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聴の頬
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しおりを挟む「僕じゃなくとも、事足りるのでしょう?」
「足りる足りないの話じゃない!」
力の籠らない手が俺の手を剥がそうと重ねられ……
「嘘吐きっ」
そう言葉が続く。
「 っ」
「貴男は僕のものだって言ったのにっ」
すまないとも、許してくれとも言葉が出ない。
「るりとのことは……」
続く言葉が見つからず、必死に探すも翠也を納得させることができるような話は思いつかなかった。
ただ、間抜けな浮気男の常套句である台詞が口をついて出る。
「 気の、迷いで」
くしゃりと翠也の顔が歪み、悲鳴のような押し殺しきれなかった声が堰を切ったように上がった。
「 ぅ、ぁあっ やっ……ぃ、っわぁあああああっ」
「あき っ翠也っ!」
そのままひきつけでも起こすのではと言う懸念を抱かせるほどの声が耳を責める。
「も っぅ、っ……ぃやっ! やぁぁぁっ」
異常な体温を刻む体を抱き締めるが、いつもは頼りないほど非力な体が俺の腕を振り払う。
もがいた手が頬を掻いて、それがるりの残した掻き傷の痛みよりもはるかに深く心を抉った。
「 っ」
「いやだっいやだ! ……い、や……ぅ 」
俺の顔を見た翠也の口が震え、かちりと歯が鳴る。
「 ごめ……な……ど、どうし……」
ぶるぶると震える指先が頬に触れると、ぴりっとした痛みが走った。
俺の頬にできた傷に、一番衝撃を受けたのは翠也自身で……
「ご、ごめ……」
震える唇で謝罪を繰り返す翠也を抱き締める。
腕の中で、力のままにしなる華奢な体を落ち着かせるために背中を擦った。
「謝るべきは、俺だろう?」
「っ……いや、おね……おねが きらわ、ないで……」
「嫌ったりするはずないだろう?」
「ぅ……っ、お願いです……先程の言葉は、嘘だとおっしゃってください」
は? と言いそうになって言葉を飲み込んだ。
今更そう言った所で、浮気の事実には変わりない。
「いや、しかし……」
「 一晩、考えてました。裏切られてこんなに苦しいのだから、もう……そんな縁は切ってしまおうと」
自業自得だとは良くわかってはいたが、それでも胸の内がひやりと凍る。
「……けれど、他の方に心を移されたとしても……僕は貴男から離れられない」
赤い目がぼんやりと遠くを見た。
「たから、嘘だとおっしゃるなら……信じます。他の方に情けをかけられているのだとしても……貴男がしていないのだと言うのならばそうなのでしょう」
「それは……」
翠也が縋る手に力を込める。
「だから、僕の傍に居てください。……他の方を愛でられたとしても、情人がいるのだとしても。せめて、僕を慰めるために嘘だと言ってください」
俺の不貞を、あえて嘘だと言えと言うのか?
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