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山神の子

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家へとドアを開ける。
雷神がお邪魔しますだでと声をかける間に飛び込む。
「ただいまー」
出てきた父に抱きつく。
しばし無言の父だったが、しばらく眺めて叫ぶ。
「子か!お帰り」
立派になったなと頭を撫でる。
その仕草に大人になったんだと胸を張っていればこらえ・・・が不思議そうに来る。
それから自分を見つめてから微笑む。
「お帰りなさいませ」
丁寧に頭を下げられ、少し距離を感じて寂しくなる。
「さて、神子様?雷神様そのお嫁さんもいらっしゃっているのに何故放ってここにいらっしゃるんですか?」
何時もの叱咤に、慌てて父を連れて玄関へと急ぐ。
変わってないなと思いつつ雷神を迎え入れる父を見る。


一室で父と雷神を交えて話をする。
こらえ・・・と雷神の嫁はお茶を端で入れながら自分の修行話をしている。
「祓いの神になりました」
紹介をすれば、なるほどと山神は頷く。
「それで何ができるんだ?」
頷いたのは何だったんだと思いながら父に近づく。
そして父の手に触れる。
びくりと反応する父は慌ててその手を取り除こうとする。
その前に神力を使って多少の穢れを受け取り、消す。

「こんな感じです」
父が驚き、しばらく眺める。

こらえ・・・のが受け継がれたか」
「らーちゃん?」
「いや。優しいお前らしい能力だな」
優しい笑顔に、笑顔を返す。
「今後は、この土地に来る穢れを持つ者たちの手伝いもできるかと思います。その際は呼びつけください」
頭を下げながら告げれば、山神はいつも通り傷を隠してしまう。
こらえ・・・が少し寂しそうにしていたのが印象に残り、好きと言っていたことを思い出す。

「そうか。土地はどうなる?」
「おいの土地の一つで、他の神々の周辺にするか、山奥がいいか。山の神のいいところがあればそちらでも良いかと、相談に来たで、す」
「なるほど。後で直接行って本人に決めてもらうのもいいな。いくつか候補を出そう」
「ありがたく」
「しかし穢れがないということは殆ど不死に近いな」
神にとっての穢れは病気や怪我を意味する。
所謂無病息災といったところだろう。
だが、逆に困ることがあるのだ。


信仰に左右される。
一人でも信仰してくれていれば、余程のことがない限り消滅しないが、そのたった一人が死ねばその時点で消滅する。
そして数百の生物等に敬われるときとたった一人の信仰では祓える能力に差が出る。
ただたった一人の信仰が強い場合もあるがあくまでも例外。
そう、神になったと告げた瞬間から流れてくるこらえ・・・が約十人近くの信仰に近いのは例外。
今までも、これからも親でありながらも敬ってもくれて、ある意味器用な人だと改めて思ってしまう。

今後こらえ・・・が自分を見捨てるか、死なない限り消滅することはないだろうことは確定した。
とはいえ眷属もいるので今のところは問題ないが。

「ねぇ。父様」
「ん?」
「らーちゃんってすごいだね」

今更気づいたかと呆れた表情をする山神。
「いきなりなんだ」
「いやー。らーちゃんの信仰って馬鹿になんないなぁって」
「そんなにすごいのか」
「父様はわかんないの?」
「信仰されているのは理解している。お前みたいにこれぐらいと言われてもピンとこない。信仰を糧に生きてはいるがな。供物からももらえるわけだからな。お前の場合はその糧が量も質も、両方って話だろう?」
それもそうかと納得する。


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