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第6章
隠された真実
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地上のアレンの側に降りたアリシアはアレンに尋ねた。
「どう? あのショロトルという男のスキル特性はわかった?」
「フレイヤにトドメを刺そうとした攻撃を剣で受けた感触は間違いなく金属の類だった。それに、攻撃が飛んでくる方向の感知は予想通り可能だ。身体中を覆う闘気の量を増やして体積を増やした状態で気配を探れば、闘気内に奴の攻撃が入った時に感知出来た。私が捌いた際は、4方向から同時に攻撃を仕掛けていた」
アレンが真剣な表情で応えた。
「つまり、身体にダメージを与えるものは魔法の類ではないと?」
アリシアが更に尋ねる。
「ああ、……恐らく、奴のスキルは物体の透明化! 予め透明化した数十本ものナイフを下級風属性魔法などで空中で操り、目で目標物定めて攻撃しているのだろう」
アレンが不気味に笑いながら立ち上がるショロトルを見て話した。
「だいせいか~~い! この能力があれば、雷属性の魔法は全て無効化出来るんだよ~! さっき、赤毛の女が放った雷属性禁呪魔法とかもね! 無数のナイフを折り重ねて地面まで這わせれば、即席の避雷針が出来上がるのさ。
それにしても、あの一回の打ち合いでそこまで見抜いたのかい? 君、何者?」
ショロトルがワクワクした顔でアレンを見つめた。
「……創造の巫女アリシアより寵愛を授かりし王の剣、アレン・アルバートだ」
「君があの王の剣か……! 道理で他の奴と動きが違う訳だ」
未だに立ち上がる事が出来ないフレイヤとディアナの状態を見て、アリシアが叫んだ。
「エリーナ様、早く!」
走ってアリシアの元に駆けつけたエリーナはまず初めに状態がより酷いフレイヤ対してエレメントによる治癒を行い始めた。
「どのくらいかかりますか?」
アリシアが心配そうに尋ねた。
「……傷がかなり深い。エレメントでの治癒でも表面上の傷ならすぐにでも癒せるが、動けるようになるまで治療するのは、かなり時間がかかる。2人はもう、この戦いでは復帰出来まい……。上級魔法が使えればそんなに時間はかからないのだが、オリヴィアがいる前では詠唱に時間のかかる治癒魔法は使わせては貰えないだろう……」
エリーナが必死に治癒を行いながら話した。
「ディアナさんも、同時に治療可能ですか?」
「ああ、手に届く範囲に運んでくれれば可能だ。今からそれを頼もうと思っていたところだ」
それを聞いたアリシアが頷いてミアに向かって叫んだ。
「ミア! ディアナさんをここへ!」
「了解です、アリシア様!」
ミアはすぐに自身の身体を球体状に形状を変え、ディアナを包み込んで、エリーナの元に素早く運んだ。
ミアがフレイヤの隣りに並ぶように寝かせたのを見て、エリーナは、左手をディアナに、右手をフレイヤにかざしてエレメントによる治癒を行い始めた。
それを確認したのを見て、アリシアが口を開いた。
「アレン、ミア! メーデイアとショロトルという男の足止めをお願い。アレン、貴方しかショロトルの攻撃を感知して瞬時に防ぐという芸当は出来ない。ミアもナイフによる攻撃なら、見えなくて斬られてもスライムだからダメージにならないから、問題ない。メーデイアの魔法攻撃だけは気をつけて! 倒さなくていいから時間を稼いでくれればいいわ。
その間に、私とルナマリアで回復手段を封じているオリヴィアを倒すわ!」
「わかった。任せろ」
「了解しました。アリシア様!」
アレンとミアが同時に応えた。
すぐにアリシアがルナマリアの元に駆けつけ、話しかける。
「ルナマリア! 敵のパーティーを倒すには、やっぱりあのオリヴィアって人から倒すしかないわ! 私が敵のパーティーを分断して、あの人の動きを封じるからルナマリアがダメージを与えるの……。出来る?」
「ええ、30秒ほど時間を貰えれば、私も最大まで魔力を高めて禁呪魔法を放てるわ!」
アンナが頷いて応えた。
アレンがメーデイアに斬り込む。
それに瞬時に反応し、メーデイアが、中級土属性魔法を放つが、無数のいしつぶてをいとも簡単に撃ち落とし、距離を詰めるアレン。
アレンが水平に剣を振るが、メーデイアはこれを後方に躱す。次の瞬間、見えないナイフでショロトルがアレンを狙うが、二刀流に切り替えて、アレンが全て捌ききる。
ショロトルの攻撃後の隙を狙って、腕を剣に形状変化させていたミアが上から腕を振るが、ショロトルは上空に躱した。
逃すまいと、ミアが身体中から水弾を放つが、ショロトルは見えないナイフを操り簡単に打ち落とす。
今度はショロトルがミアの身体を見えないナイフで切り刻むが、ミアは身体をすぐに再生させる。
「!!!? ……なるほど、君はスライムの変異種か。風魔法とナイフによる攻撃しか手段のない僕とは相性最悪だなぁ……」
ショロトルは呟いた後、アリシアの方を驚いた表情で見つめた。
(あの、僅かな間に僕への対策と、敵パーティーに対する有効な人選を行い、実行させる能力……。なるほど……、長い間、衰退していたカレント領土を復興させ、世界最大の戦力を誇る国まで伸し上げた手腕は伊達ではないということか……)
メーデイアは魔法で作った弓で遠距離から矢を射るが、アレンはものともせず、全てを打ち落とし、距離を詰める。斬り込む瞬間に、メーデイアは瞬時に魔法で剣を作り、アレンの攻撃を止める。
ガン!
「……魔法使いタイプかと思ったが、近接戦闘もかなりのレベルだな……」
アレンが冷静に呟く。
「ふんっ、人間風情が! 神を甘く見るな……! 私は貴様らの上に立つ存在だぞ。どれだけ貴様が人間の中で強かろうが、本来、私の足元にも及ばない事が分かっているのか!」
メーデイアが苛ついた表情で話した。
「確かに圧倒的な戦闘力だが、絶望を感じる程ではないな……。戦い方次第ではなんとかなりそうだ」
アレンがニヤリと微笑んで話した。
「ワクールの思念の伝達で、ある程度私達の情報は伝えられていたようだが……、何もわかってないようだな、王の剣よ……。
私と8大災厄は、力を封印をされていて、本来の力を出せていないのだよ」
「知っていたさ。封印と言っても、力の一部をなんだろ? 多く見積もったとしても、半分程度とみた……」
アレンの攻撃を躱してメーデイアが笑って応えた。
「やはり、そういう風に考えていたか、アンジェラの力も甘く見られたものだな……。
驚け王の剣よ。お前達の主人アンジェラの封印で、私達の力は本来の1/10に満たないほど抑えられている。封印さえ解けば、お前達などすぐに消し炭に出来るのだ!」
「!!!?」
アレンはメーデイアの台詞がハッタリかどうか、メーデイアの表情から読み解こうとしたが、嘘ではない事に気づき、冷や汗を流す。
アレンと、メーデイアは少しの間、剣を合わせた後、アレンが口を開いた。
「そのアンジェラとは誰だ……? 私達の主人だと?」
「!!!? なんだと!? お前らはアンジェラからの告げ口で私の計画に気付いて反旗を翻そうとしていたのではないのか!? あの愚かな男、ミナトのように!」
メーデイアが驚いた表情で尋ねる。
「お前の計画!? ……私達は、ルーク様が亡くなられる前に、巫女祀りの村に世界を救う為の秘密が隠されている事を伝えられ、ミナト様が残した書物の中から、お前を神器に封印すれば、全て解決することを知っただけだ……。お前の計画なんて知らない」
アレンが剣を振るのをやめ、応えた。
「ルーク……。数年前に剣聖と呼ばれたアナスタス領土の男か。なぜ、その者がミナトが残した書物の事を知っている!? 答えろ、王の剣!」
メーデイアが真剣な表情で尋ねる。
「……ルーク様の王妃であられたソフィア様からそう聞いたと」
アレンが応えた瞬間、メーデイアが驚愕の表情に変わる。
「……き、貴様、今、誰から聞いたと言った……?」
メーデイアが身体を震わせて尋ねた。
「だから、ルーク様の王妃ソフィア様だ」
「そうか……! あの時、あの女はこの時代に飛ばされたのだ! 全部、あの女がやった事だったのか! 全く、アンジェラ、ミナトといい、ソフィアといい、私の計画を邪魔するのが好きな奴らだ」
「どういう事だ……。わかるように説明しろ」
「……貴様らにわざわざ説明するつもりは………… !?」
メーデイアが話している最中に驚いた表情に変わり、ニヤリと微笑んで、また口を開いた。
「良かろう……。貴様らにも分かるように話してやろう」
メーデイアは地上に降りて叫んだ。
「オリヴィア! ショロトル! 戦闘を中止して私の元に集まれ!!
王の剣よ、真実を知りたければ、お前らの仲間達も戦闘を中止させろ!」
それを聞いていたアンナ、アリシア、ミアはアレンの方を振り返り、アリシアが口を開いた。
「アレン……!?」
アレンはアリシアに向けて、メーデイアに従うように頷いて見せた。それを見たアンナ、アリシア、ミアは仕方なく構えを解く。
それを確認した後、オリヴィア、ショロトルがメーデイアの背後に戻る。
オリヴィアが小声で王の剣を見ながらメーデイアに尋ねた。
「奴の力が予想以上でしたか……?」
メーデイアが微笑みながら小声で応えた。
「それもあるが、ベルヴェルクから思念の伝達があった。もうすぐ奴がここに来る。その時間稼ぎだ」
「なるほど、流石メーデイア様です……」
オリヴィアがスッと後ろに下がった。
アレンはアリシア達の側に降り立ち、メーデイアを見つめて叫んだ。
「メーデイア、お前の言う通りにしてやったぞ! さあ、ミナト様や、ソフィア様について知っている事を教えてもらおう」
「!!!? お母様の話!?」
アンナが驚いて口を開いた。
「ほう……。そうか、お前、ソフィアとルークの娘だな? ソフィアの先読みの力を継承したという訳か。面白い……。
お前の母と父の卑怯で哀れな人生について話してやろう」
メーデイアが笑うように話した。
「お母様とお父様を馬鹿にしないで!」
「実際に卑怯で哀れだからそう言っただけだ。なぜなら、ソフィアはお前達だけでなく、愛するルークにすら嘘をつき続け、騙して生きてきたからだ。ルークはソフィアのその嘘の為に、戦場を駆け巡らされて、挙句の果てに戦死した哀れな男なのだ!」
「ど、どういう事……!?」
アンナが戸惑う様子を見て、ゆっくりとメーデイアが真実を話し始めた。
「……あれは、1800年1月1日の啓示の日の事だ。
あの日、私は久しぶりに下界に降り立ち、いつもの作業に取り掛かろうとしていた。
そこは三ヶ国のちょうど、中央に位置する孤島で、私しか知り得ない場所だった。しかし、私は奴らに突如、襲われたのだ」
アリシアがハッとして話した。
「ミナト様達……!」
「そうだ。ところでお前達はミナトと共に戦った2人の巫女の事をどれだけ知っている……?」
メーデイアが含みのある言い方をして尋ねた。
アンナがアリシアの顔を見ると、アリシアは以前共有した情報が全てだという表情をして頷いた。それを見てアンナが口を開く。
「2人ともミナト様と同じ巫女祀りの村で生まれた幼馴染みで、1人は後に国宝級の名を残した忘却の巫女ユナ様、そして、もう1人はなぜか、巫女祀りの村の誰一人名前を覚えていなかった謎の多い巫女様……」
「なるほど……。お前達の間ではその様に伝えられているのか。
私はそのもう1人の謎の多い巫女の事をよく知っている」
メーデイアが真剣な表情に変わり、アンナ達は緊張した表情で次の言葉を待った。
「その巫女こそ、ルナマリア、お前の母である先読みの巫女、ソフィアなのだ!」
「!!!? 嘘だ! ソフィア様は終焉の巫女の呪いで1992年1月1日に亡くなられた! 私が亡くなられるその時まで看取ったから間違いない。そんな大昔にソフィア様がいる訳がない!!」
ディアナとフレイヤを治療していたエリーナが叫び、倒れたまま、ディアナとフレイヤも耳を傾けていた。
「私がここでお前達に嘘を言う必要がどこにある?
全て真実だよ。私しか知り得ない未開の地に、降りたばかりの私をどうやってミナト達は奇襲をかけたのだ? ソフィアの先読みの力を使う以外、私の降臨の地と時間を知る術はない筈だ。
それではなぜ、大昔に生きていたソフィアがこの時代にいるのかについて教えよう……。
私とミナト達の戦いは激しいものとなった。ミナトと忘却の巫女ユナ、先読みの巫女ソフィア、奴らは強かった。そう、今のお前達よりずっと……。特に完全にコントロールした寵愛の加護を同時に2つ使うミナトの力は、力が封印されているとはいえ、私の力を大きく上回っていたのだ」
「「!!!?」」
アンナ達が全員、同時に驚き、アリシアが話した。
「ちょっ、寵愛の加護を2つ同時に使っていた……!? そんな事が可能なのですか!?」
「本来、アンジェラが終焉の巫女を護らせる為に用意した守護者の力は、寵愛の加護が最強の力だが、ミナトはユナとソフィアから同時に愛されていたのだ。
そして、本来、存在する事なく、人類が得る事の出来ない神々の領域の力を手に入れた……。
名を[寵愛の秘跡]という」
「寵愛の秘跡……!!
…………まさか、ルーク様が話していたソフィア様が昔、ルーク様の前に愛しておられた相手がミナト様……!?」
エリーナが冷や汗を出して話した。
「ミナトはその寵愛の秘跡の力を使い、私に深いダメージを与えて、追い詰め、獣人族の村に伝承されていた神器の聖杯を使って私の封印を試みた。
しかし、ソフィアでは私を封印する器としては小さく、封印は失敗に終わった。その時の力の暴走で、ソフィアは次元の狭間に飛ばされたのだ。
ここまで言えばわかるな……?」
メーデイアが微笑を浮かべる。
倒れて聞いていたフレイヤが驚きながら口を開いた。
「封印の失敗時における後遺症で次元の狭間に飛ばされ、この時代に飛ばされたという事か!?」
「そういう事だ。
私にとって幸運だったのは力の暴走の際に生じた次元の狭間を利用し、私は最後の力を振り絞って、邪魔なミナトとユナを元の世界に飛ばし、2度とこの世界に戻って来れなくした事。
ソフィアの愛するミナトと、親友だったユナを異世界送りにした時のソフィアの悲しむ顔と言ったら、今、思い出しただけでも、濡れそうだ……」
メーデイアが歪んだ笑顔で応える。
「っ………!! この下衆が!!」
エリーナが怒って叫ぶ。
「恐らく、次元の狭間に飛ばされたソフィアは、この時代のアナスタス領土に飛ばされたのだろう。
当時、奴は18歳だったから、1992年1月1日に亡くなったとするなら、逆算して、1980年1月1日にこのアナスタス領土に飛ばされ、次元の狭間の磁場の影響で深く傷つき倒れていたソフィアをルークか、ルークの関係者が見つけ、保護したのだろうな。流石の私も次元の狭間の行き先までは知り得ない。私がこの世界を滅ぼした後の世界に飛ばされていたら最高だったのだが、こればかりは私にもどうも出来ないからな。
つまり、こういう事だ。
哀れにも自分の封印の失敗で生じた次元の狭間にミナトとユナを私から元の世界に飛ばされたソフィアは、その後、自身も次元の狭間に吸い込まれ、この時代に行き着いた。
その後は、ルークに保護され、卑怯にも先読みの力を使って、私の計画を把握したソフィアは、ルークを手玉にとって愛させ、信じ込ませ、私への復讐の為にルークを利用して私の計画を何度も邪魔をしてきたのだ。そして、ソフィアを信じていた哀れなルークは、その身を滅ぼす事となったのだ。
これを卑怯で哀れな人生と呼ばずになんと呼べば良いのだ?」
メーデイアが笑いながら話した。
「黙れ、メーデイア! それ以上ルーク様とソフィア様を侮辱してみろ! ただでは済まさんぞ!」
エリーナが激怒して叫んだ。
それを見たアレンが慌てたようにエリーナに話しかける。
「落ち着いて下さい、エリーナ様! メーデイアはわざと挑発しているんです!
アンジェラという者についてもまだ聞けていない。堪えて下さい!」
エリーナが冷静さを失っているのを見て、メーデイアは更に話した。
「エリーナとそこの獣人族はルークの拾い物。そして、ルナマリアは愚かな夫婦の作り物の愛で作った娘という事だ。
愚かな仮面夫婦の娘達もまた、紛い物だったという事なのだよ」
その言葉を聞いた瞬間、エリーナの横からアンナが怒りの表情でメーデイアに飛びかかる。
「ルナっ! 駄目だ!!」
エリーナが慌てて止めるがアンナは怒りで我を忘れてエリーナの声が聞こえない。
アンナが我を忘れて飛びかかってきたのをみて、メーデイアは微笑を浮かべて呟いた。
「やれ、ベルヴェルク!」
メーデイアの背後から全身を黒の鎧で覆った男が急に現れ、アンナとメーデイアの間に入り、無防備のアンナに向け、剣を振り上げた。
「物理防御魔法!!」
アリシアが急いでアンナに向け、防御魔法を唱えるが、それを見越していたオリヴィアの魔法完全妨害禁呪魔法で阻止される。
アンナは黒の鎧の男に肩口から斜めに斬られて後方に倒れた。
「ルナぁあーーーー!!」
ディアナとフレイヤの治療を中断して、アンナの助けに向かうエリーナ。
アンナがベルヴェルクの一刀で身体が両断されなかった事に気付き、メーデイアが舌打ちをする。
「ちっ……! エリーナめ、瞬時にエレメントで防御壁を展開して、ルナマリアを助けたか!
ショロトル、とどめを刺せ!!」
「はっ! メーデイア様」
ショロトルが見えないナイフで倒れたアンナを追撃しようとした瞬間、目の前からアンナが消える。
ショロトルがアレン達の方を向くと、先程まで倒れていたディアナが苦しそうな表情でアンナを抱き抱えていた。
それを見たメーデイアが苛ついたように話す。
「くそっ! 1人邪魔者を消せたものを……!
……まあ、良い。これでまた、エリーナは治療の為、我々とは戦えない。奴らの戦力を大幅に削れた事には違いない」
傷口が開き、その場に膝をつくディアナ。
それを見たエリーナが側に駆けつけ、ディアナとアンナにエレメントで治療を開始して話した。
「ディアナ、お前、あの一瞬でビーストモードと神速を連用したのか! ……その身体で良くやった! あとは、ゆっくり休んでいるんだ」
それを聞いて、ニコリと笑い、頷いて再び横になるディアナ。
アリシアが新たに現れた8大災厄を見て、冷や汗を流して呟いた。
「……この為の時間稼ぎだったのね……。なんて奴なの」
「さあ! これでお前達の中で戦える者は、アレン、アリシア、スライムの女の3人。こちらは4人、立場が逆転したなぁ……」
メーデイアが微笑みながら話した。
アレンが間髪入れずに叫んだ。
「アリシア・マナ・エリザベス!!」
アレンがそう叫ぶとアレンは青色の光に包まれ、その光は柱となった。
その後、その光の柱はアレンの体型に収束し、周りに留まった。
アレンがメーデイアに斬り込む。
「ほぅ……、寵愛の加護を完璧にコントロールし、力を最大まで引き出している。流石は王の剣だ。
……しかし、それがどうした!! 力を見せてやれ、ベルヴェルク!!」
メーデイアが叫ぶと、横に控えていた黒の鎧の男が呟いた。
「ソフィア・フォン・ヴィクトリア……!」
黒の鎧の男、ベルヴェルクがそう叫ぶとベルヴェルクはえんじ色の光に包まれ、その光は柱となった。
その後、その光の柱はベルヴェルクの体型に収束し、周りに留まった。
「!!!!!!?」
アレン、アリシア、エリーナ、ミア、フレイヤが驚く。
メーデイアに斬りかかっていたアレンの前にベルヴェルクが一瞬で立ちはだかり、アレンの斬り下ろしに合わせて、ベルヴェルクが斬り上げた。
ガギィイイイーーーーーーン!!
2人の凄まじい太刀が衝突し、激しい音と、衝撃波が周りに弾け飛ぶ。
次の瞬間、アレンの剣は折れ、その衝撃でアレンは遥か後方の民家の立ち並ぶ場所まで飛ばされ、数件の民家がバラバラになった。
何が起きたか理解出来ないという表情で、起き上がってこないアレンに向け、アリシアが呟いた。
「アレン……?」
すぐにメーデイアに向け、怒りの表情でエリーナが叫ぶ。
「メーデイア、貴様! その男が使っている力をどこで奪った!? それは……! それは、ルーク様がソフィア様より授かった世界最強の加護の力、ソフィア様の寵愛の加護ではないか!!」
エリーナの側で横になっていたアンナがエリーナの叫びを聞いて、ベルヴェルクを見つめる。
エリーナの叫びに更に不気味な笑みを浮かべて応えるメーデイア。
「奪う……!? 人聞きが悪い事を言うな。これはこの8大災厄ベルヴェルクが実際にソフィアから授けられた力だ」
エリーナが固まって、少しの沈黙の後、呟いた。
「貴様……、なにを……、なにを言っている……?」
「まだ、理解出来ないか? 仕方がない。
ベルヴェルク、その兜を取って奴らに顔を見せてやれ」
メーデイアが嬉しそうに微笑んで話した。
メーデイアの笑みと言葉で全てを理解したアリシアが激怒して叫んだ。
「なんて事を……! 貴方! 死者の魂を弄んだのね!!」
ベルヴェルクと呼ばれた男が兜を脱ぐと、そこには金髪短髪、金色の瞳をした男の顔が現れた。
その顔を見たエリーナが身体を震えさせ、膝をついて叫んだ。
「ルーク様っ!!」
「ははははは……!! 貴様らの最強の騎士は、肉体が滅び、魂となった後、私が悪の騎士にしてやったのだ!!」
メーデイアが大声で笑って話した。
絶望的な戦況と、4人目の8大災厄の正体を知り、心を完全に折られたエリーナは、両手を地面について、涙を流した。
「終いだ……。オリヴィア!」
メーデイアがオリヴィアを見つめる。
「はっ……、既に禁呪の詠唱を終え、最大に高めた魔力で攻撃出来ます」
オリヴィアが両手をアンナ達に向け、話した。
「私とオリヴィアの最大火力での禁呪魔法だ。
死ね! ソフィアに操られし愚かな者どもよ!!」
メーデイアがそう叫ぶと、オリヴィアも合わせるように禁呪魔法を放った。
「風属性禁呪魔法!!」
「水属性禁呪魔法!!」
ドッバァーーーーーン!!
禁呪魔法が炸裂し、水魔法の水分がミスト状の霧となりアンナ達と周囲を覆った。
「勝ったな……」
メーデイアがニヤリと笑って呟いた。
しかし、晴れてきた霧の中から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「ふーぅ、なんとか間に合ったみたいね。
みんな! 私が来たからもう、大丈夫!」
メーデイアが睨むように霧の中を見つめて叫んだ。
「貴様、何者だ!」
霧が完全に晴れ、全属性防御魔法を展開して、アンナ達の窮地を救ったフィオナがそこには立っていた。
「フィオナ!」
「フィオナ様!?」
アリシア、エリーナが同時に驚く。
フィオナは周りを見渡し、アンナ、ディアナ、フレイヤの状態を見て、両手を広げて口を開いた。
「超上級治癒魔法!!」
「!!!?」
その場にいる全員が驚く。
オリヴィアは、フィオナが魔法を使うタイプだと推察し、すぐに魔法完全妨害禁呪魔法を発動させる準備をしていた。オリヴィアのこの予測は素晴らしく、正しいものだった。本来、魔法は詠唱に数秒時間を費やし、発動までに更に数秒かかる。治癒魔法に関しては発動後も傷を塞ぎきるまで更に数分もの時間を費やしてしまうのが常識だった。
しかし、今、目の前でフィオナが見せた超上級治癒魔法は、詠唱破棄は勿論、発動までコンマ1秒もかからず、倒れていたアンナ、ディアナ、フレイヤの傷を一瞬で治してしまった。その為、魔法完全妨害禁呪魔法で治癒魔法妨害を目論んでいたオリヴィアの作戦は破綻した。それは、すなわち、回復に追われていたエリーナの戦線復帰を意味していた。
アリシアに笑顔が戻り叫んだ。
「フィオナ! 凄いわ!!」
「へへへ……。
でも、知っての通り、治癒魔法は傷は癒しても体力までは戻らないから、アンナとディアナ、フレイヤさんは暫く動かない方がいいわ」
フィオナが微笑みながら応えた。
アリシアがハッとして、フィオナに話す。
「そうだ、フィオナ! アレンもあっちの民家が潰れたところに倒れているの! お願いだから治療して!」
フィオナが民家の方を向いて、少しの沈黙の後、呟いた。
「……私は特殊スキルで気配を探れるけど、アレンさん、あそこにいないみたいだよ」
「えっ……!?」
アリシアが驚いた瞬間、メーデイア達の足元に魔法陣のような紋様が浮かびあがった。
メーデイア達の動きが止まり、メーデイアが叫ぶ。
「なっ……! なんだ、この魔法陣は!! 身体が動かない!」
上空から、アレンが降り立ち、魔法陣の端を折れた剣で突き刺した。
ドガーーーーン!!
大爆発が起こり、アレンが爆炎の中からアリシアの側に戻る。
それを見たアリシアが泣きそうな顔になって喜んで叫んだ。
「アレン! 無事だったのね!」
アリシアに背中を向けたまま、アレンが応えた。
「心配させてすまない……。あの寵愛の加護と太刀筋が余りにもルーク様に似ていたから驚いて、暫く動けなかったんだ……」
「ううん、いいの。貴方が無事なら。
……フィオナが来てくれたわ。みんなの傷を一瞬で治してくれたからエリーナ様も戦える! ……どう? イケそうかな……?」
アリシアが アレンに尋ねる。
「……もし、ベルヴェルクという8大災厄が全盛期のルーク様級なら、勝てない……。しかし、メーデイアは自身と8大災厄はアンジェラという女性の力によって力が大きく封印されていると言っていた。
それが、ベルヴェルクにも当てはまるなら、勝機はある!」
アレンが真剣な表情で応えた。
「……ユウキが来てくれたら……」
アリシアがボソリと呟いた。
「ああ……! あいつが来るまで耐えれば、私達の勝ちだ!!」
アレンがアリシアの方を振り返って笑顔で応えた。
その頃、アナスタス領土とシュタット領土間に設置されていたエリーナのテレポート内を黒髪の男が凄まじい速度で駆けていた。
「どう? あのショロトルという男のスキル特性はわかった?」
「フレイヤにトドメを刺そうとした攻撃を剣で受けた感触は間違いなく金属の類だった。それに、攻撃が飛んでくる方向の感知は予想通り可能だ。身体中を覆う闘気の量を増やして体積を増やした状態で気配を探れば、闘気内に奴の攻撃が入った時に感知出来た。私が捌いた際は、4方向から同時に攻撃を仕掛けていた」
アレンが真剣な表情で応えた。
「つまり、身体にダメージを与えるものは魔法の類ではないと?」
アリシアが更に尋ねる。
「ああ、……恐らく、奴のスキルは物体の透明化! 予め透明化した数十本ものナイフを下級風属性魔法などで空中で操り、目で目標物定めて攻撃しているのだろう」
アレンが不気味に笑いながら立ち上がるショロトルを見て話した。
「だいせいか~~い! この能力があれば、雷属性の魔法は全て無効化出来るんだよ~! さっき、赤毛の女が放った雷属性禁呪魔法とかもね! 無数のナイフを折り重ねて地面まで這わせれば、即席の避雷針が出来上がるのさ。
それにしても、あの一回の打ち合いでそこまで見抜いたのかい? 君、何者?」
ショロトルがワクワクした顔でアレンを見つめた。
「……創造の巫女アリシアより寵愛を授かりし王の剣、アレン・アルバートだ」
「君があの王の剣か……! 道理で他の奴と動きが違う訳だ」
未だに立ち上がる事が出来ないフレイヤとディアナの状態を見て、アリシアが叫んだ。
「エリーナ様、早く!」
走ってアリシアの元に駆けつけたエリーナはまず初めに状態がより酷いフレイヤ対してエレメントによる治癒を行い始めた。
「どのくらいかかりますか?」
アリシアが心配そうに尋ねた。
「……傷がかなり深い。エレメントでの治癒でも表面上の傷ならすぐにでも癒せるが、動けるようになるまで治療するのは、かなり時間がかかる。2人はもう、この戦いでは復帰出来まい……。上級魔法が使えればそんなに時間はかからないのだが、オリヴィアがいる前では詠唱に時間のかかる治癒魔法は使わせては貰えないだろう……」
エリーナが必死に治癒を行いながら話した。
「ディアナさんも、同時に治療可能ですか?」
「ああ、手に届く範囲に運んでくれれば可能だ。今からそれを頼もうと思っていたところだ」
それを聞いたアリシアが頷いてミアに向かって叫んだ。
「ミア! ディアナさんをここへ!」
「了解です、アリシア様!」
ミアはすぐに自身の身体を球体状に形状を変え、ディアナを包み込んで、エリーナの元に素早く運んだ。
ミアがフレイヤの隣りに並ぶように寝かせたのを見て、エリーナは、左手をディアナに、右手をフレイヤにかざしてエレメントによる治癒を行い始めた。
それを確認したのを見て、アリシアが口を開いた。
「アレン、ミア! メーデイアとショロトルという男の足止めをお願い。アレン、貴方しかショロトルの攻撃を感知して瞬時に防ぐという芸当は出来ない。ミアもナイフによる攻撃なら、見えなくて斬られてもスライムだからダメージにならないから、問題ない。メーデイアの魔法攻撃だけは気をつけて! 倒さなくていいから時間を稼いでくれればいいわ。
その間に、私とルナマリアで回復手段を封じているオリヴィアを倒すわ!」
「わかった。任せろ」
「了解しました。アリシア様!」
アレンとミアが同時に応えた。
すぐにアリシアがルナマリアの元に駆けつけ、話しかける。
「ルナマリア! 敵のパーティーを倒すには、やっぱりあのオリヴィアって人から倒すしかないわ! 私が敵のパーティーを分断して、あの人の動きを封じるからルナマリアがダメージを与えるの……。出来る?」
「ええ、30秒ほど時間を貰えれば、私も最大まで魔力を高めて禁呪魔法を放てるわ!」
アンナが頷いて応えた。
アレンがメーデイアに斬り込む。
それに瞬時に反応し、メーデイアが、中級土属性魔法を放つが、無数のいしつぶてをいとも簡単に撃ち落とし、距離を詰めるアレン。
アレンが水平に剣を振るが、メーデイアはこれを後方に躱す。次の瞬間、見えないナイフでショロトルがアレンを狙うが、二刀流に切り替えて、アレンが全て捌ききる。
ショロトルの攻撃後の隙を狙って、腕を剣に形状変化させていたミアが上から腕を振るが、ショロトルは上空に躱した。
逃すまいと、ミアが身体中から水弾を放つが、ショロトルは見えないナイフを操り簡単に打ち落とす。
今度はショロトルがミアの身体を見えないナイフで切り刻むが、ミアは身体をすぐに再生させる。
「!!!? ……なるほど、君はスライムの変異種か。風魔法とナイフによる攻撃しか手段のない僕とは相性最悪だなぁ……」
ショロトルは呟いた後、アリシアの方を驚いた表情で見つめた。
(あの、僅かな間に僕への対策と、敵パーティーに対する有効な人選を行い、実行させる能力……。なるほど……、長い間、衰退していたカレント領土を復興させ、世界最大の戦力を誇る国まで伸し上げた手腕は伊達ではないということか……)
メーデイアは魔法で作った弓で遠距離から矢を射るが、アレンはものともせず、全てを打ち落とし、距離を詰める。斬り込む瞬間に、メーデイアは瞬時に魔法で剣を作り、アレンの攻撃を止める。
ガン!
「……魔法使いタイプかと思ったが、近接戦闘もかなりのレベルだな……」
アレンが冷静に呟く。
「ふんっ、人間風情が! 神を甘く見るな……! 私は貴様らの上に立つ存在だぞ。どれだけ貴様が人間の中で強かろうが、本来、私の足元にも及ばない事が分かっているのか!」
メーデイアが苛ついた表情で話した。
「確かに圧倒的な戦闘力だが、絶望を感じる程ではないな……。戦い方次第ではなんとかなりそうだ」
アレンがニヤリと微笑んで話した。
「ワクールの思念の伝達で、ある程度私達の情報は伝えられていたようだが……、何もわかってないようだな、王の剣よ……。
私と8大災厄は、力を封印をされていて、本来の力を出せていないのだよ」
「知っていたさ。封印と言っても、力の一部をなんだろ? 多く見積もったとしても、半分程度とみた……」
アレンの攻撃を躱してメーデイアが笑って応えた。
「やはり、そういう風に考えていたか、アンジェラの力も甘く見られたものだな……。
驚け王の剣よ。お前達の主人アンジェラの封印で、私達の力は本来の1/10に満たないほど抑えられている。封印さえ解けば、お前達などすぐに消し炭に出来るのだ!」
「!!!?」
アレンはメーデイアの台詞がハッタリかどうか、メーデイアの表情から読み解こうとしたが、嘘ではない事に気づき、冷や汗を流す。
アレンと、メーデイアは少しの間、剣を合わせた後、アレンが口を開いた。
「そのアンジェラとは誰だ……? 私達の主人だと?」
「!!!? なんだと!? お前らはアンジェラからの告げ口で私の計画に気付いて反旗を翻そうとしていたのではないのか!? あの愚かな男、ミナトのように!」
メーデイアが驚いた表情で尋ねる。
「お前の計画!? ……私達は、ルーク様が亡くなられる前に、巫女祀りの村に世界を救う為の秘密が隠されている事を伝えられ、ミナト様が残した書物の中から、お前を神器に封印すれば、全て解決することを知っただけだ……。お前の計画なんて知らない」
アレンが剣を振るのをやめ、応えた。
「ルーク……。数年前に剣聖と呼ばれたアナスタス領土の男か。なぜ、その者がミナトが残した書物の事を知っている!? 答えろ、王の剣!」
メーデイアが真剣な表情で尋ねる。
「……ルーク様の王妃であられたソフィア様からそう聞いたと」
アレンが応えた瞬間、メーデイアが驚愕の表情に変わる。
「……き、貴様、今、誰から聞いたと言った……?」
メーデイアが身体を震わせて尋ねた。
「だから、ルーク様の王妃ソフィア様だ」
「そうか……! あの時、あの女はこの時代に飛ばされたのだ! 全部、あの女がやった事だったのか! 全く、アンジェラ、ミナトといい、ソフィアといい、私の計画を邪魔するのが好きな奴らだ」
「どういう事だ……。わかるように説明しろ」
「……貴様らにわざわざ説明するつもりは………… !?」
メーデイアが話している最中に驚いた表情に変わり、ニヤリと微笑んで、また口を開いた。
「良かろう……。貴様らにも分かるように話してやろう」
メーデイアは地上に降りて叫んだ。
「オリヴィア! ショロトル! 戦闘を中止して私の元に集まれ!!
王の剣よ、真実を知りたければ、お前らの仲間達も戦闘を中止させろ!」
それを聞いていたアンナ、アリシア、ミアはアレンの方を振り返り、アリシアが口を開いた。
「アレン……!?」
アレンはアリシアに向けて、メーデイアに従うように頷いて見せた。それを見たアンナ、アリシア、ミアは仕方なく構えを解く。
それを確認した後、オリヴィア、ショロトルがメーデイアの背後に戻る。
オリヴィアが小声で王の剣を見ながらメーデイアに尋ねた。
「奴の力が予想以上でしたか……?」
メーデイアが微笑みながら小声で応えた。
「それもあるが、ベルヴェルクから思念の伝達があった。もうすぐ奴がここに来る。その時間稼ぎだ」
「なるほど、流石メーデイア様です……」
オリヴィアがスッと後ろに下がった。
アレンはアリシア達の側に降り立ち、メーデイアを見つめて叫んだ。
「メーデイア、お前の言う通りにしてやったぞ! さあ、ミナト様や、ソフィア様について知っている事を教えてもらおう」
「!!!? お母様の話!?」
アンナが驚いて口を開いた。
「ほう……。そうか、お前、ソフィアとルークの娘だな? ソフィアの先読みの力を継承したという訳か。面白い……。
お前の母と父の卑怯で哀れな人生について話してやろう」
メーデイアが笑うように話した。
「お母様とお父様を馬鹿にしないで!」
「実際に卑怯で哀れだからそう言っただけだ。なぜなら、ソフィアはお前達だけでなく、愛するルークにすら嘘をつき続け、騙して生きてきたからだ。ルークはソフィアのその嘘の為に、戦場を駆け巡らされて、挙句の果てに戦死した哀れな男なのだ!」
「ど、どういう事……!?」
アンナが戸惑う様子を見て、ゆっくりとメーデイアが真実を話し始めた。
「……あれは、1800年1月1日の啓示の日の事だ。
あの日、私は久しぶりに下界に降り立ち、いつもの作業に取り掛かろうとしていた。
そこは三ヶ国のちょうど、中央に位置する孤島で、私しか知り得ない場所だった。しかし、私は奴らに突如、襲われたのだ」
アリシアがハッとして話した。
「ミナト様達……!」
「そうだ。ところでお前達はミナトと共に戦った2人の巫女の事をどれだけ知っている……?」
メーデイアが含みのある言い方をして尋ねた。
アンナがアリシアの顔を見ると、アリシアは以前共有した情報が全てだという表情をして頷いた。それを見てアンナが口を開く。
「2人ともミナト様と同じ巫女祀りの村で生まれた幼馴染みで、1人は後に国宝級の名を残した忘却の巫女ユナ様、そして、もう1人はなぜか、巫女祀りの村の誰一人名前を覚えていなかった謎の多い巫女様……」
「なるほど……。お前達の間ではその様に伝えられているのか。
私はそのもう1人の謎の多い巫女の事をよく知っている」
メーデイアが真剣な表情に変わり、アンナ達は緊張した表情で次の言葉を待った。
「その巫女こそ、ルナマリア、お前の母である先読みの巫女、ソフィアなのだ!」
「!!!? 嘘だ! ソフィア様は終焉の巫女の呪いで1992年1月1日に亡くなられた! 私が亡くなられるその時まで看取ったから間違いない。そんな大昔にソフィア様がいる訳がない!!」
ディアナとフレイヤを治療していたエリーナが叫び、倒れたまま、ディアナとフレイヤも耳を傾けていた。
「私がここでお前達に嘘を言う必要がどこにある?
全て真実だよ。私しか知り得ない未開の地に、降りたばかりの私をどうやってミナト達は奇襲をかけたのだ? ソフィアの先読みの力を使う以外、私の降臨の地と時間を知る術はない筈だ。
それではなぜ、大昔に生きていたソフィアがこの時代にいるのかについて教えよう……。
私とミナト達の戦いは激しいものとなった。ミナトと忘却の巫女ユナ、先読みの巫女ソフィア、奴らは強かった。そう、今のお前達よりずっと……。特に完全にコントロールした寵愛の加護を同時に2つ使うミナトの力は、力が封印されているとはいえ、私の力を大きく上回っていたのだ」
「「!!!?」」
アンナ達が全員、同時に驚き、アリシアが話した。
「ちょっ、寵愛の加護を2つ同時に使っていた……!? そんな事が可能なのですか!?」
「本来、アンジェラが終焉の巫女を護らせる為に用意した守護者の力は、寵愛の加護が最強の力だが、ミナトはユナとソフィアから同時に愛されていたのだ。
そして、本来、存在する事なく、人類が得る事の出来ない神々の領域の力を手に入れた……。
名を[寵愛の秘跡]という」
「寵愛の秘跡……!!
…………まさか、ルーク様が話していたソフィア様が昔、ルーク様の前に愛しておられた相手がミナト様……!?」
エリーナが冷や汗を出して話した。
「ミナトはその寵愛の秘跡の力を使い、私に深いダメージを与えて、追い詰め、獣人族の村に伝承されていた神器の聖杯を使って私の封印を試みた。
しかし、ソフィアでは私を封印する器としては小さく、封印は失敗に終わった。その時の力の暴走で、ソフィアは次元の狭間に飛ばされたのだ。
ここまで言えばわかるな……?」
メーデイアが微笑を浮かべる。
倒れて聞いていたフレイヤが驚きながら口を開いた。
「封印の失敗時における後遺症で次元の狭間に飛ばされ、この時代に飛ばされたという事か!?」
「そういう事だ。
私にとって幸運だったのは力の暴走の際に生じた次元の狭間を利用し、私は最後の力を振り絞って、邪魔なミナトとユナを元の世界に飛ばし、2度とこの世界に戻って来れなくした事。
ソフィアの愛するミナトと、親友だったユナを異世界送りにした時のソフィアの悲しむ顔と言ったら、今、思い出しただけでも、濡れそうだ……」
メーデイアが歪んだ笑顔で応える。
「っ………!! この下衆が!!」
エリーナが怒って叫ぶ。
「恐らく、次元の狭間に飛ばされたソフィアは、この時代のアナスタス領土に飛ばされたのだろう。
当時、奴は18歳だったから、1992年1月1日に亡くなったとするなら、逆算して、1980年1月1日にこのアナスタス領土に飛ばされ、次元の狭間の磁場の影響で深く傷つき倒れていたソフィアをルークか、ルークの関係者が見つけ、保護したのだろうな。流石の私も次元の狭間の行き先までは知り得ない。私がこの世界を滅ぼした後の世界に飛ばされていたら最高だったのだが、こればかりは私にもどうも出来ないからな。
つまり、こういう事だ。
哀れにも自分の封印の失敗で生じた次元の狭間にミナトとユナを私から元の世界に飛ばされたソフィアは、その後、自身も次元の狭間に吸い込まれ、この時代に行き着いた。
その後は、ルークに保護され、卑怯にも先読みの力を使って、私の計画を把握したソフィアは、ルークを手玉にとって愛させ、信じ込ませ、私への復讐の為にルークを利用して私の計画を何度も邪魔をしてきたのだ。そして、ソフィアを信じていた哀れなルークは、その身を滅ぼす事となったのだ。
これを卑怯で哀れな人生と呼ばずになんと呼べば良いのだ?」
メーデイアが笑いながら話した。
「黙れ、メーデイア! それ以上ルーク様とソフィア様を侮辱してみろ! ただでは済まさんぞ!」
エリーナが激怒して叫んだ。
それを見たアレンが慌てたようにエリーナに話しかける。
「落ち着いて下さい、エリーナ様! メーデイアはわざと挑発しているんです!
アンジェラという者についてもまだ聞けていない。堪えて下さい!」
エリーナが冷静さを失っているのを見て、メーデイアは更に話した。
「エリーナとそこの獣人族はルークの拾い物。そして、ルナマリアは愚かな夫婦の作り物の愛で作った娘という事だ。
愚かな仮面夫婦の娘達もまた、紛い物だったという事なのだよ」
その言葉を聞いた瞬間、エリーナの横からアンナが怒りの表情でメーデイアに飛びかかる。
「ルナっ! 駄目だ!!」
エリーナが慌てて止めるがアンナは怒りで我を忘れてエリーナの声が聞こえない。
アンナが我を忘れて飛びかかってきたのをみて、メーデイアは微笑を浮かべて呟いた。
「やれ、ベルヴェルク!」
メーデイアの背後から全身を黒の鎧で覆った男が急に現れ、アンナとメーデイアの間に入り、無防備のアンナに向け、剣を振り上げた。
「物理防御魔法!!」
アリシアが急いでアンナに向け、防御魔法を唱えるが、それを見越していたオリヴィアの魔法完全妨害禁呪魔法で阻止される。
アンナは黒の鎧の男に肩口から斜めに斬られて後方に倒れた。
「ルナぁあーーーー!!」
ディアナとフレイヤの治療を中断して、アンナの助けに向かうエリーナ。
アンナがベルヴェルクの一刀で身体が両断されなかった事に気付き、メーデイアが舌打ちをする。
「ちっ……! エリーナめ、瞬時にエレメントで防御壁を展開して、ルナマリアを助けたか!
ショロトル、とどめを刺せ!!」
「はっ! メーデイア様」
ショロトルが見えないナイフで倒れたアンナを追撃しようとした瞬間、目の前からアンナが消える。
ショロトルがアレン達の方を向くと、先程まで倒れていたディアナが苦しそうな表情でアンナを抱き抱えていた。
それを見たメーデイアが苛ついたように話す。
「くそっ! 1人邪魔者を消せたものを……!
……まあ、良い。これでまた、エリーナは治療の為、我々とは戦えない。奴らの戦力を大幅に削れた事には違いない」
傷口が開き、その場に膝をつくディアナ。
それを見たエリーナが側に駆けつけ、ディアナとアンナにエレメントで治療を開始して話した。
「ディアナ、お前、あの一瞬でビーストモードと神速を連用したのか! ……その身体で良くやった! あとは、ゆっくり休んでいるんだ」
それを聞いて、ニコリと笑い、頷いて再び横になるディアナ。
アリシアが新たに現れた8大災厄を見て、冷や汗を流して呟いた。
「……この為の時間稼ぎだったのね……。なんて奴なの」
「さあ! これでお前達の中で戦える者は、アレン、アリシア、スライムの女の3人。こちらは4人、立場が逆転したなぁ……」
メーデイアが微笑みながら話した。
アレンが間髪入れずに叫んだ。
「アリシア・マナ・エリザベス!!」
アレンがそう叫ぶとアレンは青色の光に包まれ、その光は柱となった。
その後、その光の柱はアレンの体型に収束し、周りに留まった。
アレンがメーデイアに斬り込む。
「ほぅ……、寵愛の加護を完璧にコントロールし、力を最大まで引き出している。流石は王の剣だ。
……しかし、それがどうした!! 力を見せてやれ、ベルヴェルク!!」
メーデイアが叫ぶと、横に控えていた黒の鎧の男が呟いた。
「ソフィア・フォン・ヴィクトリア……!」
黒の鎧の男、ベルヴェルクがそう叫ぶとベルヴェルクはえんじ色の光に包まれ、その光は柱となった。
その後、その光の柱はベルヴェルクの体型に収束し、周りに留まった。
「!!!!!!?」
アレン、アリシア、エリーナ、ミア、フレイヤが驚く。
メーデイアに斬りかかっていたアレンの前にベルヴェルクが一瞬で立ちはだかり、アレンの斬り下ろしに合わせて、ベルヴェルクが斬り上げた。
ガギィイイイーーーーーーン!!
2人の凄まじい太刀が衝突し、激しい音と、衝撃波が周りに弾け飛ぶ。
次の瞬間、アレンの剣は折れ、その衝撃でアレンは遥か後方の民家の立ち並ぶ場所まで飛ばされ、数件の民家がバラバラになった。
何が起きたか理解出来ないという表情で、起き上がってこないアレンに向け、アリシアが呟いた。
「アレン……?」
すぐにメーデイアに向け、怒りの表情でエリーナが叫ぶ。
「メーデイア、貴様! その男が使っている力をどこで奪った!? それは……! それは、ルーク様がソフィア様より授かった世界最強の加護の力、ソフィア様の寵愛の加護ではないか!!」
エリーナの側で横になっていたアンナがエリーナの叫びを聞いて、ベルヴェルクを見つめる。
エリーナの叫びに更に不気味な笑みを浮かべて応えるメーデイア。
「奪う……!? 人聞きが悪い事を言うな。これはこの8大災厄ベルヴェルクが実際にソフィアから授けられた力だ」
エリーナが固まって、少しの沈黙の後、呟いた。
「貴様……、なにを……、なにを言っている……?」
「まだ、理解出来ないか? 仕方がない。
ベルヴェルク、その兜を取って奴らに顔を見せてやれ」
メーデイアが嬉しそうに微笑んで話した。
メーデイアの笑みと言葉で全てを理解したアリシアが激怒して叫んだ。
「なんて事を……! 貴方! 死者の魂を弄んだのね!!」
ベルヴェルクと呼ばれた男が兜を脱ぐと、そこには金髪短髪、金色の瞳をした男の顔が現れた。
その顔を見たエリーナが身体を震えさせ、膝をついて叫んだ。
「ルーク様っ!!」
「ははははは……!! 貴様らの最強の騎士は、肉体が滅び、魂となった後、私が悪の騎士にしてやったのだ!!」
メーデイアが大声で笑って話した。
絶望的な戦況と、4人目の8大災厄の正体を知り、心を完全に折られたエリーナは、両手を地面について、涙を流した。
「終いだ……。オリヴィア!」
メーデイアがオリヴィアを見つめる。
「はっ……、既に禁呪の詠唱を終え、最大に高めた魔力で攻撃出来ます」
オリヴィアが両手をアンナ達に向け、話した。
「私とオリヴィアの最大火力での禁呪魔法だ。
死ね! ソフィアに操られし愚かな者どもよ!!」
メーデイアがそう叫ぶと、オリヴィアも合わせるように禁呪魔法を放った。
「風属性禁呪魔法!!」
「水属性禁呪魔法!!」
ドッバァーーーーーン!!
禁呪魔法が炸裂し、水魔法の水分がミスト状の霧となりアンナ達と周囲を覆った。
「勝ったな……」
メーデイアがニヤリと笑って呟いた。
しかし、晴れてきた霧の中から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「ふーぅ、なんとか間に合ったみたいね。
みんな! 私が来たからもう、大丈夫!」
メーデイアが睨むように霧の中を見つめて叫んだ。
「貴様、何者だ!」
霧が完全に晴れ、全属性防御魔法を展開して、アンナ達の窮地を救ったフィオナがそこには立っていた。
「フィオナ!」
「フィオナ様!?」
アリシア、エリーナが同時に驚く。
フィオナは周りを見渡し、アンナ、ディアナ、フレイヤの状態を見て、両手を広げて口を開いた。
「超上級治癒魔法!!」
「!!!?」
その場にいる全員が驚く。
オリヴィアは、フィオナが魔法を使うタイプだと推察し、すぐに魔法完全妨害禁呪魔法を発動させる準備をしていた。オリヴィアのこの予測は素晴らしく、正しいものだった。本来、魔法は詠唱に数秒時間を費やし、発動までに更に数秒かかる。治癒魔法に関しては発動後も傷を塞ぎきるまで更に数分もの時間を費やしてしまうのが常識だった。
しかし、今、目の前でフィオナが見せた超上級治癒魔法は、詠唱破棄は勿論、発動までコンマ1秒もかからず、倒れていたアンナ、ディアナ、フレイヤの傷を一瞬で治してしまった。その為、魔法完全妨害禁呪魔法で治癒魔法妨害を目論んでいたオリヴィアの作戦は破綻した。それは、すなわち、回復に追われていたエリーナの戦線復帰を意味していた。
アリシアに笑顔が戻り叫んだ。
「フィオナ! 凄いわ!!」
「へへへ……。
でも、知っての通り、治癒魔法は傷は癒しても体力までは戻らないから、アンナとディアナ、フレイヤさんは暫く動かない方がいいわ」
フィオナが微笑みながら応えた。
アリシアがハッとして、フィオナに話す。
「そうだ、フィオナ! アレンもあっちの民家が潰れたところに倒れているの! お願いだから治療して!」
フィオナが民家の方を向いて、少しの沈黙の後、呟いた。
「……私は特殊スキルで気配を探れるけど、アレンさん、あそこにいないみたいだよ」
「えっ……!?」
アリシアが驚いた瞬間、メーデイア達の足元に魔法陣のような紋様が浮かびあがった。
メーデイア達の動きが止まり、メーデイアが叫ぶ。
「なっ……! なんだ、この魔法陣は!! 身体が動かない!」
上空から、アレンが降り立ち、魔法陣の端を折れた剣で突き刺した。
ドガーーーーン!!
大爆発が起こり、アレンが爆炎の中からアリシアの側に戻る。
それを見たアリシアが泣きそうな顔になって喜んで叫んだ。
「アレン! 無事だったのね!」
アリシアに背中を向けたまま、アレンが応えた。
「心配させてすまない……。あの寵愛の加護と太刀筋が余りにもルーク様に似ていたから驚いて、暫く動けなかったんだ……」
「ううん、いいの。貴方が無事なら。
……フィオナが来てくれたわ。みんなの傷を一瞬で治してくれたからエリーナ様も戦える! ……どう? イケそうかな……?」
アリシアが アレンに尋ねる。
「……もし、ベルヴェルクという8大災厄が全盛期のルーク様級なら、勝てない……。しかし、メーデイアは自身と8大災厄はアンジェラという女性の力によって力が大きく封印されていると言っていた。
それが、ベルヴェルクにも当てはまるなら、勝機はある!」
アレンが真剣な表情で応えた。
「……ユウキが来てくれたら……」
アリシアがボソリと呟いた。
「ああ……! あいつが来るまで耐えれば、私達の勝ちだ!!」
アレンがアリシアの方を振り返って笑顔で応えた。
その頃、アナスタス領土とシュタット領土間に設置されていたエリーナのテレポート内を黒髪の男が凄まじい速度で駆けていた。
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