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プロローグ

邂逅〜かいこう〜

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「アンジェラ駄目だ! 数が多すぎる!!
時期に彼女がここに攻めてくる!!」

 黒髪の美女アンジェラは、夫に声をかけられ、腕の中で眠る可愛い我が子を抱きしめた。
 
「……アンジェラ、時間がないんだ。辛いのは分かるが、お別れの時だ……。
大丈夫、この子なら強く生きてくれる筈だ」
 アンジェラの夫、ヒューゴが叫んだ時、扉のすぐ向こうから爆発音が響く。

「アンジェラ! 早く!!」
 ヒューゴが慌てたように催促する。

(どうして……?
生まれたばかりの愛しい我が子と別れたくない……。
……でも、この子の為……。
……せめて、この子が幸せな人に拾われるように祈りを込めて……!!)
 アンジェラは最後の願いを込めて、愛する我が子に魔法をかけた。
 赤ん坊は、七色の光の球体に包まれて天高く舞い上がった後、天井にぶつかる前にアンジェラの目の前から消えた。


 光が消えた後、アンジェラの瞳から自然と涙が零れる。
 アンジェラは、赤ん坊が消えた天井付近を名残惜しそうに暫く見つめていた。
「しっかり生きて……、私の赤ちゃん」


   ◇ ◇ ◇


 満月の夜、黒髪の男の子は塾からの家路を急いでいた。それは市内でも最も美しいとされる橋の中央にさしかかった時である。
 一瞬、彼の目の前が閃光で見えなくなり、次の瞬間、人通りが少ない歩道橋の真ん中に黒いモヤのような人型の影が見える。先刻まで何もなかった場所からそれは突如、出現したのである。 
 その影は何かを覆うようにウネウネとしばらく動いていたが突然すっと立ち上がり、こちらを振り返った。
 男の子が影に向かって話しかけようとした瞬間、その影は逃げるように飛び去ってしまった。
 彼は更に驚愕することになる。
 人型の影が飛び去った場所にはボロボロの服を着た赤毛の少女が倒れているのが見えた。
 彼が赤毛の少女に慌てて声をかけるも返答がない。  
 衰弱していた彼女は微かに目を開け、涙を流した。
 彼が少女に声をかける。
「泣かないで……、もう大丈夫だから」

 少女は小さく頷いた。

 彼は憔悴しょうすいしきった彼女を放っておくことは出来ず、近くの知り合いに助けを呼ぶ為、彼女を背負いその橋を後にした。

 橋を離れる時、この場所には似つかわしくない甘い花の香りが漂い、彼の頭から離れなかった。
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