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おまけ 133
しおりを挟む崩れた虹彩がギラギラと昏い光を反射しながら俺をひたと見つめて……
「どこまで凌げる だろうか……」
呟いて奥歯を噛み締める。
雪崩れ込んでくるようにこちらに向かってくる触手から身を躱し、避けきれないものは剣で逸らす。受け止める手がびりびりとした衝撃を伝えて、追いかけるように嫌な感触が肺寄ってくる。
長くもたないんだろう と使い馴染んだ長剣を見て思う。
王から下賜されて以来、常に体の傍にあってこれがなければ体が傾いだようにバランスが取りづらいと感じるほどだ。
「 っ、ぐ 」
叩きつけられた触手を避けるために翳した瞬間、白銀の刀身に映る自分の姿がずれて……魔人の叫び声にかき消されるようにわずかな音だけを立てて、砕け散るように刀身は折れてしまった。
ずいぶんと軽くなってしまった長剣を放り捨てることなんてできないまま、俺は温かい雨に打たれながら迫りくる触手に真っ直ぐに顔を上げた。
◇ ◇ ◇
オレの手を握るかすが兄さんは顔色を青くしながらも毅然とした表情を崩すことはなくて……それは銀で作られた人形のようだと言って、遠回しに人間味がないと言っていた貴族達の言葉を思い起こさせた。
「 かすが、状況は芳しくないぞ」
そう言った前国王はゴトゥス山脈の方を眺めながらミロクを抱き上げている。
左目を包帯で覆っていても、それでも獣人の視力と言うのはオレよりもいいらしく、じぃっとそちらを見つめて様子を窺っているようだった。
「おい、下ろせ」
「ならん」
ここからでも見ることができるほど巨大化した魔人を見て、ミロクは今にも飛び出していきそうなほど暴れているが、それを前国王が抑え込んでいるような状態だ。
「 っ、あいつがっ クラドだって、いるんだぞ⁉︎ 助けに行かなきゃだろっ!」
「そうか。だがお前ひとりが行って何になる」
「じゃあせめて下ろせ!」
「ならん、いざとなったら私が担いで走らねばならんからな。例え片足が使い物にならんでも、ミロクよりは早いだろうからな」
むっとしたミロクを見てから、青い顔のまま繋いだ手に視線を落とすかすが兄さんに再び目を向けた。
「一つ、あります」と返事をした後、かすが兄さんは手短にミロク達に話をするとオレに呟くような謝罪をしてから手を握り締めて……
重ねた手はひんやりとしていてオレの手が温かいのか、かすが兄さんの体温がないのかよくわからない。ただこうやって触れあっていると小さな頃に手を引かれたことを思い出させた。
いつもいつも、かすが兄さんはオレの道しるべだった。
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