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第6章

王国騎士団団長リグル

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 時はルイン世紀1997年5月12日、カレント領土の王都サンペクルトにある自宅の前で、早朝から汗を流して木剣を振る中年の男がいた。
 右目に切り傷があるその男は、齢17で王国騎士団見習いとして入団してから、30年間、1日も休む事なく早朝はこうやって木剣を振り続けてきた。
 リグルと呼ばれるこの男が、王国騎士団見習いとして入団してから王国騎士団団長に就任するまで、彼は多くの苦難を乗り超えてきた。
 若い頃の彼はどんな事にも不器用で、元々剣術の才能を秘めた者達と比べると才能と呼ばるものが全く見当たらず、長い間、王国騎士団見習いとして日々を過ごしていた。
 しかし、彼はどんな時も勤勉であり続けた。
 王国騎士団見習い修練場での修練が終わると、王国騎士団修練場まで足を運び、王国騎士団の中でも特に実力を持つ10傑(上から10人の強者達のこと)の修練や試合を見学し、それを元に動きを記憶して、自身の日々の剣術の型の練習に組み込んでいったのである。
 そして、リグルが25歳になった頃、一気に彼の努力が実を結ぶ時がきた。
 日々の努力が評価され、王国騎士団見習いから王国騎士団に活躍の場を移すと、すぐに当時の10傑達から剣術の技術を認められ、驚くべきスピードで出世していったのである。そして、アリシアがカレント領土の魔王として統治を開始した頃、衛兵隊隊長に就任し、その後は、アレンやアリシアと交流を続け、現在、王国騎士団団長の地位まで上り詰めたのである。
 リグルに才能があるとすれば、それは人をよく観察し、良い所を真似て、努力をし続ける事だった。そしてそれは、この日も、これから先も変わりはしないだろう。

 リグルが小休止し、滝のように流れる汗をタオルで拭い終わった時、リグルの家の方から可愛い声が聞こえてきた。

「お父さ~ん、朝ごはんだよー。早く戻ってきて~」
「わかったよ、アレッサ。すぐ戻る」
 リグルが愛娘アレッサの呼ぶ声に笑顔で応えた。



 リグル家の朝食は妻のエルザがリグルの好みに合わせて、栄養素のバランスが取れた肉、魚、野菜、果物をふんだんに使ったもので、リグル家の3人が殆ど病気もなく健康に過ごせてきた要因はこのエルザのお陰と言っても過言ではなかった。

「貴方、明日でしょう? 例の黒髪の子と戦う日は」
 妻のエルザが料理を運び終わり、席に着いてリグルに尋ねた。

「ああ、素晴らしい男だよ、彼は。
あのアレンの修行を約2年半リタイヤせずに続けてきただけでなく、3日前についに王国騎士団10傑を全て倒してしまったんだ! アレン並みの逸材だよユウキ君は」
 リグルが微笑みながら話した。

「それは凄いわね! 確か街の評判も良いみたいね。街の近隣のモンスターを衛兵隊の代わりに倒したり、街の困った案件を引き受けてどんどん解決していってるみたいね」
 エルザも微笑みながら話した。

「それも、確かアレンの修行の一部だったな。ユウキ君がどんどん修行を増やされて困ると嘆いていたよ」
 リグルが笑いながら話した。

「どう? 明日、勝てそう?」
 エルザが尋ねる。

 その質問で先程まで笑顔で応えていたリグルの顔が真剣なものに変わった。
「……正直、分からない。剣の技術では私が圧倒的に上だろうが、彼には彼にしかない武器がある」

「彼にしかない武器?」
 エルザが尋ねる。

「心の強さだよ。
彼には……、諦めず、挑み続ける心。
愛する者の為、戦い続ける強い心がある」
 リグルが応えた。

「それなら、貴方が勝てるわ」
 エルザが即答する。

「えっ!? どうしてだ?」
 リグルがエルザの顔を見つめる。

「だって、貴方も……。ユウキ君の持つその強い心で王国騎士団団長まで上り詰めたんですもの」
 エルザが強い眼差しで応えた。

 エルザの一言でハッとした表情に変わり、リグルは瞳を少しの間閉じて、見開き応えた。
「ありがとう、エルザ」

 その言葉にエルザが微笑んで頷いた。

「お父さん、明日、ユウキさんと戦うの?」
 アレッサがリグルの側まで来て、心配そうに尋ねた。

「ああ、そうだよ」

「ユウキさん、凄く強いって色んな人に聞いたよ。お父さん、大丈夫? 痛い目に合わない?」
 アレッサが下を向いて尋ねた。

「お父さんは大丈夫。お父さんは絶対に負けないんだ」
 リグルがアレッサの頭に手をポンっとおいて応えた。

 リグルを見上げたアレッサが尋ねる。
「どうして、お父さんは絶対に負けないって言い切れるの?」

 その問いにリグルは即答した。
「お父さんが、だからさ」
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