唄い紡いで示す

林 業

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紡ぐは糸

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賑やかな場所を出雲と八雲は歩く。
先に行くとウタ、ライ、タイチたちを見送った一夜過ごしてこっちに来る。
証明書は出してあるのを何度か確認して歩く。
食べ物の匂いに混じって花の匂い。
「あ、こっち」
タイチが人混みをかき分けて来る。
「来た。こっち待ってる」
「私は受付してから行くからいくつか食べ物買ってから集合場所に行ってくれ」
「はーい」
お金を受け取り、タイチの案内で屋台を巡り、ご飯を買ってから椅子に座っているライに気付く。
その隣に佇む一体の人形。
どちらかというと出雲に似た黒目、黒髪、桜模様の着物に、東国の歪曲した三日月のような剣を腰に付けた女性型人形。
「これは妻を模した花人形初期作、棒人形「桜花」。僕がイトから貰ったものだよ」
これが出雲の母親と言われれば納得できる顔立ち。
だが、白花にも似ている。
白花は黒髪黒目ではなく白一色だが。
「私からもらったのではなく、奪った。だろう。ようやくできた人形を貸してといったまま返してもらっていないんだが?」
出雲がライを睨み、ライは笑顔を返している。
「いいじゃん。母さんいなくて寂しいんだよ」
にこにこと楽しそうな様子に出雲は溜め息。
諦めたのか自分を見て白の腕章を渡してくる。
腕章には糸車と棒と音符の紋章を書かれている。


「何これ」
見ればライは白、ウタとタイチは赤。
「うた。あにきー」
聞き覚えのある声が響き、近づいてくるカイと女性。
「あ、八雲さん。ひさしぶりー。あにきもー。ウタ、めっちゃひさしぶりー。親父、いたのかよ」
ライを見た瞬間あらか様に肩を落としている。
「次男坊。流石に父傷つく」
そして流石に八雲でもわかる嘘泣きを始める。
女性は純粋なのかそれを見て叫ぶ。
「カイさん。ちゃんとしないと、お養父さん。泣いちゃってますよ」
「あのさ。毎度なんで。いや。いいや。はいはい。父さん。ちょっと寄ってね。俺も、奥さんもここで食べるからね」
「あら。珍しい」
「たまにはいいでしょ」
ウタの反応に、カイは軽く流す。
「今日は従業員に頑張ってもらおうかと思っていますので挨拶回りも任せてあるんです」
ウタはそうなんですのねと女性同士で話を始める。

カイと女性の腕には黄色の腕章。
「なぁ。出雲。色ってなでんか決まってんの?ランダム?」
「協会の決まりだ。赤は戦闘。白は援護、黄色は商売人黒は黒子たちによる情報収集」
「え。戦闘が良かった」
「最初は白でいいんだよ」
八雲の不満に、ライが援護する。
「援護っていうか後衛だからね。基本的にテント周辺で救援。怪我人の擁護。人形整備、炊き出し。商人は一般人ってとこかな。何かればすぐ逃げていい対象。後衛も、だけど戦うすべがある場合は援護に行くこともある。イトなんて戦う術があるのに、援護だよ」
「半ば引退しているし、私の人形間に合うように手続きしたのに、まだ色々と都合があると言われて帰ってこない。しかも予備はほとんど棒人形。私は棒が苦手で出来るなら使わなくて済む方法選ぶ」
出雲の重い溜め息に全員心から一言励まして、ライは続ける。
「ま、まぁ、ともかく、援護の場合は戦ってもういいからね。現場の空気知りたいなら丁度いいんだよ。どっちも理解できるし、それに深夜に酷くなって明日の昼まで続くからどこまで戦えるかも把握できるからね。何より休みやすい」
なるほどと八雲は頷く。
「ウタちゃんは大丈夫なのか」
「私なら平気です。深夜の一番ひどい時間前後に入る予定です。それまでは休憩しながら時期を待ってますわ」
「はー」
「何時になったら帰ってくるんだろうな。半年近く預けっぱなしなんだ」
呟く出雲に、八雲はとりあえず頭を撫でて慰める。

「そんなに重症なのか?」
「海に落ちて水を吸ったのもある。あるんだが、ちょっと珍しい人形なので整備の人間が気になって弄るために手放すのを嫌がる。だからあまり預けなかったんだが、今回ツケが回ってきた」
なんで海に落としてしまったんだろう。せめて水ならとぼやく出雲。
「あぁ」
納得したと八雲は頷く。
「そんなに人形大事?」
「傀儡師にとって自分のもう一つの存在意義でもあり、そして武器だ。自分が求めて人形が求めてくれる。そんな存在がいないのは心細い。強いて言うならお前の持つ剣と一緒だ」
出雲が腰の剣を指し八雲は撫でながらなるほどと頷く。
確かにこれがないのは辛いと苦笑する。

そうこうしているうちに夜がふけていく。
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