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宍の襲
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しおりを挟む玄上が頻繁に訪れるとは言え年若いるりがたった独り。
居てくれと言い出さないるりのいじらしさに、また歯痒さが湧く。
「近い内に、絶対来るから」
優しく頬を撫でて口づける。
女にするようなしぐさにるりは苦笑したが、目を閉じて素直に頷いた。
帳の下りた道を急ぐ。
息が切れ、詰まるような苦しさを抱えても足を動かした。
何をすればいいのかはっきりとした言葉にすることは難しかったが、それでも翠也の顔を見て謝らなければと言う思いがあった。
翠也の拒絶が何であれ、彼を手酷く抱いて傷つけてしまったことは揺るがない事実だ。
誠意を込めて謝罪して、その上で、もう一度話し合うことができたならば……
南川の門を潜り、深い緑色をした夾竹桃の傍を駆け抜ける。
「 供をしたのに知らないとはどう言うことなんだ⁉」
思わず足を止めてしまうほどのきつい声。
いつも控えめで落ち着いた声音からは想像ができず、それが翠也の声だと気づくのがわずかに遅れた。
「いやぁ……でも、これのところに行くって別れまして……あっ」
肩で息をしながら近寄ると橋田と目が合い、続いて振り返った翠也と目が合った。
はっと見開かれた目の奥に、揺らぎを見つけて……
「戻られたようですね」
久し振りに絡まった視線は一瞬で断ち切られ、ふいと背が向けられてしまう。
「遅くなってしまって、すみません」
冷たさを感じそうなほどの背中に声をかけるが、翠也は聞こえなかったのか何も言わないまま歩き出す。
好意的でないその雰囲気に、出鼻を挫かれた気がしてとぼとぼと後を追いかける。
「新山さんっ」
橋田が慌てて俺の手を掴む。
「あぁ良かった。こんなに遅くなるとは思わなかったですよぉ! 坊ちゃんが心配して心配して……」
「心配?」
「どうして先に帰ってくるんだって怒られてしまいましたよ」
わざとらしい吐息と態度で肩をすくめる橋田を置いて、早足で離れへと向かった。
離れへ入るための引き戸に手をかけた時、向こうで勢いよく戸を閉める音が聞こえて……
びり と震えた引き戸に怯えて手を引いた。
明らかの怒りを含む雰囲気に、俯いて足元を見る。
動かなくては……と思うも、怖気づいてしまった。
せっかくるりに後押しされて、謝罪して前に進もうとしていたのに、翠也の行動は明らかに怒りを持ってこちらを拒絶する人間のものだ。
ましてや穏やかな気質の彼が、音が聞こえてくるほど荒々しく戸を閉めることなんて……
翠也のはっきりとした拒絶に背筋に氷が伝う気がする。
けれど、
このまま失ってしまうくらいなら、どんな惨めな姿を晒したってかまわない。
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