23 / 102
交流会
4
しおりを挟む
夜の一時を終えてこらえとお風呂に入る。
布一つ纏わぬ姿。
水面に映る右半身の火傷の痕跡。
最近は行為の後の風呂に入るときは服を脱ぐようにした。
そちらのほうがこらえが嬉しそうであった。
正直、狂気になりそうで気が気ではないが。
前までならそこで上がったが、こらえは長湯が好きで、もう上がるのですかと寂しそうに聞かれてしまった。
よく温まったほうがお互い体調が良い日が多いので無理ない程度に浸かることにした。
それにお湯に手を付けては傷を撫でてくるから上がるのも、遠慮してしまう。
ほんのり暖かい指先がほどんど熱のない体に染み渡り心地が良い。
むしろ、そのためだけに長湯をしている気がする。
「しかし、これって意味あるのか?」
「だって、その火傷は体温が感じられないんです。寒そうなので」
ひんやりとすると何度目かのときにこらえに言われた。
体を重ねた相手は殆ど狂っていたりしていたから気づかなかったが。
何より普段の生活では顔以外は布で覆う。
人前ではそれを髪の毛で隠したり、ベールを被ったり。
神も触れぬ傷痕。
だから気づくわけがない。
「やはり、辛いか?」
「それは山神様の個性です。ただ、気にされたようなのでこうしていれば山神様の体温が同じぐらいになるかなと。それに、熱くなりすぎると気持ちがいいぐらいですから好きですよ」
乱れているときほど、抱きついてくるのはそういうことかと理解する。
何より個性や気持ちがいいなど、そんなことを聞いたのは初めてで、感情が高ぶる。
思わず顔を抑えて天を仰ぐ。
「こらえ」
「はい?あ、嫌なら止めますよ」
続けてほしいと告げるのは忘れない。
だが、と、心からの気持ちを口にする。
「長いことこれに苦しまされてきた。苦しまさせてきた人も居るのだ。なのにこらえの一言一言で己はこれがあってよかったと、嬉しいと思ってしまう」
ずっと、ずっと苦しんできた。
これさえなければ。
これが消えてくれれば。
これを消すために無茶だってしたし、噂話にも縋りついた。
これを忌むべき穢れだと一番罵ってきたのは自分だ。
見なくて済むように鏡すら無くした。
だがこらえが告げるこれに対する言葉が、忌むべき穢れを愛しい物と、自分の一部として受け入れたくなる。
「嫌って、避けてきたのに。なのに、こらえは、愛らしいと思える行動をしてくる」
こらえは申し訳なさそうに触れるのを止める。その手を掴んで、手にキスをする。
「愛しいと思ってしまう。あってよかったと思ってしまう。こらえが触ってくれる口実があると思ってしまう。己が一番ずるいのだろうが。それでも。こらえ、嫁でありがとう」
顔が見れない。
だが、それでもこらえは唇に、両頬に、そして体にキスをして来る。
「山神様は買いかぶり過ぎです。僕だって自分の嫌いな部分がありますよ。だからこそ山神様の気持ちは少しだけわかるんですよ」
「そう、か」
こらえの体は綺麗なのにと見つめる。
美しいとその柔肌を見つめてキスを贈る。
何が嫌なのかわからない。
だが、色んなことを受け入れてくれる
だからこそ受け入れられない部分もあると聞けばその通りかもしれない。
自分はそれを好きになりたいと理想を描く。
「それに否定するより、好きでありたいです。誰かに好きだと言ってほしい。その嫌っている部分である理由を教えてほしい。そう願って生きていました」
みなまで言わなくとも、だからこそ否定をしてこないのだろう。
醜い傷跡を受け入れてくれる。
ただと、困ったように笑う。
「父と姉の教えなんですが。僕がどうして?と聞くたびに、好きになれる理由を探せばいいって。僕のことをそれも含めて大好きだと言ってくれていたから、山神様にも同じようにできるんだと思います。僕は確かにずるいですね」
「そのずるさとやらが助かっているのだよ。こらえ。愛している」
こらえを抱き締めれば赤くなった頬を向けて同じように返してくれる。
お前の父と姉にそのように育ててくれたことを感謝しよう。
布一つ纏わぬ姿。
水面に映る右半身の火傷の痕跡。
最近は行為の後の風呂に入るときは服を脱ぐようにした。
そちらのほうがこらえが嬉しそうであった。
正直、狂気になりそうで気が気ではないが。
前までならそこで上がったが、こらえは長湯が好きで、もう上がるのですかと寂しそうに聞かれてしまった。
よく温まったほうがお互い体調が良い日が多いので無理ない程度に浸かることにした。
それにお湯に手を付けては傷を撫でてくるから上がるのも、遠慮してしまう。
ほんのり暖かい指先がほどんど熱のない体に染み渡り心地が良い。
むしろ、そのためだけに長湯をしている気がする。
「しかし、これって意味あるのか?」
「だって、その火傷は体温が感じられないんです。寒そうなので」
ひんやりとすると何度目かのときにこらえに言われた。
体を重ねた相手は殆ど狂っていたりしていたから気づかなかったが。
何より普段の生活では顔以外は布で覆う。
人前ではそれを髪の毛で隠したり、ベールを被ったり。
神も触れぬ傷痕。
だから気づくわけがない。
「やはり、辛いか?」
「それは山神様の個性です。ただ、気にされたようなのでこうしていれば山神様の体温が同じぐらいになるかなと。それに、熱くなりすぎると気持ちがいいぐらいですから好きですよ」
乱れているときほど、抱きついてくるのはそういうことかと理解する。
何より個性や気持ちがいいなど、そんなことを聞いたのは初めてで、感情が高ぶる。
思わず顔を抑えて天を仰ぐ。
「こらえ」
「はい?あ、嫌なら止めますよ」
続けてほしいと告げるのは忘れない。
だが、と、心からの気持ちを口にする。
「長いことこれに苦しまされてきた。苦しまさせてきた人も居るのだ。なのにこらえの一言一言で己はこれがあってよかったと、嬉しいと思ってしまう」
ずっと、ずっと苦しんできた。
これさえなければ。
これが消えてくれれば。
これを消すために無茶だってしたし、噂話にも縋りついた。
これを忌むべき穢れだと一番罵ってきたのは自分だ。
見なくて済むように鏡すら無くした。
だがこらえが告げるこれに対する言葉が、忌むべき穢れを愛しい物と、自分の一部として受け入れたくなる。
「嫌って、避けてきたのに。なのに、こらえは、愛らしいと思える行動をしてくる」
こらえは申し訳なさそうに触れるのを止める。その手を掴んで、手にキスをする。
「愛しいと思ってしまう。あってよかったと思ってしまう。こらえが触ってくれる口実があると思ってしまう。己が一番ずるいのだろうが。それでも。こらえ、嫁でありがとう」
顔が見れない。
だが、それでもこらえは唇に、両頬に、そして体にキスをして来る。
「山神様は買いかぶり過ぎです。僕だって自分の嫌いな部分がありますよ。だからこそ山神様の気持ちは少しだけわかるんですよ」
「そう、か」
こらえの体は綺麗なのにと見つめる。
美しいとその柔肌を見つめてキスを贈る。
何が嫌なのかわからない。
だが、色んなことを受け入れてくれる
だからこそ受け入れられない部分もあると聞けばその通りかもしれない。
自分はそれを好きになりたいと理想を描く。
「それに否定するより、好きでありたいです。誰かに好きだと言ってほしい。その嫌っている部分である理由を教えてほしい。そう願って生きていました」
みなまで言わなくとも、だからこそ否定をしてこないのだろう。
醜い傷跡を受け入れてくれる。
ただと、困ったように笑う。
「父と姉の教えなんですが。僕がどうして?と聞くたびに、好きになれる理由を探せばいいって。僕のことをそれも含めて大好きだと言ってくれていたから、山神様にも同じようにできるんだと思います。僕は確かにずるいですね」
「そのずるさとやらが助かっているのだよ。こらえ。愛している」
こらえを抱き締めれば赤くなった頬を向けて同じように返してくれる。
お前の父と姉にそのように育ててくれたことを感謝しよう。
10
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!
東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる!
俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。
絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、
あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。
社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、
1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。
そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には
「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」
と言うばかり。
社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、
完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。
そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」
「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、
何をか言わんや……
そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、
超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、
ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。
中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、
『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。
日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、
……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!!
16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、
中世西洋風の異世界へ転生していた……
その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、
『ステディ・リインカネーション』の世界だった。
もう元の世界には戻れそうもない。
覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。
そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、
絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!
と固く決意。
素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。
カクヨム様でも連載中です!
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
(R18)あらすじしか知らない18禁乙女ゲーム異世界転生。
三月べに
恋愛
魔法溢れる異世界転生だと思っていたのに、入学した途端に生前に見かけただけの18禁乙女ゲームの世界だと気付いたヒロイン。まぁ、ストーリーを知らないんだから、フラグも何もないよねー! がフラグとなった。
「キスって……こんな気持ちええんな?」
攻略対象であろう訛りのあるイケメン同級生のうっとりした表情にズキュン。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む
紫楼
ファンタジー
酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。
私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!
辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!
食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。
もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?
もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。
両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?
いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。
主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。
倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。
小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。
描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。
タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。
多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。
カクヨム様にも載せてます。
そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから
みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。
婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。
相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。
恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる