23 / 82
薔薇苅る人
1
しおりを挟むその子に再会したのは、古ぼけた児童施設の園長室だった。
ガリガリに痩せて、酷く何かに怯えた…みすぼらしい子供だった…
アキコとの出会いは見合い。
親が持ってきた話だった。
特に乗り気な訳でもなく、だからと言って断る理由もなく…私とアキコはなんの激情も情熱もないまま、周りに流されるように結婚をした。
元が華族だかなんだかと言っていたアキコの実家のお陰で、まだ年若く結婚した自分の生活は安定しており、悪く言えばぬるま湯に浸かった様な毎日だった。
そんな日々に、不満ではない何かを感じ始めたのはいつの頃だったか…
和装の似合うアキコは一見大人しく生真面目な良妻に思えたが、裏を返せばで融通の聞かない陰湿な、粘着気質な雰囲気を持っていた。
けれど私は彼女を尊重したし、良い夫であろうと努めた。
「百合が好きなの」
そう言うアキコは、何に置いても百合を好んだ。
絵画、壁紙、食器、ステンドグラス、着物、庭の花まで…
噎せかえる濃密な百合の薫りにいつしか私は圧迫感を感じ、喉が詰まるような、監視されているかのような気持ちになっていった。
自然と足は家庭から遠退いていったが、遠退く度にアキコの私に対する陰湿な執着は増して行き、何時、何処で、誰と会い、何をしていたのかを事細かく確認してくる様になり始めた。
「独りあの家で淋しいんだろう?」
同僚はそう言って無責任に笑う。
私は百合の移り香の臭うスーツにイライラしながら、曖昧にその言葉に頷き、独りで淋しいなら…と、その夜久し振りにアキコを抱いた。
アキコの独占欲を分散させてくれる存在を作る為に…
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる