エリーナは更に驚いた表情をした後、エリーナが口を開いた。
「……フィオナ様も本当に大きく成長されましたね。本当に心強い!」
それを聞いたフィオナが照れたように頭をかいてみせた。
その仕草を見たエリーナが笑って話す。
「その頭をかく仕草、ユウキに似てきましたね」
顔をボッと赤くして、呟くように話した。
「ユウキお兄ちゃんの事は好きだけど、それは少し恥ずかしいです……」
アリシアとアレンも照れるフィオナを見つめて微笑んだ。
メーデイアは予想以上の強さを秘めたフィオナを見て考えを改めると、オリヴィアを見つめた。
「オリヴィア、私の元へ来い!」
「はっ!」
すぐにメーデイアの元に駆けつけるオリヴィア。
「オリヴィア、奴らの主戦力はあれで全てか?」
「……はい。奴らの中で現状戦えるのは、私がここ数年仕入れた情報では、あそこに立っている創造の巫女アリシア、時守りの巫女フィオナ、王の剣アレン、エレメントマスターのエリーナ、王の盾ミアの5人です。なにか気になる事でも……?」
「少し奴らの攻めの勢いが弱いようにように感じる……。まだ何か別の戦力が駆けつけるのを待っているかのような……」
「メーデイア様が各国に潜り込ませた間者の情報は常に確かなものです。……慎重に戦っているだけでは?」
「……それならいいのだがな。少し気になったのだ」
メーデイアの考えるような顔を見て、暫く思考を巡らせたオリヴィアはハッとした表情で話し始めた。
「……そういえば、ここ数年、ルナマリア勢力が女神の使者と名乗る黒髪、黒眼の男を使い、フィオナ勢力と同盟を結ぶキッカケを作ったという情報がありました。その者はその後もカレント領土の王都サンペクルト内でも名声をあげているとか……」
「それは私も知っている。それは大方、エリーナあたりが同盟のキッカケの為に作り上げた偽物だろう? この世界に私とアンジェラ以外に黒髪、黒眼の者は存在しない。エリーナが女神の使者として仕立て上げる為、魔法で外見を変えたのだろう……」
「私もメーデイア様のように考えていたのですが、奴らはアンジェラやソフィアから我々の計画を伝えられていない様子でした。それにも関わらず、今回、絶対的な力を秘めていると分かっているメーデイア様の討伐計画を企てていたのです! 何かおかしいとは思いませんか……?」
「……なるほど、一理あるな。我々の計画を知らない奴らが絶対的な力を秘めている私に刃向かう理由は、その女神の使者とやらが、本当に特別な力を秘めていて、腹立たしいが、私を倒し得る可能性があるということか」
「……はい。現状では奴らを短時間では倒せません。今回は一旦退却し、約束の日に我々の力が戻った後に始末しますか?」
少し考えた後、メーデイアが応えた。
「……いや、あれを使う」
「!!!? メーデイア様、駄目です!
あれは人知を超えたメーデイア様の絶技。力を封印された今の状態では身体に大きく負担がかかります」
「オリヴィア、よく考えたが、お前の予報通り私もかなり嫌な予感がする。奴らの女神の使者とやらがここに現れる前に無理してでも決着をつけるべきだと考えを改めた。本当は使いたくないが、この短期間で急激に力をつけた奴らを認めてやろう。
それに安心しろ。先ほども言った通り、この力はこの身体でも2回は使える。かなり身体に負担はかかるが、それでこの戦いにも決着がつく」
「……わかりました。あまり無理をしすぎないように、メーデイア様……」
オリヴィアが心配そうにメーデイアを見つめて話した。
フィオナの超上級土属性魔法で大ダメージを負ったショロトルとベルヴェルクが大岩を押し除けて姿を現した。
「あの女~! 粉々に切り刻んでやるぞ!!」
怒りの表情でショロトルがフィオナに攻撃しようとした時だった。
「ショロトル! ベルヴェルク! 私の元に来い!!」
メーデイアの澄んだ叫び声が響く。
メーデイアの方を向いてメーデイアが何をしようとしているか悟ったショロトルは叫んだ。
「メーデイア様! メーデイア様が無理しなくとも私が奴らを粉々にしてみせます! どうかご再考を!」
それを聞いたメーデイアが冷たい瞳でショロトルに話した。
「黙れ、ショロトル。私の決定に異を唱えるな!」
それを見たショロトルはビクっと身体を震わせ応えた。
「はっ! 申し訳ありません……」
すぐにメーデイアの元に移動するショロトルとベルヴェルク。
ショロトルはフィオナの方を睨んで、怒りで身体を震わせた。
(あのフィオナという女、メーデイア様の絶技使用後に五体が残っていれば必ず切り刻んでやる!)
メーデイアが8大災厄を自身の元に集めるという奇妙な行動を察知したエリーナが叫んだ。
「みんな気を付けろ! 奴ら何かする気だぞ!!」
宙に浮いたメーデイアが天に向かって左手を上げた。すると、左手上空に槍状の高エネルギーが出来始めた。
それを見たアレンが異常を察知し、左手のブレスレットに留まっているアリスに話しかけた。
「アリス! あれは……!?」
アレンのブレスレットが輝き、ブレスレットからアリスの霊体が宙に飛び出し、口を開いた。
「私が読んだどの文献にも載ってなかった! ……でも禁呪魔法よりも、もっと危険な感じがする……!!」
エリーナが叫ぶ。
「全属性の禁呪魔法を高密度に圧縮している……!!」
慌ててアリシアが叫んだ。
「ミア! 倒れている者を安全な場所へ……!!」
「はいっ……!」
ミアが自身の身体を球体状に形状変化させ、アンナ、ディアナ、フレイヤを包み込んで遠くに移動し始めた。
オリヴィアがミアに向け、手をかざして叫んだ。
「逃すか……!」
メーデイアが止める。
「オリヴィア! 放っておけ……。それよりも王の剣や2人の巫女が逃げないように見張っておくのだ。魔法完全妨害禁呪魔法も使用しなくていい。奴らが私の攻撃範囲内に逃げようとした時にそれを妨害してくれればいい」
オリヴィアがミアへの攻撃をやめ、応えた。
「わかりました。メーデイア様」
エリーナがフィオナの右肩に手を置き、叫んだ。
「アリシア様! 私と貴方の魔力をフィオナ様に集めて、全属性防御魔法で対抗するしかありません! アレン! お前は物理防御魔法を唱えてくれ」
フィオナ、アリシア、アレンが頷き、アリシアはフィオナの左肩に手を置き、魔力を送り始め、アレンはその場の全員に物理防御魔法を唱えて、吹き飛ばされた際の衝撃に対する防御力を上げる。
エリーナとアリシアからの魔力が最大まで高まった事を感じたフィオナは叫んだ。
「全属性防御魔法!!」
メーデイアが巨大な槍状の光輝く高エネルギーを作り出して呟いた。
「神の槍……!!」
メーデイアが神の槍を投げると、凄まじい速度でアレン達に向け光を放って近づく。
神の槍が全属性防御魔法に触れた瞬間、フィオナの両腕に激しい衝撃が伝わる。
ドンっ!!!!
「きゃあああ!!」
両腕の至る所の皮膚が破け、血飛沫をあげるフィオナ。腕を曲げそうになるが、皆を守る為に再び両手を突き出して堪えるフィオナ。
しかし、神の槍は更に威力を上げ、ついに全属性防御魔法を破ってアレン達に直撃し、爆発した。
ズアォッ!!!!
爆風により、一瞬でルーメリアの民家が殆ど吹き飛ばされる。
ルーメリアの外まで逃げようとしていたミア達は、直撃は免れたものの、爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされる。ミアは自身の身体に包まれたアンナ達を守る様に自身の身体を壁に形状変化させたが、激しい衝撃に堪えられず、アンナ達諸共吹き飛ばされてしまった。
暫くして砂埃が晴れ、アレン達の姿が見え始めた。
ルーメリアは殆どが更地となり、アレンとアリシアは庇い合うように倒れた状態で、その数十メートル先にエリーナがフィオナを庇うように倒れていた。
ボロボロに倒れ虫の息状態のアレン達を見て、メーデイアがニヤリと笑い、口を開いた。
「はぁ……。はぁ……。勝った……!!
我々の勝利だ。オリヴィア、ショロトル、奴らにとどめを刺せ! 逃げたルナマリア達は後でゆっくり痛ぶってやる!」
「流石です、メーデイア様!
……オリヴィアちゃん、あのフィオナとかいう女とエリーナは僕にくれないかい? どうしてもこの僕にダメージを与えたあの女は僕が殺したいんだ」
ショロトルが話した。
「好きにしろ……。私はメーデイア様に仇なす者を消せればそれで構わんからな」
オリヴィアがため息を吐いて応えた。
「流石、オリヴィアちゃん! 分かってるね~。
それじゃあ、早速……ぶっ殺し~!!ー
ショロトルが見えない無数のナイフをフィオナに向けて放った時だった。
ガキキキキンッ!!
「!!!!?」
メーデイア達の前に、黒髪を腰まで伸ばした黒眼の男が現れ、ショロトルの攻撃を手を持った剣で全て叩き落とした。
苛ついた表情でショロトルが叫ぶ。
「貴様、何者だ!?」
ゆっくりと顔をあげて、黒髪の男が応えた。
「女神の使者 成瀬ユウキ……」
メーデイアが黒髪、黒眼を見て呟いた。
「奴が女神の使者……!? 魔法を使っていない!? 本当に生まれつきの黒髪、黒眼だというのか……!!」
ユウキは周りの状況を確認し、一番状態が酷いフィオナに近づいて懐から液体の入った小瓶取り出した。
倒れていたエリーナがユウキの存在に気づき、ユウキに話しかける。
「……ゆ、ユウキ……、来てくれたのか……。
私の事はいい……。早くフィオナ様から助けてやってくれ。……ふぃ、フィオナ様が、……皆を守ってくれたのだ……」
「分かってる! 大丈夫だ!! リリスさんから人数分の回復薬を貰ってきた! パナケイアの秘薬みたいに全回復は出来ないけど、みんな助けられる」
ユウキが笑顔で応えた。
それを聞いたエリーナは、安心したように起こそうとしていた身体を地面に預けた。
すぐにユウキが小瓶の中の液体をフィオナとエリーナに飲ませ、傷を癒した。
少しして、フィオナが瞳を開け、ユウキを見つめる。
「……ユウキお兄ちゃん? ……良かった……。
私ね……、約束通り、ちゃんと皆んなを守ったよ? ……少しは見直してくれた……?」
フィオナがボロボロの身体で話しかけた。
ユウキは、その状態を見て、一瞬、怒りの表情に変わり、握り拳を作った後、表情を戻して話しかけた。
「ああ、見直したよ! やっぱりフィオナは凄いな。本当に俺の大切な人だ……!」
「へへへ……。これでルナマリアに少し差をつけれたかな……」
そう言うと安心したように眼を閉じて、身体をユウキに預けた。
ユウキは少しの間、フィオナを抱きしめた後、歩けるまでに回復したエリーナに話しかけた。
「エリーナ、済まないが、フィオナを頼む。
俺の腰の袋にリリスさんから貰った回復薬があるからそれをみんなに飲ませてやってくれ!」
「あ、ああ、それは構わんが、お前はどうするつもりだ……?」
エリーナがフィオナと回復薬を預かって応えた。
「俺はあいつらを倒す!」
ユウキが上空のメーデイア達を見つめて話した。
エリーナがそれを聞き、慌てたように止める。
「ま、待て! ここは私とお前で時間を稼ぎつつ、体制を整えて一旦引くべきだ! 片翼の女神メーデイアと、メーデイアの後ろに控える8大災厄は私達の予想を超えた強さだったんだ! いくらお前がこの2年半で強くっているとは言っても、1人で立ち向かうなんて無理だ!」
ユウキが怒りの表情でメーデイア達を睨む。それはエリーナが今まで見た事が無いものだった。
ユウキはエリーナを振り返って話した。
「エリーナ、頼む。俺にやらせてくれ。無理だと分かったら、すぐに引くから……」
それを見たエリーナは2年半前とは違うユウキの不思議な威圧感に押され、口を開いた。
「……わ、わかった……。本当に無茶だけはするなよ。気をつけるんだ」
「ああ、ありがとう。……みんなを頼む!」
そう言ったユウキは、メーデイア達の方を再び振り返って構えた。
ドンっ!!
ユウキの周りに緑色の煌めくようなオーラが漂う。それを見て、メーデイアが呟いた。
「友愛の加護……! ショロトルの先程の斬撃は加護の力無しで対応したのか…。なるほど……、少しはやるようだが、我々4人を1人で相手するとは、相手の力量を見抜く力は間抜けらしい」
エリーナはユウキが寵愛の加護ではなく、友愛の加護で戦おうとしているのを見て、慌てるように話した。
「あの馬鹿! なぜ寵愛の加護で戦わない!? すぐにやられてしまうぞ!」
ユウキは2年半ぶりに解放した友愛の加護の感覚を確かめるように全身を見て、戸惑うような表情を見せる。
「なにをぼ~っとしている? お前ら、一気にあいつを殺してしまえ!」
メーデイアがユウキに手を向け、オリヴィア、ショロトル、ベルヴェルクに命じた。
ショロトルが見えないナイフを操り、ユウキを襲う。
ガキキキキンッ!!
先程の再現のようにユウキが見えないナイフを剣で叩き落とす。
「ひひっ! 知ってるよ。その程度の数なら捌けるんだろ? 今のは7本。今度は……、100本だ!!」
ショロトルが本気を出して、見えないナイフを全て操り、ユウキの逃げ場を無くすように囲んで、襲いかかった瞬間だった。
ユウキは全てのナイフを躱しながら、叩き落とした。
「!!!!!?」
それを見ていたメーデイア達と、エリーナ、フィオナが驚く。
「100本……? 緩いな……。ミアの修行の水弾は1000発! しかもアンタのナイフよりずっと早かったよ」
ユウキがニヤリと笑ってショロトルを挑発した。
「なっ!? 舐めるなぁ!!」
ショロトルが激昂し、ユウキにナイフで襲いかかる。
「ふふ……。アンタの長所は物体を見えなくすることなのに、安い挑発にのって、見えるナイフで攻撃してどーすんだよ」
ユウキが神速を使い、ショロトルの目の前から消え、一瞬で斬り捨てた。
「早い!!」
「早いっ!!」
メーデイアとエリーナが同時に叫ぶ。
「超上級光属性魔法!!」
ユウキの背後に回り込んでいたオリヴィアが魔法で攻撃を仕掛ける。
光の柱が無数に立ち上り、ユウキを取り囲み、大爆発を起こす。
しかし、ユウキは神速を再び使って、これを躱す。
メーデイアが更に驚いて話した。
「神速の連用だと!?」
オリヴィアが苛ついた表情に変わり、叫んだ。
「うろちょろと……! いくら早くても逃げられない魔法を食らわせてやる!」
オリヴィアはユウキに両手を向け、魔力を高め始めた。
「オリヴィアの絶技……。これで終いだな」
メーデイアがニヤリと笑って話した。
ユウキは危険を察知し、先読みの力を発動させる。
リィィィーーーーン!!
耳鳴りの後、これから起こる未来を見るユウキ。
【オリヴィアが絶技を叫ぶと、ユウキを中心に巨大な黒い球体状の膜が発生し、それがユウキに向け、縮んでいく。ユウキの胸の中心部に点ほどの大きさまで縮んだ瞬間、次元が歪むほどのエネルギーが発生し、弾け飛ぶ。
ユウキはその高エネルギーを闘気を高めて斬り裂こうとしたが、爆発の勢いに負けて深いダメージを負ってしまった】
ユウキはフィオナの方を振り返って微笑んで見せた。
フィオナは突然のユウキの微笑みに胸が高鳴り、顔を赤くして呟いた。
「ユウキお兄ちゃん……?」
ユウキは、これまでの感謝と愛を込めてフィオナの目をしっかり見つめて呟いた。
「フィオナ・ジェマ・クリスティーナ!」
フィオナの鼓動が強く反応し、胸の中心部が光り輝く。ユウキはこれまで以上の力強いオレンジ色の光に包まれ、その光は柱となった。
その後、その光の柱はユウキの体型に収束し、周りに留まった。
エリーナに回復薬を貰い、一命を取り留めたアレンとアリシアもその様子を見ていた。
アリシアが光り輝く2人を見て、涙を零して呟いた。
「綺麗……!」
ユウキとフィオナの見た事のない煌めきを見て、メーデイアが恐れて叫んだ。
「早く、奴を殺せ! オリヴィア!!」
「闇属性禁呪魔法!!」
オリヴィアが絶技を叫ぶと、ユウキを中心に巨大な黒い球体状の膜が発生し、それがユウキに向け、縮んでいく。ユウキの胸の中心部に点ほどの大きさまで縮んだ瞬間、次元が歪むほどのエネルギーが発生し、弾け飛ぶ。
しかし次の瞬間、ユウキが片手でなぎ払うようにオリヴィアの絶技をかき消した。
「!!!!?」
その場にいる全員が驚愕の表情を浮かべるが、驚きはそれだけでは終わらなかった。
次の瞬間、メーデイアや、アレンを含む全ての者がユウキを視界から見失い、オリヴィアを一瞬で斬り倒してしまった。
その頃、意識を取り戻したアンナは、自身を庇って本来のスライムの形に戻っていたミアと、ディアナ、フレイヤの初期治療を終え、傷ついた身体を引きずりながら、歩いて戦いの場に戻っていた。
メーデイア達のいる方から懐かしい闘気を感じた事と、フィオナの寵愛の加護と思われる煌めきを遠目に見つけ、ユウキが駆けつけた事を知ったアンナは、彼に会いたい衝動を抑えられずに先を急いでいた。
ディアナもまた、アンナに肩を貸しながら、危険な戦場に戻るアンナの護衛として、ついて来ていた。
ショロトルとオリヴィアを倒したユウキがメーデイアを睨むように見つめる。
ユウキの背後で倒された筈のショロトルとオリヴィアが身体を震わせながら立ち上がる。
それを見ていたエリーナが叫んだ。
「ユウキっ、気をつけろ! オリヴィアとショロトルは死んでいない。オリヴィアはパナケイアの秘薬で、ショロトルは不思議な力で瀕死状態から復活するんだ!!」
ユウキはエリーナの叫びを聞き、後ろを振り返ると、ショロトルとオリヴィアが睨みながら立ち上がろうとしていた。
しかし、同時に血反吐を吐き、両者とも膝をつく。
オリヴィアが驚きながらショロトルと自分の身体を見つめる。
(ショロトルの超回復や、私のパナケイアの秘薬の回復が追いつかない程のダメージをあの一撃で与えたというのか!? なんて奴だ!!)
「ちぃっ……!!」
オリヴィアとショロトルがもう戦えない事を悟ったメーデイアは、神速で2人の間に降り立ち、風魔法で2人を宙に浮かせた。
ユウキが警戒して話した。
「……なんのつもりだ?」
次の瞬間、メーデイアはオリヴィアとショロトルを操りながら、背を向け、逃げるように高速で移動し始めた。
「!!? 逃がすか!!」
ユウキが驚いてすぐにメーデイアの後を追う。
「追うな、ユウキ!!」
アレンが叫んで止めるが、ユウキの耳には入らない。
メーデイアが自身の移動速度よりもユウキの方が早い事を悟り、叫んだ。
「ベルヴェルク! 奴を止めろ!」
ベルヴェルクが横から突如現れ、ユウキに斬りかかる。
ユウキはベルヴェルクの攻撃を余裕で止めて、2人は数撃打ち合う。
その隙に遠くへ逃げようとユウキとの距離を空け始めるメーデイア。
ユウキがベルヴェルクとの打ち合いを制し、打ち下ろしでダメージを与え、フラついたベルヴェルクにとどめを刺そうとした瞬間だった。
メーデイアがニヤリとして叫んだ。
「いいのか!? 成瀬ユウキ!!
お前が斬り捨てようとしている相手はルナマリアの父親だぞ!!」
「!!!!?」
ユウキが驚いた表情に変わり、剣をベルヴェルクの目の前でピタリと止める。
その隙に体制を立て直したベルヴェルクがユウキに斬りかかるがユウキはなんとかそれを止める。
エリーナが状況を把握して叫んだ。
「ユウキ! 惑わされるな! そこにいるのはルーク様ではない! ルーク様は確かに死んだのだ!! そこにいるのはメーデイアがルーク様の魂を悪に染め上げた偽物だ!!」
エリーナの言葉を聞いて思い直し、決心したユウキは表情を戻して、またベルヴェルクを圧倒し始めた。
「ちぃっ……! エリーナめ、邪魔ばかりしおって!!」
メーデイアが苛ついた表情を見せ、呟いた時だった。
ベルヴェルクを斬り捨てようとしていたユウキに最悪のタイミングで叫び声が聞こえる。
「ユウキぃ~~!!」
懐かしい声に地上を振り返ると、そこには傷つき、ディアナに肩を借りるアンナが心配そうにユウキを見つめていた。
この時、アンナはただ、ユウキの状況が心配になったことと、自分の存在に気付いて欲しくて声をかけただけだったが、ユウキの目には実の父親を斬り捨てようとする自分に対して、アンナが必死に叫んで止めようとしているように映ってしまった。
その隙を見逃さなかったベルヴェルクの一太刀が浅くだがユウキを捉える。
「ぐうっ……!」
「しめた!!」
好機と見て、メーデイアが微笑み、オリヴィアとショロトルを地面に降ろして、魔力を高めながら詠唱を開始した。
それを横目で見ていたオリヴィアが止める。
「メーデイア様……、駄目です。力を封印された今の状態で2回目を使ってしまえば、メーデイア様もタダでは済みません……!!」
「良い……。私の感が言っている! 今、奴を討たねばミナト並みに厄介な存在となる。奴だけでも倒してしまえばあとはなんとでもなる。
奴を今、倒してあとは引く。これを使ってしまっても、逃げるだけの力は残る筈だ!」
ベルヴェルクに一太刀浴びせられた後、ユウキはアンナの存在と、浅い傷が邪魔をして、ベルヴェルクを攻めきれなくなった。
2人の激しい打ち合いの最中、エリーナは激しい殺気に気づき、メーデイアの方を見つめた。
「!!!? マズい! メーデイアはユウキだけでも消してしまうつもりだ!!」
「!!!!?」
アンナ、フィオナ、アレン、アリシアはエリーナの叫び声を聞いた後、メーデイアを向き、メーデイアが何をするつもりなのかを悟った。
「ユウキお兄ちゃん、逃げてぇーー!!」
フィオナが大声でユウキに叫んだ瞬間、ベルヴェルクはメーデイアの方にユウキを剣で押し体制を崩させ、自身は横に逸れるようにその場を離れた。
ユウキはフィオナの叫び声を聞いて、初めてメーデイアの方を振り返った。
メーデイアがニヤリと笑って叫んだ。
「神の槍!!!!」
全属性禁呪魔法が無防備のユウキに近づく。
「ユウキ、避けてーー!!」
アンナが悲痛な表情で叫んだ瞬間だった。
エリーナがユウキの前に両手を広げて現れる。
「!!!!?」
ユウキ達全員が驚く間もなく、神の槍はエリーナに直撃し、激しい爆発が起きる。
ズアォッ!!!!
爆発による地鳴りが止むと、爆炎の中から、ユウキがボロボロになったエリーナを抱きしめるように地上に落ちてきた。
「下級風属性魔法!!」
地面に激突する寸前でアリシアが風魔法でユウキとエリーナを助け、地面にゆっくり降ろす。
爆発に少し巻き込まれ、身体に火傷を負ったユウキは、身体を震えさせながら、身体を起こして、エリーナの状態を確かめた。
「フィオナ、来てくれ!! エリーナを助けてくれ!! 酷い状態だ!!」
フィオナも傷ついた身体に鞭を打って出来るだけ早く歩いてエリーナに近づき、状態を確かめた。
「っ……!?」
エリーナの状態を確かめたフィオナが悲痛な表情に変わり、顔を横に振った。
「どうしたんだ、フィオナ! 早くエリーナに回復魔法をかけてくれ!!」
ユウキが焦ったように叫ぶ。
「……ユウキお兄ちゃん、もう、エリーナさんは……」
下を向いて泣きそうな表情を浮かべるフィオナ。
「ふざけんなっ!!
なんでもいいから、回復魔法をかけてくれって言ってるだ!! なんで、言うことを聞いてくれないんだよ!!!!」
怒りをフィオナにぶつけるように叫ぶユウキ。
「……ユウキ……、フィオナ様を……、責めるな。
フィオナ様は正しい……、私はもう……助からない……」
エリーナが微かに目を開けて呟いた。
「そんな事言うなって! 諦めんな!!
3姉妹で平和な世界を幸せに暮らすって言ってたじゃねーかよ!! なんで……!! なんでだよっ!!」
涙を零して叫ぶユウキ。
遅れてアンナとディアナがエリーナの側に駆けつけた。
「エリーナ!!」
「エリーナ様!!」
ゆっくり目だけを動かしてアンナとディアナを見つめるエリーナ。
「ルナ……、ディアナ……。すまない……。
お前達との約束……守れそうにない…………」
「そんな事言わないでエリーナ……。置いてかないで、…………お姉ちゃん!!」
涙をポロポロ零し始めるアンナ。
「エリーナ姉様、どうか、お願いです。
まだ逝かないでください……!!」
ディアナも涙を零し始めた。
少しして、瞳を閉じてエリーナが話し始めた。
「……ルナ……、ディアナ……。覚えているか……。
私達が初めて会った日のこと……。
私は今でも……昨日の事ようにはっきりと想い出せる…………。
あの日、……私たちに血の繋がりなどなかった……。それでもお前達は……、私の事を……、姉と呼んでくれたんだ……。
それが……私にとってどれだけ幸せだったか……。
あの日、私にとって、お前達は……、ただの姉妹ではなくなった……。
私にとってかけがえのないものになったんだ…………。
本当に……、ありがとう…………。
私は……、幸せ……だったよ………………………………」
そう話したエリーナは瞳を開けて、エリーナに顔を寄せるアンナとディアナの頭をポンポンと撫でて呟いた。
「泣くな……ルナ……、ディアナ……。私は常にお前達の側にいる…………………………………………………………………」
そう呟き終えるとゆっくりと腕を降ろしてエリーナは瞳を再び閉じた……。
ディアナが下を向いて大粒の涙を零す。
アンナが涙を零しながらエリーナの身体を揺すりながら話した。
「私だって……、あの日、エリーナをお姉ちゃんって呼べたこと……、どれだけ幸せだったか、分かるエリーナ……? あの日からディアナも私も……、エリーナの事が……、私たち姉妹の事がかけがえのないものになったんだよ…………。
……ねぇ……、聴いてる? エリーナぁ…………。
応えてよ……………………」
動かなくなったエリーナの顔に沢山の大粒の涙が零れ落ちた。
アリシアがボロボロになった衣服を直すように魔法をかけ、アレンが自身の袋に入っていた綺麗なマントをエリーナの胸に被せる。
フィオナは何度も何度も回復魔法をかけ続けた。
次の瞬間、エリーナの身体が輝き出し、小さな光の粒になって弾け飛んだ。
光の粒がユウキ達に降り注ぐ。
アレンのブレスレットから外に出てきてアリスが呟く。
「エリーナさんが、さよならを言っています……」
光の粒がユウキ、アンナ、ディアナに触れ、エリーナとの記憶を呼び起こす。
ユウキはエリーナに初めて会った日の事を思い出していた。
精神的に幼く、弱かった自分に対しても常に瞳を逸らさず、眼を見て真剣に向き合ってくれていたこと……。
初めて名前を呼んでくれた日……。
疲れた時、美味しい紅茶をいつも淹れてくれたこと……。
王の剣の事で揉めたこと……。
戦闘中はいつも気を使っていてくれたこと……。
本当の姉のように常に自分を見てくれていた事を今になって初めて気づいたユウキは今まで以上にポロポロと涙を零し始めた。
アンナとディアナは思い出していた。
自分達が辛い時、苦しい時、泣いていた時、常に側にいて、頭をポンポンと撫で、いつもの台詞で慰めてくれていたことを……。
思い出の中のエリーナは常に誇り高く、キラキラと光輝く笑顔を放っていた。
「アレン、その剣で戦える?」
その言葉を聞いたアレンは折れた剣に闘気を集中させ、闘気で剣先を作り出して応えた。
「これで、問題ない」
それを見て、呆れたようにアリシアは呟いた。
「流石ね。メーデイアの魔法のように武器を作り出すスキル……。いつ覚えたの?」
「つい最近さ、私もユウキに負けてられないからね」
エリーナがアリシアとフィオナの側に来て口を開いた。
「アリシア様、フィオナ様、巫女の神技はまだ使えますか?」
「私はまだ、使えるわ。エリーナ様が使うタイミングを言って頂ければいつでも発動出来ます」
アリシアが応える。
「私は夕方に使ってしまったわ……。申し訳ないけど、万が一の際に過去をやり直す事はできない」
フィオナが下を向いて話した。
「いえ、フィオナ様。誰もこの事態を予測出来なかった。フィオナ様の力が使えないのは、残念ですが仕方のない事です。先程、我々の窮地を救ってくれただけでも大変、助けられました」
「フィオナ、ユウキはどのくらいで来れそうでしたか?」
アリシアがフィオナに尋ねる。
「……私が出る前にリリスさんが10分でユウキお兄ちゃんの薬を調合し終わると言ってました。
私がここに着いて既に5分程度なので、多分、あと5分もすれば駆けつけてくれると思います」
フィオナが応えた。
「あと5分……! それまで耐えられれば私達の勝ちね!!」
アリシアがアレンの方を見て話し、アレンも頷いた。
それを見ていたエリーナが驚いた表情で尋ねる。
「アリシア様……、ユウキはこの2年半でどれほど力をつけたのですか?」
アリシアとアレンがニヤリと微笑み、アリシアが口を開いた。
「ユウキはあの三ヶ国会談以降、本当に一度も加護の力を使う事なくアレンの修行をやり遂げました。そして、今日、王国騎士団団長であるリグルさんを倒した。勿論、自身の力だけで! エリーナ様も知っておられる通り、加護の力を抑制し、修行を行った期間が長ければ長いほど、それを解放した時の力は大きくなります!
王国騎士団団長を倒す実力を身につけたユウキさんが、もし今日、加護の力を解放したら、どれほどのものになるか私ですら検討もつきません」
エリーナとフィオナが驚いた表情で互いを見合わせた。
「来ます!」
ミアが慌てるように、メーデイア達の襲撃をアリシア達に伝える。
「下級雷属性魔法!
上級雷属性魔法!!」
オリヴィアが両手からそれぞれ魔法を繰り出す。
「下級水属性魔法!
上級水属性魔法!!」
ミアがオリヴィアの雷を逸らすように通り道を水魔法で作り出す。
「土属性禁呪魔法!!!!」
メーデイアが禁呪魔法を繰り出すが、フィオナが防御魔法でこれを防ぐ。
「土属性防御魔法!!」
「!? ……ちっ! なんて奴だ。禁呪魔法を通常の防御魔法だけで、防ぎおった」
メーデイアが少し驚いたように呟いた。
(先程の全属性防御魔法や、超上級治癒魔法も詠唱破棄した上で、あれだけの効果を発揮していた。習得が特に難しい補助魔法系統を究極と呼べるレベルまで高めている。正直、私でも見た事がない程だ……。
王の剣がやはり最強だが、奴らの中で一番厄介なのはあのフィオナとかいう巫女!!)
「ベルヴェルク、オレンジ髪の女を殺せ!」
ベルヴェルクが無言でメーデイアの命に応えるようにフィオナに斬りかかる。
フィオナが真剣な表情に変わり、構えたその瞬間、フィオナの前にアレンが入り、ベルヴェルクの攻撃を剣で受け止め、阻止する。
「やはり……、太刀筋はルーク様のもの。メーデイアが悪の騎士に生まれ変わらせたというのは本当か……。なんと酷い事を!」
アレンが怒りの表情に変わり、剣を押して、ベルヴェルクを後方に飛ばす。
「超上級雷属性魔法!!」
アリシアがベルヴェルクとメーデイアを狙うが、ベルヴェルクは更に後方に躱し、メーデイアは雷属性防御魔法により防いだ。
「上級光属性魔法!!」
エリーナがショロトルを狙うが、オリヴィアが間一髪、魔法完全妨害禁呪魔法を発動し、これを阻止する。
好機と感じたショロトルが見えないナイフをフィオナに飛ばす。
アレンがフィオナの元に戻り、それを防ごうとする。しかし、ベルヴェルクがアレンに斬りかかり、アレンはそれを剣で受け止め、フィオナへの対応が遅れる。
「しまった……!!」
「殺った!!」
メーデイアがニヤリとした瞬間だった。
次の瞬間、フィオナは呪文を詠唱しながら、ショロトルの見えない攻撃を全て完璧に躱す。
「!!!!?」
その場にいた全員が驚く。
「なっ!? なんだと!! 初見で僕の攻撃を完璧に躱すなんて!」
ショロトルが驚いている間に詠唱を終えたフィオナが叫んだ。
「超上級土属性魔法!!」
地面が揺れ、動きを制限されたショロトルとベルヴェルクの上空から巨大な岩が無数に降り注ぎ、大ダメージを与える。
その場にいた全員がフィオナの予想外の完璧な回避行動を見て、動きが止まった。
それを遠い安全な場所で座って見ていたディアナと、フレイヤが微笑む。
「フィオナ! 今、どうやったの! 凄かったわ」
アリシアが興奮したように尋ねた。
すぐにアレンも話しかける。
「私も驚きました。まさか、フィオナ様があれ程の攻撃を完璧に躱すとは思ってなかったものですから……」
フィオナが自信に満ちた笑顔で応えた。
「あれは、約30分使える私の絶技で名は自動確立式補助魔法!!
私の周囲30m以内に入った全ての物理攻撃を自動感知して、アレンさんや、ルナマリア、ディアナほどの速度で回避する事が出来るスキル。自動感知スキルだから、回避行動中も、別の魔法を詠唱して使用が可能なの。回避しながらでもみんなの後方支援が可能よ。だから、私の心配はせずにみんな攻撃に専念して!!」
アレン、アリシア、エリーナは更に驚いた表情をした後、エリーナが口を開いた。
「……フィオナ様も本当に大きく成長されましたね。本当に心強い!」
それを聞いたフィオナが照れたように頭をかいてみせた。
その仕草を見たエリーナが笑って話す。
「その頭をかく仕草、ユウキに似てきましたね」
顔をボッと赤くして、呟くように話した。
「ユウキお兄ちゃんの事は好きだけど、それは少し恥ずかしいです……」
アリシアとアレンも照れるフィオナを見つめて微笑んだ。
メーデイアは予想以上の強さを秘めたフィオナを見て考えを改めると、オリヴィアを見つめた。
「オリヴィア、私の元へ来い!」
「はっ!」
すぐにメーデイアの元に駆けつけるオリヴィア。
「オリヴィア、奴らの主戦力はあれで全てか?」
「……はい。奴らの中で現状戦えるのは、私がここ数年仕入れた情報では、あそこに立っている創造の巫女アリシア、時守りの巫女フィオナ、王の剣アレン、エレメントマスターのエリーナ、王の盾ミアの5人です。なにか気になる事でも……?」
「少し奴らの攻めの勢いが弱いようにように感じる……。まだ何か別の戦力が駆けつけるのを待っているかのような……」
「メーデイア様が各国に潜り込ませた間者の情報は常に確かなものです。……慎重に戦っているだけでは?」
「……それならいいのだがな。少し気になったのだ」
メーデイアの考えるような顔を見て、暫く思考を巡らせたオリヴィアはハッとした表情で話し始めた。
「……そういえば、ここ数年、ルナマリア勢力が女神の使者と名乗る黒髪、黒眼の男を使い、フィオナ勢力と同盟を結ぶキッカケを作ったという情報がありました。その者はその後もカレント領土の王都サンペクルト内でも名声をあげているとか……」
「それは私も知っている。それは大方、エリーナあたりが同盟のキッカケの為に作り上げた偽物だろう? この世界に私とアンジェラ以外に黒髪、黒眼の者は存在しない。エリーナが女神の使者として仕立て上げる為、魔法で外見を変えたのだろう……」
「私もメーデイア様のように考えていたのですが、奴らはアンジェラやソフィアから我々の計画を伝えられていない様子でした。それにも関わらず、今回、絶対的な力を秘めていると分かっているメーデイア様の討伐計画を企てていたのです! 何かおかしいとは思いませんか……?」
「……なるほど、一理あるな。我々の計画を知らない奴らが絶対的な力を秘めている私に刃向かう理由は、その女神の使者とやらが、本当に特別な力を秘めていて、腹立たしいが、私を倒し得る可能性があるということか」
「……はい。現状では奴らを短時間では倒せません。今回は一旦退却し、約束の日に我々の力が戻った後に始末しますか?」
少し考えた後、メーデイアが応えた。
「……いや、あれを使う」
「!!!? メーデイア様、駄目です!
あれは人知を超えたメーデイア様の絶技。力を封印された今の状態では身体に大きく負担がかかります」
「オリヴィア、よく考えたが、お前の予報通り私もかなり嫌な予感がする。奴らの女神の使者とやらがここに現れる前に無理してでも決着をつけるべきだと考えを改めた。本当は使いたくないが、この短期間で急激に力をつけた奴らを認めてやろう。
それに安心しろ。先ほども言った通り、この力はこの身体でも2回は使える。かなり身体に負担はかかるが、それでこの戦いにも決着がつく」
「……わかりました。あまり無理をしすぎないように、メーデイア様……」
オリヴィアが心配そうにメーデイアを見つめて話した。
フィオナの超上級土属性魔法で大ダメージを負ったショロトルとベルヴェルクが大岩を押し除けて姿を現した。
「あの女~! 粉々に切り刻んでやるぞ!!」
怒りの表情でショロトルがフィオナに攻撃しようとした時だった。
「ショロトル! ベルヴェルク! 私の元に来い!!」
メーデイアの澄んだ叫び声が響く。
メーデイアの方を向いてメーデイアが何をしようとしているか悟ったショロトルは叫んだ。
「メーデイア様! メーデイア様が無理しなくとも私が奴らを粉々にしてみせます! どうかご再考を!」
それを聞いたメーデイアが冷たい瞳でショロトルに話した。
「黙れ、ショロトル。私の決定に異を唱えるな!」
それを見たショロトルはビクっと身体を震わせ応えた。
「はっ! 申し訳ありません……」
すぐにメーデイアの元に移動するショロトルとベルヴェルク。
ショロトルはフィオナの方を睨んで、怒りで身体を震わせた。
(あのフィオナという女、メーデイア様の絶技使用後に五体が残っていれば必ず切り刻んでやる!)
メーデイアが8大災厄を自身の元に集めるという奇妙な行動を察知したエリーナが叫んだ。
「みんな気を付けろ! 奴ら何かする気だぞ!!」
宙に浮いたメーデイアが天に向かって左手を上げた。すると、左手上空に槍状の高エネルギーが出来始めた。
それを見たアレンが異常を察知し、左手のブレスレットに留まっているアリスに話しかけた。
「アリス! あれは……!?」
アレンのブレスレットが輝き、ブレスレットからアリスの霊体が宙に飛び出し、口を開いた。
「私が読んだどの文献にも載ってなかった! ……でも禁呪魔法よりも、もっと危険な感じがする……!!」
エリーナが叫ぶ。
「全属性の禁呪魔法を高密度に圧縮している……!!」
慌ててアリシアが叫んだ。
「ミア! 倒れている者を安全な場所へ……!!」
「はいっ……!」
ミアが自身の身体を球体状に形状変化させ、アンナ、ディアナ、フレイヤを包み込んで遠くに移動し始めた。
オリヴィアがミアに向け、手をかざして叫んだ。
「逃すか……!」
メーデイアが止める。
「オリヴィア! 放っておけ……。それよりも王の剣や2人の巫女が逃げないように見張っておくのだ。魔法完全妨害禁呪魔法も使用しなくていい。奴らが私の攻撃範囲内に逃げようとした時にそれを妨害してくれればいい」
オリヴィアがミアへの攻撃をやめ、応えた。
「わかりました。メーデイア様」
エリーナがフィオナの右肩に手を置き、叫んだ。
「アリシア様! 私と貴方の魔力をフィオナ様に集めて、全属性防御魔法で対抗するしかありません! アレン! お前は物理防御魔法を唱えてくれ」
フィオナ、アリシア、アレンが頷き、アリシアはフィオナの左肩に手を置き、魔力を送り始め、アレンはその場の全員に物理防御魔法を唱えて、吹き飛ばされた際の衝撃に対する防御力を上げる。
エリーナとアリシアからの魔力が最大まで高まった事を感じたフィオナは叫んだ。
「全属性防御魔法!!」
メーデイアが巨大な槍状の光輝く高エネルギーを作り出して呟いた。
「神の槍……!!」
メーデイアが神の槍を投げると、凄まじい速度でアレン達に向け光を放って近づく。
神の槍が全属性防御魔法に触れた瞬間、フィオナの両腕に激しい衝撃が伝わる。
ドンっ!!!!
「きゃあああ!!」
両腕の至る所の皮膚が破け、血飛沫をあげるフィオナ。腕を曲げそうになるが、皆を守る為に再び両手を突き出して堪えるフィオナ。
しかし、神の槍は更に威力を上げ、ついに全属性防御魔法を破ってアレン達に直撃し、爆発した。
ズアォッ!!!!
爆風により、一瞬でルーメリアの民家が殆ど吹き飛ばされる。
ルーメリアの外まで逃げようとしていたミア達は、直撃は免れたものの、爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされる。ミアは自身の身体に包まれたアンナ達を守る様に自身の身体を壁に形状変化させたが、激しい衝撃に堪えられず、アンナ達諸共吹き飛ばされてしまった。
暫くして砂埃が晴れ、アレン達の姿が見え始めた。
ルーメリアは殆どが更地となり、アレンとアリシアは庇い合うように倒れた状態で、その数十メートル先にエリーナがフィオナを庇うように倒れていた。
ボロボロに倒れ虫の息状態のアレン達を見て、メーデイアがニヤリと笑い、口を開いた。
「はぁ……。はぁ……。勝った……!!
我々の勝利だ。オリヴィア、ショロトル、奴らにとどめを刺せ! 逃げたルナマリア達は後でゆっくり痛ぶってやる!」
「流石です、メーデイア様!
……オリヴィアちゃん、あのフィオナとかいう女とエリーナは僕にくれないかい? どうしてもこの僕にダメージを与えたあの女は僕が殺したいんだ」
ショロトルが話した。
「好きにしろ……。私はメーデイア様に仇なす者を消せればそれで構わんからな」
オリヴィアがため息を吐いて応えた。
「流石、オリヴィアちゃん! 分かってるね~。
それじゃあ、早速……ぶっ殺し~!!ー
ショロトルが見えない無数のナイフをフィオナに向けて放った時だった。
ガキキキキンッ!!
「!!!!?」
メーデイア達の前に、黒髪を腰まで伸ばした黒眼の男が現れ、ショロトルの攻撃を手を持った剣で全て叩き落とした。
苛ついた表情でショロトルが叫ぶ。
「貴様、何者だ!?」
ゆっくりと顔をあげて、黒髪の男が応えた。
「女神の使者 成瀬ユウキ……」
メーデイアが黒髪、黒眼を見て呟いた。
「奴が女神の使者……!? 魔法を使っていない!? 本当に生まれつきの黒髪、黒眼だというのか……!!」
ユウキは周りの状況を確認し、一番状態が酷いフィオナに近づいて懐から液体の入った小瓶取り出した。
倒れていたエリーナがユウキの存在に気づき、ユウキに話しかける。
「……ゆ、ユウキ……、来てくれたのか……。
私の事はいい……。早くフィオナ様から助けてやってくれ。……ふぃ、フィオナ様が、……皆を守ってくれたのだ……」
「分かってる! 大丈夫だ!! リリスさんから人数分の回復薬を貰ってきた! パナケイアの秘薬みたいに全回復は出来ないけど、みんな助けられる」
ユウキが笑顔で応えた。
それを聞いたエリーナは、安心したように起こそうとしていた身体を地面に預けた。
すぐにユウキが小瓶の中の液体をフィオナとエリーナに飲ませ、傷を癒した。
少しして、フィオナが瞳を開け、ユウキを見つめる。
「……ユウキお兄ちゃん? ……良かった……。
私ね……、約束通り、ちゃんと皆んなを守ったよ? ……少しは見直してくれた……?」
フィオナがボロボロの身体で話しかけた。
ユウキは、その状態を見て、一瞬、怒りの表情に変わり、握り拳を作った後、表情を戻して話しかけた。
「ああ、見直したよ! やっぱりフィオナは凄いな。本当に俺の大切な人だ……!」
「へへへ……。これでルナマリアに少し差をつけれたかな……」
そう言うと安心したように眼を閉じて、身体をユウキに預けた。
ユウキは少しの間、フィオナを抱きしめた後、歩けるまでに回復したエリーナに話しかけた。
「エリーナ、済まないが、フィオナを頼む。
俺の腰の袋にリリスさんから貰った回復薬があるからそれをみんなに飲ませてやってくれ!」
「あ、ああ、それは構わんが、お前はどうするつもりだ……?」
エリーナがフィオナと回復薬を預かって応えた。
「俺はあいつらを倒す!」
ユウキが上空のメーデイア達を見つめて話した。
エリーナがそれを聞き、慌てたように止める。
「ま、待て! ここは私とお前で時間を稼ぎつつ、体制を整えて一旦引くべきだ! 片翼の女神メーデイアと、メーデイアの後ろに控える8大災厄は私達の予想を超えた強さだったんだ! いくらお前がこの2年半で強くっているとは言っても、1人で立ち向かうなんて無理だ!」
ユウキが怒りの表情でメーデイア達を睨む。それはエリーナが今まで見た事が無いものだった。
ユウキはエリーナを振り返って話した。
「エリーナ、頼む。俺にやらせてくれ。無理だと分かったら、すぐに引くから……」
それを見たエリーナは2年半前とは違うユウキの不思議な威圧感に押され、口を開いた。
「……わ、わかった……。本当に無茶だけはするなよ。気をつけるんだ」
「ああ、ありがとう。……みんなを頼む!」
そう言ったユウキは、メーデイア達の方を再び振り返って構えた。
ドンっ!!
ユウキの周りに緑色の煌めくようなオーラが漂う。それを見て、メーデイアが呟いた。
「友愛の加護……! ショロトルの先程の斬撃は加護の力無しで対応したのか…。なるほど……、少しはやるようだが、我々4人を1人で相手するとは、相手の力量を見抜く力は間抜けらしい」
エリーナはユウキが寵愛の加護ではなく、友愛の加護で戦おうとしているのを見て、慌てるように話した。
「あの馬鹿! なぜ寵愛の加護で戦わない!? すぐにやられてしまうぞ!」
ユウキは2年半ぶりに解放した友愛の加護の感覚を確かめるように全身を見て、戸惑うような表情を見せる。
「なにをぼ~っとしている? お前ら、一気にあいつを殺してしまえ!」
メーデイアがユウキに手を向け、オリヴィア、ショロトル、ベルヴェルクに命じた。
ショロトルが見えないナイフを操り、ユウキを襲う。
ガキキキキンッ!!
先程の再現のようにユウキが見えないナイフを剣で叩き落とす。
「ひひっ! 知ってるよ。その程度の数なら捌けるんだろ? 今のは7本。今度は……、100本だ!!」
ショロトルが本気を出して、見えないナイフを全て操り、ユウキの逃げ場を無くすように囲んで、襲いかかった瞬間だった。
ユウキは全てのナイフを躱しながら、叩き落とした。
「!!!!!?」
それを見ていたメーデイア達と、エリーナ、フィオナが驚く。
「100本……? 緩いな……。ミアの修行の水弾は1000発! しかもアンタのナイフよりずっと早かったよ」
ユウキがニヤリと笑ってショロトルを挑発した。
「なっ!? 舐めるなぁ!!」
ショロトルが激昂し、ユウキにナイフで襲いかかる。
「ふふ……。アンタの長所は物体を見えなくすることなのに、安い挑発にのって、見えるナイフで攻撃してどーすんだよ」
ユウキが神速を使い、ショロトルの目の前から消え、一瞬で斬り捨てた。
「早い!!」
「早いっ!!」
メーデイアとエリーナが同時に叫ぶ。
「超上級光属性魔法!!」
ユウキの背後に回り込んでいたオリヴィアが魔法で攻撃を仕掛ける。
光の柱が無数に立ち上り、ユウキを取り囲み、大爆発を起こす。
しかし、ユウキは神速を再び使って、これを躱す。
メーデイアが更に驚いて話した。
「神速の連用だと!?」
オリヴィアが苛ついた表情に変わり、叫んだ。
「うろちょろと……! いくら早くても逃げられない魔法を食らわせてやる!」
オリヴィアはユウキに両手を向け、魔力を高め始めた。
「オリヴィアの絶技……。これで終いだな」
メーデイアがニヤリと笑って話した。
ユウキは危険を察知し、先読みの力を発動させる。
リィィィーーーーン!!
耳鳴りの後、これから起こる未来を見るユウキ。
【オリヴィアが絶技を叫ぶと、ユウキを中心に巨大な黒い球体状の膜が発生し、それがユウキに向け、縮んでいく。ユウキの胸の中心部に点ほどの大きさまで縮んだ瞬間、次元が歪むほどのエネルギーが発生し、弾け飛ぶ。
ユウキはその高エネルギーを闘気を高めて斬り裂こうとしたが、爆発の勢いに負けて深いダメージを負ってしまった】
ユウキはフィオナの方を振り返って微笑んで見せた。
フィオナは突然のユウキの微笑みに胸が高鳴り、顔を赤くして呟いた。
「ユウキお兄ちゃん……?」
ユウキは、これまでの感謝と愛を込めてフィオナの目をしっかり見つめて呟いた。
「フィオナ・ジェマ・クリスティーナ!」
フィオナの鼓動が強く反応し、胸の中心部が光り輝く。ユウキはこれまで以上の力強いオレンジ色の光に包まれ、その光は柱となった。
その後、その光の柱はユウキの体型に収束し、周りに留まった。
エリーナに回復薬を貰い、一命を取り留めたアレンとアリシアもその様子を見ていた。
アリシアが光り輝く2人を見て、涙を零して呟いた。
「綺麗……!」
ユウキとフィオナの見た事のない煌めきを見て、メーデイアが恐れて叫んだ。
「早く、奴を殺せ! オリヴィア!!」
「闇属性禁呪魔法!!」
オリヴィアが絶技を叫ぶと、ユウキを中心に巨大な黒い球体状の膜が発生し、それがユウキに向け、縮んでいく。ユウキの胸の中心部に点ほどの大きさまで縮んだ瞬間、次元が歪むほどのエネルギーが発生し、弾け飛ぶ。
しかし次の瞬間、ユウキが片手でなぎ払うようにオリヴィアの絶技をかき消した。
「!!!!?」
その場にいる全員が驚愕の表情を浮かべるが、驚きはそれだけでは終わらなかった。
次の瞬間、メーデイアや、アレンを含む全ての者がユウキを視界から見失い、オリヴィアを一瞬で斬り倒してしまった。
その頃、意識を取り戻したアンナは、自身を庇って本来のスライムの形に戻っていたミアと、ディアナ、フレイヤの初期治療を終え、傷ついた身体を引きずりながら、歩いて戦いの場に戻っていた。
メーデイア達のいる方から懐かしい闘気を感じた事と、フィオナの寵愛の加護と思われる煌めきを遠目に見つけ、ユウキが駆けつけた事を知ったアンナは、彼に会いたい衝動を抑えられずに先を急いでいた。
ディアナもまた、アンナに肩を貸しながら、危険な戦場に戻るアンナの護衛として、ついて来ていた。
ショロトルとオリヴィアを倒したユウキがメーデイアを睨むように見つめる。
ユウキの背後で倒された筈のショロトルとオリヴィアが身体を震わせながら立ち上がる。
それを見ていたエリーナが叫んだ。
「ユウキっ、気をつけろ! オリヴィアとショロトルは死んでいない。オリヴィアはパナケイアの秘薬で、ショロトルは不思議な力で瀕死状態から復活するんだ!!」
ユウキはエリーナの叫びを聞き、後ろを振り返ると、ショロトルとオリヴィアが睨みながら立ち上がろうとしていた。
しかし、同時に血反吐を吐き、両者とも膝をつく。
オリヴィアが驚きながらショロトルと自分の身体を見つめる。
(ショロトルの超回復や、私のパナケイアの秘薬の回復が追いつかない程のダメージをあの一撃で与えたというのか!? なんて奴だ!!)
「ちぃっ……!!」
オリヴィアとショロトルがもう戦えない事を悟ったメーデイアは、神速で2人の間に降り立ち、風魔法で2人を宙に浮かせた。
ユウキが警戒して話した。
「……なんのつもりだ?」
次の瞬間、メーデイアはオリヴィアとショロトルを操りながら、背を向け、逃げるように高速で移動し始めた。
「!!? 逃がすか!!」
ユウキが驚いてすぐにメーデイアの後を追う。
「追うな、ユウキ!!」
アレンが叫んで止めるが、ユウキの耳には入らない。
メーデイアが自身の移動速度よりもユウキの方が早い事を悟り、叫んだ。
「ベルヴェルク! 奴を止めろ!」
ベルヴェルクが横から突如現れ、ユウキに斬りかかる。
ユウキはベルヴェルクの攻撃を余裕で止めて、2人は数撃打ち合う。
その隙に遠くへ逃げようとユウキとの距離を空け始めるメーデイア。
ユウキがベルヴェルクとの打ち合いを制し、打ち下ろしでダメージを与え、フラついたベルヴェルクにとどめを刺そうとした瞬間だった。
メーデイアがニヤリとして叫んだ。
「いいのか!? 成瀬ユウキ!!
お前が斬り捨てようとしている相手はルナマリアの父親だぞ!!」
「!!!!?」
ユウキが驚いた表情に変わり、剣をベルヴェルクの目の前でピタリと止める。
その隙に体制を立て直したベルヴェルクがユウキに斬りかかるがユウキはなんとかそれを止める。
エリーナが状況を把握して叫んだ。
「ユウキ! 惑わされるな! そこにいるのはルーク様ではない! ルーク様は確かに死んだのだ!! そこにいるのはメーデイアがルーク様の魂を悪に染め上げた偽物だ!!」
エリーナの言葉を聞いて思い直し、決心したユウキは表情を戻して、またベルヴェルクを圧倒し始めた。
「ちぃっ……! エリーナめ、邪魔ばかりしおって!!」
メーデイアが苛ついた表情を見せ、呟いた時だった。
ベルヴェルクを斬り捨てようとしていたユウキに最悪のタイミングで叫び声が聞こえる。
「ユウキぃ~~!!」
懐かしい声に地上を振り返ると、そこには傷つき、ディアナに肩を借りるアンナが心配そうにユウキを見つめていた。
この時、アンナはただ、ユウキの状況が心配になったことと、自分の存在に気付いて欲しくて声をかけただけだったが、ユウキの目には実の父親を斬り捨てようとする自分に対して、アンナが必死に叫んで止めようとしているように映ってしまった。
その隙を見逃さなかったベルヴェルクの一太刀が浅くだがユウキを捉える。
「ぐうっ……!」
「しめた!!」
好機と見て、メーデイアが微笑み、オリヴィアとショロトルを地面に降ろして、魔力を高めながら詠唱を開始した。
それを横目で見ていたオリヴィアが止める。
「メーデイア様……、駄目です。力を封印された今の状態で2回目を使ってしまえば、メーデイア様もタダでは済みません……!!」
「良い……。私の感が言っている! 今、奴を討たねばミナト並みに厄介な存在となる。奴だけでも倒してしまえばあとはなんとでもなる。
奴を今、倒してあとは引く。これを使ってしまっても、逃げるだけの力は残る筈だ!」
ベルヴェルクに一太刀浴びせられた後、ユウキはアンナの存在と、浅い傷が邪魔をして、ベルヴェルクを攻めきれなくなった。
2人の激しい打ち合いの最中、エリーナは激しい殺気に気づき、メーデイアの方を見つめた。
「!!!? マズい! メーデイアはユウキだけでも消してしまうつもりだ!!」
「!!!!?」
アンナ、フィオナ、アレン、アリシアはエリーナの叫び声を聞いた後、メーデイアを向き、メーデイアが何をするつもりなのかを悟った。
「ユウキお兄ちゃん、逃げてぇーー!!」
フィオナが大声でユウキに叫んだ瞬間、ベルヴェルクはメーデイアの方にユウキを剣で押し体制を崩させ、自身は横に逸れるようにその場を離れた。
ユウキはフィオナの叫び声を聞いて、初めてメーデイアの方を振り返った。
メーデイアがニヤリと笑って叫んだ。
「神の槍!!!!」
全属性禁呪魔法が無防備のユウキに近づく。
「ユウキ、避けてーー!!」
アンナが悲痛な表情で叫んだ瞬間だった。
エリーナがユウキの前に両手を広げて現れる。
「!!!!?」
ユウキ達全員が驚く間もなく、神の槍はエリーナに直撃し、激しい爆発が起きる。
ズアォッ!!!!
爆発による地鳴りが止むと、爆炎の中から、ユウキがボロボロになったエリーナを抱きしめるように地上に落ちてきた。
「下級風属性魔法!!」
地面に激突する寸前でアリシアが風魔法でユウキとエリーナを助け、地面にゆっくり降ろす。
爆発に少し巻き込まれ、身体に火傷を負ったユウキは、身体を震えさせながら、身体を起こして、エリーナの状態を確かめた。
「フィオナ、来てくれ!! エリーナを助けてくれ!! 酷い状態だ!!」
フィオナも傷ついた身体に鞭を打って出来るだけ早く歩いてエリーナに近づき、状態を確かめた。
「っ……!?」
エリーナの状態を確かめたフィオナが悲痛な表情に変わり、顔を横に振った。
「どうしたんだ、フィオナ! 早くエリーナに回復魔法をかけてくれ!!」
ユウキが焦ったように叫ぶ。
「……ユウキお兄ちゃん、もう、エリーナさんは……」
下を向いて泣きそうな表情を浮かべるフィオナ。
「ふざけんなっ!!
なんでもいいから、回復魔法をかけてくれって言ってるだ!! なんで、言うことを聞いてくれないんだよ!!!!」
怒りをフィオナにぶつけるように叫ぶユウキ。
「……ユウキ……、フィオナ様を……、責めるな。
フィオナ様は正しい……、私はもう……助からない……」
エリーナが微かに目を開けて呟いた。
「そんな事言うなって! 諦めんな!!
3姉妹で平和な世界を幸せに暮らすって言ってたじゃねーかよ!! なんで……!! なんでだよっ!!」
涙を零して叫ぶユウキ。
遅れてアンナとディアナがエリーナの側に駆けつけた。
「エリーナ!!」
「エリーナ様!!」
ゆっくり目だけを動かしてアンナとディアナを見つめるエリーナ。
「ルナ……、ディアナ……。すまない……。
お前達との約束……守れそうにない…………」
「そんな事言わないでエリーナ……。置いてかないで、…………お姉ちゃん!!」
涙をポロポロ零し始めるアンナ。
「エリーナ姉様、どうか、お願いです。
まだ逝かないでください……!!」
ディアナも涙を零し始めた。
少しして、瞳を閉じてエリーナが話し始めた。
「……ルナ……、ディアナ……。覚えているか……。
私達が初めて会った日のこと……。
私は今でも……昨日の事ようにはっきりと想い出せる…………。
あの日、……私たちに血の繋がりなどなかった……。それでもお前達は……、私の事を……、姉と呼んでくれたんだ……。
それが……私にとってどれだけ幸せだったか……。
あの日、私にとって、お前達は……、ただの姉妹ではなくなった……。
私にとってかけがえのないものになったんだ…………。
本当に……、ありがとう…………。
私は……、幸せ……だったよ………………………………」
そう話したエリーナは瞳を開けて、エリーナに顔を寄せるアンナとディアナの頭をポンポンと撫でて呟いた。
「泣くな……ルナ……、ディアナ……。私は常にお前達の側にいる…………………………………………………………………」
そう呟き終えるとゆっくりと腕を降ろしてエリーナは瞳を再び閉じた……。
ディアナが下を向いて大粒の涙を零す。
アンナが涙を零しながらエリーナの身体を揺すりながら話した。
「私だって……、あの日、エリーナをお姉ちゃんって呼べたこと……、どれだけ幸せだったか、分かるエリーナ……? あの日からディアナも私も……、エリーナの事が……、私たち姉妹の事がかけがえのないものになったんだよ…………。
……ねぇ……、聴いてる? エリーナぁ…………。
応えてよ……………………」
動かなくなったエリーナの顔に沢山の大粒の涙が零れ落ちた。
アリシアがボロボロになった衣服を直すように魔法をかけ、アレンが自身の袋に入っていた綺麗なマントをエリーナの胸に被せる。
フィオナは何度も何度も回復魔法をかけ続けた。
次の瞬間、エリーナの身体が輝き出し、小さな光の粒になって弾け飛んだ。
光の粒がユウキ達に降り注ぐ。
アレンのブレスレットから外に出てきてアリスが呟く。
「エリーナさんが、さよならを言っています……」
光の粒がユウキ、アンナ、ディアナに触れ、エリーナとの記憶を呼び起こす。
ユウキはエリーナに初めて会った日の事を思い出していた。
精神的に幼く、弱かった自分に対しても常に瞳を逸らさず、眼を見て真剣に向き合ってくれていたこと……。
初めて名前を呼んでくれた日……。
疲れた時、美味しい紅茶をいつも淹れてくれたこと……。
王の剣の事で揉めたこと……。
戦闘中はいつも気を使っていてくれたこと……。
本当の姉のように常に自分を見てくれていた事を今になって初めて気づいたユウキは今まで以上にポロポロと涙を零し始めた。
アンナとディアナは思い出していた。
自分達が辛い時、苦しい時、泣いていた時、常に側にいて、頭をポンポンと撫で、いつもの台詞で慰めてくれていたことを……。
思い出の中のエリーナは常に誇り高く、キラキラと光輝く笑顔を放っていた。
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