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神事と穢れ
6(後)
しおりを挟む先程の通路が見える位置で、少し離れた場所。
父が飲み物を持ってきてくれる。
お礼を言いながら受け取れば父は満足そう。
「お父さんはどうしてここに」
「お前が居なくなったあと、姉のいる街に身を寄せたんだ」
「そうだったんだ」
「出るのは、案外簡単だったよ。また戻ってくると思っていたらしい。弟子たちにも協力してもらったから、かもしれないが」
自虐的な父の笑顔。
頭を撫で回してくる。
「今日はお前の姿を見たと言われたんだ。それで探していた。お前は今何をしている?」
その言葉に微笑みを浮かべる。
「今、幸せなんだ。父さんに捨てられたんじゃないって、あ方の嫁にしてもらって、ご飯も美味しい。友達もできたんだ。今は、ちょっとはぐれたけど」
「やはりか」
苦笑する父を見る。
こらえは父に察してもらえたと理解する。
流石に人も多いこんな場所で山神の嫁になったとは言いづらい。
「醜いんじゃなかったのか?狂うって聞いたが?」
「僕の中の血に意味があったんだって。お父さんや姉さんが言ってくれたことは真実だったよ」
泣きそうになりながらも笑えば、抱きしめられる。
嬉しそうなそれでいて今にも泣きそうな父。
感情豊かな父に親不孝でごめんなさいと心の中で告げる。
口にすればきっと別の意味で涙を流すだろう。
「そうか」
「あの方にも伝えようと思う」
「無理はしていないか?」
「うん」
まじまじと見つめてくる父。
嬉しそうに頭を撫でてくる。
「そうだな。背も大きくなった。昔より健康的だな」
嬉しそうに父が笑う。
幸せそうでよかったと告げる。
「工具は届いたか?服はできる限り良さげなのを用意した」
「工具は、届いたよ。名前が入ってたからすぐにわかった。服は、あの方が管理しているからわかんないかな」
「今、良さげな服を着ているし、届かなくともいい」
今日はあまり着ない夏の服。
トウジの作品で今日はこれだと山神が持ってきたもの。
そういえば、と、ある時から一気に古着の種類が増えたと思っていた。
もしかするとそれかと考える。
だが違うかもしれないと思うとそれ以上言うのは躊躇われる。
「十八に渡そうと考えていた工具だが、少し早くなってしまった」
「あ、あのね。僕が作ってた家具だけど、あの方々の間では人気だったんだ。僕、びっくりだった。お父さんと作った机もあったんだよ。あの方も気に入っている作品だったんだって」
「そうか。こらえ。父を怨んでいてもいいぞ。お前を助けてやれなかった、父は非力さを恨んだ」
言われて、再び思い返す
だが、何処に父を恨む要素があるのか悩む。
むしろ父は助けてくれた恩人だ。
それは変わらない。
「うーん。別にそうでもないかな。お父さんが悪いわけじゃないし。恨むならあの村にするよ。それにあのお方は怒りで穢れを持ってしまったんだって。だから、あのお方の穢の下の原因を持つ気はあまりないかな」
父がいなくなったと聞き、父の家具のためにわざわざあんな山奥に来ていた商人の足は重くなるだろう。
むしろ、姉のところにいるならこちらへと来るから商売品を持っていく必要もなくなっただろう。
そうなってしまえばあの村は衰退していく可能性は否めない。
だったらもう復讐、報復はこれ以上必要ない。
むしろ山神への貢物を減らすのは個人的なことではしたくない。
「そ、そうか。そうなのか。お前は本当に良い子だ。山から授かったから何時か返さなけれなと思っていた。出来るなら父は返したくはなかった」
「うん」
「今度のお祭りの貢物はお前がいると言うことも考えよう。欲しいものはないか?」
「あ、原案帳があれば嬉しい。写しでいいから、あのお方に見せたいんだ」
「そうか。そうしよう」
苦笑する父に笑い返す。
「あのお方はどんな模様が好きとか聞いたか?物欲しそうな家具とか」
コソコソと聞いてくる父。
なんでだろうと悩めば、父は肩を叩いてくる。
「嫁入り道具がいるだろう?姉のときに作ったんだ。お前のためにも作らなきゃいけないが、結納品としてあのお方へも贈りたい」
確かに嫁入りの品を用意していないことを思い出す。
自分で作ってもいいが父が用意したいと言うのを拒否はできない。
「えっと。自分を崇めてくれる模様なら何でも好きだって。好きな季節は秋で、眷属のは動物たちも愛らしかった。眷属が大好きでよく優秀さを自慢してる」
父は楽しそうに聞いている。
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