55 / 303
55
しおりを挟むかすが兄さんと手を繋ぎながら、凄く明るいお店に食べ物を買いに行ったっけ?
そこで食べたあったかい食べ物は……なんて名前だったかな?
もう一度食べたいと思っても、こちらの世界で似たような物を見かけたことはなかったから、もう二度と食べることはないんだろう。そう思えば、次々と幼い頃に食べたお菓子が思い起こされてきて、ヒロにも食べさせてあげたかったなぁ って。
チョコのケーキとか、誕生日のケーキにしてもらうくらい大好きだった。
それから、テレビ!名前は思い出せないけど、赤や青の人たちが戦う話は……途中までだったはず。
突然かすが兄さんが家から出ることになって、オレは夢中で追いかけて……追いかけて…………
それから、どうだったんだっけ?
「 うー 」
小さな呻き声にはっとなり、もぞりと動いたヒロにせっつかれるように再び歩調を早める。
そうだった、あの時に神様から「おまけ」って言われたんだった。
その時のオレはおまけって言われたらお菓子についてくる小さなオモチャのイメージしかなくて、初対面の人にそう言われたのがすごくショックで……
今思い出しても泣きそうな気分になる。
「…………この道、どこに続くんだろ」
なんとか辿り着いた村の門は固く閉ざされていたけれど、その傍らに小さな勝手口のような扉があってそこから外に出ることができた。
吐き出した息が雨の湿気に吸われて重く頬を撫でる。
目の前の道はそのまままっすぐ森の中に続いていてその先は見えず、どこに繋がっているのかも良くわからない。
ここに着くまで馬車の窓の外を見て道を覚えようとしたけれど、夜になったからか、それともこの町に来る時に通った道じゃないのか、まったく見覚えのない道だった。
繰り返し馬車の通った轍跡があるから、この先に何もないと言うことは無いはず……
「 っ、いや、こっちの方がいい!」
クラドから逃げてもテリオドス領に戻ればあっと言う間に見つかってしまうだろうし、そうなればどんな迷惑をかけるかわからない、それに今度こそ……クラドはロカシ達に何かをするかもしれない。
剣を抜いて脅したのが、オレを連れ戻すための演技だってわかってても……
もうこれ以上、護衛騎士と言うことを誇りにしていたクラドにあんな脅し文句を言わせたくなかった。
だからできるだけ遠くに行かなきゃいけない。
できればテリオドス領のように過ごしやすい場所がいいけれど、ヒロが健やかに育つことのできる場所であればどこでもいい。
クラドから離れることができるのなら!
木の根に足を取られそうになりながらも、転ぶのだけは避けるために慎重に足を進める。
12
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
生きることが許されますように
小池 月
BL
☆冒頭は辛いエピソードがありますが、ハピエンです。読んでいただけると嬉しいです。性描写のある話には※マークをつけます☆
〈Ⅰ章 生きることが許されますように〉
高校生の永倉拓真(タクマ)は、父と兄から追いつめられ育っていた。兄による支配に限界を感じ夜の海に飛び込むが、目覚めると獣人の国リリアに流れ着いていた。
リリアでは神の川「天の川」から流れついた神の御使いとして扱われ、第一皇子ルーカスに庇護される。優しさに慣れていないタクマは、ここにいつまでも自分がいていいのか不安が沸き上がる。自分に罰がなくては、という思いに駆られ……。
〈Ⅱ章 王都編〉
リリア王都での生活を始めたルーカスとタクマ。城の青宮殿で一緒に暮らしている。満たされた幸せな日々の中、王都西区への視察中に資材崩壊事故に遭遇。ルーカスが救助に向かう中、タクマに助けを求める熊獣人少年。「神の子」と崇められても助ける力のない自分の無力さに絶望するタクマ。この国に必要なのは「神の子」であり、ただの人間である自分には何の価値もないと思い込み……。
<Ⅲ章 ロンと片耳の神の御使い>
獣人の国リリアに住む大型熊獣人ロンは、幼いころ母と死に別れた。ロンは、母の死に際の望みを叶えるため、「神の子」を連れ去り危険に晒すという事件を起こしていた。そのとき、神の子タクマは落ち込むロンを優しく許した。その優しさに憧れ、タクマの護衛兵士になりたいと夢を持つロン。大きくなりロンは王室護衛隊に入隊するが、希望する神の子の護衛になれず地方勤務に落ち込む日々。
そんなある日、神の子タクマ以来の「神の御使い」が出現する。新たな神の御使いは、小型リス獣人。流れ着いたリス獣人は右獣耳が切られ無残な姿だった。目を覚ましたリス獣人は、自分を「ゴミのミゴです」と名乗り……。
<Ⅳ章 リリアに幸あれ>
神の御使いになったロンは神の子ミーと王都に移り住み、ルーカス殿下、神の子タクマとともに幸せな日々を過ごしていた。そんなある日、天の川から「ルドからの書状」が流れ着いた。内容はミーをルドに返せというもので……。関係が悪化していくリリア国とルド国の運命に巻き込まれて、それぞれの幸せの終着点は??
Ⅰ章本編+Ⅱ章リリア王都編+Ⅲ章ロンと片耳の神の御使い+Ⅳ章リリアに幸あれ
☆獣人皇子×孤独な少年の異世界獣人BL☆
完結しました。これまでに経験がないほど24hポイントを頂きました😊✨
読んでくださり感謝です!励みになりました。
ありがとうございました!
番外Ⅱで『ミーとロンの宝箱探し』を載せていくつもりです。のんびり取り組んでいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる