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金木犀
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しおりを挟む当初こそるりに対して遠巻きにしていた南川の家人達だったが日が経つにつれて慣れ、ぎこちなかったるり自身も彼らに懐き始めた。
俺に戯れるるりを微笑まし気に見遣り、
「まるで恋仲のような睦まじさですねぇ」
と、ころころと笑う。
そんな言葉が翠也の耳に入らないか冷や冷やしながらも、るりがこの家に受け入れられているのが嬉しかった。
「ちぃ坊ちゃんは大人しい子だったからなぁ。あれくらいやんちゃが丁度いいや」
蒔田から借りた脚立の上に立ち、柿を取ろうと奮闘するるりを田口が微笑ましそうに眺める。
年齢的にも性格的にも、田口が一番毛嫌いするのではと言う懸念は取り越し苦労のようで、好々爺然とした笑顔に胸を撫で下ろした。
「翠也くんは、こう言ったことは?」
「あんまりねぇ。部屋に籠って小難しそうな本を読まれたり、絵を描かれたりばかりでねぇ、先生ぇが来てずいぶん明るくなりなさった」
そう言うとるりが抱えてきた柿を受け取り、
「夕餉前だが向いてやろうな。飯を残すんじゃねぇぞ」
「うんっ! ありがとう!」
るりの大きな返事に笑い返して、田口は調理場のある方へと歩いて行った。
「あいつの話?」
「翠也くん、だろ?」
「…………」
そう何度目かになる窘めもるりはあえて聞いていないようだ。
「年も近いんだし、翠也くんとはいい友達になれると思うんだが? 俺と玄上みたいな……」
「むり」
取り付く島もない言い方には苦笑すら漏れない。
儚い硝子細工のような外見で、しかしその頑固さは感服に値した。
「自分の世界を広げるのは、楽しいぞ?」
「…………ねぇ、卯太朗は退屈じゃないの?」
まったく関係のない返事をされて「は?」と声が漏れる。
「あんなの、人形相手と変わらないよ」
言葉を理解する前に、とっさにるりの襟首を掴み上げていた。
はっと腕の先の体が強張って……
「おま っ」
言葉が紡げず、喉の奥が引き攣って声が張りつく。
一瞬で脳を焼いた怒りは、情事を盗み見られていたことよりも、俺に組み敷かれている翠也を見られたことに対してのものだった。
あの姿を、他の人間が見たという事実だけで腸が煮えくり返りそうだ。
「あ 」
苦し気に喘ぐるりを引き寄せる。
「うた……っ」
「 っ」
すべてを見通す玻璃の目に見つめられて、怒鳴ることもできずに押し黙った。
「ぉ、おれのほうが上手だよ? 卯太朗だってきっと満足するよ?」
矜持があるとばかりにまっすぐに俺を見据える。
確かに、翠也はるりのように口淫もしなければ誘う手管に長けているわけではない、けれど翠也を前にそんな些事などどうでもいい話だった。
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