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初めてクッキング!
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しおりを挟む「 ────なーんてことがありましたよね? 播磨谷さん」
「 ────記憶にございませんね、満月原さん」
向かい合って座ってそんな会話をして……────ぶはっとどちらからともなく笑い出した。
それは食堂に響き渡るくらいの大声だったから、数人の遅い昼食を摂っていた人達が何事かと振り返ってぼくたちを見る。
周りからは、ぼくたちはどう見られているだろうか?
かたや180は超えそうな身長とダウナー系の雰囲気をまとった播磨谷と、
かたや160に届くか届かないかで大騒ぎしているぼくと、
全然接点もないし、合いそうにないって思えるぼくたちは……どう思われてるのかな?
「はい、第7カレー完食」
そう言うと播磨谷は縁の厚い眼鏡を自慢そうにくぃっと上げて見せた。
綺麗に皿の上のものがなくなった播磨谷のトレーと違って、ぼくのトレーにはいまだ半分ほどが黒い異形を晒している。
それをスプーンでつんつん……と突いた。
「降参か?」
「ちーがーうーっ! 量が多いんだよ!」
「量って……いつもとそこまで変わらないだろ?」
皿はいつものだし、食堂のおばちゃんが米をつぐ時に何か細工していたかのようにも見えなかった。
それでも食べられない理由は……
「だって! 角のパン屋のカレーパンっ美味しかったんだもんっ!」
泣きそうになりながらそう叫ぶと、けだるそうにしていた播磨谷がぼくが驚くぐらいの勢いで立ち上がった。
「あそこか! メープルメロンパン売ってたところだろ⁉︎」
「そうっ!」
「買えたのか⁉︎」
「買った!」
そこで一瞬の間が空いた。
なぜなら播磨谷が手を差し出しているからで……それが何を欲しがっているかは明白だ。
「おいしかったです!」
勢いよく言ってやると播磨谷の体がぐらりと傾いで椅子を倒しそうになりながら座ってしまった。
ものすごくがっかりしているのがその様子だけでも十分伝わってくる。
なぜならメープルメロンパンが有名なそこは老舗のパン屋でありながらメープルメロンパンがとにかく有名で、それで行列ができるほどなんだけれど、その店の隠れた名品ってのがあってそれが毎日数個だけしか作られないメロンパンのノウハウを使って作られたふわっとカリッと、でも全然脂っこくなくて、しかも中身は野菜カレーがぎゅっと詰まっている野菜カレーパンなのだ。
肉を前面に押し出していない、あえて野菜の旨味を重視する形で作られた中身のカレーは、旨味が溢れてどこか懐かしさを感じる甘口カレーだった。
メロンパンの生地のせいか生地の主張も、野菜カレーの優しい主張も、混然一体となって食べたものに幸福をもたらす。
現に僕、カレー食べてるけどそのメロンパンカレー食べた幸福感にいまだに包まれてるもん。
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