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第四章

子守唄①

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〈兄:ウィルフリードSide〉



タウンハウスの自室に戻り、エルをベッドにそっと寝かせる。
今のままの格好では寝づらいであろうと、アメリアとアンネリースにエルの着替えをさせた。

「ご苦労さま。お前達も下がって休め」

「「はい。かしこまりました。何かあればいつでもお呼びください。それでは失礼いたします」」

すっと一礼をし、アメリアとアンネリースが下がっていく。

すやすやと眠るエルの横に、僕もそっと横になる。
エルの腕の中にいたシロガネは、応接室に残った。
エルの側にいつも居るペルルも応接室に残っている。
これからカーラについての話し合いが行われるのであろう。



すぅすぅ眠るエルの、背中の中程まで伸びたセレストブルーの髪を梳く。
エルの髪は幼子特有の柔らかさがあり、とても触り心地が良い。
エルの髪を撫でながら、先程までの事を考える。

僕は自分自身で感情のコントロールは完璧にできていると思っていた。
しかし、カーラに襲われそうになり、酷い言葉をぶつけられるエルを目の前にして、僕は怒りの感情を爆発させてしまった。
怒りの感情の赴くままに魔力を使い、雷を降らせ、部屋中を凍てつかせた。
感情のコントロールができない今のままでは、エルが僕の弱点となり、僕がエルの弱点になってしまう。
僕は自分が思っている以上に未熟だった…。
愛しいエルがこれ以上傷つく事が無い様に、より一層精進せねば。







「…ぅ…っ…、ひっく…。うぇっ…うぅぅ……っ!!うわぁぁぁ~~~っん…!!!!」

はっ!!!!
エルの泣き声に目が覚める。
どうやら僕はエルの頭を撫でている内に、うたた寝をしてしまった様だ。
体を起こし確認すると、エルは泣きじゃくり魘されていた。

僕は泣きじゃくるエルを抱きかかえ、背中を擦る。

「エル、エル。大丈夫だよ。もう怖い事は何も無いよ。それにお兄様が側に居る。お兄様がエルを必ず護るからね」

「うわぁぁぁ~~ん…、ひっく…ひぃっく…。いっちゃぁ~っ…、みっちゃぁ~っ…。ふぇぇぇ~~ん…っ…」

エルが赤ちゃん返りをしてしまったかの様に、左手の親指をしゃぶりながら泣き続ける。
普段のお日様の様に温かく、ふんわり笑うエルの姿と、余りにもかけ離れた姿に胸が痛む。
エル自身は自分で何度も“大丈夫”と言っていたが、やはり心は傷ついていたのだ。

それにしても、『いっちゃ』と『みっちゃ』か…。
何処かで聞いたことがある様な…。
そういえば、エルが造った四つの神像の中に、『イツキ』と『ミツキ』という名前の、この国では見たことがない衣を纏った神像があったな。
確か、エルがエルとして生まれる前から、ずっと見守ってくれていると言っていた。
エルが神像として側に置き、毎日話し掛ける神…。
神に嫉妬しても意味は無いなだろうが、今、エルが助けを求めるのが自分では無い事実にはらわたが煮えくり返りそうだ。

「エル…。もう泣かないで…。イツキやミツキじゃなくて、君を抱きしめている僕を見て…?お願いだ…」

どんなに優しく抱きしめても、背中擦っても、声を掛けても泣きやんでくれそうに無いエルに、僕自身が不甲斐なくて情けなくて、泣きそうになる。
お願いだよエル…。泣きやんで?
そして君のその美しい瞳に僕を映して欲しいんだ…。




♪~♪~

バラの花は 風に揺れて
夢の歌を うたいます
ねむれぼうや 静かな夜
花の中で 朝をまつの

空の星は ひかり青く
夢の国へ さそいます
ねむれぼうや はるかな空
星の中を かけてゆくの

                ♪~♪~



何処からともなく子守唄が聴こえる。
その声は高く低く、そして全てを包み込む様に柔らかい。
赤・橙・黄・緑・青・藍・紫。
優しい子守唄と共に、ふわふわと七色の光が溢れ出す。
溢れ出した光がひとつにまとまり、ひとりの少女の姿を創り出す。

七色の美しい蝶の羽根。足元までうねる長い髪とその瞳は虹の様なグラデーションをしており、その少女の神秘性が増している。

《はじめましてなの。わたしは精霊女王ラーレなの。
さっきはうちの子達がごめんなさいなの。
本当はエルちゃんがもう少し大きくなってから会いに来る予定だったけど、うちの子達がいっぱい迷惑かけたから、お詫びに来たのなの》



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