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貴方を支える未来
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急ぎ控室へ向かい、正装に身を包むが今度は、王家の文様が刺繍されている。
先程の結婚式と似たような物だが、今度は王家の色である朱色と、王妃となるものが代々羽織ってきたマントを付け、外に用意されている馬車に夫となるものと乗り、食事会場へ。
各々のお祝いの言葉を聞き、食事を済ませ、時々服を着替えて、ようやく夕方頃に解散となり王城へと訪れる。
明日は市民への顔を見せる日。
「終わりました」
「ようやく終わったな」
服を動きやすいものへと変えて、皇子と同じ部屋で寛がされる。
少々の話をして、休憩と軽食を取る。
そして湯呑みをして、初めて初夜となる。
「そういえば、イネス、でいいかな。君の義兄上たちから私について何か聞いたりとかは」
「兄上からですか?性格は聞いても答えてはくれませんでした。付き合えるようになったときだけだと。手紙も要約を聞かされてました」
「そ、そうか」
心底安堵しているのがわかり、何かあったのかと首を捻る。
「あ、でもリアム殿下が」
「リアムでいい」
「あ、はい。リアム様がお好きなことや本とか趣味とかお伺いしてますので、時間つぶしでよろしければお付き合いさせていただきます」
「それは楽しみだ」
満面の笑みを浮かべる。
「君が好きなことは聞いているが、せっかくだから話し合いも楽しみたい。駒遊びは好きか?」
「あまり強くはありませんがお付き合いはできます」
「じゃあ、軽食を取りながら語り合おうか」
はい。と微笑み、机を挟みながらサンドウィッチやお菓子を摘み、用意されている飲み物であるワインや紅茶で喉を潤す。
駒取り勝負が盛り上がってきた。
と言うところでドアが叩かれ、返事をすればリーマンが申し訳なさそうに入ってくる。
「おくつろぎのところ申し訳ありません。皇太子殿下、皇太子妃様」
礼儀正しく敬うリーマンに少々の寂しさを覚えつつも、何かあったのかと聞き返す。
「皇太子妃様のお父上様の領地の者が乗り込んできて」
「まさか、アーケロン?」
「はい。連れて帰るとお話を聞きません。申し訳ないのですが湯呑みの時間が少々遅れてしまいます。今しばらくお待ちください」
「今すぐ、会わせてください」
「いえ。すぐにお父上たちが連れて帰ると」
「会わせてください。先生。最後になるでしょうから言いたいことがあります」
お願いですと言えば、しょうがないですね。と甘い部分を見せて連れて行ってくれる。
「他の使用人達は平気でしょうか」
一緒に付いてきたリアムは腕に捕まってろ。と言われ、素直に従い腕を組む。
ここで下手に断り、アーケロンと恋仲だと誤解されたくないのが一番に浮かんだからである。
少々照れ臭そうな様子に可愛いと思ってしまう。
部屋へと入れば檻の中にいるアーケロン。
イネスに気づいて顔を明るくすると檻にしがみつく。
「イネス。俺と帰ろう。な。そんな暴れん坊と噂のある王子より俺と領地で暮らそう。幸せにするから。だから此処を」
リアムがイネスを見下ろしイネスは彼に近づくと頬をグーで殴る。
「幸せって、何?お前から与えられたことは」
背後に控えていたリーマンと、突然の出来事に驚くリアムは何もできずに、オロオロと見守る。
「全部、全部、怖かったんだ。嫌いな虫を渡されたことも、毒虫投げられたことも、泥を投げられたことも、川に落とされたことも、父上や母上、兄上、先生から頂いたお土産を壊されたことも。大好きな本を台無しにされたことも。全部。怖くて辛かったんだ。お前なんて嫌い。大ッ嫌い。顔も見たくない。記憶から消したい。二度と出て来ないでほしい」
一気に言い終わったイネス。
肩で息をしていればリアムがそっと背後から抱き寄せる。
「言いたいことは言えたか」
「はい。すいません。わがままいいました」
「とりあえず手の手当をしよう。そのために部屋へと戻ろう」
そう告げてイネスの肩を支えて連れていく。
とりあえずイネスをあまり怒らせないようにしようと心に誓ったリアム。
「ま、待ってくれ。謝る。謝るから行かないでくれよ」
「それと結婚式のときの声、貴方ですよね」
じろりと冷たい眼差しと声が空気を凍らせていく。
「私の晴れ舞台を壊そうとしたこと、一生、許しません。貴方を過去も未来も、記憶から消したいので二度と現れないでください」
そう告げて、イネスはリーマンを見る。
「先生が結婚式を守ってくださったんですよね。ありがとうございます」
「いえ。まさか無理矢理忍び込んでくることは思わず、あそこまで侵入を許して申し訳ありませんでした」
リーマンは頭を下げると、湯呑みの準備が整ったので手の手当と一緒にどうぞと進められる。
リーマンは息をしているのかと思うほど魂が抜けたアーケロンを見る。
同情はできないが同じように可愛い教え子の一人、イネスから嫌いとあそこまで言われたら流石に辛い。
御愁傷様と内心で唱えておく。
さらに怒らせないようにと固く固く心に誓い直す。
先程の結婚式と似たような物だが、今度は王家の色である朱色と、王妃となるものが代々羽織ってきたマントを付け、外に用意されている馬車に夫となるものと乗り、食事会場へ。
各々のお祝いの言葉を聞き、食事を済ませ、時々服を着替えて、ようやく夕方頃に解散となり王城へと訪れる。
明日は市民への顔を見せる日。
「終わりました」
「ようやく終わったな」
服を動きやすいものへと変えて、皇子と同じ部屋で寛がされる。
少々の話をして、休憩と軽食を取る。
そして湯呑みをして、初めて初夜となる。
「そういえば、イネス、でいいかな。君の義兄上たちから私について何か聞いたりとかは」
「兄上からですか?性格は聞いても答えてはくれませんでした。付き合えるようになったときだけだと。手紙も要約を聞かされてました」
「そ、そうか」
心底安堵しているのがわかり、何かあったのかと首を捻る。
「あ、でもリアム殿下が」
「リアムでいい」
「あ、はい。リアム様がお好きなことや本とか趣味とかお伺いしてますので、時間つぶしでよろしければお付き合いさせていただきます」
「それは楽しみだ」
満面の笑みを浮かべる。
「君が好きなことは聞いているが、せっかくだから話し合いも楽しみたい。駒遊びは好きか?」
「あまり強くはありませんがお付き合いはできます」
「じゃあ、軽食を取りながら語り合おうか」
はい。と微笑み、机を挟みながらサンドウィッチやお菓子を摘み、用意されている飲み物であるワインや紅茶で喉を潤す。
駒取り勝負が盛り上がってきた。
と言うところでドアが叩かれ、返事をすればリーマンが申し訳なさそうに入ってくる。
「おくつろぎのところ申し訳ありません。皇太子殿下、皇太子妃様」
礼儀正しく敬うリーマンに少々の寂しさを覚えつつも、何かあったのかと聞き返す。
「皇太子妃様のお父上様の領地の者が乗り込んできて」
「まさか、アーケロン?」
「はい。連れて帰るとお話を聞きません。申し訳ないのですが湯呑みの時間が少々遅れてしまいます。今しばらくお待ちください」
「今すぐ、会わせてください」
「いえ。すぐにお父上たちが連れて帰ると」
「会わせてください。先生。最後になるでしょうから言いたいことがあります」
お願いですと言えば、しょうがないですね。と甘い部分を見せて連れて行ってくれる。
「他の使用人達は平気でしょうか」
一緒に付いてきたリアムは腕に捕まってろ。と言われ、素直に従い腕を組む。
ここで下手に断り、アーケロンと恋仲だと誤解されたくないのが一番に浮かんだからである。
少々照れ臭そうな様子に可愛いと思ってしまう。
部屋へと入れば檻の中にいるアーケロン。
イネスに気づいて顔を明るくすると檻にしがみつく。
「イネス。俺と帰ろう。な。そんな暴れん坊と噂のある王子より俺と領地で暮らそう。幸せにするから。だから此処を」
リアムがイネスを見下ろしイネスは彼に近づくと頬をグーで殴る。
「幸せって、何?お前から与えられたことは」
背後に控えていたリーマンと、突然の出来事に驚くリアムは何もできずに、オロオロと見守る。
「全部、全部、怖かったんだ。嫌いな虫を渡されたことも、毒虫投げられたことも、泥を投げられたことも、川に落とされたことも、父上や母上、兄上、先生から頂いたお土産を壊されたことも。大好きな本を台無しにされたことも。全部。怖くて辛かったんだ。お前なんて嫌い。大ッ嫌い。顔も見たくない。記憶から消したい。二度と出て来ないでほしい」
一気に言い終わったイネス。
肩で息をしていればリアムがそっと背後から抱き寄せる。
「言いたいことは言えたか」
「はい。すいません。わがままいいました」
「とりあえず手の手当をしよう。そのために部屋へと戻ろう」
そう告げてイネスの肩を支えて連れていく。
とりあえずイネスをあまり怒らせないようにしようと心に誓ったリアム。
「ま、待ってくれ。謝る。謝るから行かないでくれよ」
「それと結婚式のときの声、貴方ですよね」
じろりと冷たい眼差しと声が空気を凍らせていく。
「私の晴れ舞台を壊そうとしたこと、一生、許しません。貴方を過去も未来も、記憶から消したいので二度と現れないでください」
そう告げて、イネスはリーマンを見る。
「先生が結婚式を守ってくださったんですよね。ありがとうございます」
「いえ。まさか無理矢理忍び込んでくることは思わず、あそこまで侵入を許して申し訳ありませんでした」
リーマンは頭を下げると、湯呑みの準備が整ったので手の手当と一緒にどうぞと進められる。
リーマンは息をしているのかと思うほど魂が抜けたアーケロンを見る。
同情はできないが同じように可愛い教え子の一人、イネスから嫌いとあそこまで言われたら流石に辛い。
御愁傷様と内心で唱えておく。
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