言えない言葉

言えない言葉

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「ちょっと狭いけど、我慢な」 

　そう言って差し掛けると、章がオレの手から傘を取り上げた。 

「私が持ちますよ」 
「…ありがと」 

　いつも差す側だったせいか、差される方に回ると変な感じがする。 
　けれど一つの傘の中で寄り添うように歩くのは、悪くない。 






「風呂、沸かしてあるから入れよ。冷えてるだろ？」 
「では　　一緒に入りましょう」 
「っ!?」 

　真顔でさらりと返され、思わずyesと言いそうになって慌てて口を押さえる。 

「ちょ、話にきたんだろ？」 

　期待していたなんて、おくびにも出さないようにして言ったが、 

「では何故風呂が沸いているんですか？」 
「た、たまたま入ろうと思ってただけだよ」 
「客が来るのに？」 
「ぅ…」 

　細められた目はオレの反応を楽しんでいて、オレのその気を完全に見抜いていた。 

「さ、入りましょう」 
「は…話にならなくなるだろ…」 
「話す以外に何かするんですか？」 
「っっっ!!」 
「な　に　か　するんですか？」 

　わざと間を置きながら問う声に、かぁっと顔が赤くなる。 
　言い淀むオレの腕を、濡れて体温の下がった章の手が引く。 

「温めてくれますよね？」 

　当然と言う言葉に、けれど逆らうことなく頷いた。 



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