切なさを愛した

林 業

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当麻は美味しいと評判のケーキ片手にアパートへと向かう。
(これ好きだろうか)
食べる姿を想像して頬が緩みかける。
慌てて気合を入れ直す。


ふと、喫茶店に若い男と会話中であるタクマの姿を目撃して固まる。
「親父の意中の人じゃないか?」
声がして振り返れば、組員とソウマ。
「貴様らそこで何を!」
「あれ?当麻さん」
ちょうど店を出て来ていたタクマが声をかけてくる。
「あ、いや。今からえっと」
何を言おうか悩む。
タクマは楽しそうに微笑んでと告げる。
「あぁ。こちらは昔お世話になった会社の後輩です」
「始めまして」
「転職するとのことで久々に会いに来てくれました」
「坂本です。先輩には昔からお世話になっています」
「そ、そうか」
「で、こちらは、風間当麻さん。妻と子の事故のときの遺族の一人で当時からお世話になっているんです」
「どうも」
「どうもです」
相手は笑顔だが、敵意が見え隠れしている。

絶対に渡さないと意思を込めて見つめる。


「今日は俺帰りますので、先輩また何かあれば連絡しますね」
「今日はお話聞けて良かったよ」

タクマが見送り、当麻を見る。
「何かありましたか?当麻さん」
「なんでもない。それよりケーキ買ってきたんだ」
「それはいいですね。帰ってコーヒーでも用意しましょうか」
「おう」
二人は家路を急ぐ。

影から見守るソウマ。
「おぉ。親父のライバルか」
「きたこれー」
組員が楽しそうに口にする。
「そういえば、ソウマさん。タクマさんのこと気にいてらっしゃいますよね」
「家だと落ち着かねぇからなぁ。タクマさん家で居てもニッコリ微笑んで来るだけで、文句言わないし。邪魔かと聞いたこともあるんだけど賑やかな方が楽しいですからとしか言わないから。あ、親父の邪魔はしてねぇぞ」
「早く恋人作るべきっすね」
「て、め、え、にも言われたくねぇえ」
ソウマは組員に告げる。

タクマは二人に気づいて当麻を見る。
「あの二人どうします?」
「仕事言いつけてあるはずなんだけどなぁ!あぁ?」
威圧すれば二人は一目散に逃げ出す。

「ところで、楽な服でうちに来てもいいんですよ」


時間勿体無いとはあえて言わず渋い顔で唸る当麻を見て微笑む。

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