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第3章

創造の巫女 アリシア

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 ユウキ達の先頭を走っていたアンナが玉座の間の扉を開けた。
 ギィィィイィィィイ……!

 アンナの目の前に最初に飛び込んできたのは、エリーナとエリーナの後ろに立つ銀髪の男。

「間に合った……!」
 アンナは安堵して呟いた。
 しかし、すぐにエリーナがその場に倒れ、動かなくなった。

「エリーーナーーーー!!」
 アンナが悲痛な顔で叫ぶ。

 すぐにユウキ達がアンナに追いつき、床に倒れ動かなくなったエリーナを見つけた。
「ルナ!! かいふ……」

 ビュン!!

 ユウキがアンナにエリーナの回復魔法の命令を出そうとした瞬間、ユウキの横を何かが通り過ぎる。
 ディアナが凄まじい速度でアレンに襲いかかり、顔目掛けて槍を突いた。
 アレンは難なく躱し、剣で槍ごとディアナを後方に弾き飛ばした。

「ルナ! 今のうちにエリーナを回復しろ!」
 ユウキが叫び、ユウキもアレンに襲いかかる。
 それに呼応するようにディアナも同時に襲いかかった。
 それを見て腰に挿していたもう一本の剣をアレンが引き抜き、二刀流に切り替えてユウキとディアナの連続攻撃を鮮やかに防いでいく。
 アンナはすぐにエリーナに駆け寄り、回復魔法を始めた。
 ユウキとディアナの連続攻撃を二刀流で防いでいたアレンにさらにフィオナの火球魔法が襲いかかるが、アレンはそれを弾き飛ばしユウキに当て、ユウキは後方に吹っ飛んだ。
 ディアナもアレンの二刀連撃で後方に吹き飛ばされる。

「ディアナさん! ユウキお兄ちゃん!!」
 フィオナが叫ぶ。

「ユウキーーーー!! 下がっていろ!!!!」
 ディアナが怒りに満ちた顔でユウキに叫ぶ。と同時にディアナの腕や足に毛が生え始め、鼻と口の周りは狼のように変化し始めた。
 ディアナの周りから湯気の様なものが立ち込める。

「ビースト! モード!!」
 ディアナが叫ぶ。

「……まさか、フレイヤ以外にリミッターを外す獣人族が存在するとはな……! エリーナ様といい、この獣人族といい、恐るべき戦力だ。王の盾がやられる訳だ」
 青い光に包まれたアレンが呟く。

「あ、あれはフレイヤの……!!」
 ユウキも驚く。

 ディアナは仁王立ちの状態から、アレンの視界から消えた。

「速い!!」
 アレンが呟く。

 ディアナはアレンを囲むように高速で移動しながら、ディアナが連続攻撃を加えるが、アレンは二刀で驚くべき捌きを見せ、全ての攻撃を防いでいく。
 ユウキと、フィオナは殆ど何が起きているかわからず、ディアナとアレンの異次元のスピードで繰り広げられる攻防を見守るしかなかった。
 エリーナを回復しながら、その様子を見ていたアンナが叫んだ。
「ディアナ、もうそれ以上は駄目! 1分を超えるわ!!」

 ディアナはその叫びを耳にしながらも、連続攻撃をやめる事をせずに更にスピードを上げアレンを襲った。
 しかし、アレンはそれを全て防ぎきり、ディアナを後方に押し返した。
 後ろに吹き飛ばされたディアナは、握る槍に力を込めて構え直した。
「ウォーーーーーーーーン!!」
 ディアナが雄叫びを上げ、更に叫ぶ。
白雷びゃくらい!!!!」

 ゴォ!!

 凄まじい風切り音と共に目にも止まらぬスピードで、アレン目掛けてディアナが突きを繰り出す。
 アレンは腰を落として防御の型に構え直した。
 ディアナの突きがアレンの胸に突き刺さろうとした瞬間、アレンの左手の剣がディアナの槍を上に弾き、右手の剣でディアナの脇腹を突き刺した。

「ディアナーーーー!!」
 ユウキが叫ぶ。

 アレンがディアナの脇腹に刺した剣を引き抜くと、ディアナは前のめりに倒れた。

「ルナマリア様! フィオナ様!
これで、わかったでしょう? これ以上の争いは無意味です!! 降伏して下さい!」
 アレンが叫ぶ。

「ああ! ディアナ!
ディアナ、ディアナ、ディアナ!!
ディアナまで…………!」
 アンナが涙を浮かべてエリーナを回復するが、エリーナは今だに動かない。

「ユウキお兄ちゃん!!」
 怒ったようにフィオナが叫ぶ。

「ああ! 絶対に許さねえ! アレン!! 覚悟しろ!!」
 そう言うと、ユウキは息を吸い込んで叫んだ。

「フィオナ・ジェマ・クリスティーナ!!!!」

 ドン!!!!

 ユウキの周りがオレンジ色の輝きを帯び光りの柱となって立ち昇った。
 その光はユウキの体型に沿って収束し留まった。

「なっ!!?  そ、それは…………、寵愛の加護ちょうあいのかご!!!!」
 アレンが驚く。

「ま、まさか、アレン以外に使えるものが存在するなんて!」
 アリシアも驚く。

 エリーナを回復していたアンナも驚いた表情でユウキを見つめた。

「もう、許さねえぞ! アレン!! 決着をつけてやる!
……フィオナ! ディアナの回復を頼む!」
 ユウキが叫ぶ。

「うん! ユウキお兄ちゃん! 負けないで!!」
 フィオナがディアナに駆け寄り、回復を始めた。


 ユウキとアレンは、それぞれの巫女の加護の光を帯びたまま構え、睨み合っていた…………。
 少しの沈黙の後、両者が動く。
 両者が剣をぶつけ合い、そこに激しい衝撃が起きる。

 ギィィン!!

 2人は凄まじい速度で攻防を行い、お互いに一歩も引かない時間が続いた。
 しばらくして、アレンがユウキを後方に吹き飛ばし、アレンはすぐに呪文を唱え始めた。
 ユウキは危険を感じ取り、先読みの力さきよみのちからを発動させる。

【アレンは呪文を唱え終えるとユウキの頭上に凄まじい威力の雷魔法を落とす。
慌てて後方に飛んだユウキの更に背後に移動したアレンが右手の剣でユウキを襲うが、なんとかユウキがこれを弾く。
しかし、二刀目の剣を捌ききれず、ディアナと同じように脇腹を刺され、ユウキが倒れた】

 時間軸は戻り、アレンが呪文を唱え終えた。
中級雷属性魔法ライトニングブレード!!」
 ユウキの頭上に凄まじい威力の雷魔法が落ちるが、難なく後方に躱すユウキ。
 ユウキの背後に移動したアレンが右手の剣でユウキを襲うが難なくこれを弾く。
 そこに二刀目の突きがユウキを襲うが、ギリギリ体を捻って躱しながら水平にアレンを斬った。
 しかしアレンは、なんとかこれもギリギリで後方に躱した。
 アレンの額の掠った所から微かに血が流れる。

「なっ!?」
 両者同様に驚く。

「私の今の連続攻撃を躱して反撃するとは!! 切り傷をつけられるなんてルーク様以来だ…………!!」

「今のでも、躱すのかよ!!」
 ユウキの額から冷や汗が出る。


「あ、貴方! 何者ですか!!
い、今、間違いなく巫女の力を使った!!」
 アリシアが驚いた表情で立ち上がった。

「な、なんだと! き、君は寵愛の加護ちょうあいのかごだけでなく、巫女の力まで使えるのか!! ほ、本当に何者なんだ!? 本当に女神の使者だとでも言うのか!?」
 アレンが驚く。

「お前らなんかには教えねえよ! さっさとお前を倒して2人を医者に見せなきゃならないからな!! 決着をつけようぜ!」
 ユウキが話す。

「…………いいだろう! 君が何者かわからないが君の力はすでに見切った! 君は私には勝てない! 君のそれは完全な寵愛の加護ちょうあいのかごではないからだ!」
 アレンが応える。

「……ちょうあいのかご?」
 ユウキが尋ねる。

「やはり、理解してないようだな……。君のその光は寵愛の加護ちょうあいのかごと言って、友愛の加護ゆうあいのかごを超える巫女最大の加護の力なのだ。
君は確かにその力の加護を受けるに値する資格があるのかもしれないが、その力の意味を理解していない。
だから力を完全に引き出せていないのだ!
寵愛の加護ちょうあいのかごの力の意味を理解していない君には、私は絶対に負けないよ」
 アレンが応えた。

「……この力の意味だと? そんなの関係ねぇ! どんな力だろうが全力でお前にぶつけて倒すだけだ!!」
 ユウキが叫ぶ。

「…………愚かだな……。
力の意味をまるで理解していない。それこそが最も重要だというのに……。
君ならルーク様と同じように戦えると思ったが見込み違いのようだ」
 アレンが応える。

「ごちゃごちゃうるせえよ! 決着をつけてやる!」
 ユウキが怒った顔で構え直した。

「いいだろう! 君を倒してこの戦争にも幕を引こう!」
 アレンが応える。

 2人はこれが最後の斬り合いになる事を覚悟し、互いを見つめあった。


 しばらくの沈黙の後、両者が動く。
 ユウキは激突の前に勝てる可能性を考えていた。
(あいつらは俺が本来の巫女の力と同じように先読みの力さきよみのちからが1日に1回しか使えないと思っているはず! だからそこを利用して、先読みの力さきよみのちからで決着をつける!)

 ユウキは激突の直前に先読みの力さきよみのちからを使い、先読みの力さきよみのちからが使われていない本来の攻防を確認する。

【先にアレンの右の斬り上げがユウキを襲うが、ユウキがしゃがんでギリギリで避け、上からアレンに向け斬り下ろす。
アレンはそれを左の剣で防ぎ、戻していた右の剣でユウキの腹を突く。
その突きを予測していたように身体を捻って水平にアレンを斬るが、これも予測していたアレンが上に飛んで回避し、前方宙返りの動きをしながらユウキを上から斬り伏せた】

 時間軸は戻り、先にアレンの右の斬り上げがユウキを襲うが、ユウキがしゃがんでギリギリで避け、上からアレンに向け斬り下ろす。
 アレンはそれを左の剣で防ぎ、戻していた右の剣でユウキの腹を突く。
 その突きを予測していたように身体を捻って水平にアレンを斬るが、これも予測していたアレンが上に飛んで回避し、前方宙返りの動きをしながらユウキを上から斬り下ろそうとした。
 しかし、それを先読みしていたユウキはアレンが前方宙返りをするタイミングで前方にダッシュした。
 アレンの前方宙返りをしながらの斬り下げは空振りに終わり、アレンの背後にユウキは回り込んだ。
 ユウキがアレンに向けて水平に斬ろうとした瞬間だった……。

 バチチ!!!

「なっ!!?」
 ユウキは雷魔法を受け動けなくなり、振り返ったアレンに上から斬られて後方に倒れた。

「ユウキっ!!」
「ユウキお兄ちゃん!!!」
 アンナとフィオナが叫ぶ。

「……なっ!? なんで!? か……、完全に虚を突いたはずだ!!」
 ユウキが驚く。

「…………確かに君の攻防は素晴らしく、本来なら君が勝っていた!
しかし君が巫女の力を再度使った事を私はアリシアから瞬時に思念で伝えてもらい、私は私が虚をつかれた際に反応することが難しい後方に雷魔法の[地雷じらい]を設置していた!
アリシアの思念の伝達がなければ床に倒れていたのは私だろう」
 アレンが応えた。

「貴方とアレンの衝突の寸前、耳鳴りが聞こえました。巫女の力を巫女の前で使うのはリスクを伴うのです」
 アリシアがホッとした様子で話す。

「君は…………、恐るべき男だ…………。
このまま生かしておけばアリシアの大きな障害となるだろう! 生かしてはおけぬ!!」
 アレンが剣を構えた。

「ちょっと、待って!!」
 アンナが慌てたように叫ぶ。

「ちょっと待って、アリシア! 降伏するわ! だから、その人を斬るのをやめさせて!!」
 アンナが泣きながら話す。

 しばらくして、アリシアが話す。
「…………ルナマリア、貴方とフィオナは殺せませんが、その男は別です。
寵愛の加護ちょうあいのかごだけでなく、巫女の力を使う人間なんて聞いたことがありません。正体のわからない私達にとって、とても危険です。
元々、貴方達が初めた戦争です。一つ、ケジメをつけてもらいます」
 そう言うとアリシアは、アレンに目配せした。

「やめてぇぇ!!」
 アンナが叫ぶ。

 それと同時にアレンが剣を振り上げ、ユウキ目掛けて振り下ろした。
 ユウキは死を覚悟し、目を閉じた。

 ドシュッ!!!!




 ユウキは斬られたはずなのに、まだ自分に意識がある事に気付き、ゆっくり目を開けた。

 そこには……………………、
 アレンに斬られたアンナがユウキに覆い被さるように倒れていた。

「アンナぁぁーーーーーーーーー!!」
 アンナを抱き上げるユウキ。
「な、なんで、こんな事を!? お前は死ななくて済んだんだ……………!!」
 ユウキが涙を浮かべながら話す。

 フィオナ、アレン、アリシアは驚いて、その場を動けなくなった。

「ユウキ…………、ごめんね………………。……………………私ね…………。
ユウキがいないと……ダメなの…………」
 アンナが息絶え絶えで話す。

「喋るな! 死んじまう!」
 ユウキが泣きながら話す。

「おねがい………………、きいて……………………。
小さい頃に…………ユウキに助けられて以来……………………、ユウキが…………、私の全てになった……………………。
だから………………少しの間でも………………ユウキを……救えたことは……………………、私にとって…………幸せ……………………。
今日まで………………本当に……………………、ありが…………とう……………………。
わたし……ね……………………、ユウキのこと…………………………、あい……し………………てる……………………。
…………最後に………………私の…………全ての……名前も呼んで……………………。
私の…………継ぎ……名…………は……………………………………………………」


「アンナ……………………?
アンナっ、!
アンナっ!!
アンナぁぁーーーーーーーーーー!!
アンナ、アンナぁぁーーーー!
なんで……………………、
どうして………………………………、
どうして……………………………………」
 ユウキは動かなくなったアンナを抱きしめて泣いた。


「なんて事だ………………。
まさか、こんな結末になるなんて…………。
ルーク様……、私は貴方に託された人を守れなかった……」
 アレンが悲しそうな顔でユウキとアンナを見つめた。

 その状況を見かねたアリシアが叫ぶ。
「…………なぜ……、なぜ、焦って戦を仕掛けてきたのです!! 私には……、私は別の未来を見据えていた!! 貴方達が焦って戦を仕掛けて来なければ別の結末になっていたかもしれないのに…………。
なんで………………!」
 そう言い終えるとアリシアは顔を伏せた。

「残念だが、幕を引こう、ユウキ…………!!
…………せめて、ルナマリア様と同じ場所でトドメを刺してやろう…………」
 そう言い終えるとアレンは剣を振り上げて、ユウキ目掛けて振り下ろした…………。



 ユウキは身体を斜めに斬られて後方に倒れ、アンナを見つめていた目をゆっくり閉じた………………………………
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