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第二章

誕生①

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その日、フリッツィ・ヴァイマルは、臨月の妻であるハリエットと共に寝台で寝ていた。



「──し、もし…、もしもし。聞こえますか?聞こますか??
わたくしは今、夢の中であなた方に語りかけています」

どこからともなく聞こえてくる声。
そこは雲の上だった。遥か遠くには神殿の様な物が見える。



「あなた…」

妻のハリエットが不安そうに手を握ってくる。
フリッツィは妻の手を握り返した。

「大丈夫だ。私が隣に居る」

フリッツィとハリエットの目の前にキラキラとした光の粒子と共に、ひとりの男が現れた。

白金色のゆるくウェーブした髪が腰まで伸び、頭には月桂樹をモチーフとした黄金の王冠。
青く澄んだ海に光が差し込んだ様な煌めきを放つアパタイト色の瞳。その瞳の周りは長いまつ毛で覆われている。
顔の全てのパーツは整い、その顔の造形はこの世の物とは思えない程に美しい。
そして、全体にバランス良く筋肉に包まれた美しいその体格は、動くと角度によって虹色に輝くキトンを纏っている。
そこには、アクスルの創造神、エアネストが佇んでたたずんでいた。

「あ…あなたは…」

わたしくはこのアクスルを創造せし神、エアネストと申します。
この度は少々事情がありまして、あなた方の夢にお邪魔させていただいております」

フリッツィの驚きの声に、エアネストが優しい声で応える。

「早速で申し訳ないのですが、私の大切な大切な愛し子を、あなた方ご家族に託したいのです」

「愛し子…ですか?
失礼ながら、何故とお聞きしても?」

エアネストの急なお願いに、フリッツィは困惑する。

「そうですねぇ、ひとつはちょうど奥様がご懐妊中であると言う事。もうひとつは、あなた方ご家族というか、一族の力をお借りしたいからです」

「一族の力…」

フリッツィは未だ不安そうにする妻を抱き寄せる。

「はい、そうです。ローザモンド王国の裏の番犬と言えばお解りいただけますか?」

「なっ…!?」

王国に存在する暗部とは別の意味の、真の暗部…どうしてそれを知っている…。フリッツィは再び困惑する。

「ふふふっ。神ですからね。いつもこの神界から見守っているんですよ?
私の大切な愛し子が、争い事や面倒事が好きではないんです。ですので、王族や貴族にもなるべく関わり合いになりたくないと…。
あなた方一族であれば可能でしょう??だからね、お願いしたいんです」

ふふふっと微笑みながら話していたエアネストが、「それに──」と突然真剣な顔つきになる。

「真の目的は大切な愛し子を護っていただきたいのです。
我が愛し子は秘めた力を持っています。それは国を、いえ…世界を繁栄に導くでしょう。
しかしながら、ひとつ心配事があるのです…」

「それは一体…」

今まで静かに話を聞いていたハリエットが尋ねる。

「邪神教の残党です…。邪神そのものを捕らえる事はできましたが、復活を目論む物が居ます。邪神教の復活に愛し子の力が狙われるかもしれないのです。
ですのでどうか…どうかお力をお借りできませんか…??お願いします…っ!!」

エアネストは深々と頭を下げた。

「あなた…」

ハリエットがフリッツィを見つめる。

「頭をお上げください、エアネスト様。
この世界の創造神たるあなた様に、頭まで下げられて断れる者なんて居ませんよ。
わかりました。その愛し子様の件、しかと承りました」

フリッツィはエアネストに対し、膝をつき、深々と頭を下げた。ハリエットは臨月の為に立ったままではあるが、深々とお辞儀をした。

「お立ちください。フリッツィ殿。
ありがとう…。どうか愛し子の心も体も一切損なう事なく護っていただきたい。先程話したとおり、愛し子が健やかであれば繁栄は約束されます。しかし、愛し子が傷つけば、その力は反転し、衰退…滅びへと繋がるでしょう…。
何か特別な事をしなくてもいいのです。あなた方の子として健やかに過す。それだけでいいのです」

「「かしこまりました。エアネスト様」」

フリッツィとハリエットは同時に頭を下げた。

「私の大切な大切な愛し子をよろしくお願いします。では──」

エアネストがそう言うと、フリッツィとハリエットのふたりは温かい光に包まれた。
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