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第1章
終焉の巫女〜しゅうえんのみこ〜
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あの後、成瀬ユウキとディアナはコンソラ草を摘み終わり、エリーナのテレポート用の札で無事、帰還した。
すぐにディアナは医療室に通され、治療を受け大事には至らなかった。
アンナとエリーナは、ユウキから事の顛末を聞き(ユウキが戦闘に参加した事は、アンナが心配する可能性を考慮し、ディアナと話し合って意図的に話さなかった)、エリーナは護衛をディアナだけにしたことをひどく悔やんでいたが、安全区域に最強クラスのモンスターが突如出現するという異常事態であった為、アンナがエリーナを慰める形となった。
ユウキが元の世界から、異世界に移動してきてから、一月が経った頃、ユウキは剣の修行と雑務をこなしていた。
アンナが魔王として統治している領土の生活は元の世界の日本とよく似ていた。基本的に食べ物は日本の食べ物と非常によく似ていて、[リマ]と呼ばれる米によく似た穀類を主食に、魚や、肉をメインとしたものがほとんどだった。
アンナとユウキの提案により、味噌汁に代わるスープを考案し、城内で振る舞った際には、多くの者に喜ばれた。
アンナが統治している領土は基本的に魔物が多く人間は3割程度しかいないが、魔物と人間達は争うことなく互いに交流を深めていた。
城内には、3千にも及ぶ従者がおり、そのほとんどが魔物で構成されていたが、調理や芸術の分野においては人間の方が長けていた為、百人程度の選ばれた人間だけが、城内で働く事を認められていた。
ある日、ユウキはエリーナから、自室に呼び出されていた。
「ご足労かけてすまない、そこにかけてくれ。今日は貴様に頼みがあって来てもらった」
エリーナが紅茶を淹れながら話しかける。
「頼みって?」
それを聞くとエリーナが深く頭を下げた。
「頼む! 我が軍に入ってディアナと共に軍の幹部となり、皆を導いてほしい!
……ディアナから聞いて貴様が私の睡眠魔法に耐性があった理由がはっきりとわかった!
貴様、友愛の加護を使えるのであろう? ルナには貴様の事を心配すると思って話を伏せてあるが、いずれちゃんと説明して納得させるつもりだ」
ユウキは難しそうな顔で尋ねた。
「よそ者の俺に頼るってことは、結構切羽詰まってるみたいだな」
「……ああ、その通りだ。とりあえず、話を聞いてくれないか?」
「いつも、言ってるだろ?
ルナとルナに仕えてるあんたらの力になりたいって」
ユウキが即答する。
「……ありがとう」
エリーナはさらに頭を下げた。
エリーナは少しして、本題に入った。
「異世界は現在、三つの大陸に分かれていて、それぞれの大陸に魔王が存在している」
エリーナが異世界の地図を広げ、各所に駒のようなものを配置した。
「この南東のルナが統治するアナスタス領土と、南西の魔王アリシアが治めるカレント領土、北に広大に広がる魔王フィオナが治めるシュタット領土、これらの勢力で争いが起きている。
私達、つまりルナの勢力が750万の軍勢。
アリシアの勢力が800万の軍勢。
フィオナの勢力が1300万の軍勢。
現勢力としては、我が勢力が圧倒的に不利なのだ」
「フィオナの勢力との差があるのはわかったが、アリシアの勢力との差は戦略次第でなんとかなるんじゃないのか?」
ユウキが真剣に問う。
「いや、現勢力で一番厄介なのが、アリシアの勢力だ。奴らには、[王国騎士団]と呼ばれる国内の魔物、人間全ての中から選りすぐりの千人の世界最強の騎士達が控えている。奴らだけでも200万の軍勢に匹敵すると言われているのだ。
それだけではない、王国騎士団の頂点に立つ[王の剣]は、彼一人で500万の軍勢に匹敵すると言われている。間違いなく、現時点で彼が世界最強の男だろう」
ユウキが呆れたように、ため息をつく。
「つまり、800万+200万に匹敵する騎士団と500万に匹敵する男がアリシア勢力にいて、実質的には1500万の軍勢ということか……。なんだ、そのチートみたいな男は? 人間かよ?」
エリーナが不思議そうに尋ねる。
「チート? チートとはなんだ?」
ユウキが応える。
「あ~、え~っと、イカサマみたいにデタラメな力を持ってる奴のことさ」
「なるほど、デタラメな力か……。
奴は人間だが、確かにデタラメな力を持っているな。持っているというより、与えられていると表現した方が正しいのだろうが」
「どういう事だ?」
「その辺は追い追い説明しよう。話を本題に戻すぞ。
フィオナ勢力は目立った力を持ったものはほとんどいないが、広大な領土と1300万もの軍勢、莫大な資金などから3つの勢力の中でも最も安定していると言える。
問題は私たちの勢力についてだ……!
私たちの勢力は領土も一番小さく、軍勢も少ない上に、私とディアナ以外他国に名を馳せるものがいないのだ」
「よく他国から今まで滅ぼされなかったな」
ユウキが呟いた。
エリーナが悲しげな表情に変わり、呟くように説明を続けた。
「……ルナの父君ルーク様は王の剣に匹敵する実力の持ち主だった。ルーク様のお陰で3つの勢力は均衡を保ち続けていた。しかし、そのルーク様が今ここにいないのだ」
「それなら、その親父さんにここに戻ってもらうように頼めば済む話だろ?」
「……それが無理なのだ」
エリーナがうな垂れた。
「なんでだよ?」
「…………ルナの父君、ルーク様は半年前に亡くなられたのだ……」
「なっ、なんで、そんな化け物みたいに強い人が!?」
「……あれは、ルーク様が亡くなられた日から更に1年前、ルナの母君であられるソフィア様は終焉の巫女としての寿命が尽きた。その影響でソフィア様から特別な力を与えられていたルーク様の力も徐々に弱まり、半年前まで前線で国を守っておられたが、戦死されたのだ」
「終焉の巫女の寿命?」
「終焉の巫女は魔王の本来の呼び名だ。
その昔、片翼の女神は人と魔物の争いのない楽園として、異世界を一つの大陸として創造された。しかし、程なくして人と魔物だけではなく、人と人、魔物と魔物の争いも各所で起こり始め1000年にも及ぶ時が流れた。それでも人も魔物も争いを止めることをせず、それどころが激化の一途を辿った。それに悲観し、怒った片翼の女神は異世界を3つの大陸に分け、それぞれの領土に特別な力を与えた終焉の巫女を遣わし人々を治めるように仕向けたのだ。
終焉の巫女は片翼の女神から特別な力を与えられる代わりに、生まれて30年という短い寿命に縛られる呪いをかけられている」
「それじゃ、ルナのお母さんは……」
「ああ、終焉の巫女の30年という寿命で亡くなられた。
終焉の巫女の特別な力は本来、前の巫女が亡くなった場合、その子供か、その巫女に子供がいなかった場合、巫女と最も仲の良かった少女に継承されるのだが、ソフィア様が亡くなってもルナの巫女としての力がなぜか発揮されなかった。
そこで、ルナの身の危険を感じたソフィア様とその協力者がルナを元の世界に飛ばして逃したのだ。ルナが終焉の巫女としての力が覚醒するその時までな」
「それが俺とルナが異世界に来た日か!」
「ああ、その通りだ」
「その協力者ってやつは俺たちの力になれないのか?」
「その者はソフィア様がルナを元の世界に飛ばす計画を考案し始めた頃に、ソフィア様と出会ったみたいなのだが、ルナを元の世界に飛ばしてすぐに行方が分からなくなったのだ。探そうにも、いつも常にフードを被って顔を見せないようにしていたから、探しようがないのだ」
「何者なんだよ? その怪しいやつは?」
「わからない。確かに怪しいやつだったが、ソフィア様もルーク様も信頼していたのは確かだったから、悪いやつではないのだろう。
それは置いておいて、本題に話を戻すと、ソフィア様とルーク様のお陰でなんとか持ち堪えていた我が領土は、ソフィア様とルーク様を失った事でバランスが崩壊し、国が滅ぶ一歩手前まできていたのだ。
しかし、先日、巫女の力に覚醒したルナの帰還により、国内の魔物の統治と私達の友愛の加護の力の増大のお陰で、なんとか最悪の危機を乗り越えたばかりなのだ」
「最後まで、諦めなかったんだな!
やっぱり、エリーナとディアナ、この国の連中は立派だぜ!」
「……いや、正直、ルーク様が亡くなった時点でほとんど諦めかけていた……。それ程までにルーク様の影響は大きかったからな……」
「で、でも、ルナが帰ってきたから大丈夫なんだろ?」
「いや、最悪の危機を乗り越えただけに過ぎん。
ルナの突然の帰還を察知し、ルナの力のほどを知らない他国の兵達は、全滅の危険性を恐れて一時的に退却したに過ぎない。
ルナの巫女としての力は、まだ覚醒したばかりで、他国との力のバランスを保つには至らない。だから、この事実を他国に知られてはならないのだ。
私達の急務は、他国にこの事実を知られる前に各個人の能力を伸ばし、軍事力を上げ、他国に対抗出来るだけの力をつけなければならない」
「そこに、友愛の加護を使える俺が現れたから、協力してほしいってことか……」
「そういうことだ。
……本来、異世界の赤の他人である貴様に頼るのは心苦しいが、状況が状況だ……。大きな戦力になるお前にはどうしても私達に協力して助けてほしいのだ」
「…………わかった。
どこまで出来るかわからないけど、エリーナとディアナに教えてもらいながらでも、任されたことを頑張ってみるよ!」
「恩に着る。よろしくな! ユウキ!」
エリーナが微笑む。
「……やっと名前で呼んでくれたな! これからも、よろしく頼む!
……ところでエリーナさん。あんた、笑ってる方が美人だぜ」
急に笑顔をいじられたエリーナの顔が赤くなった。
「ざ……戯言はいいから、午後の仕事が残ってるだろ! 早く行け!」
笑いながら、慌てたように部屋から出るユウキ。
それを見送ったあと、部屋の中でわずかに微笑むエリーナは呟いた。
「私に気を使わせない為か……。
ありがとう。成瀬ユウキ」
すぐにディアナは医療室に通され、治療を受け大事には至らなかった。
アンナとエリーナは、ユウキから事の顛末を聞き(ユウキが戦闘に参加した事は、アンナが心配する可能性を考慮し、ディアナと話し合って意図的に話さなかった)、エリーナは護衛をディアナだけにしたことをひどく悔やんでいたが、安全区域に最強クラスのモンスターが突如出現するという異常事態であった為、アンナがエリーナを慰める形となった。
ユウキが元の世界から、異世界に移動してきてから、一月が経った頃、ユウキは剣の修行と雑務をこなしていた。
アンナが魔王として統治している領土の生活は元の世界の日本とよく似ていた。基本的に食べ物は日本の食べ物と非常によく似ていて、[リマ]と呼ばれる米によく似た穀類を主食に、魚や、肉をメインとしたものがほとんどだった。
アンナとユウキの提案により、味噌汁に代わるスープを考案し、城内で振る舞った際には、多くの者に喜ばれた。
アンナが統治している領土は基本的に魔物が多く人間は3割程度しかいないが、魔物と人間達は争うことなく互いに交流を深めていた。
城内には、3千にも及ぶ従者がおり、そのほとんどが魔物で構成されていたが、調理や芸術の分野においては人間の方が長けていた為、百人程度の選ばれた人間だけが、城内で働く事を認められていた。
ある日、ユウキはエリーナから、自室に呼び出されていた。
「ご足労かけてすまない、そこにかけてくれ。今日は貴様に頼みがあって来てもらった」
エリーナが紅茶を淹れながら話しかける。
「頼みって?」
それを聞くとエリーナが深く頭を下げた。
「頼む! 我が軍に入ってディアナと共に軍の幹部となり、皆を導いてほしい!
……ディアナから聞いて貴様が私の睡眠魔法に耐性があった理由がはっきりとわかった!
貴様、友愛の加護を使えるのであろう? ルナには貴様の事を心配すると思って話を伏せてあるが、いずれちゃんと説明して納得させるつもりだ」
ユウキは難しそうな顔で尋ねた。
「よそ者の俺に頼るってことは、結構切羽詰まってるみたいだな」
「……ああ、その通りだ。とりあえず、話を聞いてくれないか?」
「いつも、言ってるだろ?
ルナとルナに仕えてるあんたらの力になりたいって」
ユウキが即答する。
「……ありがとう」
エリーナはさらに頭を下げた。
エリーナは少しして、本題に入った。
「異世界は現在、三つの大陸に分かれていて、それぞれの大陸に魔王が存在している」
エリーナが異世界の地図を広げ、各所に駒のようなものを配置した。
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私達、つまりルナの勢力が750万の軍勢。
アリシアの勢力が800万の軍勢。
フィオナの勢力が1300万の軍勢。
現勢力としては、我が勢力が圧倒的に不利なのだ」
「フィオナの勢力との差があるのはわかったが、アリシアの勢力との差は戦略次第でなんとかなるんじゃないのか?」
ユウキが真剣に問う。
「いや、現勢力で一番厄介なのが、アリシアの勢力だ。奴らには、[王国騎士団]と呼ばれる国内の魔物、人間全ての中から選りすぐりの千人の世界最強の騎士達が控えている。奴らだけでも200万の軍勢に匹敵すると言われているのだ。
それだけではない、王国騎士団の頂点に立つ[王の剣]は、彼一人で500万の軍勢に匹敵すると言われている。間違いなく、現時点で彼が世界最強の男だろう」
ユウキが呆れたように、ため息をつく。
「つまり、800万+200万に匹敵する騎士団と500万に匹敵する男がアリシア勢力にいて、実質的には1500万の軍勢ということか……。なんだ、そのチートみたいな男は? 人間かよ?」
エリーナが不思議そうに尋ねる。
「チート? チートとはなんだ?」
ユウキが応える。
「あ~、え~っと、イカサマみたいにデタラメな力を持ってる奴のことさ」
「なるほど、デタラメな力か……。
奴は人間だが、確かにデタラメな力を持っているな。持っているというより、与えられていると表現した方が正しいのだろうが」
「どういう事だ?」
「その辺は追い追い説明しよう。話を本題に戻すぞ。
フィオナ勢力は目立った力を持ったものはほとんどいないが、広大な領土と1300万もの軍勢、莫大な資金などから3つの勢力の中でも最も安定していると言える。
問題は私たちの勢力についてだ……!
私たちの勢力は領土も一番小さく、軍勢も少ない上に、私とディアナ以外他国に名を馳せるものがいないのだ」
「よく他国から今まで滅ぼされなかったな」
ユウキが呟いた。
エリーナが悲しげな表情に変わり、呟くように説明を続けた。
「……ルナの父君ルーク様は王の剣に匹敵する実力の持ち主だった。ルーク様のお陰で3つの勢力は均衡を保ち続けていた。しかし、そのルーク様が今ここにいないのだ」
「それなら、その親父さんにここに戻ってもらうように頼めば済む話だろ?」
「……それが無理なのだ」
エリーナがうな垂れた。
「なんでだよ?」
「…………ルナの父君、ルーク様は半年前に亡くなられたのだ……」
「なっ、なんで、そんな化け物みたいに強い人が!?」
「……あれは、ルーク様が亡くなられた日から更に1年前、ルナの母君であられるソフィア様は終焉の巫女としての寿命が尽きた。その影響でソフィア様から特別な力を与えられていたルーク様の力も徐々に弱まり、半年前まで前線で国を守っておられたが、戦死されたのだ」
「終焉の巫女の寿命?」
「終焉の巫女は魔王の本来の呼び名だ。
その昔、片翼の女神は人と魔物の争いのない楽園として、異世界を一つの大陸として創造された。しかし、程なくして人と魔物だけではなく、人と人、魔物と魔物の争いも各所で起こり始め1000年にも及ぶ時が流れた。それでも人も魔物も争いを止めることをせず、それどころが激化の一途を辿った。それに悲観し、怒った片翼の女神は異世界を3つの大陸に分け、それぞれの領土に特別な力を与えた終焉の巫女を遣わし人々を治めるように仕向けたのだ。
終焉の巫女は片翼の女神から特別な力を与えられる代わりに、生まれて30年という短い寿命に縛られる呪いをかけられている」
「それじゃ、ルナのお母さんは……」
「ああ、終焉の巫女の30年という寿命で亡くなられた。
終焉の巫女の特別な力は本来、前の巫女が亡くなった場合、その子供か、その巫女に子供がいなかった場合、巫女と最も仲の良かった少女に継承されるのだが、ソフィア様が亡くなってもルナの巫女としての力がなぜか発揮されなかった。
そこで、ルナの身の危険を感じたソフィア様とその協力者がルナを元の世界に飛ばして逃したのだ。ルナが終焉の巫女としての力が覚醒するその時までな」
「それが俺とルナが異世界に来た日か!」
「ああ、その通りだ」
「その協力者ってやつは俺たちの力になれないのか?」
「その者はソフィア様がルナを元の世界に飛ばす計画を考案し始めた頃に、ソフィア様と出会ったみたいなのだが、ルナを元の世界に飛ばしてすぐに行方が分からなくなったのだ。探そうにも、いつも常にフードを被って顔を見せないようにしていたから、探しようがないのだ」
「何者なんだよ? その怪しいやつは?」
「わからない。確かに怪しいやつだったが、ソフィア様もルーク様も信頼していたのは確かだったから、悪いやつではないのだろう。
それは置いておいて、本題に話を戻すと、ソフィア様とルーク様のお陰でなんとか持ち堪えていた我が領土は、ソフィア様とルーク様を失った事でバランスが崩壊し、国が滅ぶ一歩手前まできていたのだ。
しかし、先日、巫女の力に覚醒したルナの帰還により、国内の魔物の統治と私達の友愛の加護の力の増大のお陰で、なんとか最悪の危機を乗り越えたばかりなのだ」
「最後まで、諦めなかったんだな!
やっぱり、エリーナとディアナ、この国の連中は立派だぜ!」
「……いや、正直、ルーク様が亡くなった時点でほとんど諦めかけていた……。それ程までにルーク様の影響は大きかったからな……」
「で、でも、ルナが帰ってきたから大丈夫なんだろ?」
「いや、最悪の危機を乗り越えただけに過ぎん。
ルナの突然の帰還を察知し、ルナの力のほどを知らない他国の兵達は、全滅の危険性を恐れて一時的に退却したに過ぎない。
ルナの巫女としての力は、まだ覚醒したばかりで、他国との力のバランスを保つには至らない。だから、この事実を他国に知られてはならないのだ。
私達の急務は、他国にこの事実を知られる前に各個人の能力を伸ばし、軍事力を上げ、他国に対抗出来るだけの力をつけなければならない」
「そこに、友愛の加護を使える俺が現れたから、協力してほしいってことか……」
「そういうことだ。
……本来、異世界の赤の他人である貴様に頼るのは心苦しいが、状況が状況だ……。大きな戦力になるお前にはどうしても私達に協力して助けてほしいのだ」
「…………わかった。
どこまで出来るかわからないけど、エリーナとディアナに教えてもらいながらでも、任されたことを頑張ってみるよ!」
「恩に着る。よろしくな! ユウキ!」
エリーナが微笑む。
「……やっと名前で呼んでくれたな! これからも、よろしく頼む!
……ところでエリーナさん。あんた、笑ってる方が美人だぜ」
急に笑顔をいじられたエリーナの顔が赤くなった。
「ざ……戯言はいいから、午後の仕事が残ってるだろ! 早く行け!」
笑いながら、慌てたように部屋から出るユウキ。
それを見送ったあと、部屋の中でわずかに微笑むエリーナは呟いた。
「私に気を使わせない為か……。
ありがとう。成瀬ユウキ」
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