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第5章

つがいの命(フレイヤ過去編⑤)

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 フェンリルを封印し、その場に座り込む2人。
「やった……! やったぞリリィ!! 僕達、遂にやったんだ!!」

「うん! なんとかなったね!」
 笑みが戻る2人。

「お前達、何か変わった事はないか……? 記憶が飛んでいるとか、身体に変な所があるとか……?」
 不完全な儀式による後遺症を気にしたルルド大長老がフレイヤとリリィに話しかけた。

 2人とも、自身の身体の隅々を見渡し、今度は互いの状態を確認した後、フレイヤが、ルルド大長老に向かって微笑んで応えた。
「どっちも大丈夫みたいです!! フェンリル様も大分弱っていたから、奇跡的に後遺症を免れたのかもしれません!」

 ルルド大長老とキースがホッとした顔をして、微笑んだ。

「キースとダイアナのお陰でフェンリル様も大分弱っていたとはいえ……まさか、本当にやりおるとはな……! キース、あの2人はお前達夫婦をそのうち超えるぞ……!!」
 ルルド大長老が驚いた様子で話した。

「はい……!
私も先程の戦闘の最中、同じように感じておりました。
……あとは、お前だ、ダイアナ! 帰ってきてくれ!!」
 キースが自身の残り少ない生命エネルギーを魔力に変え、両の手に力を込めた。
 キースが自身の生命を維持できる限界まで生命エネルギーを使って治療を終えた。

「はぁ……! はぁ……! はぁ…………!!
くそっ!! まだ、少し足りない…………」
 キースが目を虚ろにしながら呟いた。

「お母さん……! 死んじゃ、やだ!!」
 側まで駆けつけたリリィが叫ぶ。

「母さん!! 母さんは獣人族史上最強の戦士なんだろ!? ……こんなところで死ぬな!!」
 フレイヤもダイアナの側に駆けつけて叫んだ。

 しかし、ダイアナは微動だにしない。
 冷たいまま、静かに目を閉じている。

「あぁぁーーーーーん!! お母さーーーーん!! お母さーーーーん!!」
 リリィがダイアナに覆いかぶさって泣き叫ぶ。

 フレイヤは歯を噛み締めたまま、うな垂れて泣き続けた。


 その時だった。
 ルルド大長老がダイアナの身体に両の手を当てて黄金の光を放ち始めた。

「大長老様!! いけません!! 貴方は先程も生命エネルギーを使って防御魔法を使い、フレイヤとリリィを助けてくださった! これ以上は、貴方が死んでしまいます!!」
 自身の生命エネルギーを更に使用し、ダイアナを蘇生し始めたルルド大長老を見てキースが叫んだ。

「魔力の尽きたわしには、これくらいしか出来ない……。
……いいんじゃ。先祖の罪滅ぼしがやっと出来る……」
 ルルド大長老が呟いた。

「大長老様……! 私達はそんな事気にしていません……!!」
 キースが叫ぶ。

「やはり、お前達、夫婦は過去の真実に気づいていたか……。
当然じゃな……。武の事も、世界の知識についても、限り無く極めたお前さん達が、その真実に辿り着くのは……。
それでもお前達、夫婦は、村の為、私の為に全てを捧げてくれた……。
自分の子供達を、フェンリル様の封印の器にされる事になっても……。
だから……これはわしがお前達にしてやれるせめてもの償いなのじゃ」
 ルルド大長老が両の手に更に力を込める。

「ダイアナは私の妻です!! その役目は私が……!!」
 キースが更に叫ぶ。

「お前さんの生命エネルギーは、もう限界じゃろ? お前さんが全ての生命エネルギーを使いきってもダイアナは助からんよ。
じゃが、わしの生命エネルギーを使いきれば、可能性はまだある!!
先程も言ったはずじゃ! これはわしの、わしら元隠族の償いなのじゃ!! だから、わしに任せてほしい!!!」
 ルルド大長老が応えた。

 ダイアナの顔に生気が戻り始める。

「凄い! 大長老様、もう少し!!!」
 リリィが驚く。

(回復系スキルで最も扱いと習得が難しい蘇生魔法をいとも簡単に扱えるなんて……。
しかも、生命エネルギーの魔力変換技術は父さんより上だ!!)
 フレイヤがルルド大長老の様子を見て驚く。

 ルルド大長老の顔は次第に痩せ細り、生気のない顔へと変わっていく。

「もう少し……!!
頼む! わしのちっぽけな命よ、最後まで保ってくれ!!」
 ルルド大長老が更に蘇生魔法の威力をあげ、呟いた。

 精霊の泉の横で倒れているダイアナの周りが光り輝く。
 暫くして光が収まると、ルルド大長老は両の手を下げて地面に手をついた。
「はぁ……! はぁ……!! はぁ……!!!」
 ルルド大長老が息を切らして大量の汗を流す。

「大長老様、ダイアナは……!?」
 キースが尋ねる。

「……ダイアナの両の手を握ってやるのじゃ……」
 ルルド大長老が静かに応えた。

 ルルド大長老の台詞を聞いて、必死で祈るようにキースがダイアナの手を握りしめた。
「ダイアナ……! ダイアナ……!!」

 暫くして、ダイアナがゆっくり目を開ける。
「……あなた…………?」

「ダイアナ……! 良かった! ダイアナ、よく戻ってくれた!!」
 キースが涙を流してダイアナを抱きしめる。

「あぁぁーーーーん、お母さーーん! 良かった、良かったよーーーーー!!」
 リリィも我慢出来ずにダイアナを抱きしめた。

「母さん……本当に……、良かった」
 フレイヤも涙を流して呟いた。

「わ……たし…………。
どうして……死んだはずじゃ…………」
 ダイアナが半身を少し起こして呟いた。

「大長老様が生命エネルギーを魔力に変換して蘇生魔法を唱えてくださったのだ……。命を使って……」
 キースがルルド大長老を見つめて頭を下げるように呟いた。

「そんな……! ルルド大長老様が?」
 ルルド大長老の元に這いずりながら近づくダイアナ。
「私なんかの為に……、ルルド大長老様……!」

「良いのだ……、ダイアナ……。
 我が一族の罪滅ぼしと、これまでのお前達夫婦へのせめてもの恩返しだ……」
 ルルド大長老がゆっくりと横になる。

 キース、ダイアナ、フレイヤ、リリィがルルド大長老の元に駆けつける。
「大長老様!!」
「大長老様!!」
「大長老様!!」
「大長老様!!」

「キース……、村の事を頼む。
ここに来る前に長老達を説き伏せ、村の者には我々、隠族の過ちを既に話してきた……。
皆には、お前が私の死後の大長老の座を務めるよう推薦しておいた……。
お前にしか頼めない……。
村を頼んだぞ……」
 ルルド大長老がキースを見て呟く。

「はい……! 必ず、ルルド様に代わり、村を守る事を誓います……」
 涙を流し、キースが応える。

「ダイアナ……。
幼い頃から、お前には村の護衛隊の最高責任者として、重い責任を押し付けてきた……。
好きな事をする時間も与えず、縛り付けられる人生を歩ませてしまって本当に、申し訳なかった……。
子供達に宿す者ヴァイスの使命を背負わせてしまった事も併せて、本当に済まないと思っている……。
差し出がましいとは思うが、これからは、せめて、愛する人と幸せに生きて欲しい……」
 ルルド大長老がダイアナに呟いた。

「……これまでルルド大長老以外の上役達は、私から感情を奪い、村を護る為の機械である事を強要し、私に伴侶を持つ事も、許して下さらなかった……。
しかし、キースに出会わせていただき、伴侶を持つ事をお許しになって下さったのは、ルルド大長老様です。
それに、他の長老達が宿す者ヴァイスをフレイヤやリリィに選定した後も、何度も反対し、それが無理だと分かった後は、密かに村の中で2人を保護して下さっていた事を私は知っていました……。
ルルド大長老様へは、感謝してもしきれません。
この命、必ず最大限に活用させていただきます……」
 ダイアナが自身の槍を強く握りしめ、涙を流して応えた。

「フレイヤ……。
リリィ……。
お前達には、宿す者ヴァイスとして、幼い頃からダイアナのように重責を背負わせてしまった……。
こんなに頼りない村の長を……、どうか、許しておくれ……。
それと……もう一つ…………。
先ほどの、フェンリル様との戦い……、見事だったぞ……!!
お前達なら、将来、両親を超える事が出来るだろう……。
これからも、今までのように2人で常に手を取り合い、どんな困難な試練も2人で解決していくのだ……。
そうすれば、お前達に勝る者などいない……。
どうか、あの世からお前達がこれからも光り輝く姿を見せておくれ……」
 ルルド大長老がフレイヤとリリィを見つめて呟いた。

「大長老様!
僕、宿す者ヴァイスの事、怒ってないよ……!
村で威厳のある父さん達の子供として、宿す者ヴァイスの候補に選ばれた事は誇りだったし、僕達を村の中で優遇してくれてた事は本当に嬉しかったんだ……。
それに……、母さんの命も…………。
本当に……ありがとう…………」
 涙を浮かべてフレイヤが応えた。

「うっ……うっ…………。
大長老、頭をぶってしまって……ごめんなさい…………。
お願いだから、死なないで……!!」
 リリィが泣いて頼むのように話した。

 皆の言葉を聞いて、ルルド大長老は微笑む。
「良かった……。
人生の終わりに……ようやく、大長老としての役目を少しだけ果たす事が出来たようじゃ…………。
お前達、家族が少しでも幸せになれたなら……わしが生きた意味もあったということか…………」

 皆がルルド大長老の手を握りしめて涙を流す。


 ルルド大長老が最後の役目を終え、目を閉じようとした時だった……。


「きゃああ!!」
 リリィが黒いモヤのような影に覆われて頭を抱えながら叫び始めた。

「リリィ!!」
 フレイヤが叫ぶ。

 目を閉じかけていた大長老がリリィの様子を見て叫んだ。
「いかん! フェンリル様の力が暴走している!! リリィの身体ではフェンリル様の力に耐えきれなかったのか……!!
キース! ダイアナ!! リリィの身体を抑えるのじゃ!!」
 ルルド大長老が命を振り絞るように叫ぶ。

 すぐにキースとダイアナがリリィに飛びかかり抑えようとしたが、リリィを取り囲む黒い影が瞬時に2人を吹き飛ばした。

「ダイアナ!! お前の聖なる槍で影を抑えるのじゃ!! それで、少しは収まるはずじゃ!!」
 ルルド大長老が話す。

 ダイアナが再度、リリィに飛びかかって叫んだ。
「ごめん、リリィ! 許して!!」
 ダイアナはリリィの左掌に聖なる槍を突き立てた。

「あぁ!!」
 リリィが叫び声をあげる。

 リリィを取り囲んでいた影は、ゆっくり槍に向かって吸い込まれ始めた。

「成功だ! ダイアナ!!」
 キースが喜ぶように叫んだが、すぐにルルド大長老が慌てたように叫んだ。
「いや、様子がおかしい!!」

 リリィを取り囲み、聖なる槍に吸い込まれ始めた影は、抗うように黒い球体を生み出し、そこにリリィごと覆い始めた。

「あれは、黒いフェンリルが消える時に生み出していた黒い歪み……!!」
 キースが呟く。

「リリィ!!」
 フレイヤが必死に手を伸ばし、それに応えるようにリリィが手を伸ばしたが、2人の手が触れる直前に黒い歪みはリリィと聖なる槍を飲み込み、その場から消失してしまった。
 皆が呆然とし、その場で固まる。

 暫くして、冷や汗を流しながらキースが口を開いた。
「……あれは、黒いフェンリルが自身の姿を隠す時に生み出していた次元の歪みだ……。リリィは死んだわけじゃない……。ダイアナ、フレイヤ、まだ、望みはある……!!」

「……キースの言う通りじゃ。
なにより、フレイヤ、お前はリリィの存在を心の奥で感じているのではないか……?」
 ルルド大長老が話した。

「……確かに……、だいぶ遠くに移動しちゃったみたいだけど、リリィの鼓動は感じる……。
さっき、フェンリル様と戦った時もそうだったけど、リリィと僕は小さい頃から互いが互いを強く思う時、一つの身体のように感じる事が出来たんだ。
リリィも同じように感じてたみたいで、いつも不思議に思ってたんだけど、なんなんでしょうか、この感覚は……」
 フレイヤが顔を伏せたまま応えた。

「……キース、ダイアナ、最後にわしの口から話す。成人するまでに2人に話す事は禁忌とされてきたが、もう、話して良かろう……。
フレイヤとリリィなら、その命を世の中の為に使ってくれるはずじゃ」
 ルルド大長老が話すと、キースとダイアナは顔を見合わせた後、ルルド大長老の方を向き直り、頷いた。

「フレイヤ、お前とリリィは元は1人の赤ん坊だったのだ……」
 ルルド大長老が静かに口を開いた。

「えっ!!? どういうことですか?」
 フレイヤは驚いたように尋ねた。

「キースとダイアナの子供は7年前にただ1人しか生まれていない! そう、フレイヤ、お前ただ1人だけじゃ!」
 ルルド大長老が話す。

「……そ、それじゃ、リリィはどうやって生まれてきたんですか?」
 フレイヤが信じられない表情で呟いた。

「7年前にお前が生まれてから、1年後、お前にある呪いが発症した……。
高熱が出て、村一番の呪術使いのわしでも解除出来ないほどの呪いだったから、お前の命は尽きかけていたのだ……。
しかし、奇跡が起こった……」
 ルルド大長老が話す。

「奇跡……?」
 フレイヤが尋ねる。

「突如、お前の身体が輝き出して、身体が2つに分裂し、女の子を生み出した。
不思議な事に呪いは軽いものとなってフレイヤと女の子にそれぞれ同じ分だけ分配されていた。
わしはフレイヤと、女の子の呪いを解除し、2人の赤ん坊は、一命を取り留めたのじゃ。
その時、生まれた子供にキースとダイアナは、リリィ、私達、獣人族の言葉で"希望"を冠する名前を付けたのじゃ」
 ルルド大長老が静かに話した。

「そ……! そんな事って……!!」
 フレイヤが驚きながら話す。

「……光の神レナ様が残したとされる、世界の伝承の中に、大昔から伝わるものがある…………。

"世界に闇が広がる時、終焉の巫女しゅうえんのみこと3つの光る番いの命つがいのいのちが立ち上がり、闇に対抗する"

この中の光の番いの命つがいのいのちと呼ばれる存在が、フレイヤとリリィ、お前達なのだ!」

「光のつがいのいのち……?」
 フレイヤが呟く。

「光の番いの命つがいのいのちとは、万が一、世界が闇の力によって、危機に瀕した時に、その力に対抗する為、光の神レナから生み出された神秘の命の事じゃ……。
その重要な役割の為に、簡単に命を落とさぬよう、1つの身体に2つの魂が宿る者のことで、もしもの時に身体を2つに分裂したり、1つに戻すことでその命を繋ぎ止める事が出来ると伝えられてきた。
……恐らく、フレイヤ、お前の幼い頃に呪いをかけたのは闇の勢力の者だろう。
昔から、闇に対抗する為に作られた光の番いの命つがいのいのちは闇の勢力に度々狙われてきたからそこは間違いない……。
……光の番いの命つがいのいのちに対して、その役割を当人に話す事は、当人がその重圧に耐えられなく恐れがある為、成人になるまでは禁忌とされてきたが、キースやダイアナの息子として、今まで宿す者ヴァイスの役目も全うしているフレイヤ、お前なら問題ないと判断し、今こうして話しているのじゃ。
フレイヤ、お前の役目は約束の日やくそくのひを回避し、世界を平和に導くために、お前の番いの命つがいのいのちであるリリィと、残りの2つの番いの命つがいのいのちを見つけて仲間たちと共に、闇の勢力を退ける事なのだ……。
お前がリリィの鼓動を感じている間は、リリィは必ずどこかで生きている!
だから、希望を捨てずに世界を平和に導くのだ……」
 ルルド大長老は話し終えると、全ての役目を終えたとばかりに、目を閉じた。

「大長老様!!」
「大長老様!!」
 キースとダイアナが慌てて叫ぶ。

「……今度こそ、本当にお別れのようじゃ。
キース、ダイアナ、
まだ、小さな息子との別れは辛いだろうが、精一杯、この村から送り出してやってほしい……。
あとは、どうか、村の状勢が落ち着いた時は、フレイヤや、リリィ、その仲間達の支えとなってやってくれ……。
あとは、任せたぞ…………………………………………」
 ルルド大長老は最期の言葉を話して静かに息を引き取った。

 キースとダイアナ、フレイヤは、涙を流して、ルルド大長老を取り囲んだまま下を向いた。



 暫くして、キースが重い口を開いた。
「……フレイヤ、大長老様の意思通り、明日の朝、旅立ちなさい。
お前はリリィの事が心配で、すぐにでも旅立つというかもしれないが、体力を戻した明日の朝でも遅くはない。
明日の朝、王都サンペクルトに旅立つといい。
王都なら、世界中の情報が入る。光を纏った聖なる槍を抱えた幼い獣人族なんて、滅多にいない。
お前がもし、王都で終焉の巫女しゅうえんのみこに仕える程に成り上がれば、裏の情報まで手に入り、いずれはリリィに辿り着くだろう。
王都で腕を磨きながら、リリィや世界の情勢についての情報を集めるのだ。
……世界で探すべき光の番いの命つがいのいのちは、お前とリリィ以外であと2つ。
フェンリル様は闇の番い命つがいのいのちだから、光の力としてはカウント出来ない。
フレイヤ!
約束の日やくそくのひまでに、リリィと残り2つの番いの命つがいのいのちを見つけ出し、仲間と共に、闇の勢力の脅威から世界を護り、約束の日やくそくのひをなんとしてでも回避するのだ。
その為には、これまで以上に修行に励む必要があるが、お前ならその苦しみも乗り越えられる筈だ!!」
 キースが力強い顔で話した。

 少し、黙っていたフレイヤだったが、微笑んでキースに応えた。
「父さん、任せて! リリィも、世界も僕がなんとかする! なんてったって、父さんと、母さんの子供だからね!!」

「……フレイヤ、貴方ならできるわ。
……でも、少しでも辛くなったら、すぐに帰ってくるのよ?」
 ダイアナが少し寂しそうに、誇らしげに話した。

「うん、母さん! リリィと世界を救って、必ずこの村に帰ってくるよ!!」


 精霊の泉には、朝日の優しい光が射し始めていた。


   ❇︎ ❇︎ ❇︎


 フレイヤは、幼い頃、リリィを宿す者ヴァイスの宿命から救えなかった事、次元の歪みに消える前に救えなかった事を後悔していた。だから、フレイヤは妹を見つけ出し、自身の力で世界を救う為に、村を離れたその日から槍の腕を磨き、アレンが現れる日まで王国騎士団のトップに立てるほどの実力を身につけた。

 そこまで夢を見た後、誰かが呼ぶ声でフレイヤは目を覚ました。

「いい身分だな! フィオナ様との修行の付き添いを反故ほごにしただけでなく、草むらで昼寝とは!」
 ディアナが槍を構えてフレイヤの喉元に突きつけた。

「あれれ、もう帰って来ちゃったの? 流石、フィオナ様とディアナだね。
……正直、僕は必要ないだろ? フィオナ様にはディアナがついてるんだから」
 フレイヤが苦笑いを浮かべて話した。

「そういう問題ではないだろう!」
 ディアナが怒る。

「ディアナ、もういいでしょ?
フレイヤは、その間、街中を警護してくれてたってさっき街の人からも聞いたでしょ?」
 フィオナがフレイヤを助けるように話す。

「しかし、フィオナ様……。
…………フィオナ様の優しさに感謝するのだな!」
 槍を納めてディアナが話した。

 それを見て、起き上がり背中についた砂埃を払い落とすフレイヤ。
「ごめん、ごめん、昨日、夜遅くまで修行してたから街中の警護の後、ちょっと寝ちゃってたみたいだね。今度は気をつけるよ」

「私達との修行以外に個人でですか?」
 フィオナが尋ねる。

「大切な人を守る為には、必要な事だからね」
 フレイヤが応える。

「ふん、普段ダラけている貴様が、誰かを守れるものなのか?」
 ディアナが尋ねる。

「……護るさ、今度こそ」
 そういうとフレイヤは、ディアナの持つ、[Diana]と書かれた、薄っすらと光輝く槍を見つめた。
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