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薔薇育む人
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しおりを挟む朝食を作る。
二人分を作るのが何度目だったか数えようとしたが、先にトースターが鳴った。
朝の食事は俺が用意する、夜の食事は忍さんが用意して俺の帰りを待っていてくれる。
そう、待っていてくれる。
残業で遅くなった時も、先に食べればいいのに俺が帰るまで待っていてくれた。
「切ってしまうのか?」
休みの日は、必要な物を買いに出た残りの時間を薔薇の手入れに使う。
「ええ。長く花をつけさせていると、株が弱ってしまいますから」
可能ならば最後まで咲かせてやりたいが、それでその株自体が弱ってしまっては元も子もない。
これからも長く咲き続けてもらうためには切らなくてはならない。
可哀想、と、いつも思う。
実を結ぶことも、咲き続けることも拒否されたその存在を、ひそりと暮らす俺にどこか重ねてしまいそうだった。
「可哀想だな」
意外な言葉に肩が跳ねた。
忍さんはそんな感傷的な人ではないと、いつの間にか思ってしまっていたらしい。
「………」
「だが、綺麗だ」
俺が切った薔薇に視線を落とした忍さんはお世辞にも笑っているようには見えなかったが、雰囲気が微かに柔らかい。
「その花は洋間に飾りますね」
「ああ」
埃を被っていた洋間に、忍さんは寝泊りするようになった。
「夕飯に食べたいものはあるかね」
「ええと…じゃあ、魚が食べたいです」
全く話さない…と言うわけではないが、忍さんは寡黙で。
頷いて返しただけでそれ以上の会話はない。
俺達の生活は、そんな風に続いている。
大笑いすることもない、ぶつかり合って怒鳴り散らすこともない。
静かな、生活。
初めて忍さんが訪れた日の時のような感情を荒げた姿は、あれ以来見たことがなかった。
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