51 / 116
第6章
王国騎士団団長リグル
しおりを挟む
時はルイン世紀1997年5月12日、カレント領土の王都サンペクルトにある自宅の前で、早朝から汗を流して木剣を振る中年の男がいた。
右目に切り傷があるその男は、齢17で王国騎士団見習いとして入団してから、30年間、1日も休む事なく早朝はこうやって木剣を振り続けてきた。
リグルと呼ばれるこの男が、王国騎士団見習いとして入団してから王国騎士団団長に就任するまで、彼は多くの苦難を乗り超えてきた。
若い頃の彼はどんな事にも不器用で、元々剣術の才能を秘めた者達と比べると才能と呼ばるものが全く見当たらず、長い間、王国騎士団見習いとして日々を過ごしていた。
しかし、彼はどんな時も勤勉であり続けた。
王国騎士団見習い修練場での修練が終わると、王国騎士団修練場まで足を運び、王国騎士団の中でも特に実力を持つ10傑(上から10人の強者達のこと)の修練や試合を見学し、それを元に動きを記憶して、自身の日々の剣術の型の練習に組み込んでいったのである。
そして、リグルが25歳になった頃、一気に彼の努力が実を結ぶ時がきた。
日々の努力が評価され、王国騎士団見習いから王国騎士団に活躍の場を移すと、すぐに当時の10傑達から剣術の技術を認められ、驚くべきスピードで出世していったのである。そして、アリシアがカレント領土の魔王として統治を開始した頃、衛兵隊隊長に就任し、その後は、アレンやアリシアと交流を続け、現在、王国騎士団団長の地位まで上り詰めたのである。
リグルに才能があるとすれば、それは人をよく観察し、良い所を真似て、努力をし続ける事だった。そしてそれは、この日も、これから先も変わりはしないだろう。
リグルが小休止し、滝のように流れる汗をタオルで拭い終わった時、リグルの家の方から可愛い声が聞こえてきた。
「お父さ~ん、朝ごはんだよー。早く戻ってきて~」
「わかったよ、アレッサ。すぐ戻る」
リグルが愛娘アレッサの呼ぶ声に笑顔で応えた。
リグル家の朝食は妻のエルザがリグルの好みに合わせて、栄養素のバランスが取れた肉、魚、野菜、果物をふんだんに使ったもので、リグル家の3人が殆ど病気もなく健康に過ごせてきた要因はこのエルザのお陰と言っても過言ではなかった。
「貴方、明日でしょう? 例の黒髪の子と戦う日は」
妻のエルザが料理を運び終わり、席に着いてリグルに尋ねた。
「ああ、素晴らしい男だよ、彼は。
あのアレンの修行を約2年半リタイヤせずに続けてきただけでなく、3日前についに王国騎士団10傑を全て倒してしまったんだ! アレン並みの逸材だよユウキ君は」
リグルが微笑みながら話した。
「それは凄いわね! 確か街の評判も良いみたいね。街の近隣のモンスターを衛兵隊の代わりに倒したり、街の困った案件を引き受けてどんどん解決していってるみたいね」
エルザも微笑みながら話した。
「それも、確かアレンの修行の一部だったな。ユウキ君がどんどん修行を増やされて困ると嘆いていたよ」
リグルが笑いながら話した。
「どう? 明日、勝てそう?」
エルザが尋ねる。
その質問で先程まで笑顔で応えていたリグルの顔が真剣なものに変わった。
「……正直、分からない。剣の技術では私が圧倒的に上だろうが、彼には彼にしかない武器がある」
「彼にしかない武器?」
エルザが尋ねる。
「心の強さだよ。
彼には……、諦めず、挑み続ける心。
愛する者の為、戦い続ける強い心がある」
リグルが応えた。
「それなら、貴方が勝てるわ」
エルザが即答する。
「えっ!? どうしてだ?」
リグルがエルザの顔を見つめる。
「だって、貴方も……。ユウキ君の持つその強い心で王国騎士団団長まで上り詰めたんですもの」
エルザが強い眼差しで応えた。
エルザの一言でハッとした表情に変わり、リグルは瞳を少しの間閉じて、見開き応えた。
「ありがとう、エルザ」
その言葉にエルザが微笑んで頷いた。
「お父さん、明日、ユウキさんと戦うの?」
アレッサがリグルの側まで来て、心配そうに尋ねた。
「ああ、そうだよ」
「ユウキさん、凄く強いって色んな人に聞いたよ。お父さん、大丈夫? 痛い目に合わない?」
アレッサが下を向いて尋ねた。
「お父さんは大丈夫。お父さんは絶対に負けないんだ」
リグルがアレッサの頭に手をポンっとおいて応えた。
リグルを見上げたアレッサが尋ねる。
「どうして、お父さんは絶対に負けないって言い切れるの?」
その問いにリグルは即答した。
「お父さんが、王国騎士団団長だからさ」
右目に切り傷があるその男は、齢17で王国騎士団見習いとして入団してから、30年間、1日も休む事なく早朝はこうやって木剣を振り続けてきた。
リグルと呼ばれるこの男が、王国騎士団見習いとして入団してから王国騎士団団長に就任するまで、彼は多くの苦難を乗り超えてきた。
若い頃の彼はどんな事にも不器用で、元々剣術の才能を秘めた者達と比べると才能と呼ばるものが全く見当たらず、長い間、王国騎士団見習いとして日々を過ごしていた。
しかし、彼はどんな時も勤勉であり続けた。
王国騎士団見習い修練場での修練が終わると、王国騎士団修練場まで足を運び、王国騎士団の中でも特に実力を持つ10傑(上から10人の強者達のこと)の修練や試合を見学し、それを元に動きを記憶して、自身の日々の剣術の型の練習に組み込んでいったのである。
そして、リグルが25歳になった頃、一気に彼の努力が実を結ぶ時がきた。
日々の努力が評価され、王国騎士団見習いから王国騎士団に活躍の場を移すと、すぐに当時の10傑達から剣術の技術を認められ、驚くべきスピードで出世していったのである。そして、アリシアがカレント領土の魔王として統治を開始した頃、衛兵隊隊長に就任し、その後は、アレンやアリシアと交流を続け、現在、王国騎士団団長の地位まで上り詰めたのである。
リグルに才能があるとすれば、それは人をよく観察し、良い所を真似て、努力をし続ける事だった。そしてそれは、この日も、これから先も変わりはしないだろう。
リグルが小休止し、滝のように流れる汗をタオルで拭い終わった時、リグルの家の方から可愛い声が聞こえてきた。
「お父さ~ん、朝ごはんだよー。早く戻ってきて~」
「わかったよ、アレッサ。すぐ戻る」
リグルが愛娘アレッサの呼ぶ声に笑顔で応えた。
リグル家の朝食は妻のエルザがリグルの好みに合わせて、栄養素のバランスが取れた肉、魚、野菜、果物をふんだんに使ったもので、リグル家の3人が殆ど病気もなく健康に過ごせてきた要因はこのエルザのお陰と言っても過言ではなかった。
「貴方、明日でしょう? 例の黒髪の子と戦う日は」
妻のエルザが料理を運び終わり、席に着いてリグルに尋ねた。
「ああ、素晴らしい男だよ、彼は。
あのアレンの修行を約2年半リタイヤせずに続けてきただけでなく、3日前についに王国騎士団10傑を全て倒してしまったんだ! アレン並みの逸材だよユウキ君は」
リグルが微笑みながら話した。
「それは凄いわね! 確か街の評判も良いみたいね。街の近隣のモンスターを衛兵隊の代わりに倒したり、街の困った案件を引き受けてどんどん解決していってるみたいね」
エルザも微笑みながら話した。
「それも、確かアレンの修行の一部だったな。ユウキ君がどんどん修行を増やされて困ると嘆いていたよ」
リグルが笑いながら話した。
「どう? 明日、勝てそう?」
エルザが尋ねる。
その質問で先程まで笑顔で応えていたリグルの顔が真剣なものに変わった。
「……正直、分からない。剣の技術では私が圧倒的に上だろうが、彼には彼にしかない武器がある」
「彼にしかない武器?」
エルザが尋ねる。
「心の強さだよ。
彼には……、諦めず、挑み続ける心。
愛する者の為、戦い続ける強い心がある」
リグルが応えた。
「それなら、貴方が勝てるわ」
エルザが即答する。
「えっ!? どうしてだ?」
リグルがエルザの顔を見つめる。
「だって、貴方も……。ユウキ君の持つその強い心で王国騎士団団長まで上り詰めたんですもの」
エルザが強い眼差しで応えた。
エルザの一言でハッとした表情に変わり、リグルは瞳を少しの間閉じて、見開き応えた。
「ありがとう、エルザ」
その言葉にエルザが微笑んで頷いた。
「お父さん、明日、ユウキさんと戦うの?」
アレッサがリグルの側まで来て、心配そうに尋ねた。
「ああ、そうだよ」
「ユウキさん、凄く強いって色んな人に聞いたよ。お父さん、大丈夫? 痛い目に合わない?」
アレッサが下を向いて尋ねた。
「お父さんは大丈夫。お父さんは絶対に負けないんだ」
リグルがアレッサの頭に手をポンっとおいて応えた。
リグルを見上げたアレッサが尋ねる。
「どうして、お父さんは絶対に負けないって言い切れるの?」
その問いにリグルは即答した。
「お父さんが、王国騎士団団長だからさ」
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる