龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

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お土産を持って養父様の元に向かう。
養母様に喜んで貰えたので養父様も喜んでくれるかと鼻歌交じりに急ぐ。

精霊が一瞬騒がしくなり、足を止めて精霊を見れば、姿が消えていく。
なんだろうと見つめていれば、足音と人の気配。
音を辿れば、精霊を従えた男がいる。
その精霊は男を見張るように見ている。

「おや。始めまして」

精霊を見て、この男が何者かを理解する。
腰にある剣は聖剣。
人族では神に愛された証拠と言われている金髪金目。
人族が認めた人以上の力を持つ人間の一人、勇者。
「君は此処の子かな?」
足が震える。
返事が出来ない。
母を間接的に殺したのは彼じゃないのはわかっているが。
もし、夜に瞳を見られてしまえば。
「もしかして、君、人かい?」
驚いたように見てくる。
もし、バレでもしたらあの時のように、家族に迷惑がかかってしまう。
「なんで。人が魔族の元にいるんだい?」

その言葉に意識が現実に引き戻される。
魔族。
彼ら人族は自分とは違う種族を迫害している。
今いる竜人族も奴隷だったものは少なくない。
反乱を起こし、奴隷でなかった同種と国を興した種族であるとされる。

同じように国を起こしている獣人と呼ばれる種族や、海岸や海に住まう海人族などがいる。
そこに、サンムーンの姉妹が嫁いで行ったらしい。
彼女たちとは二度、婚約のときと結婚のときにお祝いを持って駆けつけてくれた。
最初は憎悪を向けられたが、それでも直ぐに愛情たっぷりに接してもらえた。
今度国に来てね。とも言われた。
もうちょっとお話したかったのだが時間が足りなかった。
サンムーンの嫉妬を引き出すぐらいには仲良くなれたと信じたい。

そんな中で人族は彼ら保護をしていたと言い張り、離れていったことをありえないと称する。
人の歴史的にも、どう考えても奴隷の扱いだったのは確か。
だから人族はそんな国を興した別種族を、魔に魅入られた者、魔族と呼ぶ。

だからこそ彼もまた魔族と呼ぶのだろう。
いや。勇者たる彼が魔族と呼ぶからこそ周りも魔族と呼ぶのかもしれない。
精霊を魅了するとされる勇者に、精霊たちを奪われるかもしれない。
力が強すぎて精霊が勇者に付いていくかもしれない。
それが怖い。
大切な隣人である精霊で、歌を好いてくれる存在。


「もしかして誘拐されたのか!こんな美人をなんて奴らだ」
侮辱されたことに怒りを感じ、その怒りにより体が動く。
彼の横を通り抜けながら走り、養父様の部屋へと飛び込む。
「どうした?アレク」

声を聞く前に隠れれる場所を探して養父様の机の下に隠れる。
がたがたと震えていれば、養父様は音と気配で察したのか体勢を戻す。
「おや。勇者殿」
「こちらに人の子が来ませんでしたか?」
「申し訳ないがな。勇者殿。此処には重要機密があるので入るのは遠慮していただきたい」
口を抑え、必死に息を殺す。
養父様ごめんなさい。と頭の中で繰り返す。
兵士たちが追い出し、部屋まで案内しますと連れていく。
「アレク。もういないぞ」
抱き上げられ、膝の上に載せられる。
しばらく撫でられてから涙がこぼれ落ちる。
「ごめん、さい」
「アレク。怖かったな。怖いのは追い出したからな」
頭を撫でられ、安心からさらに泣きじゃくる。
大きな手が頭を包むように撫でて、大きな胸とたくましい腕に抱きしめられる。
「あれは和平で来たのだ。勇者の話はお前が怖がると思ってな。まさか、あやつが一人で出歩いているとは思わなかった。しばらく登城はなくても良いかもしれんな」
寂しそうな養父に申し訳なくも、そうしたいと思ってしまう。
「う、あ」
暫くして落ち着き、そうだとお土産を渡す。
「これ」
「おぉ。くれるのか?」
満面の笑顔で受け取ってくれる。
いい子だと中身を開けながら褒めてくる。

しかし勇者は毎日のように訪ねてくるらしく結局謁見に同席することになった。
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