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白蛇

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父を探すが父の気配はない。
「父様は?」
「先程まで晩酌していたのでお家にはいると思いますよ」
お椀を差し出されて受け取る。
「あぁ。でも、もしかしたら、小さい頃、雨神様に泣かれたのを気にされて消えているのかもしれませんね」
「えぇ」
「呼んできましょうか?」
雨神を見てから告げる。
今は大人なんだから泣きませんと騒ぐ。
「帰る前に挨拶するよ。下手に引きずり出しても父様気にするし」
「そうですね。多分眷属通して確認はされてると思いますよ」
こらえ・・・の的確な推論に、姿が見えていないだろう眷属を目視してからそんな気がすると考える。
こらえ・・・から受け取ったお椀を口にする。

こらえ・・・と木霊のご飯は何かが違うのでわかりやすい。
どちらも美味しいのだが、味付の仕方が違うのか、こっちがそうだと理解できる。
今日のはこらえ・・・のだとわかる。
この料理はこらえ・・・のほうが美味しい。

なんというか落ち着く。
「うまー」
こくこくとモリヒトが隣で頷く。
「そういやぁ。らーちゃんたちって風神の姉さんの題材になってたじゃん。あれってどんな気持ちなわけ?」
「あぁ。薄い本というやつですね。まぁ、好きにしていいと思いますね。神様たちの間では有名らしいです。ただ、貴方が大人になるまでは出さないでほしいとお願いはしました」
「あぁ。僕本当に嫌がったもんね」
今ならそんな権利ないとわかっているのだが、それでも両親への独占欲が勝った。

「それもありますがきっかけですよね。実際のところ、あなたのことも書き出したので止めたんですよ」
「僕?」
「はい。僕らの、子供向けではない話にあなたが出てきてしまったんですよ」
「え?僕が出たからってなんの理由が」
疑問しか浮かばない内容に、不思議に思う。
「あなたが大人として出てきているならともかく、子供として出てきた上に、日常の癖や、性格などすべてが正直に書かれてましてね」
首を捻り続けていれば、こういうのもなんですがと前置きされる。
「山神様の力に嫉妬される神々がいらっしゃるのですよ」
「うん。それはまぁ知ってるけど」
会合に出る前からいい感情を向けてこない神がいるのを知っている。
「それで僕に狙いをつけるならまだしも」
そういえばこの親は、並の神様では言いくるめることができる上に、神力による威嚇が全く聞かないのを思い出す。
「あなたにまで狙いをつけて襲おうとする馬鹿な神様がいらっしゃいまして。それであなたの特徴を本で読んで襲って来られたんですよね」
「え、嘘だろ」
思わず腰を浮かせ、本当ですよと告げられる。
「そのたびに山神様に、俗に言うフルボッコ?とやらにされてましたが。子供を殺せば山神も落ち込むとか、強い力を持つなら子供のうちにとか物騒なことを仰ってましたね」
のんびりと昔の話をするこらえ・・・に正直信じられない。
だがそんなことに対して嘘をつくような人でもない。

「そんな折にあなたから本にしないでほしいと訴えられまして。本を見ればあなたが載っていましてね」
「あー」
「それではまずいと、山神様のご友人であり、彼女の師匠である風神様にお願いして抗議しに行ったんですよ」
あの怒らせてはいけないと言われているきっかけのことだろう。
「最初は渋っていまして、折角色んな人にこの幸せを見せつけるチャンスなのだとか色々と仰ってましたが」
微笑むこらえ・・・に、雨神は寒さを感じたのかカタカタと震えている。
「いくらなんでも子供の命と彼女の趣味、天秤にかけるまでもないむねをお話しましたらわかっていただけました。なのであなたが大人になった今はそれについては再開しておりますよ。期間限定で納得してもらっていました」
今は、書くことに対して文句はない。
親のイチャコラを見たくもないが、本人たちは気にしていないので止める理由はない。
むしろ、こらえ・・・が勉強になると読んでいたのを最近知ってしまった。

自分が見なければいい理由なので無視していたが。
裏でそんなことになっていたとは。
「彼女とは今後子供が大人になって身を護るまでは、実際の子供は書かないとお約束させていますよ。あなたたちが物語になって、子供ができても、大人になるまでは出ないと思います」
「それって僕のわがままを聞いてくれたんじゃないんだ」
「あなたが文句を言わなければ、山神様は無視されていたんではないですか?大人になるまではご自身で守ると宣言していました」
「らーちゃんは?」
「物語になっていることを知りませんでしたからね。知っていてあなたの身の危険であると判断すれば結局お願いしたでしょう」
そっかと笑みを浮かべる。
「それに当時二人の子供と雨神様が修行の予定でしたから森神様も川神様も警戒していました。なのであまり外出はしないよう心がけていましたね」
雨神は心当たりがあるのか食事をする手を止める。
「てっきりそういう修行だと思ってた。ただ祓の神のところにはよくお出かけしてたから、二人の邪魔なんだと思ってた」
「いえいえ。むしろ森神様もそのお嫁様であるトウジ君も子供が来ると大喜びでいましたよ。ただちょっと大人の対処と時期が悪かっただけですね。先日も弟子があまり頼ってこないと愚痴って帰っていったぐらいですから」
今度師匠のところに顔を出すと雨神は苦笑する。
「相変わらず胃を悪くしそうな程悩んでおりました」

こらえ・・・の心配そうに告げる姿に、雨神を見る。
「ちなみにうちに遊びに行ってそっちに行かなかった理由らーちゃんだから。らーちゃん、外に出かけるとよく体調崩す

「嫁になってからマシにはなってきたのですけどねぇ」
微笑むこらえ・・・に雨神は、ただただ呆れてしまう。

「俺さ、薬師になりたいんっすよね」
ぽつりと雨神が告げる。
大人に言ってなかったのかと驚いて雨神を見てしまう。
「そりゃあ言えるわけ無いじゃん。否定されんの嫌だし。雨の神になってからはそっちのことばっかだし」
ブツクサと雨神が呟く。
だからと思うのだがこらえ・・・は柔らかく笑う。
「それは僕を含む大人が悪いですね。いくら専門になっても子供の意見を聞くのを忘れていますね」
申し訳ないと頭を下げるこらえ・・・に慌てて左右に首を振る。
「いや。薬師は、元々興味あったんだけど、嫁さんが最後は寝込んで俺にできることってなんだろうって。小さい頃の師匠がそういうこと教えてくれて」
「では今から教えてもらうといいですよ。上達して森神様に胃薬作ってあげれば喜びますよ。トウジ君が」
「あー」
微笑むこらえ・・・に、雨神は何処か納得したように頷く。
「それに何時まであなた達に物事教えれるかわかりませんからね。せっかくの知識です。教わっとくべきですよ」
「うっす」
「らーちゃんはそういうのあるの?」
「そうですね。実の両親に穢れ祓いをもっと教えてもらえればよかったなぁ等と二度と会いたくないのに時々考えますね」
「父様のため?」
「年月から言ってもうお亡くなりになっているでしょうが」
「らーちゃんの知る穢れ祓い。教えてよ」
「駄目です。あなたに一週間は寝ずに動くという根性がなければ、教えても穢れを産むだけです」
「けち」
思わず呟くがこらえ・・・は気にしていないらしくおかわりを聞いてくる。

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