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第三章

夜更けの密談④

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〈父:フリッツィSide〉




「陛下、我が国と聖神国は海を挟んでおりますので、今まで聖神国に民を奪われる事はありませんでした。
しかし、奴らは最近、頻繁に我が国に出入りしているのです。今のところおかしな動きはありませんが、今後何もないとは言い切れません」

私は一旦話を区切り、陛下を見つめる。
ここで上手く話をまとめないと、シロガネ殿が姿を現してまで話してくださった事が台無しになってしまう。

「陛下。7歳のお披露目の儀式では、これまで慣習として魔力属性とスキルが公表されてきました。
しかし、それでは聖神国の者に“ここに優秀な魔力属性とスキルを持つ者が居るぞ”と、国自ら居場所を宣伝しているようなもの。
ですのでどうか、この国の子ども達を護るために、今年から魔力属性とスキルは鑑定時に本人のみに伝え、一般に公表する事を廃止していただきたい」

陛下がここで『是』と言ってくださらなければ、今後この国の子ども達の命は危険に晒され続ける。それに子ども達だけでは無い。貴重な属性やスキルを持つ者たちも狙われる事になる。
私は祈る様な気持ちで頭を下げ、陛下の答えを待つ。

「フリッツィよ。其方のこの国を想う気持ちはよくわかった──」

「ではっ!!」

私がバッと頭を上げ見つめると、陛下の手で制される。

「──だが、どの様に説明する?
聖神国が今まで他国で子ども達を攫っていたのは確かだろう。しかし、確かたる証拠がない。これでは聖神国の名前は出せまい。ヘタに名前を出せば、余計な厄介事を招きかねんからな。
それに今までこのお披露目の儀式で、優秀な者を囲っていた貴族達から反感を招くぞ」

「聖神国の名前は出さなくて良いかと。
“近隣諸国で誘拐が多発しており、その誘拐犯と思しき者が我が国に手を伸ばし始めた”と説明していただければ。
貴族の反感は承知の上です。そしてその反感を抑える役目は陛下になるでしょう。申し訳ありません…。ですので、こうして陛下に頭を下げ、直にお願いしているのです」

私は再び頭を下げ、陛下の答えをじっと待つ。

【デットリックよ、魔力属性とスキルとは一体何だと思う?】

「…どう言う事でしょうか?」

【いいか、魔力属性とスキルはな、地上に住まう全ての者へ、神から贈られた祝福なのだよ。
その祝福を己が利のために利用しようなどと、烏滸がましいとは思わんか?
それに何だ、魔力属性やスキルで人の優劣が決まるとでも?思い上がるなよ】

シロガネ殿の黄金の瞳がギラリと光る。

「陛下、白虎様の仰っしゃるとおりです。魔力属性やスキルなどではなく、個人そのものを大切にし、慈しむことが大事なのではないでしょうか?」

「あぁ、そうだな…。白虎様やフリッツィの言うとおりだ。
“魔力属性とスキルは神の祝福”か…。
この話も併せて広めよう。そして、煩い貴族は私が抑えよう。
フリッツィ、面をあげよ」

「はっ!!」

「我が王国に住まう全ての国民の命を護るため、私は決断し、宣言する。
今年から魔力属性とスキル公表の慣習は廃止する。
明日、各大臣や長を集めて公表しよう」

陛下が左手を胸に、右手を天に掲げ宣言する。

「陛下、ご決断いただきありがとうございます。これで多くの民の命が救われるでしょう」

「あぁ。そうであってもらわねば困る。
フリッツィ、王国の裏の番犬としてのお前に命ずる。
引き続き、聖神国の者を監視せよ。そして私に随時報告するのだ」

「はっ!!王国の裏の番犬、フリッツィ・ヴァイマル、陛下の命をしかと承りました」

私はソファーから立ち上がり、片膝を付いて頭を垂れ、陛下の命を受け止める。

【ふむ。話はまとまった様だな。では我は森へ帰るとしよう。
あぁ、そうそう。我は王国から漂う、聖神国と同じ様な嫌な臭いの原因を探りに来ただけ。
王国の裏の番犬やその一族を利用し、我を王国に繋ぎ止めようなどと愚かな事は考えるなよ】

そう言うと、シロガネ殿の姿が消える。
おそらく転移でエルの元へ帰ったのだろう。

「はぁぁ~っ…」

陛下が大きなため息を付きながら、ソファーの背もたれに体を預ける。
シロガネ殿の威圧で固まってしまった体を、肩を叩くなどして解している。

「陛下、白虎様のお姿も見えなくなりましたし、私がお伝えすべき事は全てお話させていただきました。
この辺にて、御前を失礼しても構わないでしょうか?」

「あぁ、構わん。
明日は朝から忙しくなりそうだ。私も疲れたし、休むとしよう」

「では──」

「フリッツィ」

「──はい」

陛下が私の目をじっと見つめてくる。
シロガネ殿の事だろうか?
だとしても私は何も答えるつもりはない。
その意味を込めて、私も陛下の目を見つめ返す。

「いや…何でも無い。呼び止めてすまなかった」

「では、改めて失礼いたします」

胸に手を当て頭を下げ、陛下の執務室を出る。
ふぅ…。これで第一関門突破といった感じだろうか?
何にせよ、明日からも忙しい日々は変わらない。
いや、更に忙しくなりそうだな。
とりあえず今は、帰ってエルの寝顔に癒やされよう。


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