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神と嫁

12(後)※暴力的表現を含みます

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こらえ・・・は一歩、一歩と、奥へと入る。
辛うじて見える入り口の灯りを頼りに。
山神の気配を頼りに。

だが唐突に襖が閉まり思わずか細い声を上げる。
「だ、大丈夫。大丈夫だ。あの時と違う。ここは知った家の中だ。僕は、今はこらえ・・・、なんだ。大丈夫」
自らを奮い立たせて歩く。

蘇りそうになるあの日の記憶を楽しい思い出で塗り替える。
父と姉の記憶もあるが山神が心配だからか、山神との会話が殆ど。
「山神様、どちらにいらっしゃいますか?」
山神の、気配に向かって歩き手を伸ばす。

楽しい思い出で誤魔化してはいるが頭の中で警報が鳴り響いている。
逃げろ。ここは普通じゃない。
それを理解しながらも、それでも此処で進まなければ山神に二度と会えないような気がして進む。

「山神さっ!わっ」
何かに躓いて転ぶ。
暗すぎて全く気づかなかったが何かあったらしい。
だが体に痛みはなく、転んだ先も柔らかい何かの上。
唇が柔らかい何かに当たったのに気づいて驚く。

ふと漂う匂いにあぁと声が漏れる。
「山神様」
呟きと同時にそれが動く。
「良かった。寝ていただけでしたか」

起き上がろうとしているのに気づいて慌てて下がる。
「すいません。乗ってしまって。その、えっと、あ、後ろ向いたほうが」
肩を何かに掴まれ、後ろに引かれ、その勢いで畳に体が叩きつけられる。
手ではない何かだったのだけは理解した。
「ひゅ」
背中を思いっきり打ち付け、呼吸が止まるほどの衝撃が体を襲う。
「っあ、まみさ、うっ」
ゆっくりと近づいてくる気配に助けてくれるのかと咳き込みながら上体を起こす。
だが何故か唇を塞がれる。
何が起こったのかわからず、されるがまま。
「っ、あ」
ちゅっとリップ音が耳に響いて、力が弱まりそうになる。
僅かに感じるお酒の匂いと味。

酔っているのかと、思わず胸を突き飛ばす。
驚いたのか体にのし掛かる重みが消えたために、しばし待つ。
返事も呻きもないことに苛立ちが芽生える。
「いくら、山神様でも、初夜をお酒の勢いに任せるなんて失礼に値すると思います」
いくらだって好きにしていいとは思ったがこんな形でされるとは思っていなかった。
せめて一言声をかけてほしかった。

足に力が入らないことに気づいてゆっくりと後退り。
腰が砕けるとはこの事かと恐怖の中で考える。
それでも闇の中で浮き上がる影がこちらに向かってくる。
山神なのに気配が変わっている。

何時もの不思議な感じではない。
恐怖が拭えない気配。
悪霊などに似た気配。
「あ、やま、がみ、さま?」
気づいて、声が震える。
後ろに後ずさりしようとして足首に抵抗を感じて見下ろす。
「え?」
紐状の何かが巻きついていた。
家具か帯の一部等が巻き付いたのだと慌てて引き剥がすため手を伸ばす。
その足についた紐状のものと似た紐が、別の角度から腕に巻き付いてくる。
それは、意思を持ち、そして目の前の山神だった物と気配が似ている。
山神の、眷属に似た気配を感じ取る。

だがそれを見ているだけで何故か恐怖を覚える。
限界に達した心に口から叫び声が漏れる。
「う、うわあああああ」
火事場の馬鹿力か、引きちぎりに成功し、襖だろう場所へと走る。
抜けていた腰はどこに行ったのかわからない。
だが追いかけてくるそれから逃げたい。

逃げる。
早く此処を出たい。

恐怖が心を支配する。
壁に手があたり慌てて襖の取っ手を探る。
触れた感じでは確かに襖なのに、取っ手は見つかって引っ張るのに開かない。
「あけて!お願いお願いだから。誰か!山神様!」
叫び声を上げて、だが助けられることはない。
何でと襖を殴り、気づく。
先ほどと同じものが襖を覆っている。
自分の手足を掴んだ何か。
そして背後から伸びた手が口を塞ぎ、服の合間に入り込んで来る。
手袋をしていない手が体を弄る。
感じたくないのにその手は快感を与えてくる。
大好きな人の大好きな手が恐怖へと塗り替えられていく。
手足を動かし、必死の抵抗するのだがいつの間にか絡んでいた紐状の何かが手足を拘束し地面に押し倒される。
「や、だよ。山神様。怖い。怖い、よ」
影が上にいる。
抵抗は出来ないほど力が篭った紐状の何かで地面から手足を浮かせることも出来ない。
こんなふうは嫌だと口にする。
お願いだから僕を見てと口にする。
もっと、違う方法で求めてほしかったと口にする。

大好きなのに。
その言葉を口にした瞬間、頬を涙が伝っていく。


それでも服を、貞操を奪われていく。
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