例えば乙女ゲームだとしたら

ユウ

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第1章

オタクが転生……?

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ふと気がついたのは目覚めてから数分後だった。

「あれ、ココは……」

見渡す限り、病院なのは確かだった。

医薬品の匂いと、看護師や患者の話し声が僅かながら聴こえてくる。

「佐倉さん、おは……」

ドアから顔を覗かせた看護師が、持っていたバインダーを落とし目を見開く。

「せ、先生!佐倉さんが目を覚ましました !」

そう言うやいなや、どこかへ走っていく。

廊下は走っちゃダメでしょう?

あれからお医者さんには「奇跡だ!」と何度も言われて、正直、戸惑った。

だって、いつ怪我したのか分かんないのに、驚かれても……。

それになんか変……。
でもその違和感が何なのかは不明でムズムズする。

「雪!」

慌てふためく声と同時に思いっきりドアが開かれて、イケメン青年が現れた。

「うそ……だ……コレは……夢?」

「夢じゃない!俺の顔忘れてしまったのか?!」

イケメン青年は涙で顔をグシャグシャにしながら私を強く抱きしめる。

力が強すぎて息が苦しい。

「秋人……お兄ちゃん……?」

声を詰まらせつつ、恐る恐るその青年を呼んでみる。

「!!」

目を丸くする青年は次第に花が咲くように笑い、また私を抱きしめる。

あはは……どうやら合ってたよ……。

「佐倉さん!いい加減ご退出願います!」

面会時間が過ぎても粘る秋人お兄ちゃんは、とうとう看護師さん複数人に連行され、やっと病室を出ていった。

私はというと、主治医というお医者さんにまだ数日入院しろと言われて1人病室に居た。

「…………」

正直、頭が混乱してる。

だって……だって……!

「ここって《ルルシュ》の世界!?」

《ルルと秘密の学園》。
それは恋愛ゲームで、『乙女ゲーム』といわれる私のお気に入りだった代物だ。

なぜそんな事がわかるのか、それはさっき入って来た《佐倉  秋人》お兄ちゃん。
彼は《佐倉  雪》の兄であり、攻略キャラの1人だったからだ。
そして『シスコン』というおまけ設定付きだ……

「という事は……」

私は手鏡を探し恐る恐る覗き込むと、そこには優しげな瞳と秋人さんよりも少し明るい栗毛の少女が居た。

「『佐倉  雪』は…………私?」

私が横を向けば鏡の中の少女も横を向く。
私が笑えば彼女も目を細め笑う。

これはこれは…………。
て、転生ってヤツ?

「なん…………じゃこりゃぁぁぁあ!」

私の叫びは夜の病院に響き、駆けつけた看護師さん達の足音を、薄れゆく意識の中で聞いたのだった。
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