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聖女の祈り(おまけ)
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アレクサンドラがお腹にいるとわかったとき、既に父親は殺されていた。
赤目が不吉だとか、魔族に呪われているとか、そんな理由で暗殺された。
本当は、彼が魔族との和解の計画を持ち出したのが原因。
和解より奴隷にしたいという気持ちが国にはあるのだろうことは想像に容易い。
何せその昔奴隷にしたことで、文化は一気に進み、奴隷解放されていなくなったことから、今は牛の歩み程度の進歩しかない。
危険があるかもと先に田舎の故郷へと旅立っていなければ、自分も死んでいて、お腹の子は生きていなかっただろう。
この子は父親を知ずに育つのだと思うと少し悲しくなったが、子育てに忙殺され、そんな憂鬱とした気持ちも消えていった。
この世界で勇者とは人族に襲う驚異から守ることにある。
だから精霊に好かれているのは当然だがその分、危険へと赴かなければならない。
それは魔族との戦争は当然だが、災害然り、人を襲う生き物然り。
今回、先に逃げたのも精霊からの警告があったからだ。
赤目の勇者と呼ばれた彼は子供が生まれるのを楽しみにしていた。
聖女と勇者の子だから優しくて強い子が生まれるだろう。
できるなら精霊の加護を持っているとなお良い。
きな臭い協会から身を守れるからだ。
名前も既に決めていた。
女の子ならアレックス。
男の子ならアレクサンドラ。
自分たちの瞳からそう付けたそうだ。
どちらの色が産まれても、両親の血縁である証に。だそうだ。
両方持った特殊な瞳の男の子が生まれてきたが。
そして加護どころか愛し子として生まれてきた欲張りな我が子。
泣いたり癇癪を起こすたびに精霊が過剰反応する。
まだ自分を呼んだり、穏やかにあやしてくれるならまだいい。
だが中には、あの子を台風の目のように暴れ回ったり、家の中を荒らすようなあやし方をする。
流石に生後一年近くになると自分で勝手に移動したりするから余計に被害が大きくなる。
周囲にも何時愛し子だとバレそうになるかヒヤヒヤだった。
バレたら父親と同じように殺されるかもしれない。
だから、その前に精霊にお願いした。
「精霊様。あの子の癇癪に付き合って、周囲を傷つけて、あの子を悲しませるようなことしたら、どうなるかわかってますよね。ね!」
精霊が何度も頷く為わかってくれたと安堵し、同時に人族の常識に詳しそうな精霊に世話を頼むことにする。
何かあれば守ってほしい。
なにかしでかそうとする他の精霊を諌めてほしいと。
後でその精霊、今もアレクサンドラについている子に聞いたら聖女じゃなく、鬼のようだったと言われた。
失礼な話である。
慈悲深く、どんな人間にも分け隔てなく治療した。
孤児院にも趣き、子供たちのお世話だって進んでやった。
世間では慈悲深き聖女と呼ばれているのに。
アレクサンドラは勇者の子でありながら父親の勇ましい部分は受け継がなかったらしい。
試しに棒をもたせてみたが、頭にぶつけて大泣き。
手を添えて振らせてみたが手からすっぽ抜けて、顔に当たりギャン泣き。
駄目だこの子。と早々に父親の才能については諦めた。
持っていたとしてもろくな剣術を教えてはやれなかっただろう。
何せ剣が得意な父親はいないし、村人も、ほとんど戦闘はできない。
なので母が先に音を上げて諦めさせていたかもしれない。
変わりに精霊にお願いする方法や、孤児院の子たちの援助など、持てる知識のすべてを教えた。
もし、遠い未来、母がいなくなっても一人で生きていけるように。
精霊だけではなく、他の誰かとの縁も大事にしてほしい。
そういえばアレクサンドラは小さい頃から絵本の魔族を気に入っていた。
しゅきぃと絵本をボロボロにしても読む彼に、もう少し大きくなったら魔族の国へ赴いてもいいだろう。
人より精霊信仰が厚い彼らなら精霊の愛し子を無下にはできないだろう。
だから、アレクサンドラ。
母の持てる知恵と経験で得た物語をあなたにあげる。
どうか、父と母より生きてね。
貴方を守れることが母にとって幸せなのだから。
「精霊様。アレクサンドラをどうぞ末永くお守りください」
そんなあの子も今は優しい竜人族たちと暮らしている。
赤目が不吉だとか、魔族に呪われているとか、そんな理由で暗殺された。
本当は、彼が魔族との和解の計画を持ち出したのが原因。
和解より奴隷にしたいという気持ちが国にはあるのだろうことは想像に容易い。
何せその昔奴隷にしたことで、文化は一気に進み、奴隷解放されていなくなったことから、今は牛の歩み程度の進歩しかない。
危険があるかもと先に田舎の故郷へと旅立っていなければ、自分も死んでいて、お腹の子は生きていなかっただろう。
この子は父親を知ずに育つのだと思うと少し悲しくなったが、子育てに忙殺され、そんな憂鬱とした気持ちも消えていった。
この世界で勇者とは人族に襲う驚異から守ることにある。
だから精霊に好かれているのは当然だがその分、危険へと赴かなければならない。
それは魔族との戦争は当然だが、災害然り、人を襲う生き物然り。
今回、先に逃げたのも精霊からの警告があったからだ。
赤目の勇者と呼ばれた彼は子供が生まれるのを楽しみにしていた。
聖女と勇者の子だから優しくて強い子が生まれるだろう。
できるなら精霊の加護を持っているとなお良い。
きな臭い協会から身を守れるからだ。
名前も既に決めていた。
女の子ならアレックス。
男の子ならアレクサンドラ。
自分たちの瞳からそう付けたそうだ。
どちらの色が産まれても、両親の血縁である証に。だそうだ。
両方持った特殊な瞳の男の子が生まれてきたが。
そして加護どころか愛し子として生まれてきた欲張りな我が子。
泣いたり癇癪を起こすたびに精霊が過剰反応する。
まだ自分を呼んだり、穏やかにあやしてくれるならまだいい。
だが中には、あの子を台風の目のように暴れ回ったり、家の中を荒らすようなあやし方をする。
流石に生後一年近くになると自分で勝手に移動したりするから余計に被害が大きくなる。
周囲にも何時愛し子だとバレそうになるかヒヤヒヤだった。
バレたら父親と同じように殺されるかもしれない。
だから、その前に精霊にお願いした。
「精霊様。あの子の癇癪に付き合って、周囲を傷つけて、あの子を悲しませるようなことしたら、どうなるかわかってますよね。ね!」
精霊が何度も頷く為わかってくれたと安堵し、同時に人族の常識に詳しそうな精霊に世話を頼むことにする。
何かあれば守ってほしい。
なにかしでかそうとする他の精霊を諌めてほしいと。
後でその精霊、今もアレクサンドラについている子に聞いたら聖女じゃなく、鬼のようだったと言われた。
失礼な話である。
慈悲深く、どんな人間にも分け隔てなく治療した。
孤児院にも趣き、子供たちのお世話だって進んでやった。
世間では慈悲深き聖女と呼ばれているのに。
アレクサンドラは勇者の子でありながら父親の勇ましい部分は受け継がなかったらしい。
試しに棒をもたせてみたが、頭にぶつけて大泣き。
手を添えて振らせてみたが手からすっぽ抜けて、顔に当たりギャン泣き。
駄目だこの子。と早々に父親の才能については諦めた。
持っていたとしてもろくな剣術を教えてはやれなかっただろう。
何せ剣が得意な父親はいないし、村人も、ほとんど戦闘はできない。
なので母が先に音を上げて諦めさせていたかもしれない。
変わりに精霊にお願いする方法や、孤児院の子たちの援助など、持てる知識のすべてを教えた。
もし、遠い未来、母がいなくなっても一人で生きていけるように。
精霊だけではなく、他の誰かとの縁も大事にしてほしい。
そういえばアレクサンドラは小さい頃から絵本の魔族を気に入っていた。
しゅきぃと絵本をボロボロにしても読む彼に、もう少し大きくなったら魔族の国へ赴いてもいいだろう。
人より精霊信仰が厚い彼らなら精霊の愛し子を無下にはできないだろう。
だから、アレクサンドラ。
母の持てる知恵と経験で得た物語をあなたにあげる。
どうか、父と母より生きてね。
貴方を守れることが母にとって幸せなのだから。
「精霊様。アレクサンドラをどうぞ末永くお守りください」
そんなあの子も今は優しい竜人族たちと暮らしている。
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