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薔薇摘む人
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しおりを挟む保さんが手入れをしていた頃と何ら変わらない庭がそこにある。
色とりどりの薔薇に埋め尽くされ、華やかな匂いに満ち溢れた庭…
「ショウコお嬢さんも喜ばれますよ」
──────え?
「室井さん、今…」
ざわっと何かが背筋を駆け上がる。
「え?ショウコお嬢さんですか?薔薇が好きな方でね…お母様のアキコさんは薔薇よりも百合が好きと仰ってたんだけど…保さんは子煩悩な人だったから……」
「ショウコさんは…奥さんじゃ…」
「いえ、アキコさんです、娘さんが薔薇のショウの字をとって薔子さんって仰るんですよ、ご存じなかったんですか?」
ショウコ…
夜毎保さんが呟いていた名前が耳に甦る。
ショウコ…
ショウコ…
…保さんは確かに呼んだ。
『ショウコ』…と。
「仲の良いご家族だったのに…どうして…」
苦味を堪えるかの様に、室井さんのいつも朗らかな表情が苦悶に歪む。
「…どうして、無理心中なんて………」
家に飛び込み、入った正面にある薔薇のステンドグラスを見上げる。
初めてこの家に来た時、保さんはなんと言った?
ぽかんとコレを見上げる俺に、
『妻のお気に入りでね』
『妻はね、薔薇が好きだったんだ』
妻…妻………薔薇が好きなのは…妻…
薔薇の好きだった…薔子さん…
「…保さん……貴方は一体誰を…」
妻と呼んでいたのか!?
黒檀色の手摺を掴んで2階へと駆け上がり、肩で息をしながらバスルームの向かいにある扉に手をかけた。
がちんっがちんっ
以前開けようとした時と変わらない手応えに、苛つきながら保さんの部屋へと向かう。
どこかにある筈だ…
あの部屋を開ける鍵が!!
几帳面に整えられた引き出しを掻き回し、本棚の本を凪ぎ払う。
「どこだ…どこだ!!保さんっ………貴方の心の中に居たのは…」
見当たらないそれらしい物に苛立ちが募り、俺は窓辺に飾られてあったブロンズ像を掴み上げて部屋の前へと駆け戻った。
上がる息を整えるのももどかしい!
鈍く光るドアノブへ向けて、ブロンズ像を振りかぶって投げ付けた。
がこんっ
がこんっ!!
緩んでぶら下がり始めたドアノブを掴んで無理矢理扉を押し開く。
「………っ…」
薔薇に溢れたローズピンクのその部屋は、妻と呼ばれる立場の人間が住むには余りにも幼稚な…
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