龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

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アレクサンドラは母親と住んでいた。
父親がいないことには気づいていたがなんでと母に問うには幼かったからか、なんでかは知らない。

母は普通の人で父も普通の人だったとは聞いている。

けど、母は勇者に殺された。
同じ普通の人だった村人は勇者の言葉に従い、母を嬲りものにして殺した。
自分はその間薄暗い地下に犬のように繋がれて、暗闇の中で村人に死んだという事実だけ伝えられた。

墓もなく、遺品もなく。
母の体は近隣の林に晒され、そのまま自然へと返ったと精霊が言う。
何時からか村人は存在を忘れた。
自分が数十年も生きていたのは精霊たちのお陰。
彼らが少しずつ水を与えるように、生命力を分けてくれたからだと保護後、理解した。


何時も精霊たちはお返しにと歌を欲した。
だから、喋ると殴られるという鎖が解けずともそれでも歌だけは、歌えるのだ。

竜人族に保護されたのは不幸中の幸いだろう。
ただ勇者が怖い。
勇者に従う人が怖い。

だから竜人族の養子になったことも、助けてくれた大好きな竜人族の嫁になったことも嬉しい。
その人が母の墓を作ってくれた。
空っぽだったけど、母への祈りが届くなら空っぽでもいいと思った。

そんな彼が愛を囁き、その言葉に何時も嘘偽りはない。
ただまさか、男同士でも許容されるとは思っていなかった。
何時か、人族へ戻されるのかと怖いのもあるがそれ以上に幸せ。


家に帰れば使用人達が声をかけてくるのでお辞儀をして返す。
「先に食事にしようか」
その言葉に、大きく頷く。
「今日のご飯はハンバーグですよ」
「!」
竜人族に来た当初、体が細いから肉を食えと医者からは言われていたがどうも好きになれなかった。
固くて噛みきれず、血の味が残っていて生臭かった。
それが美味しいのだと養父様たちは言うけれど、どうも馴染めない。
フルーツや野菜ばっかり食べることが多かった。
だけどあまりにも心配した料理人たちが考えてくれたハンバーグはとても美味しかった。
完食したら泣いて喜ばれた。
その後、血抜きをしっかりされたものや、ソーセージやベーコンなど人族の加工を習い、出してくれるようになった。
それがここ半年の間に、肉屋に行けば出るようになっていた。
小さな子供も大人にも人気らしい。
元からあったローストビーフやビーフシチューが一番好きだがあれは手間暇がかかるのであまり食卓には上がらない。
特別な日のご馳走として用意してくれるからその日は特に楽しみ。

だからハンバーグは普通の日常のご馳走になっている。
椅子に座り、祈りを済ませてからナイフとフォークで口に運ぶ。

「!」
柔らかいお肉に染み込んだ肉汁とそれに調和するフルーツを混ぜ混んだソース。
そしてお肉の臭みを消すための香辛料は程々だが、口と鼻に刺激を与えて食欲を促進させる。
バターで味付された根野菜にトウモロコシ。
トウモロコシはプリプリで噛めば弾力、そして溢れるバターとコーンの味。
根野菜は苦手な臭みは苦味がない。
バターの香りに、引き立つ甘みが口いっぱいに広がり余韻を楽しむ。

白く柔らかいパンを手に取り千切って口に運ぶ。
バターのほんのりとした香りと味が舌を落ち着かせ、お肉を口に運ぶ。
残ったソースをパンに付けて食べようと少しだけパンを残しておく。
おかわりがあるだろうが胃袋の限界を考えてだ。

「明日はこの爺が、護衛を勤めさせていただきますゆえ」
旦那様当地合わせ中に聞こえてきた声に、味わっていた料理から顔を上げれば、サンムーンと会話中の老年の執事。
「あぁ。頼む」
「アレク様。どうぞ、よろしくお頼み申します」
元、傭兵だったそうだが、護衛に最適だろう。
だが珍しいと眺める。
「道中子供たちのためにお菓子屋にもよると聞いております。力仕事はおまかせ下さい」
視線に気づいたのか執事服に覆われた細そうな腕を示す。
お爺ちゃんだからと無理しないでほしいと思いつつも頷く。

お優しいという呟きに何がと首を捻る。


夜は、サンムーンと同室。
しっかりと愛してくれて、朝、起きるまで抱きしめてくれる起きたら、祝福だとキスをしてくる。
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